467 / 526
第十章 記憶を無くした少女
第466話 強靭なる肉体
しおりを挟む
「さて、魔物の首は五つ。どう対処するべきかな?」
ゼパルの指令を受け、俺たちに向けて威嚇を始めた蛇のバケモノと真っ向から向き合うエドガーさん。
しかし、魔物の首の多さにどう攻めるべきか考えあぐねている様子。
「エドガーさん、待ってください。あの頭、増えるかもしれねーですよ」
「増えるとは、どういう事かなミレイくん?」
「首を落とすと、そこから増えるかもしれないってトールさんが言ってるですよ」
そんな彼の後ろから、俺の伝えた情報をエドガーさんに伝達するミレイ。本当に彼女は俺の事を気にかけてくれているみたいで、涙が出そうになるくらい感動してしまう。
「そこにいるのは……あぁ、あの忌々しい女とまた君か。好きな女を取られたからって、いつまでも俺につきまとうとは、しつこいものだな」
(あいつらを幸せにするって、俺は決めたんだ。そのためなら、この体が壊れるまで何だってしてやる)
「その心意気は買うが、女性の手の中で吠えても説得力がないぞ」
そして、白々しい態度とともにこちらに気づいた素振りを見せる魔神は、俺のことを嘲り笑いながら挑発を繰り返した。
俺もまた、シンに負けず劣らずの負けず嫌いであるという自覚はあったが、奴の言う通り情けないのも事実。誰かの力を借りなければ、憎い奴をぶん殴る事すら出来ないのだ。
「トールさんの無念は、私が晴らすですよ。さぁ、どこからでもかかってくるです!」
現実を突きつけられながらもそれに屈すること無く気合を入れ直していると、俺の気持ちを代弁するように鋼の体を突き立てたミレイが魔物へと構えを取る。
無念という言葉が少し気にかかるけど、くやしくてたまらないのは間違いないし、細かいことは気にしないでおこう。
「血気盛んだな……なるべく女は傷つけるな、私の言葉がわかるならな」
ゼパルの命令に一吠えすると、巨体の体に似つかわしくない細いしっぽが動き始め俺達へと迫りくる。その不釣り合いな体型から俊敏性こそ無いものの、統率の取れた五対の頭に防戦を余儀なくされるエドガーさん。
二人の間に割り込むタイミングをミレイも見計らってはいるものの、ヒュドラの見せる怒涛の攻めに好機を逸してしまっている。せめて、あの首の一、二本だけでもなんとかできれば……それに、エドガーさんの短剣ではヒュドラの皮膚に傷をつけることは出来ないらしく、攻撃の合間に数度、蛇腹を使って挿し込んではいるものの相手が怯む様子はない。
彼女が近づく事さえできれば何らかの打開策を打つ事も可能かもしれないけれど、このままではジリ貧一直線。座して敗北を待つしか無いわけで……いったい、どうすれば良いんだ。
「吹き荒れる嵐よ、雷鳴とともに大地へと舞い降り、我らを阻む悪鬼を穿ちたまへ。サンダーストーム!」
決定打を見出だせぬ中、シンの治療を終えたラナが雷の魔法を繰り出す。
「このやろう!」
吹き荒れる嵐に巻き込まれながら降り注ぐ稲妻に視界を奪われ、怯んだヒュドラの隙を付き剣の切っ先を一番手前の頭へと叩き込むシン。
両目が潰れ、頭頂から血を吹き出す蛇であったが、やはり頭は独立しているようで残りの四本がシンの体を再び吹き飛ばした。
「シン!」
「ゲホ、ゲホ! くっそ……」
「……こい、のろま」
土壌にうずくまるシンへとラナが駆け込むと、自身の身長ほどもある大盾を構えたダムドが地面を叩きながらヒュドラの前を横切る。挑発に乗せられ、彼を追いかける蛇の頭達の攻撃を全て受け止めるダムドであったが、徐々に後方へと押し込まれそうになり長くは持たないだろう。
「今なら!」
その瞬間、ヒュドラの視線がダムドに釘付けであると確信したミレイが、右の拳に気を練り込ませながら突進するも二本の頭に防がれて後退を余儀なくされる。
かろうじてい片方の頭に拳をめり込ませはしたが、その頭が脳震盪を起こしたのも束の間すぐに元へと戻ってしまう。それどころか、シンの一撃を受け半壊していた真ん中の頭までもが徐々に再生を始め、何事もなかったかのように元気に動き出す始末。
このままだと、相手に痛手を与えるどころかこちらのパーティーが半壊するのを黙って見守るだけ。魔物を抑えているダムドもそう長くは持たないだろうし、全滅するのも時間の問題か……
「ダムドくん! バッシュとともに、一度後ろへと下がりたまへ!」
全ての頭が回復し、同時にダムドへと襲いかかる時を待っていたかのように指示を出すエドガーさん。言われた通りに盾を振り上げ全ての頭を跳ね上がらせると、ダムドは一歩後方へと下がり、彼の隣を二本の蛇腹が通過する。
エドガーさんの伸ばした短剣は、円を描くようにヒュドラの周りを周回すると、五本の頭をまとめるように縛り上げた。
「今だ、シンくん!」
自由の利かなくなった頭、その隙を付いて胴体へと雄叫びを上げながら剣を突き出し突進するシン。この一撃がヒュドラの体に突き刺されば、そこをミレイに追撃させてそのまま押し切る手立てもある。
しかし、無情にもエドガーさんの作り上げた蛇腹の結界は破られ、五本の頭は自由を取り戻す。
「なっ! ぐあぁぁぁぁァァッ!!」
そして、危険を犯したシンの体は五対のアギトに噛みつかれ、無慈悲にも引き裂かれようとしていた。
ゼパルの指令を受け、俺たちに向けて威嚇を始めた蛇のバケモノと真っ向から向き合うエドガーさん。
しかし、魔物の首の多さにどう攻めるべきか考えあぐねている様子。
「エドガーさん、待ってください。あの頭、増えるかもしれねーですよ」
「増えるとは、どういう事かなミレイくん?」
「首を落とすと、そこから増えるかもしれないってトールさんが言ってるですよ」
そんな彼の後ろから、俺の伝えた情報をエドガーさんに伝達するミレイ。本当に彼女は俺の事を気にかけてくれているみたいで、涙が出そうになるくらい感動してしまう。
「そこにいるのは……あぁ、あの忌々しい女とまた君か。好きな女を取られたからって、いつまでも俺につきまとうとは、しつこいものだな」
(あいつらを幸せにするって、俺は決めたんだ。そのためなら、この体が壊れるまで何だってしてやる)
「その心意気は買うが、女性の手の中で吠えても説得力がないぞ」
そして、白々しい態度とともにこちらに気づいた素振りを見せる魔神は、俺のことを嘲り笑いながら挑発を繰り返した。
俺もまた、シンに負けず劣らずの負けず嫌いであるという自覚はあったが、奴の言う通り情けないのも事実。誰かの力を借りなければ、憎い奴をぶん殴る事すら出来ないのだ。
「トールさんの無念は、私が晴らすですよ。さぁ、どこからでもかかってくるです!」
現実を突きつけられながらもそれに屈すること無く気合を入れ直していると、俺の気持ちを代弁するように鋼の体を突き立てたミレイが魔物へと構えを取る。
無念という言葉が少し気にかかるけど、くやしくてたまらないのは間違いないし、細かいことは気にしないでおこう。
「血気盛んだな……なるべく女は傷つけるな、私の言葉がわかるならな」
ゼパルの命令に一吠えすると、巨体の体に似つかわしくない細いしっぽが動き始め俺達へと迫りくる。その不釣り合いな体型から俊敏性こそ無いものの、統率の取れた五対の頭に防戦を余儀なくされるエドガーさん。
二人の間に割り込むタイミングをミレイも見計らってはいるものの、ヒュドラの見せる怒涛の攻めに好機を逸してしまっている。せめて、あの首の一、二本だけでもなんとかできれば……それに、エドガーさんの短剣ではヒュドラの皮膚に傷をつけることは出来ないらしく、攻撃の合間に数度、蛇腹を使って挿し込んではいるものの相手が怯む様子はない。
彼女が近づく事さえできれば何らかの打開策を打つ事も可能かもしれないけれど、このままではジリ貧一直線。座して敗北を待つしか無いわけで……いったい、どうすれば良いんだ。
「吹き荒れる嵐よ、雷鳴とともに大地へと舞い降り、我らを阻む悪鬼を穿ちたまへ。サンダーストーム!」
決定打を見出だせぬ中、シンの治療を終えたラナが雷の魔法を繰り出す。
「このやろう!」
吹き荒れる嵐に巻き込まれながら降り注ぐ稲妻に視界を奪われ、怯んだヒュドラの隙を付き剣の切っ先を一番手前の頭へと叩き込むシン。
両目が潰れ、頭頂から血を吹き出す蛇であったが、やはり頭は独立しているようで残りの四本がシンの体を再び吹き飛ばした。
「シン!」
「ゲホ、ゲホ! くっそ……」
「……こい、のろま」
土壌にうずくまるシンへとラナが駆け込むと、自身の身長ほどもある大盾を構えたダムドが地面を叩きながらヒュドラの前を横切る。挑発に乗せられ、彼を追いかける蛇の頭達の攻撃を全て受け止めるダムドであったが、徐々に後方へと押し込まれそうになり長くは持たないだろう。
「今なら!」
その瞬間、ヒュドラの視線がダムドに釘付けであると確信したミレイが、右の拳に気を練り込ませながら突進するも二本の頭に防がれて後退を余儀なくされる。
かろうじてい片方の頭に拳をめり込ませはしたが、その頭が脳震盪を起こしたのも束の間すぐに元へと戻ってしまう。それどころか、シンの一撃を受け半壊していた真ん中の頭までもが徐々に再生を始め、何事もなかったかのように元気に動き出す始末。
このままだと、相手に痛手を与えるどころかこちらのパーティーが半壊するのを黙って見守るだけ。魔物を抑えているダムドもそう長くは持たないだろうし、全滅するのも時間の問題か……
「ダムドくん! バッシュとともに、一度後ろへと下がりたまへ!」
全ての頭が回復し、同時にダムドへと襲いかかる時を待っていたかのように指示を出すエドガーさん。言われた通りに盾を振り上げ全ての頭を跳ね上がらせると、ダムドは一歩後方へと下がり、彼の隣を二本の蛇腹が通過する。
エドガーさんの伸ばした短剣は、円を描くようにヒュドラの周りを周回すると、五本の頭をまとめるように縛り上げた。
「今だ、シンくん!」
自由の利かなくなった頭、その隙を付いて胴体へと雄叫びを上げながら剣を突き出し突進するシン。この一撃がヒュドラの体に突き刺されば、そこをミレイに追撃させてそのまま押し切る手立てもある。
しかし、無情にもエドガーさんの作り上げた蛇腹の結界は破られ、五本の頭は自由を取り戻す。
「なっ! ぐあぁぁぁぁァァッ!!」
そして、危険を犯したシンの体は五対のアギトに噛みつかれ、無慈悲にも引き裂かれようとしていた。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
Go to the Frontier(new)
鼓太朗
ファンタジー
「Go to the Frontier」改訂版
運命の渦に導かれて、さぁ行こう。
神秘の世界へ♪
第一章~ アラベスク王国編
第三章~ ラプラドル島編
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる