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第十章 記憶を無くした少女
第459話 ミレイの実力
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「さーて、今日も一日がんばるですよ~!」
日の光差し込む窓を全開にし、大声を上げながら伸びをするミレイの姿に微笑ましいものを俺は覚える。長期滞在を見越して二週間程の宿代を前払いで支払ってはいるものの、その期間もそう長くはなく数日の内にゼパルとの決着をつけなければならない。
シャーリーを取り戻すためにゼパルと決着をつけるのか、それとも、ミレイと一緒にどこか遠くへと逃げてしまうべきか……
「トールさん! どこから調べましょうか! もう一度ギルドに寄って、詳細な情報を手に入れるのも有りかと思いますけども」
それにしても、元気が有り余っているためかミレイは両手を振り回しながら俺に声をかけてくる。いかなる時にも笑顔を絶やさない女の子というのは、とても微笑ましい光景ではあるのだが、寝起きにこれはうるさすぎて正直耳に堪えた。
とは言え、ミレイのやる気に水を指すわけにもいかず何から手を付けるべきかと考えていると、ある一言を俺は思い出す。
(なぁ、ミレイ。拳法と魔法が使えるって、昨日言ってたよな?)
「はい! 私もよくわからないですけど、体が覚えてたですよ!」
昨夜聞いたミレイの特技、どんな魔法と拳法が使えるのか俺は確かめてみたくなっていたのだ。
(もし良かったら、どれだけ戦えるか見せて欲しいんだけど)
「なるほど! 私の強さがわかれば、トールさんも安心すると! 了解です!」
(……お前さぁ、やけに元気がいいよな)
「トールさんと一緒に寝てたら、とても調子が良くなったですよ。やっぱりトールさんは、まごうことなき聖剣さんだったですね!」
彼女の理解は半分正解で、半分間違いでもあったのだが、概ねわかっているようなのでこのまま話を続けようと思う。それに、俺といたら元気になれるって言われるのは、悪い気しないしな。
「ではでは、どこでやりましょう! ……ここじゃ、まずいですよね?」
(そりゃ、当たり前だろうが。えっと、ゼパルの事を考えると、町の外はちょっと危険だよな。となると、巻き込む可能性は高くなるけど、ギルドの修練場でも使わせてもらおうか)
今まで一度も使ったことは無かったが、各ギルドの裏手には戦闘力を試す修練場が併設されており、冒険者の技能アップに活用されたりもしている。故に、シャーリーや朝美にも使う権利はあったのだが、目立ちすぎる訳にもいかないからな。
何せシャーリーが本気を出すと町一つ吹き飛びかねないし……まぁ、そんな事はしないと思うけど。
「再度情報収集も出来ますし、いい案だと私も思いますです!」
(それじゃあ、一階で朝食食べたら、早速ギルドに行ってみるか)
「はい、ですよ!」
部屋を飛び出し、鼻歌交じりに階段を下りたミレイは、まばらに並ぶテーブルの一つに座ると野菜の詰まったサンドイッチを注文する。それに勢いよくかぶりつくと、数秒で胃の中へと押し込み彼女は宿を後にした。
調子が良いとは言え、食べ物を一気に詰め込むのは体に良くないと思うんだけどな。
「トールさんと一緒、トールさんと一緒、なんだか、嬉しいです~」
けど、ここまで素直にはしゃがれると、俺からは何も言えない。だって、女の子は笑顔でいるのが一番だと俺は思うから。
「昨日と変わらず大盛況ですねぇ」
(盛況、ってのとはちょっと違うと思うけどな)
ギルドに詰めかける人の数は昨日と変わらず、そこかしこで泣き声と罵声が飛び交い続けている。あいも変わらずゼパルは人さらいを続けているようで、ミレイの件も踏まえると増々エスカレートしている可能性すら感じられた。
俺達のせいでは無いにせよ、地面に這いつくばり嘆き悲しむ人達の姿を見ていると、同じ男として心苦しいものを覚え心に火が灯る。とは言え、俺一人では何も出来ないのが現実であり、黙って見ている事しかできないのだ。
「冒険者さん用の窓口は……あそこの、端っこですね」
とにかく、今はまずやれることから始めようとミレイの言葉に耳を傾ける。
「ミレイさんは、ギルドカードをお持ちでしょうか?」
「ギルドカード? なんです、それ?」
しかし、ここであるアクシデントが俺達に降りかかるであった。何と、ミレイはギルドカードを所持していなかったのである! ……って、当たり前か。
そんな物を持っているのなら、本名とか色々まるっと全部まるわかりだもんな。個人情報のわかるものなど、記憶喪失の彼女が持っているはずがない。
「私、記憶喪失なのですよ。だから、何にもわからなくて」
「記憶喪失ですか、それは大変ですね。そうなると、色々と大変でしょう。大丈夫、こんな状況ですが簡単なお仕事の斡旋も出来ますから」
「はい! ありがとうございますです!」
ただ、嬉しい誤算もそこにはあって、彼女の話しかけた受付嬢さんはとても親切な人だったのであった。しかも美人! って、こんな事考えてるから皆に嫉妬されるんだよな。
「それでは、ミレイさんの実力を図らせてもらってもよろしいでしょうか? 適正がわかっていたほうが、斡旋もしやすいので」
「よろしくおねがいしますですよ!」
一波乱あったが、どうやら無事ミレイの実力を図れそうである。
日の光差し込む窓を全開にし、大声を上げながら伸びをするミレイの姿に微笑ましいものを俺は覚える。長期滞在を見越して二週間程の宿代を前払いで支払ってはいるものの、その期間もそう長くはなく数日の内にゼパルとの決着をつけなければならない。
シャーリーを取り戻すためにゼパルと決着をつけるのか、それとも、ミレイと一緒にどこか遠くへと逃げてしまうべきか……
「トールさん! どこから調べましょうか! もう一度ギルドに寄って、詳細な情報を手に入れるのも有りかと思いますけども」
それにしても、元気が有り余っているためかミレイは両手を振り回しながら俺に声をかけてくる。いかなる時にも笑顔を絶やさない女の子というのは、とても微笑ましい光景ではあるのだが、寝起きにこれはうるさすぎて正直耳に堪えた。
とは言え、ミレイのやる気に水を指すわけにもいかず何から手を付けるべきかと考えていると、ある一言を俺は思い出す。
(なぁ、ミレイ。拳法と魔法が使えるって、昨日言ってたよな?)
