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第十章 記憶を無くした少女
第487話 第十章 エピローグ 再び始まる受難の日々
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「うむ、無事に方がついたようだな」
「全く、全然話についていけてないんだけど。一体全体何があったってのよ?」
「と、とにかく、今はトオル様と再会できたことを喜びましょう!」
「そうですね! パパとママが無事で良かったです!」
ゼパルとの戦いが終わると、遠くで見守っていた少女たちが俺達の元へと駆け寄ってくる。魔神の消滅とともに完全に洗脳は解け、いつもの風景が戻ってきた事を俺は刀身で感じられた。
「それにしても、シャーロット以外にトオルを扱えるものがいたとはな。今回ばかりは我も驚いておる」
「そりゃまぁ、先輩と私の仲だしね」
「先輩、ですか?」
「あれ、もしかしてみんな気づいてない?」
しかし、朝美の正体には皆気がついていないようで、フィルは感心した素振りを見せつつも警戒を強め、呆けた表情をリースは浮かべている。しかも、カーラやアイリなどは本当に何もわかっていない様子で、困ったように顔をしかめた。
着ている服もさる事ながら、今の朝美の髪の色は金に染まっただけでなく長さまでも違っており、これで気づけと言う方が中々に難しいというもの。無意識とは言え、喋りの雰囲気まで変えられていた時は、俺ですら気づけなかったのだから仕方がない。
「もしかしたらと思っていたのですが、アサミさん、ですか?」
「おぉ、流石だねぇスクルドは! まぁ、見た目色々変わっちゃってるから気づかなくても……って、どうかし――」
「あさみさん、よかった、よかったでふ、よか……う、うわぁぁぁぁぁん!」
そんな中、一人彼女の正体に気づいたクルス姉は、嬉しさのあまり泣きじゃくりながら朝美の胸に頬を埋もらせる。
「こらこら、そんなに泣かなくても」
「だって、だって、いきて、いきててぇ」
「あははは。その姿じゃ、どっちが年上かわからないぞ、もう。まぁ、泣いて喜んでくれるなら、生きてたかいもあったってもんですよ。ありがとね、スクルド」
二人の仲が良い方向へと進展していたのは俺も薄々感じていたが、俺以外の誰かに抱きつくほどクルス姉が彼女の事を信頼していたのは正直意外だ。とは言え、二人の関係性に嫉妬している訳ではなく、純粋にその仲の良さに感動を覚えている自分がいた。
「泣いてる暇は無いわよ、スクルド。屋敷の中にいる彼女たちを、全員町まで送り届けなきゃならないんだから」
「そ、そうですね。とおるさまと、さいかいのはぐをしたかったですけど、女神として、やらねばならないことが残っていますよね!」
クルス姉の顔に胸を専有され、いささか困る朝美の姿をもう少しだけ見ていたかったが、シャーリーの言う通り俺達にはまだやるべき事が残っている。それを終わらせなければ、魔神との戦いを完遂したとはとても言えないだろう。だが、一つ重要なことを忘れていたことを、俺はすぐさま気付かされる事になる。
(さてさて、ここで問題です。誰か一人、すっかり忘れさられてるお姉さんがいますが、それはいったい誰でしょ~か?)
頭の中に響いて来た、まったりとした女性の声。その正体は……
(えっと……ば、ヴァネッサさん?)
(ピンポーン、正解で~す!)
