481 / 526
第十章 記憶を無くした少女
第480話 目覚める神聖
しおりを挟む
「さてさて、お立ち会い。ここに取り出したるは小さな袋にございましては、何に使うか、わかりますかにゃ?」
心を静かに沸騰させた朝美は、油でも売り出しそうな口上とともに腰に巻きつけてあるサイドポケットから小さなお守り袋を一つ取り出す。
俺の刺さっている場所からでは何が書かれているのかまではわからなかったが、袋から漏れ出る波動には覚えがある。それは、俺が一番近くで感じていたもの。気高くも安らかな、暖かみを感じさせるその力の正体は……
「シャーロットと戦ってる間にさ、色々と思い出したんだよね。ミレイって名前をもらってさ、その人に何を言われたのかって。これは、私の力を解く鍵のようなもの。光と闇、相反する二つの魔力を授かり、私の体が適応できた時にこそ、その真価が発揮される。それまでは、弱い魔物を遠ざけるだけの見た目通りのお守りだったんだけどね」
とはいえ、最も馴染みのあるはずの少女は、訝しげな表情で朝美を睨みつけるだけで何の反応も示さない。敵の手中に落ちたとは言え、全てを忘れてしまった事に俺は衝撃を隠しきれない。
「いやまぁ、わからないわけですよ。記憶喪失の人間に、力がどうのとか封印がどうのとか。今でもまぁ、半信半疑な訳だけど、一応教えてくれたのが私と同じ知り合いなわけで。信じてみようかなって思ったしだいなわけですよ」
それは、ひょうひょうと話を続ける朝美も同じらしく、無視を決め続けるシャーリーの姿に落胆のため息を深く漏らした。
「オッケーオッケー、本当に興味が無いってわけだ。だったら、見せてあげる。私の本当の力。あんたと同じ、天に瞬く聖なる光ってやつをね!」
諦めの言葉とともに右手に持ったお守り袋を朝美が突き出すと、突然袋が輝きだし辺り一帯を光で染める。
「神聖使者・順応!」
それを自分の胸に押し当て祈るように両目を瞑ると、彼女の肩甲骨から白き翼が姿を現した。
宙に浮かぶその姿は、正しく地上に舞い降りた天使。それと同時に彼女の髪が背中の辺りまで伸びると、俺の知っている天道朝美の姿を連想させる。
髪の色は金に変わり、翼の種類も悪魔から天使へと変わってしまったけれど、彼女の放つ神々しさは俺の知るステージの女神そのものだった。
「これが私の力、運命という名の絆が紡いだ真の私!」
ただまぁ、薙沙ちゃんはここまで中二病な言動とかしなかったけどな。
「むー、ここまで無反応だと本当に張り合いないなー。とにかく、何があったかは後で話すからさ、それまで先輩はゆっくりと待っててよ」
(わかった。けど、ピンチになったら、迷わず俺のこと使ってくれよな)
「了解! それじゃあ本来の朝美ちゃん、天道朝美バージョンセイクリッド初陣戦、行ってみるとしますか!」
氷の刃を光に変えて、大地を蹴り上げ飛び出した朝美は、残像を作る勢いでシャーリーに乱舞を浴びせかける。手加減をしていたと思われる今までの動きとは打って変わり、鮮血の色が彼女の肌に刻まれていった。
それでも朝美は本気でないのか、致命傷にならぬよう少しずつ彼女を追い込んでいく。
「光と氷の共演は、深き闇を照らし出す!」
しかも、鏡のように宙に浮かべた大量の氷の塊に、光の魔法を反射させることでシャーリーの動きを封じ込めるという荒業を朝美は披露し、圧倒的な力の差を彼女に見せつけた。
「さぁ、さぁ、私の攻撃に死角はないよ! どこまで耐えられるかなー」
失望の色を濃く浮かべながらも一太刀の元に仕留めないのは、彼女の事を朝美が親友だと思っているからなのだろう。
ライバルであり友でもある。限りなく近い気持ちを共有した二人だからこそ、諦めたくないこともあるのだろうと俺には思えた。
「シャーロットは、それで良いわけ?」
だからと言うべきか、彼女に攻撃を加えながらも優しい声音で朝美は説得を試み始める。
「一番大切な人を捨てて、偽物の気持ちに飲み込まれちゃって本当に良いの?」
好敵手と認めた相手だからこそ攻撃の手は緩めず、シャーリーの動ける範囲をとことんまで制限し腕を上げることすら許さない。故に、朝美の話を聞くことを強要されているとも言えるのだが、眉一つ動かす素振りを彼女は見せなかった。
「正直さ、勝てないと思ったよ。シャーロットと先輩の、お互いを想い合う深い絆を見せつけられてさ。私だって負けないってそう思いたかったけど、二人の間に入り込む隙間なんてなかった。だって、先輩にとってあんたは、未来を照らす本物の天使だったんだ。だから! 二人を引き裂くその闇を、私のこの手で取り払ってあげる!」
それでも、ひたすら朝美は説得を続け自身の気持ちをぶつけるが、言葉だけでは彼女を正気に戻せるとは思っていなかったらしく、高らかに雄叫びを上げながら右の拳を握りしめると、その甲を山吹色に輝かせる。
「この手に宿すは破魔の光。闇に染まりし邪悪な心を、その一撃にて浄化する!」
そして、宙に浮かべた塊を邪魔にならない程度に左右へと動かすと、翼の推進力を使いシャーリーめがけて彼女は飛びだした。
「轟け! シャァァァァイニング、ブレイカー!!」
氷の道をかき分けながら突き進んだ天使は、親友であった堕天使の胸元へと右の拳を叩き込む。眩いほどに光は弾け彼女に膝をつかせたものの、大切な親友の瞳の色は未だ虚ろな境界をさまよっていた。
