俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第十章 記憶を無くした少女

第462話 即席パーティー

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「俺はシン、シン・ラスタウェルだ。片手剣を使う前衛のアタッカー、一応、冒険者ランクはAだ。よろしくな!」

「私はラナ、ラナ・ミッドガルよ。同じくA級の魔道士……まっ、シンとは腐れ縁ってやつね」

「……ダムド……B級だが、硬さには自信がある……何かあれば、盾として使え」

 リレメンテのギルドを出発した俺達は、シン、ラナ、ダムドという三人の冒険者達と共に、始祖の森とは反対方向にあるもう一つの森へと歩を進めている。

 赤毛の剣士に装飾品多めのローブの魔道女子、無骨で巨漢な大男と中々にバランスの良いパーティー構成だ。

「うちのギルドから出せる、最高峰の精鋭を集めここに来てもらった。多少、頼りなく見えるかもしれないが、よろしく頼むよミレイくん」

「エドガーさん、そりゃないぜ~」

「いえいえ、頼りにさせてもらうですよ~。シンくん!」

 ただ、ギルドマスターであるエドガーさんまでもが付いてきた事は、正直な所予想外である。それだけ本気である事を俺たちに見せつけたいのであろうが、ギルドを預かる長に何か問題が起きれば町民は更に困惑することになる訳で……これはかなり、責任重大だぞ。

「お、おう! 任せてくれよ!」

「……シン、鼻の下伸びてる」

 それにしても、男の多いパーティーってのはなんだかとても違和感がある。ほんの一週間前までバル兄がいたわけだけれど、俺の周りは基本女の子しかいなかったからな……いや、決して自慢してるわけじゃないぞ。事実そうだっただけで、俺が集めたくて集めたわけじゃないからな。

「いいね、若いっていうのは。これも、青春かな」

 シャーリー達の事はともかくとして、ミレイの笑顔が罪作りだったり、エドガーさんの歳が気になったりと、飽きないパーティーであるのは確かだよ。

 問題点を上げるとすれば、それは俺が蚊帳の外である事ぐらいかな。向こうの世界じゃ基本ボッチだったし、その再来と思えば大したことは無いのだけれど、意思疎通が全く出来ないのはそれはそれで困る。

 ミレイがいるからまだしも、シンジの時を思い出すとゾッとしてきたり、なんだかんだで俺は一人でいることが苦手なんだろうな。

 群れるのは嫌いなのに、一人ぼっちは寂しいとか、面倒くさい男だよ、ほんと。

「もう、エドガーさんまで! 遊びじゃないんですよ!」

 そして、どこにでも一人ぐらい真面目キャラはいる定めなのか、ラナはかなりの苦労性らしい。異性相手とはいえ、似たような境遇に同情するよ。

「まぁまぁ、怒ったところで何が変わるわけでもないですし」

「誰のせいだと思ってるのよ、誰の!」

 ミレイはミレイで無意識に油を注いでいくし、俺は混ざらないほうが良さそうだな。混ざろうとしたところで、聞こえるのはミレイだけだし。

「トールさんも、何か言ってあげてくださいよ!」

 そんな、逃げの姿勢をとっていたのが不味かったのか、ミレイに気づかれた俺は四人の前で話すよう催促をされてしまう。

(いや、そう言われてもな……それに、たぶん聞こえてないと思うぞ俺の声)

 もしかしたら、誰かの耳に届くのではないかと、淡い期待を胸に少し声を張り上げてみたものの、四人の表情に変化はない。

「ミレイさん、いったい誰に話しかけてるの?」

 ラナかエドガーさんに期待を寄せていたのだが、これが普通の反応だよな。

「トールさんですよ、トールさん! この剣さんです!」

「……ごめん。あなたが記憶喪失だとは聞いていたけど、そこまで重症だったとはね。大丈夫、私が友だちになってあげるから。だから、そんな殻に閉じこまらないで」

 しかも、記憶喪失の弊害で擬似人格の友達を作り出したと勘違いされたらしく、泣きながらラナにミレイは両肩を掴まれる。

「い、いえ、ほんとうに――」

「ミレイさん!」

 頑なに認めようとしないミレイに余程同情したのか、ラナは彼女を強く抱きしめ泣き出してしまった。

 そんな彼女に困った表情を浮かべるミレイであったが、やはりこれが現実なのである。

(ミレイ、俺の声が聞こえる人間は、世の中に極少数しかいないんだよ。だから、黙っておいてくれないか?)

「トールさん……そんな……」

「大丈夫、大丈夫よミレイさん。私が側にいるからね」

 全く違う方向性により、互いに泣き出す二人の少女達。この状況、どうやって片付けるべきだろう……

「ふむ、精霊の宿る武器や防具が各地に点在しているという噂は聞いたことがあるが、その剣にも精霊が宿っているのかね?」

「精霊さんかはわからないですけど、聖剣さんだとは言ってましたよ?」

「聖剣か……ミレイくんには、彼の声が聞こえるのかね?」

「はい! トールさんも、聞こえる人は少ないって言ってたですよ……」

「なるほど。まさか、生きてる間に本物に出会えるとは、人生何が起こるかわからないな」

 俺という存在がイレギュラーである事は理解していたものの、これほどの波紋を投げかけるのかと実感すると心が重い。今までの俺の環境が、いかに優遇されていたのかを嫌というほど実感させられる。

 俺の居場所はやはり、あそこにしか無いのだろうな……

「まぁまぁ、良いじゃねぇか! その剣も、俺たちの仲間って事だろ?」

「……うむ、そうだな」

「シンくん、ダムドくん」

 けれど、後ろで聞いていた男子二人はとても寛大で、素直に俺の事を受け入れてくれる。どこまで信じているかは定かではないけれど、彼らの言葉に心の奥まで救われたような気がした。

 ミレイも感動してるようだし、こういうのも悪くないかもな。
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