そう、俺の原型とも言える聖女、この地を救い国を建てた英雄、シャーリーの祖先であるヴァネッサ・リィンバース様のことをすっかり忘れていたのである。
(お姉さん辛かったのよ~。あの後、意識を飛ばせないよう魔神に羽交い締めに封印されていたのだけれど、それが解けても全く気づいてもらえなくて寂しかったわ~)
(いや、その、えっと……ごめんなさい)
(あら? もうちょっと言い訳してくるものだと思っていたけど、トオルくんのそういう素直なところ、お姉さんとしては高評価だわ~。大好きよ、ト・オ・ル・くん)
異性とは言え剣を羽交い締めにする魔神とか、何故か喜ばれている事にツッコミを入れたかったけれど、失礼なのは事実だし謝るのは当然だと思う。女性に恥をかかせたまま逃げるなんてのは、男として最低だからさ。
「えっと、今の声、誰?」
(あら、私の声が聞こえるなんて、珍しい子がいるのね~)
「ヴァネッサの事は後で説明するわ。とにかく今は、やるべきことをやりましょう」
「そだね。その人もなんか、助けないといけなさそうだし」
全く面識のない朝美とヴァネッサさんの交流は後回しにするとして、ゼパルに捉えられていた女性達を救うのが先決だと俺も頭を切り替える。その後でいくらでもヴァネッサさんの罵詈雑言や、来るであろう朝美の言及は聞くことにしよう。
「ねえ、アサミ」
「ん?」
「……あの時、私が術を破れなかったらどうするつもり……だったの?」
ゼパルの根城にしていた、古びた屋敷の中へと向かって歩き出す俺達。すると、幼女の姿に戻ったシャーリーが俺を抱えたまま朝美の隣に立つと、神妙な顔つきでそんな言葉を口にする。
「どうするって、キスしたに決まってるじゃん」
シャーリーにとっては重要で、とても重い言葉だったのだろうけれど、当たり前のことのように話す朝美の姿に俺の刀身はきつく彼女の腕に抱きしめられる。シャーリーの驚きも最もだが、彼女の冗談にはいつもどこか本気の色が混じっており、こういう時の朝美が嘘を言うとは俺には到底思えない。
「私はずっと本気、先輩が大好きなことに変わりはない。今は立場上シャーロットに譲ってるけど、いつでもその座を狙ってる。もしシャーロットが油断したら、いつだって私、先輩のこと攫っていっちゃうんだから」
「むー、誰だか知らないけど、お兄ちゃんは譲らないもん!」
そんな彼女に対しては、姉のシャーリーよりも妹のメイベルの方が対応力は高いようで、俺を攫うと言う言葉を彼女は真正面から受け止める。生まれたばかりの彼女には映るもの全てが新鮮で、真実に聞こえるのだろう。その点シャーリーは、貴族関係の荒波にもまれ卑怯な魔物達との戦いを幾度も経験したことにより、慎重な対応を取らざるお得なくなっているのだろうな。
ただ、正反対な二人の性格がある種の調和をもたらし、危なげながらも微笑ましい姉妹の関係を作り出しているのは間違いないだろう。
「おーおー、妹キャラまで身に着けるとは、シャーロットも中々に先輩のことがわかってきたというか、それをやらせる先輩も業が深いよね~」
とは言え、朝美もまたメイベルのことを理解していないので、こういう誤解が生まれるんだけどな。
「だから、ちゃんと握っておきなって。離れないよう、離さないよう、ギュッとギュッと、力一杯抱きしめてなよ。じゃないと、大切なものなんてすーぐ無くしちゃうんだからさ。私に言えるのはこれだけ」
「アサミ……」
とまぁ、俺の気苦労はともかく、何だかんだで朝美はシャーリーや俺の気持ちを尊重してくれているようでほっと胸をなでおろす。だからといって、気を抜くわけにも行かないんだろうけどな。
先程も言った通り、朝美の言葉の九割は本音であり、俺達の間に亀裂が入れば彼女はすぐにでも俺のハートに向かって飛びかかってくる。そして、彼女が宣言した力が本当なら……俺は間違いなく彼女には逆らえないのだろう。
「それに、私は先輩に忠実な犬なので、ご主人様のご意向には背けないんだワン」
とかなんとか言いながらも忠犬っぷりをアピールしたいらしく、そんな台詞を述べながら両手を顔の横で丸め、本物の犬のようなポーズを朝美は取る。かわいいのは間違いないのだが、彼女のこの犬押しは、もしかするとあの時の俺のイメージが影響しているのではないだろうか。
(……もしかしてそれ、ゴモリーと戦った時のあれか?)
