俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第十章 記憶を無くした少女

第476話 想いを拳に乗せて

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「ようこそ、偉大なる魔神の住処へ。ようやく、私のものになる決心がついたかな?」

「寝言は寝て言え、って返せば良いですかね?」

 洋館の正面玄関が開くと、尊大なる魔神が反吐の出るようなセリフとともに俺達の前へと現れる。

「全く、懲りないな君たちも。こちらとしても、それなりに迷惑なんだが?」

「女性を口説き続けるあんたも、大概だと思うですけどね。それに、挑発しに来たのは、どこの誰さんでしたかね~?」

 不快感を顕にし頭を振る魔神に対し、にやけ顔で反論するミレイ。殺し合いをする直前とは思えない光景ではあるものの、互いの胸の内はふつふつと燃え上っている事だろう。それに、シャーリー達の姿も見えないが、彼女もどこかでこちらを見守っているのかもしれない。

「では、賭けをしようか。君たちが勝ったら、ここにいる全ての女性を元いた場所へと帰してさしあげよう。ただし、私が勝った暁には――」

「それって、賭けにも何にもなってませんですよね? どうせ最初から帰す気なんてないですし、私が勝ったら皆さんを開放するのは当然の事だと思うですけど」

「言うじゃないか。変な女だと思っていたが、歯切れもいいし度胸もある。想像よりもいい女かも知れないな」

「今更気づいても遅いですよ。私は、トールさんだけのものですからね」

 というか、早く始めてくれないとミレイの俺への愛情自慢になりそうなので、出来れば早く始めて欲しい。

「そうか。なら、こちらも準備を始めるとしよう」

 ミレイの挑発に乗った魔神が両目を閉じて指を鳴らすと、玄関から複数の女性が姿を表す。もちろん、それが誰かは見るまでもなくわかっていて、シャーリー達がゼパルの左右に一糸乱れず綺麗に並ぶ。

 予想通りの展開に特に驚く理由もないが、ここからどう切り抜けるかそれが問題だ。

「私の育てた堕天使たちと、どうやって君は戦うのかな?」

(育てた、だと?)

「トールさん、少しだけ力、借りるですよ」

 挑発を挑発で返すように、見下した態度を見せるゼパルに苛立ちを覚えていると、俺を真横に構えたミレイが刀身に左手をあてがう。

「エンチャントアイス……リブートアンドオープンアウト。封ぜよ、ピンポイントコフィン!」

 そして、鍔から剣先へ向けゆっくりと左手をスライドさせると、溢れ出す冷気の魔力を四方へと拡散させ、散弾のように降り注がせた。

 すると、彼女の魔力はシャーリー以外の女性達の両腕両足を拘束し、ゼパルとシャーリーに俺とミレイという、二体ニの状況を作り上げたのである。それにこの感じ、やはりこの魔法、アイスコフィン、なのか? 

 その瞬間、俺を構える凛々しい少女がもう朝美にしか見えなくて、心の奥で気持ちが昂ぶる。嬉しさのあまり吐き気すら催しそうになったが、もう負ける気がしなかった。

「因みに、その氷は簡単には溶けねーですよ。そいつには、トールさんの魔力が宿ってますでね。そこの変態さんはともかく、シャーロットさん、でしたか? その人は、トールさんと魔力の波長が近いのでこの魔法は効かねーですよ。それに……これもやっぱりよくわからねーですけど、あんたのこと一発ぶん殴ってやりてーですよ! だからそのままにしたです」

 氷の魔力から逃れるために、体をゆすり魔力を込める女性たちを尻目に、両の拳を握りしめたミレイが今カノと元カノのように一触即発でシャーリーと向かい合う。ぶん殴ってやりたいという彼女の気持ちは嬉しいけど、出来れば穏便に済ませて欲しい。とは言え、俺とシャーリーの魔力にはどこか近いものがあって、俺が彼女を傷つけることは出来ないらしい。

 これからの一生を考えれば安堵の出来る情報だけど、今はそれが不利に働いているとも言える。シャーリーを負かすためには、ミレイの言う通り殴り合いをするしか無いってわけだからな。

「それじゃあ、どっちから相手するです? 二人いっぺでも構わねーですよ」

「ゼパル様、私が」

「当然、そっちから来るですよね」

 加えて、この状況を予見していたのであれば、見た目とは裏腹にミレイはかなり頭の切れる女の子なのであろう。

 魔神を守るためにシャーリーは必ず前に出ると、そこまで考えて一対一の状況を作り出した。それも、ゼパルを自由にすることで、操り人形としての彼女の枷を外さないようにさ。

「何してるです? 構えたらどうですか?」

「私に武器は必要ない」

「そうですか……トールさん、少し休んでてくださいです。相手がその気なら、正々堂々、私も行きたいですので」

(ミレイ)

「それに、さっきも言いましたですけど、この手で一発ぶん殴ってやりたいですよ」

 シャーリーが負けるはずがないとゼパルが余裕を見せる中、彼女もまた冷静に二本の腕で立ち向かおうとしてくる。拳一つでも戦えないことはないが、彼女の十八番はやはり剣を使っての肉弾戦。俺を思い出させぬよう持たせなかったのかもしれないが、俺達が有利である事はこれで明白である。

 しかし、礼節を重んじたミレイもまた俺を地面に突き刺すと、八極拳に似た構えを取り彼女の前へと立ちふさがった。
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