俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

文字の大きさ
上 下
486 / 526
第十章 記憶を無くした少女

第485話 二人の天使

しおりを挟む
「で? 準備はいいかな? 真正のスケコマシさん?」

「ぐああ、ぐあ、ぐああ!」

 魔神の力、その中でも触手の能力を解放したことが原因なのか、ゼパルの意識は破壊され唸るような言葉を上げる。ガンザナイトの力によるものなのかは定かでないが、彼は力を持て余し暴走してしまったらしい。

「それで、どうするのアサミ?」

「シャーロット、ちょっとだけ時間稼いでくれないかな? あの触手をなんとかしないと、先輩の気が散るでしょ」

「仕方ないわね……行くわよ、トオル!」

(お、おう!)

 触手を見ただけで妄想するような事はないと否定をしたい所ではあったが、それはそれで話が長引きそうなのでここは俺がグッとこらえる。むしろ、そのイメージが定着してしまっている事に俺は言葉をつまらせていた。

 確かにあの触手は厄介だが……黒歴史をさらけ出されるのって本当にしんどい。

「祖は絶対なる地獄、祖は安らかなる眠り、祖は悠久なる勝利。総ての厄災を封じ、永久なる安息とともに、我に光と悠遠なる勝利を与えよ!」

 シャーリーが俺を構え四枚の翼をはためかせると、後ろに下がった朝美が俺のレプリカを天に掲げ詠唱を始める。すると、彼女の全身に氷の闘気がまとわり付き、剣の刀身には眩い光が輝きだす。

 それはまるで氷の女王、天女のようないで立ちの少女が放つのは、ゴモリーと呼ばれた魔神を凍りつかせたあの術。しかし、所々の文言が組み替えられ、全く別の術であることも感じさせた。

氷結する真実の檻獄ツー・フリーレン・ヴァール・ゲフェングニス!」

 再生したゼパルの触手を、俺の刀身で振り払い続けるシャーリーの隣を白い閃光が穿ち、直撃した輝きがゼパルの腕を氷に染める。しかも、漏れ出る氷の冷気は何かを求めるように彷徨うと、魔神の右腕や腰に絡みつき氷山のような一角を作り出す。その中には、肌色をした細長いものがぎっしりと詰め込まれていた。

崩れ落ちろアイン・シュテュルツェン

 静かに朝美が呟くと同時に、崩れ落ちるゼパルの体。どうやら、奴の体内には数え切れないほどの触手が内包されており、朝美の魔法はその全てを凍てつかせ、真実のもとへさらけ出したようである。

「隠し腕が何本あっても、私の目はごまかせないにゃ~」

 全身を同時に砕かれたゼパルは、体と足を残し苦しみの咆哮を上げながら崩れ落ちる。

「さてと、これでとっておきは使えなくなったけど、どうするつもりかな?」

「オレノ、おれの腕が……」

 全ての触手を失い理性を取り戻したゼパルは、うめくような声で疑問の言葉を投げかける。今の状態は全て、彼にとっては予想外の積み重ねなのだろう。

 自分の力を無効化され、攻撃の術を奪われる。しかも、最も愛し忌み嫌う女性という存在に好き勝手にされているのだから、奴にとってはたまらない事。俺からすれば自業自得ではあるが、無力な自分への憤りなど、わからなくもない部分もあるのが何ともいたたまれない。

 もちろん、女性に恨みを持ち、全てを自分のものにしようとするゼパルの気持ちを肯定するつもりはないが、もし俺も間違ったら、こんなふうになってしまうのだろうか……

「大丈夫よトオル、私が絶対そんな風にはさせないから」

「そうそう、先輩がろくでなしになったとしても、私が全部なんとかしてあげる!」

(シャーリー、朝美……)

 自分とゼパルを重ね、張り裂けそうになる胸の内を繋ぎ止めてくれたのは二人の天使。この二人がいれば、俺は俺のままでいられる事を忘れぬよう、心に強く活を入れる。

「それに、先輩になら私、物扱いされてもいいかな~なんて。それに、あんまり酷いようなら、先輩に言う事聞かせるのも簡単だし!」

 ただ、俺が道を踏み外した時操られるのは、俺の方なのかも知れないと大きなため息を吐く。何せ相手は、男を虜にする天才であるサキュバスなのだ。

 ただの一般人、と言えるほど一般人ではないが、一思春期の男子が敵うような相手では無いのである。

「ぼくも! ぼくもお兄ちゃんを好きになんてさせないから!」

 そんな中、一人無邪気に心配してくれるメイの言葉が心に響く。彼女がシャーリーの悪の心とか、本当に思えないよな。口に出してる余裕は無いけど、心の奥で伝えたい。ありがとなメイ、お前がいてくれて俺は幸せだよ。

「さてさて、それじゃシャーロット、あれでとどめさそうか」

「あれって何よ?」

「シャーロットの一番得意なやつ。えっと、グローサー、何だっけ?」

天翔るグローサー七剣星ヴァーゲン! 名前も覚えてないのに、使えるのアサミ?」

「じょぶじょぶ、私もセイクリッドになったんだから、そのぐらい使えるって」

 朝美の小さな脅しに屈しメイの素直な優しさに感謝の意を唱えていると、必殺技を同時に使おうと朝美はシャーリーに申し出る。

 自幻流の動きを再現するにはシャーロットの運動技能、即ちセイクリッドの力が必要であることは確かなのだが、同じセイクリッドになったとは言え、剣術の修練一つ積んでいない朝美が使いこなせるものなのだろうか? 

「よーし、それじゃ行くよ!」

「全く、怪我しても知らないわよ!」

 そんな疑問はあったものの、レプリカとは言え俺のフォローもあるし、彼女もやる気満々なのでいっちょやってみるとしますか! 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした

せんせい
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ―――

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...