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第十章 記憶を無くした少女
第485話 二人の天使
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「で? 準備はいいかな? 真正のスケコマシさん?」
「ぐああ、ぐあ、ぐああ!」
魔神の力、その中でも触手の能力を解放したことが原因なのか、ゼパルの意識は破壊され唸るような言葉を上げる。ガンザナイトの力によるものなのかは定かでないが、彼は力を持て余し暴走してしまったらしい。
「それで、どうするのアサミ?」
「シャーロット、ちょっとだけ時間稼いでくれないかな? あの触手をなんとかしないと、先輩の気が散るでしょ」
「仕方ないわね……行くわよ、トオル!」
(お、おう!)
触手を見ただけで妄想するような事はないと否定をしたい所ではあったが、それはそれで話が長引きそうなのでここは俺がグッとこらえる。むしろ、そのイメージが定着してしまっている事に俺は言葉をつまらせていた。
確かにあの触手は厄介だが……黒歴史をさらけ出されるのって本当にしんどい。
「祖は絶対なる地獄、祖は安らかなる眠り、祖は悠久なる勝利。総ての厄災を封じ、永久なる安息とともに、我に光と悠遠なる勝利を与えよ!」
シャーリーが俺を構え四枚の翼をはためかせると、後ろに下がった朝美が俺のレプリカを天に掲げ詠唱を始める。すると、彼女の全身に氷の闘気がまとわり付き、剣の刀身には眩い光が輝きだす。
それはまるで氷の女王、天女のようないで立ちの少女が放つのは、ゴモリーと呼ばれた魔神を凍りつかせたあの術。しかし、所々の文言が組み替えられ、全く別の術であることも感じさせた。
「氷結する真実の檻獄!」
再生したゼパルの触手を、俺の刀身で振り払い続けるシャーリーの隣を白い閃光が穿ち、直撃した輝きがゼパルの腕を氷に染める。しかも、漏れ出る氷の冷気は何かを求めるように彷徨うと、魔神の右腕や腰に絡みつき氷山のような一角を作り出す。その中には、肌色をした細長いものがぎっしりと詰め込まれていた。
「崩れ落ちろ」
静かに朝美が呟くと同時に、崩れ落ちるゼパルの体。どうやら、奴の体内には数え切れないほどの触手が内包されており、朝美の魔法はその全てを凍てつかせ、真実のもとへさらけ出したようである。
「隠し腕が何本あっても、私の目はごまかせないにゃ~」
全身を同時に砕かれたゼパルは、体と足を残し苦しみの咆哮を上げながら崩れ落ちる。
「さてと、これでとっておきは使えなくなったけど、どうするつもりかな?」
「オレノ、おれの腕が……」
全ての触手を失い理性を取り戻したゼパルは、うめくような声で疑問の言葉を投げかける。今の状態は全て、彼にとっては予想外の積み重ねなのだろう。
自分の力を無効化され、攻撃の術を奪われる。しかも、最も愛し忌み嫌う女性という存在に好き勝手にされているのだから、奴にとってはたまらない事。俺からすれば自業自得ではあるが、無力な自分への憤りなど、わからなくもない部分もあるのが何ともいたたまれない。
もちろん、女性に恨みを持ち、全てを自分のものにしようとするゼパルの気持ちを肯定するつもりはないが、もし俺も間違ったら、こんなふうになってしまうのだろうか……
「大丈夫よトオル、私が絶対そんな風にはさせないから」
「そうそう、先輩がろくでなしになったとしても、私が全部なんとかしてあげる!」
(シャーリー、朝美……)
自分とゼパルを重ね、張り裂けそうになる胸の内を繋ぎ止めてくれたのは二人の天使。この二人がいれば、俺は俺のままでいられる事を忘れぬよう、心に強く活を入れる。
「それに、先輩になら私、物扱いされてもいいかな~なんて。それに、あんまり酷いようなら、先輩に言う事聞かせるのも簡単だし!」
ただ、俺が道を踏み外した時操られるのは、俺の方なのかも知れないと大きなため息を吐く。何せ相手は、男を虜にする天才であるサキュバスなのだ。
ただの一般人、と言えるほど一般人ではないが、一思春期の男子が敵うような相手では無いのである。
「ぼくも! ぼくもお兄ちゃんを好きになんてさせないから!」
そんな中、一人無邪気に心配してくれるメイの言葉が心に響く。彼女がシャーリーの悪の心とか、本当に思えないよな。口に出してる余裕は無いけど、心の奥で伝えたい。ありがとなメイ、お前がいてくれて俺は幸せだよ。
「さてさて、それじゃシャーロット、あれでとどめさそうか」
「あれって何よ?」
「シャーロットの一番得意なやつ。えっと、グローサー、何だっけ?」
「天翔る七剣星! 名前も覚えてないのに、使えるのアサミ?」
「じょぶじょぶ、私もセイクリッドになったんだから、そのぐらい使えるって」
朝美の小さな脅しに屈しメイの素直な優しさに感謝の意を唱えていると、必殺技を同時に使おうと朝美はシャーリーに申し出る。
自幻流の動きを再現するにはシャーロットの運動技能、即ちセイクリッドの力が必要であることは確かなのだが、同じセイクリッドになったとは言え、剣術の修練一つ積んでいない朝美が使いこなせるものなのだろうか?
