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第十章 記憶を無くした少女
第473話 偽りの愛・真実の愛
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「何故と聞かれても、いつもの日課をやりに来ただけだが?」
「毎日女あさりとか、趣味が悪いを通り越して、捕まったほうがいいんじゃないですかね?」
「本来、男という生き物はこういうものだろ? 君も、そんな無機物を見限って、私の元へと来ないか? それなりの待遇は、させてもらうよ」
「結構です! 私は、トールさん一筋ですから!」
大人姿のシャーリーの肩を抱き、胸元へと手繰り寄せる魔神ゼパル。後方には、クルス姉、リース、カーラ、アイリ、フィルと俺の仲間たちが勢揃いしている。新しい女を見繕いに来たとは言っているが、この布陣と場所は間違いなく俺へのあてつけだろう。
(それで、他の女を口説こうってところにシャーリー達を連れてきて、一体どういうつもりなんだよ)
「私を愛する女性の中でも、彼女は最高に美しい。そして、最強の守り人でもあるからね」
「ダメですよゼパル様、こんな所でお戯れを」
「あんな男より、私の元へと来れて幸せだろう、シャーロット」
「はい、もちろんでございますよ、ゼパル様」
ミレイが俺の刀身を強く抱きしめていてくれるから正気を保っていられるが、結局のところ見せつけに来たわけだ。
あれだけ嫌っていたミレイさえも奪おうとしてくるし、この男が持つ無駄なプライドとしつこいほどの執念には、苛立ちを通り越して呆れ果てるよ。
もちろん、シャーリーを諦めるつもりなんてないけど、こんな男に彼女を取られたのかと思うと、今度は違う意味でむかっ腹が立ってきた。
必ずあいつの手から彼女たちを全員取り戻すと改めて誓いを立てながらも、今はこの場をどう切り抜けるべきかと頭を捻らせる。
しかし、どうにも今日は俺達と戦り合おうという意思は本当にないらしい。ただ、精神的に俺を嬲り殺してやろうという趣向は存分に発揮されているようだが……
「であれば、あの男に見せつけてやらねばな。私達がどれほど、愛し合っているのかを」
「そ、そんな。こんな所で……おやめください、ゼパル様」
「そ、そうだよお兄ちゃん。恥ずかしいよ……」
シャーリーの体を弄りだしたゼパルは、彼女が頬を赤らめるのもいとわず羞恥的な行為を続けていく。
「ほら、メイも戸惑っていますし」
「それはまだ、私の愛に慣れていないからだよ。大丈夫だよメイベル、すぐに気持ちよくなれるから」
(……彼女、嫌がってるように見えるんだが?)
「君の目には、そのように映っているのだろうね。だが、これはただの照れ隠しさ。そうだろ、シャーリー?」
「……は、はい。そのとおりにございます」
他人の彼女を洗脳し、無理やり寝取るだけにとどまらず、嫌がる彼女を目の前で辱めるとかもう人間のすることじゃない。魔神という名の悪魔。その中でも、最低最悪のクズと言って差し支えないだろう。
俺は、どうしたらいい? 彼女のために、いったい今、何が出来る?
「……無理やり言い聞かせるとか、彼氏にしてもサイアクですね」
「無理やりとは失礼だな。私の元へ来れば、君にもすぐわかる事だよ。ミレイくん」
「……わかりたくもねーですけど。それに、名前で呼んでほしくないです、気持ち悪い」
「やれやれ。どうやら彼女には、私達の崇高さがわからないようだ。なら、見せつけてやらないとな」
「いゃっ。そんな、ダメですゼパルさまぁ、はぁぁん!」
(シャーリー!?)
そんな事を考えていた矢先、まるでこちらを見ないミレイにしびれをきらしたのか、ついにゼパルはシャーリーの弱い所をいじり始めたのだ。
(くっ、てっめえぇぇぇぇ!)
