俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

文字の大きさ
上 下
471 / 526
第十章 記憶を無くした少女

第470話 あなたと一緒に戦いたい

しおりを挟む
(……あの~、ミレイさん? 何故にここへ?)

 翌日、彼女が朝早く訪れた場所に、俺は大層困惑している。

「トールさん、にぶちんですねぇ」

(罵倒にはなれてるよ)

 ゆっくりと朝食を味わった彼女が足を運んだ先は、なんとリレメンテのギルドだったのである。

 昨日の流れからして、特大デートコースにでも付き合わされることを覚悟していたのだが、彼女の心境が全くもって理解できない。とは言え、今日は付き合うと言ってしまったわけだし、今は成り行きに任せるしかないか。

「やぁ、ミレイくん。昨日はぐっすりと眠れたかな?」

「はい! トールさんのおかげでバッチリですよ!」

「ハハハ、それは良かった。トールくんも、ご苦労さまだね」

 ギルドの門をくぐり抜けると、受付嬢さんと会話をしていたエドガーさんがこちらに気が付き、話を切り上げながら俺達の方へと歩いてくる。爽やかな笑顔で挨拶を交わすエドガーさんに返事をすると、彼は両目を細めながら俺の柄頭を丁寧に撫で回してきた。

 エドガーさんには俺の声は聞こえていないはずだけど、存在自体は理解してくれているのだろう。ミレイの性格を考えると、一緒にいるだけで苦労していると思われているんだろうな。

「それで、今日はどうしたのかな? シンやラナ君たちの様子を見に来たのなら案内できるが」

「いえ、二人のことも気になるですが……エドガーさん、奥の修練場、壊す覚悟でかしてくれませんかね!」

(!?)

 シンやラナを気にかけてここを訪れたと思っていた俺も、真摯な彼女の態度からは想像もつかない真逆の発言に、エドガーさん共々驚かされ両目を見開かされる。

 修練場を使うのはともかく、公共の場を破壊する覚悟とはいったいどういう事なのだろう? まさか、昨日受けたショックのせいで自暴自棄にでもなってしまったのではないだろうか?

「壊すとは、どういう意味なのかな?」

「私、トールさんを使いこなしたいです。トールさんと一緒に、戦いたいですよ! でも、本気を出したらきっと、周りに被害が及ぶです。誰かを傷つけたり、何かを壊したりするのは嫌ですけど、トールさんのために、もっともっと強くなりたいです!」

(ミレイ……)

 そんな心配とは裏腹に、彼女はしっかりと現実を見据え、俺のためにその結論へと至ったらしい。剣を使った戦い方を知らないと言っていたミレイが一晩で思いを新たにし、俺と一緒に戦いたいと申し出てくれるとは夢にも思わず、言葉にできない気持ちが溢れる。

 彼女が朝美であるかなんて、そんな事はもうどうでもいい。こんなにも尽くしてくれるミレイのために、俺は何かをしてあげたいとそう思ったのだ。

「確かに、ミレイ君の実力を考えれば何が起こるか想像もつかないだろうね」

「ですよね……」

 けれども、彼女の力が未知数である事は俺もエドガーさんも承知のところで、それを理解した上で自らの敷地内で本気を出させるのは自殺行為に他ならない。

 そもそも、シャーリーとか女神の皆様方は、いったいどこで修行をしていたのだろう? ギアナ高地のような修行のメッカさえわかればそういう場所に案内できるのだけれど、この世界の事を俺はまだ何も知らないからな。

 今は、この国を救うという使命だけで手一杯だし、もしシャーリー達を助け出せてこの戦いも無事に終わった時は、世界を周るのもありなのかもしれないな。その場合、外交って形になるんだろうけどさ。

「わかった、私が何とかしよう」

「本当ですか!?」

「うむ。S級を想定した簡易結界というものがあってね、それがどこまでミレイくんの魔力を抑え込めるかはわからないが、私にも協力させて欲しい。この町を守る鍵は、君が握っていると私も思っているからね」

「そ、そんな、大げさですよ。でも、ありがとうございますです! トールさんやエドガーさん、それにシンくんやラナさん、皆さんのためにも頑張るですよ!」

「ライカくん、簡易結界を張るための、障壁装置の準備を手伝ってくれたまへ」

「障壁装置、ですか? は、はい! ただいま!」

 そんな夢を叶えるためにも、目の前の問題に集中しなければならないと俺は気合を入れ直す。無理を承知の上でエドガーさんが許可を出してくれたのだ、ここは全力でミレイに協力しないと。

 ライカと呼ばれた受付嬢さんとエドガーさんの後を追い修練場へと足を踏み入れると、加湿器のような機械が四方を囲み、青白い透明な膜が修練場を覆うように形成される。これで存分に、俺達二人の力を発揮できるはずだ。

「トールさん、私に力を貸してくださいですよ!」

 ミレイが俺を正面に構えると、微弱な魔力が刀身へと注ぎ込まれ発光を始める。この町とシャーリー達を救うための、二人の修行が始まった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...