心を静かに沸騰させた朝美は、油でも売り出しそうな口上とともに腰に巻きつけてあるサイドポケットから小さなお守り袋を一つ取り出す。
俺の刺さっている場所からでは何が書かれているのかまではわからなかったが、袋から漏れ出る波動には覚えがある。それは、俺が一番近くで感じていたもの。気高くも安らかな、暖かみを感じさせるその力の正体は……
「シャーロットと戦ってる間にさ、色々と思い出したんだよね。ミレイって名前をもらってさ、その人に何を言われたのかって。これは、私の力を解く鍵のようなもの。光と闇、相反する二つの魔力を授かり、私の体が適応できた時にこそ、その真価が発揮される。それまでは、弱い魔物を遠ざけるだけの見た目通りのお守りだったんだけどね」
とはいえ、最も馴染みのあるはずの少女は、訝しげな表情で朝美を睨みつけるだけで何の反応も示さない。敵の手中に落ちたとは言え、全てを忘れてしまった事に俺は衝撃を隠しきれない。
「いやまぁ、わからないわけですよ。記憶喪失の人間に、力がどうのとか封印がどうのとか。今でもまぁ、半信半疑な訳だけど、一応教えてくれたのが私と同じ知り合いなわけで。信じてみようかなって思ったしだいなわけですよ」
それは、ひょうひょうと話を続ける朝美も同じらしく、無視を決め続けるシャーリーの姿に落胆のため息を深く漏らした。
「オッケーオッケー、本当に興味が無いってわけだ。だったら、見せてあげる。私の本当の力。あんたと同じ、天に瞬く聖なる光ってやつをね!」
諦めの言葉とともに右手に持ったお守り袋を朝美が突き出すと、突然袋が輝きだし辺り一帯を光で染める。
「神聖使者・順応!」
それを自分の胸に押し当て祈るように両目を瞑ると、彼女の肩甲骨から白き翼が姿を現した。
宙に浮かぶその姿は、正しく地上に舞い降りた天使。それと同時に彼女の髪が背中の辺りまで伸びると、俺の知っている天道朝美の姿を連想させる。
髪の色は金に変わり、翼の種類も悪魔から天使へと変わってしまったけれど、彼女の放つ神々しさは俺の知るステージの女神そのものだった。
「これが私の力、運命という名の絆が紡いだ真の私!」
ただまぁ、薙沙ちゃんはここまで中二病な言動とかしなかったけどな。
「むー、ここまで無反応だと本当に張り合いないなー。とにかく、何があったかは後で話すからさ、それまで先輩はゆっくりと待っててよ」
(わかった。けど、ピンチになったら、迷わず俺のこと使ってくれよな)
「了解! それじゃあ本来の朝美ちゃん、天道朝美バージョンセイクリッド初陣戦、行ってみるとしますか!」
氷の刃を光に変えて、大地を蹴り上げ飛び出した朝美は、残像を作る勢いでシャーリーに乱舞を浴びせかける。手加減をしていたと思われる今までの動きとは打って変わり、鮮血の色が彼女の肌に刻まれていった。
それでも朝美は本気でないのか、致命傷にならぬよう少しずつ彼女を追い込んでいく。
「光と氷の共演は、深き闇を照らし出す!」
しかも、鏡のように宙に浮かべた大量の氷の塊に、光の魔法を反射させることでシャーリーの動きを封じ込めるという荒業を朝美は披露し、圧倒的な力の差を彼女に見せつけた。
「さぁ、さぁ、私の攻撃に死角はないよ! どこまで耐えられるかなー」
失望の色を濃く浮かべながらも一太刀の元に仕留めないのは、彼女の事を朝美が親友だと思っているからなのだろう。
ライバルであり友でもある。限りなく近い気持ちを共有した二人だからこそ、諦めたくないこともあるのだろうと俺には思えた。
「シャーロットは、それで良いわけ?」
だからと言うべきか、彼女に攻撃を加えながらも優しい声音で朝美は説得を試み始める。
「一番大切な人を捨てて、偽物の気持ちに飲み込まれちゃって本当に良いの?」
好敵手と認めた相手だからこそ攻撃の手は緩めず、シャーリーの動ける範囲をとことんまで制限し腕を上げることすら許さない。故に、朝美の話を聞くことを強要されているとも言えるのだが、眉一つ動かす素振りを彼女は見せなかった。
「正直さ、勝てないと思ったよ。シャーロットと先輩の、お互いを想い合う深い絆を見せつけられてさ。私だって負けないってそう思いたかったけど、二人の間に入り込む隙間なんてなかった。だって、先輩にとってあんたは、未来を照らす本物の天使だったんだ。だから! 二人を引き裂くその闇を、私のこの手で取り払ってあげる!」
それでも、ひたすら朝美は説得を続け自身の気持ちをぶつけるが、言葉だけでは彼女を正気に戻せるとは思っていなかったらしく、高らかに雄叫びを上げながら右の拳を握りしめると、その甲を山吹色に輝かせる。
「この手に宿すは破魔の光。闇に染まりし邪悪な心を、その一撃にて浄化する!」
そして、宙に浮かべた塊を邪魔にならない程度に左右へと動かすと、翼の推進力を使いシャーリーめがけて彼女は飛びだした。
「轟け! シャァァァァイニング、ブレイカー!!」
氷の道をかき分けながら突き進んだ天使は、親友であった堕天使の胸元へと右の拳を叩き込む。眩いほどに光は弾け彼女に膝をつかせたものの、大切な親友の瞳の色は未だ虚ろな境界をさまよっていた。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる