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第十章 記憶を無くした少女
第484話 紅の甲冑
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(全ての現象を)
俺の切っ先を地面へと突き刺すと、シャーリーの足元に魔法陣が描かれる。
(強固なる封印を)
すると、俺の刀身が光を放ち、強く優しい輝きが彼女の体を照らし始める。
(円環の理すら)
蒼き閃光は風を呼び、彼女の髪をかきあげながら後方へと吹き抜けていく。
(打ち砕き 我らを栄光へと導き給え)
そして、詠唱を終えると同時に魔法の輝きは天まで昇り、彼女の姿を大人へと昇華させた。
シャーリーが背中に生やす翼は四枚、右の二枚は純白の翼、左の二枚は暗き深淵の黒。夢の中では上下に別れていた翼の色が、今では左右に振り分けられている。それは均衡の証、シャーロットとメイベル二人の姉妹が共存した姿。
「……んん、おねえさま?」
「やっと起きた。寝起きで悪いけど、行くわよ、メイベル!」
「ふえ? なになに? 悪い人?」
「そう、私達からトオルを奪おうとした最低のゲスよ!」
「お兄ちゃんを!? むー、良くわからないけど、許さないんだから!」
姉の魔力に触発され、深い眠りから目を覚ましたメイ。そんな彼女を叩き起こすためシャーリーの会話は若干脚色されていたものの、中身は大体合っているので良しとしよう。あの魔神が俺達の仲を引き裂こうとしたことは、間違いないのだから。
「遅いよ、シャーロット!」
「ごめんなさい。けど、ここからは全力で行かせてもらうわ!」
二人の天魔が並び立ち俺とレプリカを振り上げると、魔神の体は次々と切り刻まれ裂傷を帯びていく。
「わたしは、まけぬ。私は、負けられぬ!」
力を暴走させただけのゼパルの動きに、赤子の手をひねるかのように軽々と対応する二人であったが、男としての奴の意地が魔神の体に紅い甲冑をまとわせる。
「オンナは敵、オンナは敵。我が甲冑は貫けぬ」
「あーあ、遂に引きこもっちゃったか。しかも、一人称まで変わってるし」
ゼパルの特徴は、紅い甲冑。女性の好意を操るだけと思いこんでいたが、ここに来てそれを身に着けるとは想像の斜め上をいかれた気分だ。
それに、この甲冑は曲がりなりにも魔神の魔力で作られたもの。セイクリッド二人がかりでも、そう簡単に破ることは出来ないであろう。
「だからって、怯んだりとかしないけどね。こっちには、二人の先輩がいるんだから!」
しかし、その程度の威圧で今の朝美が止まるはずもなく、俺のレプリカを構えながらゼパルめがけてがむしゃらに突き進んでいく。彼女の言う通り、いくら心の壁で守りを固めようと俺達は止まらない。人の心を弄ぶような悪党に、俺達の愛が負けるわけにはいかないから。
「さぁ、私達の愛の光で――」
「オンナは全て、我が手中に!」
二人がまるで繋がっているかのような朝美の台詞が終わる直前、ゼパルが左手を掲げると鎧の中から細長いものが束になって彼女へと襲いかかる。それは、幾重にも折り重なった触手の束で、空中で数十本に分かれると朝美の体を絡め取ろうと飛び回る。
次の瞬間、海での出来事を思い出しそうになったが、彼女は俺のレプリカで綺麗にそれらを捌くとシャーリーの隣へと何事もなく戻って来た。
彼女が帰ってきた矢先に触手魔神とかなんとも間が悪い。それだけ、普段の俺の行いが悪いと言うことなのだろうか……まぁ、ハーレムを肯定している事に罪悪感が無いことも無いけど、こっちの世界じゃ許されてるんだから見逃してよ神様!
「更には触手とか……先輩が興奮するからやめろー!」
(ちょ、朝美くん!? 何を言ってるのかな、君は!)