「いい声にいい顔だ。他人の女の恍惚の表情を眺めながら、元所有者のくやしがる顔を見てやるのは、何度やっても楽しいものだな」
他の男の掌で喘ぎ声を上げるシャーリー。二度と彼女を傷つけさせまいと霧崎との戦いの時に誓ったのに、俺はまた……
「シャーリー、君の愛する男の名前を言ってみてはくれないか?」
「それは……ゼパル様にございます。ゼパル様の隣にいられることこそが私の幸せ」
悔しかった。意識を強く保とうとしても、目からは涙が溢れてきて自然と刀身を濡らしていく。あまりにもはっきりと突きつけられた現実に、頭の中が真っ白になりそうだった。
「では、最後の仕上げを……私とキスをしてくれないか、シャーリー」
「……はい、喜んで」
(……やめ――)
「行きましょう、トールさん。こんな茶番に、いつまでも付き合ってられないですよ」
そして、ゼパルの唇が彼女の唇へと吸い込まれて行こうとした瞬間、ミレイは俺を隠すように逆手で持ちながら歩き出す。
「そんな事を言って、私と彼女が口づけを交わす所を見たくないのだろう?」
「自意識過剰も大概にしないと、気が狂って脳みそ破裂するですよ。それとも、本当に破裂してみます?」
彼らの隣を横切ると、ミレイの鋭い眼光がゼパルを射抜く。彼女が本気で殺気を放ったのは、これが初めてでは無いだろうか?
「それでは、失礼するです。ごきげんよう、ですよ」
その異常なまでに膨大な気配に固まってしまったゼパルを気にもとめず、ミレイは町を後にし森の中へと歩を進める。彼女には関係ないはずなのに、心の底から俺を守ろうとしてくれているミレイの情熱に気持ちが沸騰しそうになった。
人間としては正しい反応なのだろうけど、これ以上女性を囲おうだなんてまるでゼパルみたいじゃないか。
「……トールさん、明日、決着をつけるです」
(ミレイ……)
「ですから、今日一日、付き合って欲しいですよ」
(……あぁ、わかったよ)
それでも、俺には何も出来ないから彼女の好意に甘えてしまう。逃げ続けていた想いに決着をつける。ここが最大の山場となりそうであった。
「毎日女あさりとか、趣味が悪いを通り越して、捕まったほうがいいんじゃないですかね?」
「本来、男という生き物はこういうものだろ? 君も、そんな無機物を見限って、私の元へと来ないか? それなりの待遇は、させてもらうよ」
「結構です! 私は、トールさん一筋ですから!」
大人姿のシャーリーの肩を抱き、胸元へと手繰り寄せる魔神ゼパル。後方には、クルス姉、リース、カーラ、アイリ、フィルと俺の仲間たちが勢揃いしている。新しい女を見繕いに来たとは言っているが、この布陣と場所は間違いなく俺へのあてつけだろう。
(それで、他の女を口説こうってところにシャーリー達を連れてきて、一体どういうつもりなんだよ)
「私を愛する女性の中でも、彼女は最高に美しい。そして、最強の守り人でもあるからね」
「ダメですよゼパル様、こんな所でお戯れを」
「あんな男より、私の元へと来れて幸せだろう、シャーロット」
「はい、もちろんでございますよ、ゼパル様」
ミレイが俺の刀身を強く抱きしめていてくれるから正気を保っていられるが、結局のところ見せつけに来たわけだ。
あれだけ嫌っていたミレイさえも奪おうとしてくるし、この男が持つ無駄なプライドとしつこいほどの執念には、苛立ちを通り越して呆れ果てるよ。
もちろん、シャーリーを諦めるつもりなんてないけど、こんな男に彼女を取られたのかと思うと、今度は違う意味でむかっ腹が立ってきた。
必ずあいつの手から彼女たちを全員取り戻すと改めて誓いを立てながらも、今はこの場をどう切り抜けるべきかと頭を捻らせる。
しかし、どうにも今日は俺達と戦り合おうという意思は本当にないらしい。ただ、精神的に俺を嬲り殺してやろうという趣向は存分に発揮されているようだが……
「であれば、あの男に見せつけてやらねばな。私達がどれほど、愛し合っているのかを」
「そ、そんな。こんな所で……おやめください、ゼパル様」
「そ、そうだよお兄ちゃん。恥ずかしいよ……」
シャーリーの体を弄りだしたゼパルは、彼女が頬を赤らめるのもいとわず羞恥的な行為を続けていく。
「ほら、メイも戸惑っていますし」
「それはまだ、私の愛に慣れていないからだよ。大丈夫だよメイベル、すぐに気持ちよくなれるから」
(……彼女、嫌がってるように見えるんだが?)