「うん! そうだよ! 先輩の考えてる事は全部筒抜け! でも、今思うと私、本当に先輩の犬でも良いかも。はう、頭撫で撫でされたいよ~」
それは、ゴモリーと戦った時に感じた朝美への印象。頭の中で考えていただけの話ではあるが、やっぱり全部聞こえていたわけか。今思い返すと、やっぱりアレが今の俺達の始まりなんだよな。
それに、恍惚の表情を浮かべながら尻尾を左右へと勢い良く振り回す姿は、まごうことなき犬だわこりゃ。
「アサミ、尻尾出てるわよ」
「お、ほんとだ! サキュバスの特性もちゃんと残ってるんじゃん! 先輩、これで思う存分犬プレイできるよ!」
(しません、やりません!)
セイクリッドの力を会得した彼女の属性は、聖なる方向へと振り切れたと思いきや、どうやらシャーリーと同じく光と闇が混在しているらしい。ただ、はっきりとここは否定させていただこう。犬プレイとか求めてないから! そこまで変態じゃないから!
「え~。……あっ、そうだ。 悪魔の尻尾で雰囲気が出ないなら、魔力で頑張って犬の尻尾とか耳を生やして、なんなら体毛も……いやだもう、ケモナーなら最初からそう言ってよ先輩」
しかも、無駄な魔力の使い方に力を入れようとしてるし……全く、俺を勝手にケモナーにするなと。
それに、ケモナーとは獣人キャラを愛する人達の事であって、普通の人間がちょっと耳や尻尾を後から生やした所で、それはただの獣プレイだからな!
(あのさぁ、お前は俺を変態に陥れたいんか! あと、ケモナーと獣プレイは別だからな。生粋のケモナーの皆様に失礼だろうが!)
「先輩が望むなら、頑張ってキャンキャン泣くよ?」
(朝美、俺の話聞いてるか?)
「聞いてる聞いてる。でも、興味ないことも無いんでしょ? ワン」
(う……い、いや、そんなことは)
朝美の犬語は可愛い。大好きだったアイドル声優兼後輩が、わんにゃん笑顔で言ってくれたら……ではなく! こいつがいると、手玉にしか取られないよなぁ俺。
「先輩って、コスで気分が昂ぶるタイプでしょ? そっち系多かったもんね~。いいんだよ~、先輩が頼んでくれれば、どんな制服でも、ドレスでも、魔法少女でも、ビキニアーマーでも、ハイレグアーマーでも、天使でも、サキュバスでも、……って、最後の二つはコスでもなんでもないか。望むものなんでも着てあげるんだから!」
(……)
なんというか、ここまで性癖を知られていると勝てる気がしない。というよりも、そこを逆手に取ってくるとか、女はたくましいと言うか何というか……いや、何でもしてくれるサキュバス相手に男が意地を張るほうが間違ってるのか。
まぁ、否定はしませんよ? 普通と違う感じのほうが、燃えますもん俺。
「ほらほら、頼んじゃいなよ、お願いします。って。そしたら楽になれるよ~」
「トオル……変態」
「お兄ちゃんの変態さん」
「トオル様は変態さんです」
「変態バカ」
「変態、怖い」
「すまぬ、流石にそれは変態と言わざるを得ぬな」
「パパは、変態さんです」
(私はそういうの、嫌いじゃ~、無いわよ~)
けれども、そういうエッチな方向にコスプレを使う行為は、朝美以外の皆には歓迎されないわけで……
(もう良いです。変態で良いです。変態で良いから! 頼む、それ以上はもう言わないでくれぇぇぇぇぇぇっ!!)
