俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第十章 記憶を無くした少女

第466話 強靭なる肉体

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「さて、魔物の首は五つ。どう対処するべきかな?」

 ゼパルの指令を受け、俺たちに向けて威嚇を始めた蛇のバケモノと真っ向から向き合うエドガーさん。

 しかし、魔物の首の多さにどう攻めるべきか考えあぐねている様子。

「エドガーさん、待ってください。あの頭、増えるかもしれねーですよ」

「増えるとは、どういう事かなミレイくん?」

「首を落とすと、そこから増えるかもしれないってトールさんが言ってるですよ」

 そんな彼の後ろから、俺の伝えた情報をエドガーさんに伝達するミレイ。本当に彼女は俺の事を気にかけてくれているみたいで、涙が出そうになるくらい感動してしまう。

「そこにいるのは……あぁ、あの忌々しい女とまた君か。好きな女を取られたからって、いつまでも俺につきまとうとは、しつこいものだな」

(あいつらを幸せにするって、俺は決めたんだ。そのためなら、この体が壊れるまで何だってしてやる)

「その心意気は買うが、女性の手の中で吠えても説得力がないぞ」

 そして、白々しい態度とともにこちらに気づいた素振りを見せる魔神は、俺のことを嘲り笑いながら挑発を繰り返した。

 俺もまた、シンに負けず劣らずの負けず嫌いであるという自覚はあったが、奴の言う通り情けないのも事実。誰かの力を借りなければ、憎い奴をぶん殴る事すら出来ないのだ。

「トールさんの無念は、私が晴らすですよ。さぁ、どこからでもかかってくるです!」

 現実を突きつけられながらもそれに屈すること無く気合を入れ直していると、俺の気持ちを代弁するように鋼の体を突き立てたミレイが魔物へと構えを取る。

 無念という言葉が少し気にかかるけど、くやしくてたまらないのは間違いないし、細かいことは気にしないでおこう。

「血気盛んだな……なるべく女は傷つけるな、私の言葉がわかるならな」

 ゼパルの命令に一吠えすると、巨体の体に似つかわしくない細いしっぽが動き始め俺達へと迫りくる。その不釣り合いな体型から俊敏性こそ無いものの、統率の取れた五対の頭に防戦を余儀なくされるエドガーさん。

 二人の間に割り込むタイミングをミレイも見計らってはいるものの、ヒュドラの見せる怒涛の攻めに好機を逸してしまっている。せめて、あの首の一、二本だけでもなんとかできれば……それに、エドガーさんの短剣ではヒュドラの皮膚に傷をつけることは出来ないらしく、攻撃の合間に数度、蛇腹を使って挿し込んではいるものの相手が怯む様子はない。

 彼女が近づく事さえできれば何らかの打開策を打つ事も可能かもしれないけれど、このままではジリ貧一直線。座して敗北を待つしか無いわけで……いったい、どうすれば良いんだ。

「吹き荒れる嵐よ、雷鳴とともに大地へと舞い降り、我らを阻む悪鬼を穿ちたまへ。サンダーストーム!」

 決定打を見出だせぬ中、シンの治療を終えたラナが雷の魔法を繰り出す。

「このやろう!」

 吹き荒れる嵐に巻き込まれながら降り注ぐ稲妻に視界を奪われ、怯んだヒュドラの隙を付き剣の切っ先を一番手前の頭へと叩き込むシン。

 両目が潰れ、頭頂から血を吹き出す蛇であったが、やはり頭は独立しているようで残りの四本がシンの体を再び吹き飛ばした。

「シン!」

「ゲホ、ゲホ! くっそ……」

「……こい、のろま」

 土壌にうずくまるシンへとラナが駆け込むと、自身の身長ほどもある大盾を構えたダムドが地面を叩きながらヒュドラの前を横切る。挑発に乗せられ、彼を追いかける蛇の頭達の攻撃を全て受け止めるダムドであったが、徐々に後方へと押し込まれそうになり長くは持たないだろう。

「今なら!」

 その瞬間、ヒュドラの視線がダムドに釘付けであると確信したミレイが、右の拳に気を練り込ませながら突進するも二本の頭に防がれて後退を余儀なくされる。

 かろうじてい片方の頭に拳をめり込ませはしたが、その頭が脳震盪を起こしたのも束の間すぐに元へと戻ってしまう。それどころか、シンの一撃を受け半壊していた真ん中の頭までもが徐々に再生を始め、何事もなかったかのように元気に動き出す始末。

 このままだと、相手に痛手を与えるどころかこちらのパーティーが半壊するのを黙って見守るだけ。魔物を抑えているダムドもそう長くは持たないだろうし、全滅するのも時間の問題か……

「ダムドくん! バッシュとともに、一度後ろへと下がりたまへ!」

 全ての頭が回復し、同時にダムドへと襲いかかる時を待っていたかのように指示を出すエドガーさん。言われた通りに盾を振り上げ全ての頭を跳ね上がらせると、ダムドは一歩後方へと下がり、彼の隣を二本の蛇腹が通過する。

 エドガーさんの伸ばした短剣は、円を描くようにヒュドラの周りを周回すると、五本の頭をまとめるように縛り上げた。

「今だ、シンくん!」

 自由の利かなくなった頭、その隙を付いて胴体へと雄叫びを上げながら剣を突き出し突進するシン。この一撃がヒュドラの体に突き刺されば、そこをミレイに追撃させてそのまま押し切る手立てもある。

 しかし、無情にもエドガーさんの作り上げた蛇腹の結界は破られ、五本の頭は自由を取り戻す。

「なっ! ぐあぁぁぁぁァァッ!!」

 そして、危険を犯したシンの体は五対のアギトに噛みつかれ、無慈悲にも引き裂かれようとしていた。
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