俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第十章 記憶を無くした少女

第460話 氷の武闘

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「それでは、あの打ち込み台に向かって、ミレイさんの魔法を撃ち込んでみてください」

 ギルドの奥へと案内されたミレイと俺は、練習用の器具が並ぶ広い空間で足を止める。受付のお姉さんが並べてくれたカカシのようなものが魔力を測定するための器具のようで、そこに攻撃して欲しいと彼女は頼まれた。

 ミレイを囲むように三つの打ち込み台が置かれているのは、範囲魔法などを想定しての事なのかも。

「わかりました!……手加減は、した方が良いですかね?」

「この打ち込み台には魔力障壁が貼られていますので、ミレイさんのお好きな力加減で大丈夫ですよ」

「なるほど。では、少し手加減をいたしまして」

 よほど自信があるのか、受付嬢さんに確認をしたのちミレイは左手を掲げると、手のひらの内に青い魔力を練り上げ始める。そして、なんと彼女は無詠唱で氷の刃を放出したのだ。

「今の……無詠唱って!?」

「ふん!」

 鋭く尖った氷刃が、打ち込み台の一つに突き刺さると同時に揺れ、受付嬢さんが驚くと同時に左手を横に動かしながらミレイは七本の氷槍を同時に正面へと撃ち出す。その全てが各々の打ち込み台に吸い込まれると、うち二つが唸りを上げ後方へと倒れ込んだ。

「あ……壊しちゃいましたかね? えっと……」

「は!? だ、大丈夫です!」

 壊れることなど想定していなかったミレイが、引きつった笑みを浮かべながら受付嬢さんに問いかけると、彼女は慌てて飛び上がりながら物置小屋の方へと走っていく。

「ミレイさん、魔導人形を出しますので、なるべく本気で戦っていただけませんか!」

「魔導、人形です?」

「はい! 怪我はしないよう調整してありますので」

「わ、わかりましたですよ」

 無詠唱魔法の使い手は、クルス姉の言っていたようにやはりまれのようで、ミレイがどこまで出来るのか受付嬢さんも本心から興味を持ったのだろう。自立型の魔導人形を四体並べると、一つ一つ魔力を込めて全ての人形を同時に動かす。

 一回り大きな無表情のからくり達に囲まれて、流石のミレイも緊張の色を示すと一つ大きく息を呑んだ。

(大丈夫か、ミレイ?)

「はい。トールさんにいいところ見せるですよ」

 俺が声をかけたことで彼女の気持ちは安らぎ、俺を地面へと突き刺すとミレイは体を半歩引いて拳法の構えを取る。それはカーラの使う武術のようにも見えたが、腕の角度や手のひらの構えが細かく違っており、どちらかと言えば八極拳の構えに近い。

「まずは正面、風穴を開けるです!」

 みるみる高まる闘気と共に彼女の体が前進すると、ミレイは左肘を突き出し目の前の魔導人形をいとも容易く吹き飛ばす。

 その瞬間、まるで隙を突くかのように残りの三体の人形がミレイに襲いかかるも、彼女は体を捻りながら手のひらに纏わせた氷撃を使い、右の人形を吹き飛ばしながら瞬時に戦線を離脱した。

 ミレイの動きに戸惑う人形達が正常な思考を取り戻す時間を与えず、彼女は振り返ると同時に再び距離を詰め、今度は氷を纏わせた二段蹴りを左の人形に叩き込んだ。

「これで、終わりです! アイスサンクチュアリ!」

 最後は体を百八十度捻らせながら空中で両手を突き出すと、複数本の氷の刃が地面から飛び出し魔導人形を貫いてそのまま全てが動かなくなる。

「あ……壊れてますよね。これ」 

 四体の魔導人形を軽々と撃破し、火花を散らす傀儡達にミレイは再び顔を歪める。彼女なりに手加減はしているのだろうが、これがミレイの実力なのだろう。記憶喪失の彼女ではあるが、一般の冒険者相手なら傷一つ負う事なく勝利することも可能なはず。むしろ、束になってかかったとしても、何もさせて貰えないのでは無いだろうか……

「す、凄いですよミレイさん! これならAランク、いえ、Sランクも夢じゃないです!」

 それぐらいの見立てを俺がしているのだから、受付嬢さんが声を張り上げるのも頷けるというもの。むしろ、SSランクはくだらないのではないだろうか……って、正確なギルドのランク付けとか全くもって知らないんだけどな。それに、ちょっと威張りすぎな気もするな今の俺。

「そ、そうなんですかね~? いやー、照れますですよ」

「それでは、ギルドカードの手配を致しますので、しばらく中でお待ち下さい! ここを片付けたらすぐに行きますので!」

 ミレイに詰め寄った受付嬢さんは、すぐに踵を返すと、壊れた魔導人形を拾い集め倉庫の中へと戻し始める。あまりの興奮に何度か足をもつれさせているけど、大丈夫かなあの人……

「私の活躍、どうでしたかトールさん!」

(あぁ、想像以上だったよ。でもさ、今のって本気じゃないよな?)

「はい。たぶんですけど、全力だしたら壊れちゃうですよこの建物。それに、今のが全力じゃないってわかるなんて、やっぱりトールさんは凄いです。尊敬しちゃいます!」

(……まぁ、それなりに修羅場は超えてきたからな)

 それにしても、氷の魔法か……朝美も氷が得意だったけど、ミレイの戦闘スタイルは彼女とは全く別のものだ。ミレイが拳に頼るカーラタイプの武道家とすると、朝美は二本の氷剣をベースにした剣士タイプ。好む大技も違うようだし、やはり二人は別人なのだろうな。

「ではでは、一休みするですよ。トールさんも一緒に休憩するです~」

 ミレイを心配する俺の中に、彼女の力があればと渇望する卑しい自分が膨れ上がる。シャーリー達を助け出すためにゼパルをどうするべきなのか、その岐路に俺は立たされようとしていた。
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