俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第十章 記憶を無くした少女

第477話 乙女の意地

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「そこの変態も、好きに手出しして構わねーですよ。その時は、私も本気で行かせてもらうですけどね」

「変態、変態と、女性に寛大な私も、その言われ方は不服なのだが」

「でしたら、好きな女は少数に絞るべきですよ。出来れば、一人がベストですけどね」

「であれば、そこの剣も私と変わらぬと思うのだがな」

「トールさんからは、あんたみたいながめつさは感じないですよ。それに、今は私一人ですからね」

 余裕とも取れるミレイの発言に、こめかみをひくつかせながらゼパルは反論の言葉を投げかける。

 しまいには俺を引き合いに出し揺さぶりをかける作戦に出る魔神であったが、彼女に通用するはずもなく軽々といなされてしまう。

 むしろ、俺に対する愛が重くなるだけなので、俺を通してミレイを挑発するのはやめて欲しい所なのだが。

「……まだ?」

「おっと、あんたの今の御主人様は文句が多いみたいですからね。つい、長話になってしまったですよ。それでは、仕掛けさせてもらうとしますです。行くですよ!」

 そんな実りのない会話を聞き、呆れ果てたシャーリーが急かすようにつぶやくと、両足に力を込めたミレイが地面を蹴り上げ加速する。

 小細工なしの正面からのぶつかり合い、主導権を握ったのは氷を自在に操る少女ミレイ。強烈な一撃こそ与える隙は見当たらないものの、彼女の素早い連撃を捌ききるのに精一杯でシャーリーは後退を余儀なくされる。

 あそこに俺がいれば、魔力を使ったコンビネーションで押し返すことも可能かも知れないが、彼女の体術ではミレイに対抗することは不可能。動きだけで見れば、リースと合体したカーラと謙遜ないように俺には思える。

 もちろん、空が飛べる分カーラ達が有利であることに間違いはないのだが。

「ほらほら、どうしたですか! その程度で守るとか、トールさんの持ち主とか、笑わせてくれるですよ! このまま押し切って……!?」

 類まれなる格闘センスを駆使し、堕天使とも呼べるシャーリーからミレイが勝利をもぎ取ると思いきや、予想外なタイミングと位置から繰り出されるシャーリーの蹴り上げに彼女は体勢を崩され、勢いの乗ったストレートを顔面めがけて叩き込まれる。

 しかし、何とかその一撃を両腕で受けきったミレイは、一度距離を取り痺れる腕を振りながら戦闘を仕切り直した。

「今のタイミング、おかしくなかったですかね?」

「お姉さまだけじゃない、ぼくもいる」

 不利な状況に置かれた姉を自慢の感覚で助けたのは、彼女の中にいる妹のメイベル。あまりのおとなしさにすっかり失念していたが、彼女の身体能力もシャーリーと同等であり、攻撃と防御を別々の思考で行われてはミレイの素早い動きも簡単に見抜かれたと言うわけだ。

「なるほど、二重人格ってやつですか。こいつは、やっかいですね」

「違う。メイは、私の妹」

「……訂正するです。最初から二対三とか、せこいにも程があるですよ」

 ぼやきたくなるミレイの気持ちもわかるが、これが彼女たちの本来の戦い方。そこに俺とヴァネッサさんが加わって、冷静に考えると強くないはずがない。

 段々とチートじみてきた気もするけど、なんだかんだ弱点も多いわけで……と、今はそんな事を考えてる場合じゃないか。

「仕方ないですね……それなら私も、全力で行かせてもらうですよ!」

 メイベルの登場に焦りを募らせると思いきや、俄然やる気を見せたミレイは氷の魔弾を前方にばらまくと、弾幕を盾に猛スピードで突っ込み強烈な飛び蹴りをシャーリーの体に叩き込む。

 見た目以上の重さに、体勢を崩しながらも反撃に転じようとするシャーリーとメイベルであったが、無詠唱の氷魔法を四方八方から織り交ぜられ攻撃の機会を与えられず、ミレイは主導権を握り続ける。

「何でそんなに割り切れるですか? 何で簡単に裏切れるです! この人はあんたの、大切な人じゃねーんですか! まともに喋れねーのか何なのか知らねーですけど、こんだけ言われて悔しくねーんですかあんたは!」

 ミレイの心の叫び。それは、シャーロットをうらやみ俺を大切に思ってくれているからこその願い。俺を愛しているからこそ彼女は俺に幸せでいてほしくて、そのために彼女は必死に戦っている。同じ男を好きになった者同士、必ず想いは届くと信じて。

「トールさんは泣いてたです! あんたのために泣いてたですよ! 大切な人泣かしといて、あんたの良心は痛まんとですか!」

「知らない……そんな剣……知らない」

 それでも、シャーリーにかけられたゼパルの催眠は深く、ミレイの声は届かない……いや、届いていないことはないが、彼女を正気に戻すには材料が足りなさすぎる。その証拠に、彼女は俺を剣と捉えた。

 後ひと押し、何かきっかけがあれば、彼女を取り戻す事が出来るはずだ。

「何で……何でそんな事言えるですか。簡単に言えるですか!」

「うん、知らない……ぼくが好きなのはゼパル様」

「そう、私達が好きなのは……ゼパル様」

 しかし、強固な呪いは彼女を縛り、奴の名前を二人は呼び続ける。すると、渾身の右ストレートをきっかけにミレイの動きが完全に止まり、両腕を震わせ始めた。
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