気高くもたくましいヲタとしての心も、流石に折れるのだった。
「全く、全然話についていけてないんだけど。一体全体何があったってのよ?」
「と、とにかく、今はトオル様と再会できたことを喜びましょう!」
「そうですね! パパとママが無事で良かったです!」
ゼパルとの戦いが終わると、遠くで見守っていた少女たちが俺達の元へと駆け寄ってくる。魔神の消滅とともに完全に洗脳は解け、いつもの風景が戻ってきた事を俺は刀身で感じられた。
「それにしても、シャーロット以外にトオルを扱えるものがいたとはな。今回ばかりは我も驚いておる」
「そりゃまぁ、先輩と私の仲だしね」
「先輩、ですか?」
「あれ、もしかしてみんな気づいてない?」
しかし、朝美の正体には皆気がついていないようで、フィルは感心した素振りを見せつつも警戒を強め、呆けた表情をリースは浮かべている。しかも、カーラやアイリなどは本当に何もわかっていない様子で、困ったように顔をしかめた。
着ている服もさる事ながら、今の朝美の髪の色は金に染まっただけでなく長さまでも違っており、これで気づけと言う方が中々に難しいというもの。無意識とは言え、喋りの雰囲気まで変えられていた時は、俺ですら気づけなかったのだから仕方がない。
「もしかしたらと思っていたのですが、アサミさん、ですか?」
「おぉ、流石だねぇスクルドは! まぁ、見た目色々変わっちゃってるから気づかなくても……って、どうかし――」
「あさみさん、よかった、よかったでふ、よか……う、うわぁぁぁぁぁん!」
そんな中、一人彼女の正体に気づいたクルス姉は、嬉しさのあまり泣きじゃくりながら朝美の胸に頬を埋もらせる。
「こらこら、そんなに泣かなくても」
「だって、だって、いきて、いきててぇ」
「あははは。その姿じゃ、どっちが年上かわからないぞ、もう。まぁ、泣いて喜んでくれるなら、生きてたかいもあったってもんですよ。ありがとね、スクルド」
二人の仲が良い方向へと進展していたのは俺も薄々感じていたが、俺以外の誰かに抱きつくほどクルス姉が彼女の事を信頼していたのは正直意外だ。とは言え、二人の関係性に嫉妬している訳ではなく、純粋にその仲の良さに感動を覚えている自分がいた。
「泣いてる暇は無いわよ、スクルド。屋敷の中にいる彼女たちを、全員町まで送り届けなきゃならないんだから」
「そ、そうですね。とおるさまと、さいかいのはぐをしたかったですけど、女神として、やらねばならないことが残っていますよね!」
クルス姉の顔に胸を専有され、いささか困る朝美の姿をもう少しだけ見ていたかったが、シャーリーの言う通り俺達にはまだやるべき事が残っている。それを終わらせなければ、魔神との戦いを完遂したとはとても言えないだろう。だが、一つ重要なことを忘れていたことを、俺はすぐさま気付かされる事になる。
(さてさて、ここで問題です。誰か一人、すっかり忘れさられてるお姉さんがいますが、それはいったい誰でしょ~か?)
頭の中に響いて来た、まったりとした女性の声。その正体は……
(えっと……ば、ヴァネッサさん?)
(ピンポーン、正解で~す!)