「君の目には、そのように映っているのだろうね。だが、これはただの照れ隠しさ。そうだろ、シャーリー?」
「……は、はい。そのとおりにございます」
他人の彼女を洗脳し、無理やり寝取るだけにとどまらず、嫌がる彼女を目の前で辱めるとかもう人間のすることじゃない。魔神という名の悪魔。その中でも、最低最悪のクズと言って差し支えないだろう。
俺は、どうしたらいい? 彼女のために、いったい今、何が出来る?
「……無理やり言い聞かせるとか、彼氏にしてもサイアクですね」
「無理やりとは失礼だな。私の元へ来れば、君にもすぐわかる事だよ。ミレイくん」
「……わかりたくもねーですけど。それに、名前で呼んでほしくないです、気持ち悪い」
「やれやれ。どうやら彼女には、私達の崇高さがわからないようだ。なら、見せつけてやらないとな」
「いゃっ。そんな、ダメですゼパルさまぁ、はぁぁん!」
(シャーリー!?)
そんな事を考えていた矢先、まるでこちらを見ないミレイにしびれをきらしたのか、ついにゼパルはシャーリーの弱い所をいじり始めたのだ。
(くっ、てっめえぇぇぇぇ!)
「いい声にいい顔だ。他人の女の恍惚の表情を眺めながら、元所有者のくやしがる顔を見てやるのは、何度やっても楽しいものだな」
他の男の掌で喘ぎ声を上げるシャーリー。二度と彼女を傷つけさせまいと霧崎との戦いの時に誓ったのに、俺はまた……
「シャーリー、君の愛する男の名前を言ってみてはくれないか?」
「それは……ゼパル様にございます。ゼパル様の隣にいられることこそが私の幸せ」
悔しかった。意識を強く保とうとしても、目からは涙が溢れてきて自然と刀身を濡らしていく。あまりにもはっきりと突きつけられた現実に、頭の中が真っ白になりそうだった。
「では、最後の仕上げを……私とキスをしてくれないか、シャーリー」
「……はい、喜んで」
(……やめ――)
「行きましょう、トールさん。こんな茶番に、いつまでも付き合ってられないですよ」
そして、ゼパルの唇が彼女の唇へと吸い込まれて行こうとした瞬間、ミレイは俺を隠すように逆手で持ちながら歩き出す。
「そんな事を言って、私と彼女が口づけを交わす所を見たくないのだろう?」
「自意識過剰も大概にしないと、気が狂って脳みそ破裂するですよ。それとも、本当に破裂してみます?」
彼らの隣を横切ると、ミレイの鋭い眼光がゼパルを射抜く。彼女が本気で殺気を放ったのは、これが初めてでは無いだろうか?
「それでは、失礼するです。ごきげんよう、ですよ」
その異常なまでに膨大な気配に固まってしまったゼパルを気にもとめず、ミレイは町を後にし森の中へと歩を進める。彼女には関係ないはずなのに、心の底から俺を守ろうとしてくれているミレイの情熱に気持ちが沸騰しそうになった。
人間としては正しい反応なのだろうけど、これ以上女性を囲おうだなんてまるでゼパルみたいじゃないか。
「……トールさん、明日、決着をつけるです」
(ミレイ……)
「ですから、今日一日、付き合って欲しいですよ」
(……あぁ、わかったよ)
それでも、俺には何も出来ないから彼女の好意に甘えてしまう。逃げ続けていた想いに決着をつける。ここが最大の山場となりそうであった。
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