俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第十章 記憶を無くした少女

第463話 遭遇戦

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 それにしても、ラナのローブの下って結構派手な服着てるよな。色んな所にひらひらも付いてるし……もしかしたら彼女、魔法少女に憧れているのかも。

 こっちの世界にそういう文献も無いわけではないし、どこの世界でも変身願望ってのはあるものなんだな。

「!……」

「ミレイさん、怖い顔してるけど、どうかしたの?」

「ラナさん、シンくん、ダムドくん、来るですよ!」

「諸君、構えたまへ。魔物だ!」

 ラナの可愛い一面に触れて、だいぶ気分が安らいでいると、突然ミレイが表情を強張らせ俺の柄を強く握りしめなおす。すると、淀んだ空気が周囲から集まり始め、黒い靄をまとった魔物達が牙を研ぎながら次々と現れる。

 あっという間に俺達を囲んでしまった魔物達は、所々につぎはぎを持っていて、もしかしてこいつらアガレスの作り出した魔物達の残党かも。となると、同じ魔神であるゼパルがこの先に居る可能性はとても高くなる。

 けれど、こいつらの強さが始祖の森で戦った個体と同じだとすれば、ここにいる彼らだけで勝てるだろうか……何せ相手は、女神であるフィルを封じ込めるだけの実力をもつ魔物達なのだ。

 俺の予想が確かなら、いくら本気で戦っても勝ちの目は見えてこないだろう。

「ラナくんを囲むように陣形を! シンとダムドは、私の切り崩すタイミングに合わせてくれ!」

「おうよ!」

「……ん」

 後は、この酷く理不尽な予想が外れてくれることを祈るばかりである。

「ミレイさんは――」

「大丈夫ですよ。ラナさん、トールさんの事をお願いするです!」

(……って、おい!)

 いきなりの遭遇戦。前面に飛び出したエドガーさんが袖の中から二本の短剣を取り出すと、まるで鞭でも振り回すかのように短剣の柄頭から蛇腹が伸び、周囲の魔物を牽制する。その隙をついて飛び出したシンが魔物を両断し、彼の隙をかばうようにダムドが盾となって攻撃を防いでいった。

 しかし、息のあった三人の連携に高揚感を覚える暇もなく俺は窮地に立たされる。なんと、ミレイがラナの隣に俺を突き立て、後方へと飛び出していってしまったのだ。

 彼女の戦闘スタイルに俺が合わないことは重々承知しているつもりだったけど、この状況でも迷いなく置いて行ってしまうとは……お兄さん、ちょっと悲しいです。

「え、えっと。トールくんだったっけ。なるべく全力で守るけど、何かあったらごめんね」

 しかも、俺の存在すら半信半疑のラナに心配されて、本当に涙が出てきた。

「吹き荒れる嵐よ、雷とともに大地へと舞い降り、我らを阻む悪鬼魔物を穿ちたまへ。サンダーストーム!」

 シャーリー達とは違って、少しだけ薄情なミレイの対応に落ち込んでいると、紫色の魔法陣を展開したラナは魔物の集団に複数の雷撃を叩き込む。

 地面からは魔物を切り裂く突風が吹き荒れ、上下からの攻めに為す術もなく沢山の魔物達が散っていく。彼女の放つ魔法は、確かに凄いと関心出来るほどの威力だったけど、ゼパルの合成獣達を呆気なく倒せるほどの威力を秘めているとは到底思えない。

 となると、こいつらの実力は並の魔物より強いぐらいと言うことか。これなら、なんとかなるかも。

「トールさんを、傷つけさせたりは、しない、ですよ!」

 一人敵陣に突っ込んで行ったミレイなんか、拳一つで次々と魔物を粉砕していくし、俺の不安は杞憂で終わったようである。

「何とか、片付いたかな」

「流石はエドガーさんだ。凄く戦いやすかったですよ!」

「……ん」

「何、君たちの実力あってのものだよ。それに、一人一人を理解していなければ、ギルドマスターなど務まらないからね」

 数分後には全ての片が付き、ほぼ無傷で勝利を収めるエドガーさん達。ギルドの登録者全員の特性を把握している等と、さらりと凄いことを言ってのけてはいるけれど、この人の実力であればそれも頷ける。

「ほら、シン、傷見せて。ダムドさんも」

「大丈夫だよこれぐらい、つばでもつけとけば――」

「問答無用!」

 置き去りにされた俺にも傷一つなく安堵していると、一目散にラナは駆け出しシンの負ったかすり傷を治し始める。どれくらいの腐れ縁なのかは俺にはわからないけれど、ラナがシンをどう思っているのかだけは何となくわかった。

 昔の俺なら嫉妬に駆られそうなものだけど、傍から見てると微笑ましくて良いもんだよな。それだけ俺も、成長したってことなのかね……裏を返すと、一気に老けたような気もしなくもないけど。

「トールさん! 無事ですか!」

(……心配するぐらいなら、いつも側に置いておけよな)

「そうしたいのはやまやまなのですけど、私、剣を使った戦い方を知らないですよ。トールさんのこと……はぅ」

(冗談だよ、冗談。だから、そんな悲しい顔しないでくれ)

 両手から発する魔法の光でシンやダムドの傷を癒やすラナの事を見ていると、大声を上げながらミレイが俺の方へと駆け込んでくる。わりかし真剣な顔つきに冗談交じりの愚痴をこぼすと、彼女は本気でふさぎ込んでしまい慌てて俺はフォローを入れた。

 あてつけをしてしまうのは寂しさの裏返しと言うか、そういう部分に関してはまだまだ俺も子供のようである。女の子の温もりをもっともっと……って、これじゃただの変態じゃないか俺。

「さて、そろそろ先へ進もうと思うのだが、どうだね諸君?」

「当然、俺は問題なしです!」

「……俺も、大丈夫だ」

「私も大丈夫です」

「……ミレイくんも、大丈夫かね?」

(ミレイ)

「あ、は、はい! 大丈夫です! 問題ないですよ!」

「そうか。では、進軍を続けるとしよう」

 大雑把なように見えて心の奥は繊細なのか、俺の側を離れたことに意外なほどの落ち込みようを見せるミレイ。クルス姉とかすぐに機嫌良くなったりするから、その感覚でふざけてしまったのが裏目に出たようである。

 このままだと戦闘にまで支障をきたしそうだし、ちゃんと謝っておかないとな。
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