そう、俺の原型とも言える聖女、この地を救い国を建てた英雄、シャーリーの祖先であるヴァネッサ・リィンバース様のことをすっかり忘れていたのである。
(お姉さん辛かったのよ~。あの後、意識を飛ばせないよう魔神に羽交い締めに封印されていたのだけれど、それが解けても全く気づいてもらえなくて寂しかったわ~)
(いや、その、えっと……ごめんなさい)
(あら? もうちょっと言い訳してくるものだと思っていたけど、トオルくんのそういう素直なところ、お姉さんとしては高評価だわ~。大好きよ、ト・オ・ル・くん)
異性とは言え剣を羽交い締めにする魔神とか、何故か喜ばれている事にツッコミを入れたかったけれど、失礼なのは事実だし謝るのは当然だと思う。女性に恥をかかせたまま逃げるなんてのは、男として最低だからさ。
「えっと、今の声、誰?」
(あら、私の声が聞こえるなんて、珍しい子がいるのね~)
「ヴァネッサの事は後で説明するわ。とにかく今は、やるべきことをやりましょう」
「そだね。その人もなんか、助けないといけなさそうだし」
全く面識のない朝美とヴァネッサさんの交流は後回しにするとして、ゼパルに捉えられていた女性達を救うのが先決だと俺も頭を切り替える。その後でいくらでもヴァネッサさんの罵詈雑言や、来るであろう朝美の言及は聞くことにしよう。
「ねえ、アサミ」
「ん?」
「……あの時、私が術を破れなかったらどうするつもり……だったの?」
ゼパルの根城にしていた、古びた屋敷の中へと向かって歩き出す俺達。すると、幼女の姿に戻ったシャーリーが俺を抱えたまま朝美の隣に立つと、神妙な顔つきでそんな言葉を口にする。
「どうするって、キスしたに決まってるじゃん」
シャーリーにとっては重要で、とても重い言葉だったのだろうけれど、当たり前のことのように話す朝美の姿に俺の刀身はきつく彼女の腕に抱きしめられる。シャーリーの驚きも最もだが、彼女の冗談にはいつもどこか本気の色が混じっており、こういう時の朝美が嘘を言うとは俺には到底思えない。
「私はずっと本気、先輩が大好きなことに変わりはない。今は立場上シャーロットに譲ってるけど、いつでもその座を狙ってる。もしシャーロットが油断したら、いつだって私、先輩のこと攫っていっちゃうんだから」
「むー、誰だか知らないけど、お兄ちゃんは譲らないもん!」
そんな彼女に対しては、姉のシャーリーよりも妹のメイベルの方が対応力は高いようで、俺を攫うと言う言葉を彼女は真正面から受け止める。生まれたばかりの彼女には映るもの全てが新鮮で、真実に聞こえるのだろう。その点シャーリーは、貴族関係の荒波にもまれ卑怯な魔物達との戦いを幾度も経験したことにより、慎重な対応を取らざるお得なくなっているのだろうな。
ただ、正反対な二人の性格がある種の調和をもたらし、危なげながらも微笑ましい姉妹の関係を作り出しているのは間違いないだろう。
「おーおー、妹キャラまで身に着けるとは、シャーロットも中々に先輩のことがわかってきたというか、それをやらせる先輩も業が深いよね~」
とは言え、朝美もまたメイベルのことを理解していないので、こういう誤解が生まれるんだけどな。
「だから、ちゃんと握っておきなって。離れないよう、離さないよう、ギュッとギュッと、力一杯抱きしめてなよ。じゃないと、大切なものなんてすーぐ無くしちゃうんだからさ。私に言えるのはこれだけ」
「アサミ……」
とまぁ、俺の気苦労はともかく、何だかんだで朝美はシャーリーや俺の気持ちを尊重してくれているようでほっと胸をなでおろす。だからといって、気を抜くわけにも行かないんだろうけどな。
先程も言った通り、朝美の言葉の九割は本音であり、俺達の間に亀裂が入れば彼女はすぐにでも俺のハートに向かって飛びかかってくる。そして、彼女が宣言した力が本当なら……俺は間違いなく彼女には逆らえないのだろう。
「それに、私は先輩に忠実な犬なので、ご主人様のご意向には背けないんだワン」
とかなんとか言いながらも忠犬っぷりをアピールしたいらしく、そんな台詞を述べながら両手を顔の横で丸め、本物の犬のようなポーズを朝美は取る。かわいいのは間違いないのだが、彼女のこの犬押しは、もしかするとあの時の俺のイメージが影響しているのではないだろうか。
(……もしかしてそれ、ゴモリーと戦った時のあれか?)