しかも、あの時の事を根に持っているかのような発言を彼女も引き合いとして出してくるし……そりゃ、エッチなのに興奮するなと言われたら不可能に近いけど、朝美がいなくなるとかもう嫌だから全力で阻止するつもりなんだけどな。
「だって、私が触手に絡め取られたら、絶対興奮するでしょ先輩。こないだみたいに」
(どんな姿でも、朝美は美しいよ)
「……トオル」
「……お兄ちゃん」
(いやいや、何も俺言ってないし! 言ってるの俺の分身だし!)
(もちろん、シャーリーやメイもだよ)
「……って、言ってるけど」
(いや、もう……煮るなり焼くなりしてください)
だと言うのに、本心の部分だけをレプリカにぶちまけられてシャーリーやメイにも睨まれるし、未だにただの変態みたいな扱いをされて俺の心が折れそうだよ。
「ま、先輩の性癖なんてわかってるしさ、それも込みで先輩が好きなんだし私はなんとも思わないけどね!」
(朝美……)
「でも、わざと捕まったりなんてしないから。それと、このまま眺めているのもいいか。なんてことしたら、後でヒィヒィ言わせて性欲地獄に叩き落す。そんでもって、私のペットにしたげるからね」
(わかってるよ。これ以上俺以外の奴に、お前のこと傷物になんてさせないから)
「それは、先輩が直々に私のことを傷物にしてくれると?」
(まぁ、お前が許してくれるならな)
会話の流れ的に彼女の自作自演のような気もしないこともないけど、何だかんだと理解してもらえているのは嬉しくもある。これ以上彼女を傷つけさせはしないし、近い将来、皆が望むのであればそういう未来もあるのだろうな……うっ、リースの事とか考えると頭痛くなってきた。パパ呼ばわりされながら行為に及ぶとか、罪悪感で押しつぶされる気がしてならん。
「おっしゃー! せっせとこいつぶっ飛ばして、先輩と甘々するよシャーロット!」
「そんなこと、私が許さないけどね」
「そうだよ! お兄ちゃんは、ぼくとお姉さまとするんだから!」
しかも、物理的な内容かはともかく、俺と甘い時間を過ごすのは確定しているようで、戦いに勝利できたとしても安息の時間が訪れるのはまだまだ先のようだ。
俺の切っ先を地面へと突き刺すと、シャーリーの足元に魔法陣が描かれる。
(強固なる封印を)
すると、俺の刀身が光を放ち、強く優しい輝きが彼女の体を照らし始める。
(円環の理すら)
蒼き閃光は風を呼び、彼女の髪をかきあげながら後方へと吹き抜けていく。
(打ち砕き 我らを栄光へと導き給え)
そして、詠唱を終えると同時に魔法の輝きは天まで昇り、彼女の姿を大人へと昇華させた。
シャーリーが背中に生やす翼は四枚、右の二枚は純白の翼、左の二枚は暗き深淵の黒。夢の中では上下に別れていた翼の色が、今では左右に振り分けられている。それは均衡の証、シャーロットとメイベル二人の姉妹が共存した姿。
「……んん、おねえさま?」
「やっと起きた。寝起きで悪いけど、行くわよ、メイベル!」
「ふえ? なになに? 悪い人?」
「そう、私達からトオルを奪おうとした最低のゲスよ!」
「お兄ちゃんを!? むー、良くわからないけど、許さないんだから!」
姉の魔力に触発され、深い眠りから目を覚ましたメイ。そんな彼女を叩き起こすためシャーリーの会話は若干脚色されていたものの、中身は大体合っているので良しとしよう。あの魔神が俺達の仲を引き裂こうとしたことは、間違いないのだから。
「遅いよ、シャーロット!」
「ごめんなさい。けど、ここからは全力で行かせてもらうわ!」
二人の天魔が並び立ち俺とレプリカを振り上げると、魔神の体は次々と切り刻まれ裂傷を帯びていく。
「わたしは、まけぬ。私は、負けられぬ!」
力を暴走させただけのゼパルの動きに、赤子の手をひねるかのように軽々と対応する二人であったが、男としての奴の意地が魔神の体に紅い甲冑をまとわせる。
