俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第十章 記憶を無くした少女

第482話 目には目を

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「私の術が破られた、だと……バカな!」

「偽りの愛なんてのは、所詮こんなもんよ。冷める時は一瞬、ってね」

 そんな二人のいつも通りな会話に安堵するのも束の間、発狂を始めたゼパルの姿に戦いが終わっていないことを俺は思い出す。

「ねぇ、トオル? あの人って……というより、今まで私、何を……」

 かっこよくポーズを決める朝美の隣で、頭を抱え始めるシャーリー。どうやら彼女も朝美と同じで、今までの記憶を忘れているようだ。

「あー、そこの変態に操られて、その変態とイチャイチャしてたよ?」

「……は? どういう意味?」

 死の危険を感じ取ったことによる一時的な意識遮断と、魔神の洗脳という細かな違いこそあったが、同じ境遇を共有した者同士、朝美は簡潔に今の状況をシャーリーに説明する。

 しかし、あまりに簡素な内容に更なる疑問の声を上げた彼女は、俺の刀身を力強く抱きしめた。

「どういう意味って、そのまんまの意味。先輩のこと、そんな剣しらない。って言ったり、私はゼパル様のもの。とか言ってたけど」

「……殺す」

 大まかにヤバい所だけを抽出した朝美の補足説明を耳にし、怒りを顕にしたシャーリーは物騒な言葉を呟きながら両腕の力を増していく。気持ちは理解できますが、おれのからだがきびしい……

「それにほら、あっちの皆も操られてるし。今んところ私の氷で拘束してるけど、まっ、長くは持たないだろうしね」

「……なら、皆の事も開放してあげないと。リィンバースの王女として」

 八つ当たりにも聞こえる王女様の理屈ではあったが、静観していられる状況で無いこともまた事実。フィルやクルス姉の氷とか半分割れかけて来ているし、皆が自由になれば状況は悪い方向へとひっくり返る。それまでに何としても、ゼパルを倒さなければ。

「というわけで、こっからは二人がかりで行くけど、文句ないよね?」

 三対一の優位性と予断を許さない現状に、ある事実を忘れていた事を俺は気付かされる。

「くっ、人を小馬鹿にするような態度を。だが、二人で来るならこちらとしても好都合。もう一度この私の魔眼で、その女の精神を支配してやる!」

 ゼパルの魔眼に制限はなく、一度打ち破ったとはいえ二度と彼女がかからないという保証は無い。もしここで、もう一度シャーリーが操らるような事があったら、次こそはどうにもならないだろう。

 朝美の傀儡にされるのはともかく、ここまで来てシャーリーを救えないのは悔やんでも悔やみきれない。

「そいつを、待ってた!」

 ところが、稚拙な魔神の目論見は、天使に目覚めた悪魔によっていとも簡単に打ち砕かれる。

「!?」

 狙いすましたかのように朝美が左腕を振り上げると、その軌跡を追うかのように薄い氷壁が目の前に描かれる。それはとても美しく輝き、鏡のように虚像を映し出しすと魔神の光を反射させた。

「がぁ! め、目があぁぁ、めがああああああああぁっ!!」

 煌々と輝く真紅の光。男であるゼパル自身に奴の魔力は効果を成さなかったが、その煌めきの強さは奴の瞳に負荷を与えるには十分すぎる。

「くっ、私は、今まで何を」

 そして、網膜を傷つけられた瞳は効力を失い、魔力への耐性が最も高いであろうフィルを筆頭に自由を奪われていた皆が正気に戻り始めた。

(クルス姉、フィル、カーラにリースにアイリ!)

「……パパ?」

「あれ? トオル様? 私は、何を……って、なんですか、この手と足は!?」

「おー、ようやく元に戻ったみたいですな。というわけで解除っと」

 手足の異常な感覚に、真っ先に気が付くと同時に大声を上げたクルス姉をきっかけとし、自らの状況に驚き焦り始める面々。その中でもフィルだけが冷静を装ってはいたが、朝美の魔力の強度の凄さに首をひねらせる。そんな彼女たちの反応を見た朝美が指を一つ鳴らすと、氷の拘束具が甲高い音を立てつつ粉々に砕け散った。

「さてと、これで完全に形勢逆転だね。あんたの味方はもういない、それでもやるつもりなら相手になるけど?」

「ふふっ、ふはははは、ハーッハハッハハハ!! 私の何が悪い? どこが醜いというのだ! 俺を蔑み馬鹿にして、だから女は嫌いだ!! 女は敵、おんなはてき、おンなはテキ……ウボァー!!」

 女性に対する執念、それが彼を魔神へと変えてしまったのだろう。俺だって向こうの世界じゃ良い思い出なんて無いに等しかったけれど、俺を見てくれている人は確かにいた。

 だから、諦めるにはまだ早すぎる気がするのに、彼のプライドがそれを許さなかったのだろう。せっかちは損をするという典型と言うべきだろうか、ゼパルにとっては辛い人生だったのだろうな。

 だからといって、それを認めるわけにはいかない。生きとし生けるものには自由があって、何人たりともそれを妨げる事は出来ないのだから……

「嫉妬と妬みでキレる男ほど醜いものは無いと思うな~。だから、モテないんだと私は思うけど」

「ダマレ、ダマレ、ダマレ―!!」

 朝美の挑発に発狂を繰り返し、地面に巨大な穴を空けるゼパル。魔神としての本性を表した事により、邪悪な波動が一気に膨れ上がる。

「そういう所、本当に変わらないわね。朝美は」

「まーねー。って、この見た目で良くわかったよね?」

「その声にその口調、忘れるわけ無いでしょ? それに、トオルを横取りしようなんて考えるの、貴方ぐらいじゃない」

「流石は私の親友だ。それじゃ、手伝ってくれるよね」

「もちろん、それが私の役目ですもの」

 俺を右手に構えたシャーリーは、他愛もない会話を金髪の天使と繰り広げる。互いに再会を噛み締め合い静かに笑った少女たちは、共通の敵へと立ち向かうのであった。
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