「はい! 私もよくわからないですけど、体が覚えてたですよ!」
昨夜聞いたミレイの特技、どんな魔法と拳法が使えるのか俺は確かめてみたくなっていたのだ。
(もし良かったら、どれだけ戦えるか見せて欲しいんだけど)
「なるほど! 私の強さがわかれば、トールさんも安心すると! 了解です!」
(……お前さぁ、やけに元気がいいよな)
「トールさんと一緒に寝てたら、とても調子が良くなったですよ。やっぱりトールさんは、まごうことなき聖剣さんだったですね!」
彼女の理解は半分正解で、半分間違いでもあったのだが、概ねわかっているようなのでこのまま話を続けようと思う。それに、俺といたら元気になれるって言われるのは、悪い気しないしな。
「ではでは、どこでやりましょう! ……ここじゃ、まずいですよね?」
(そりゃ、当たり前だろうが。えっと、ゼパルの事を考えると、町の外はちょっと危険だよな。となると、巻き込む可能性は高くなるけど、ギルドの修練場でも使わせてもらおうか)
今まで一度も使ったことは無かったが、各ギルドの裏手には戦闘力を試す修練場が併設されており、冒険者の技能アップに活用されたりもしている。故に、シャーリーや朝美にも使う権利はあったのだが、目立ちすぎる訳にもいかないからな。
何せシャーリーが本気を出すと町一つ吹き飛びかねないし……まぁ、そんな事はしないと思うけど。
「再度情報収集も出来ますし、いい案だと私も思いますです!」
(それじゃあ、一階で朝食食べたら、早速ギルドに行ってみるか)
「はい、ですよ!」
部屋を飛び出し、鼻歌交じりに階段を下りたミレイは、まばらに並ぶテーブルの一つに座ると野菜の詰まったサンドイッチを注文する。それに勢いよくかぶりつくと、数秒で胃の中へと押し込み彼女は宿を後にした。
調子が良いとは言え、食べ物を一気に詰め込むのは体に良くないと思うんだけどな。
「トールさんと一緒、トールさんと一緒、なんだか、嬉しいです~」
けど、ここまで素直にはしゃがれると、俺からは何も言えない。だって、女の子は笑顔でいるのが一番だと俺は思うから。
「昨日と変わらず大盛況ですねぇ」
(盛況、ってのとはちょっと違うと思うけどな)
ギルドに詰めかける人の数は昨日と変わらず、そこかしこで泣き声と罵声が飛び交い続けている。あいも変わらずゼパルは人さらいを続けているようで、ミレイの件も踏まえると増々エスカレートしている可能性すら感じられた。
俺達のせいでは無いにせよ、地面に這いつくばり嘆き悲しむ人達の姿を見ていると、同じ男として心苦しいものを覚え心に火が灯る。とは言え、俺一人では何も出来ないのが現実であり、黙って見ている事しかできないのだ。
「冒険者さん用の窓口は……あそこの、端っこですね」
とにかく、今はまずやれることから始めようとミレイの言葉に耳を傾ける。
「ミレイさんは、ギルドカードをお持ちでしょうか?」
「ギルドカード? なんです、それ?」
しかし、ここであるアクシデントが俺達に降りかかるであった。何と、ミレイはギルドカードを所持していなかったのである! ……って、当たり前か。
そんな物を持っているのなら、本名とか色々まるっと全部まるわかりだもんな。個人情報のわかるものなど、記憶喪失の彼女が持っているはずがない。
「私、記憶喪失なのですよ。だから、何にもわからなくて」
「記憶喪失ですか、それは大変ですね。そうなると、色々と大変でしょう。大丈夫、こんな状況ですが簡単なお仕事の斡旋も出来ますから」
「はい! ありがとうございますです!」
ただ、嬉しい誤算もそこにはあって、彼女の話しかけた受付嬢さんはとても親切な人だったのであった。しかも美人! って、こんな事考えてるから皆に嫉妬されるんだよな。
「それでは、ミレイさんの実力を図らせてもらってもよろしいでしょうか? 適正がわかっていたほうが、斡旋もしやすいので」
「よろしくおねがいしますですよ!」
一波乱あったが、どうやら無事ミレイの実力を図れそうである。
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