「オンナは敵、オンナは敵。我が甲冑は貫けぬ」
「あーあ、遂に引きこもっちゃったか。しかも、一人称まで変わってるし」
ゼパルの特徴は、紅い甲冑。女性の好意を操るだけと思いこんでいたが、ここに来てそれを身に着けるとは想像の斜め上をいかれた気分だ。
それに、この甲冑は曲がりなりにも魔神の魔力で作られたもの。セイクリッド二人がかりでも、そう簡単に破ることは出来ないであろう。
「だからって、怯んだりとかしないけどね。こっちには、二人の先輩がいるんだから!」
しかし、その程度の威圧で今の朝美が止まるはずもなく、俺のレプリカを構えながらゼパルめがけてがむしゃらに突き進んでいく。彼女の言う通り、いくら心の壁で守りを固めようと俺達は止まらない。人の心を弄ぶような悪党に、俺達の愛が負けるわけにはいかないから。
「さぁ、私達の愛の光で――」
「オンナは全て、我が手中に!」
二人がまるで繋がっているかのような朝美の台詞が終わる直前、ゼパルが左手を掲げると鎧の中から細長いものが束になって彼女へと襲いかかる。それは、幾重にも折り重なった触手の束で、空中で数十本に分かれると朝美の体を絡め取ろうと飛び回る。
次の瞬間、海での出来事を思い出しそうになったが、彼女は俺のレプリカで綺麗にそれらを捌くとシャーリーの隣へと何事もなく戻って来た。
彼女が帰ってきた矢先に触手魔神とかなんとも間が悪い。それだけ、普段の俺の行いが悪いと言うことなのだろうか……まぁ、ハーレムを肯定している事に罪悪感が無いことも無いけど、こっちの世界じゃ許されてるんだから見逃してよ神様!
「更には触手とか……先輩が興奮するからやめろー!」
(ちょ、朝美くん!? 何を言ってるのかな、君は!)
しかも、あの時の事を根に持っているかのような発言を彼女も引き合いとして出してくるし……そりゃ、エッチなのに興奮するなと言われたら不可能に近いけど、朝美がいなくなるとかもう嫌だから全力で阻止するつもりなんだけどな。
「だって、私が触手に絡め取られたら、絶対興奮するでしょ先輩。こないだみたいに」
(どんな姿でも、朝美は美しいよ)
「……トオル」
「……お兄ちゃん」
(いやいや、何も俺言ってないし! 言ってるの俺の分身だし!)
(もちろん、シャーリーやメイもだよ)
「……って、言ってるけど」
(いや、もう……煮るなり焼くなりしてください)
だと言うのに、本心の部分だけをレプリカにぶちまけられてシャーリーやメイにも睨まれるし、未だにただの変態みたいな扱いをされて俺の心が折れそうだよ。
「ま、先輩の性癖なんてわかってるしさ、それも込みで先輩が好きなんだし私はなんとも思わないけどね!」
(朝美……)
「でも、わざと捕まったりなんてしないから。それと、このまま眺めているのもいいか。なんてことしたら、後でヒィヒィ言わせて性欲地獄に叩き落す。そんでもって、私のペットにしたげるからね」
(わかってるよ。これ以上俺以外の奴に、お前のこと傷物になんてさせないから)
「それは、先輩が直々に私のことを傷物にしてくれると?」
(まぁ、お前が許してくれるならな)
会話の流れ的に彼女の自作自演のような気もしないこともないけど、何だかんだと理解してもらえているのは嬉しくもある。これ以上彼女を傷つけさせはしないし、近い将来、皆が望むのであればそういう未来もあるのだろうな……うっ、リースの事とか考えると頭痛くなってきた。パパ呼ばわりされながら行為に及ぶとか、罪悪感で押しつぶされる気がしてならん。
「おっしゃー! せっせとこいつぶっ飛ばして、先輩と甘々するよシャーロット!」
「そんなこと、私が許さないけどね」
「そうだよ! お兄ちゃんは、ぼくとお姉さまとするんだから!」
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