「よーし、それじゃ行くよ!」
「全く、怪我しても知らないわよ!」
そんな疑問はあったものの、レプリカとは言え俺のフォローもあるし、彼女もやる気満々なのでいっちょやってみるとしますか!
「ぐああ、ぐあ、ぐああ!」
魔神の力、その中でも触手の能力を解放したことが原因なのか、ゼパルの意識は破壊され唸るような言葉を上げる。ガンザナイトの力によるものなのかは定かでないが、彼は力を持て余し暴走してしまったらしい。
「それで、どうするのアサミ?」
「シャーロット、ちょっとだけ時間稼いでくれないかな? あの触手をなんとかしないと、先輩の気が散るでしょ」
「仕方ないわね……行くわよ、トオル!」
(お、おう!)
触手を見ただけで妄想するような事はないと否定をしたい所ではあったが、それはそれで話が長引きそうなのでここは俺がグッとこらえる。むしろ、そのイメージが定着してしまっている事に俺は言葉をつまらせていた。
確かにあの触手は厄介だが……黒歴史をさらけ出されるのって本当にしんどい。
「祖は絶対なる地獄、祖は安らかなる眠り、祖は悠久なる勝利。総ての厄災を封じ、永久なる安息とともに、我に光と悠遠なる勝利を与えよ!」
シャーリーが俺を構え四枚の翼をはためかせると、後ろに下がった朝美が俺のレプリカを天に掲げ詠唱を始める。すると、彼女の全身に氷の闘気がまとわり付き、剣の刀身には眩い光が輝きだす。
それはまるで氷の女王、天女のようないで立ちの少女が放つのは、ゴモリーと呼ばれた魔神を凍りつかせたあの術。しかし、所々の文言が組み替えられ、全く別の術であることも感じさせた。
「氷結する真実の檻獄!」
再生したゼパルの触手を、俺の刀身で振り払い続けるシャーリーの隣を白い閃光が穿ち、直撃した輝きがゼパルの腕を氷に染める。しかも、漏れ出る氷の冷気は何かを求めるように彷徨うと、魔神の右腕や腰に絡みつき氷山のような一角を作り出す。その中には、肌色をした細長いものがぎっしりと詰め込まれていた。
「崩れ落ちろ」
静かに朝美が呟くと同時に、崩れ落ちるゼパルの体。どうやら、奴の体内には数え切れないほどの触手が内包されており、朝美の魔法はその全てを凍てつかせ、真実のもとへさらけ出したようである。
「隠し腕が何本あっても、私の目はごまかせないにゃ~」
全身を同時に砕かれたゼパルは、体と足を残し苦しみの咆哮を上げながら崩れ落ちる。
「さてと、これでとっておきは使えなくなったけど、どうするつもりかな?」
「オレノ、おれの腕が……」
全ての触手を失い理性を取り戻したゼパルは、うめくような声で疑問の言葉を投げかける。今の状態は全て、彼にとっては予想外の積み重ねなのだろう。
自分の力を無効化され、攻撃の術を奪われる。しかも、最も愛し忌み嫌う女性という存在に好き勝手にされているのだから、奴にとってはたまらない事。俺からすれば自業自得ではあるが、無力な自分への憤りなど、わからなくもない部分もあるのが何ともいたたまれない。
もちろん、女性に恨みを持ち、全てを自分のものにしようとするゼパルの気持ちを肯定するつもりはないが、もし俺も間違ったら、こんなふうになってしまうのだろうか……
「大丈夫よトオル、私が絶対そんな風にはさせないから」
「そうそう、先輩がろくでなしになったとしても、私が全部なんとかしてあげる!」
(シャーリー、朝美……)
自分とゼパルを重ね、張り裂けそうになる胸の内を繋ぎ止めてくれたのは二人の天使。この二人がいれば、俺は俺のままでいられる事を忘れぬよう、心に強く活を入れる。
「それに、先輩になら私、物扱いされてもいいかな~なんて。それに、あんまり酷いようなら、先輩に言う事聞かせるのも簡単だし!」
ただ、俺が道を踏み外した時操られるのは、俺の方なのかも知れないと大きなため息を吐く。何せ相手は、男を虜にする天才であるサキュバスなのだ。
ただの一般人、と言えるほど一般人ではないが、一思春期の男子が敵うような相手では無いのである。
「ぼくも! ぼくもお兄ちゃんを好きになんてさせないから!」
そんな中、一人無邪気に心配してくれるメイの言葉が心に響く。彼女がシャーリーの悪の心とか、本当に思えないよな。口に出してる余裕は無いけど、心の奥で伝えたい。ありがとなメイ、お前がいてくれて俺は幸せだよ。
「さてさて、それじゃシャーロット、あれでとどめさそうか」
「あれって何よ?」
「シャーロットの一番得意なやつ。えっと、グローサー、何だっけ?」
「天翔る七剣星! 名前も覚えてないのに、使えるのアサミ?」
「じょぶじょぶ、私もセイクリッドになったんだから、そのぐらい使えるって」
朝美の小さな脅しに屈しメイの素直な優しさに感謝の意を唱えていると、必殺技を同時に使おうと朝美はシャーリーに申し出る。
自幻流の動きを再現するにはシャーロットの運動技能、即ちセイクリッドの力が必要であることは確かなのだが、同じセイクリッドになったとは言え、剣術の修練一つ積んでいない朝美が使いこなせるものなのだろうか?
「よーし、それじゃ行くよ!」
「全く、怪我しても知らないわよ!」
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