「うん! そうだよ! 先輩の考えてる事は全部筒抜け! でも、今思うと私、本当に先輩の犬でも良いかも。はう、頭撫で撫でされたいよ~」
それは、ゴモリーと戦った時に感じた朝美への印象。頭の中で考えていただけの話ではあるが、やっぱり全部聞こえていたわけか。今思い返すと、やっぱりアレが今の俺達の始まりなんだよな。
それに、恍惚の表情を浮かべながら尻尾を左右へと勢い良く振り回す姿は、まごうことなき犬だわこりゃ。
「アサミ、尻尾出てるわよ」
「お、ほんとだ! サキュバスの特性もちゃんと残ってるんじゃん! 先輩、これで思う存分犬プレイできるよ!」
(しません、やりません!)
セイクリッドの力を会得した彼女の属性は、聖なる方向へと振り切れたと思いきや、どうやらシャーリーと同じく光と闇が混在しているらしい。ただ、はっきりとここは否定させていただこう。犬プレイとか求めてないから! そこまで変態じゃないから!
「え~。……あっ、そうだ。 悪魔の尻尾で雰囲気が出ないなら、魔力で頑張って犬の尻尾とか耳を生やして、なんなら体毛も……いやだもう、ケモナーなら最初からそう言ってよ先輩」
しかも、無駄な魔力の使い方に力を入れようとしてるし……全く、俺を勝手にケモナーにするなと。
それに、ケモナーとは獣人キャラを愛する人達の事であって、普通の人間がちょっと耳や尻尾を後から生やした所で、それはただの獣プレイだからな!
(あのさぁ、お前は俺を変態に陥れたいんか! あと、ケモナーと獣プレイは別だからな。生粋のケモナーの皆様に失礼だろうが!)
「先輩が望むなら、頑張ってキャンキャン泣くよ?」
(朝美、俺の話聞いてるか?)
「聞いてる聞いてる。でも、興味ないことも無いんでしょ? ワン」
(う……い、いや、そんなことは)
朝美の犬語は可愛い。大好きだったアイドル声優兼後輩が、わんにゃん笑顔で言ってくれたら……ではなく! こいつがいると、手玉にしか取られないよなぁ俺。
「先輩って、コスで気分が昂ぶるタイプでしょ? そっち系多かったもんね~。いいんだよ~、先輩が頼んでくれれば、どんな制服でも、ドレスでも、魔法少女でも、ビキニアーマーでも、ハイレグアーマーでも、天使でも、サキュバスでも、……って、最後の二つはコスでもなんでもないか。望むものなんでも着てあげるんだから!」
(……)
なんというか、ここまで性癖を知られていると勝てる気がしない。というよりも、そこを逆手に取ってくるとか、女はたくましいと言うか何というか……いや、何でもしてくれるサキュバス相手に男が意地を張るほうが間違ってるのか。
まぁ、否定はしませんよ? 普通と違う感じのほうが、燃えますもん俺。
「ほらほら、頼んじゃいなよ、お願いします。って。そしたら楽になれるよ~」
「トオル……変態」
「お兄ちゃんの変態さん」
「トオル様は変態さんです」
「変態バカ」
「変態、怖い」
「すまぬ、流石にそれは変態と言わざるを得ぬな」
「パパは、変態さんです」
(私はそういうの、嫌いじゃ~、無いわよ~)
けれども、そういうエッチな方向にコスプレを使う行為は、朝美以外の皆には歓迎されないわけで……
(もう良いです。変態で良いです。変態で良いから! 頼む、それ以上はもう言わないでくれぇぇぇぇぇぇっ!!)
気高くもたくましいヲタとしての心も、流石に折れるのだった。
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面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ!
※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。
=====
この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。
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