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第十章 記憶を無くした少女
第454話 絶えない笑みの少女
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「ふむふむ、なるほど。お話を聞く限り、剣さんは女の子に囲まれてたみたいですねぇ。見た目の割に伊達男とは、相当な手練ですな」
気持ちよく俺を拾ってくれた金髪の女の子とリレメンテヘと戻る道すがら、今までの出来事を完結に説明すると、彼女は深く頷きながら意味深な笑みを浮かべ始める。
見た目の割に伊達男って確かに俺は剣だけど、彼女の口から聞くとなんだか違う意味に聞こえてくる。人間だった頃の俺を目の前の彼女は知っているような気がして、嬉しいような悲しいような複雑な気持ちに包まれた。
それに、俺が好んで女の子たちを集めているわけじゃなくて……まぁ、好色漢なんて言われるよりかはましか。そもそも、モテるモテナイなんて議論については、未だに俺が理解できていないんだからさ。
「そんなスケコマシさんがどんな方なのか、俄然興味が湧いてきましたですよ」
スケ……もう好きに言ってくれ。
「それで、お名前は何て言うですか?」
女性をかどわかす酷い男のレッテルを様々な方角から貼られていく俺であったが、自分が名乗っていなかったことに彼女の問で気付かされる。旧知の仲のように感じていたけれど、実際俺達は初対面なんだよな。
(名前か。トオル、明石徹だよ)
「とおる……トールさんですか。凄く強そうなお名前ですです」
親しき仲にも礼儀ありと俺が彼女に名前を伝えると、異世界人特有なのかやはりトールと勘違いされる。トール様の事は俺も好きだし、命を救ってもらったお礼もあるわけで文句のつけようは無いのだけれど、正しく発音されないのはちょっとだけ寂しかったりもする。とは言え、それで拗ねるほど子供でもないし、侮蔑的な愛称でも無ければ何と呼ばれても良いんだけどさ。
「それでは、トールさんを町に連れ込みましょう。お姉さんと二人で、楽しいことするですよ!」
それにしても、終始彼女は笑顔のままで俺の心は満たされていく。俺なんかを抱えているだけで一体何が楽しいのかはわからないけれど、幸せそうな表情を浮かべる女の子を見ているだけで同じぐらい幸せになれる。彼女との出会いが何を意味するのかはわからないけれど、少しでも彼女のためになれたらなと密かに俺は思うのだった。
「ここが、トールさんの言ってたリレメンテですか。なかなかに大きくて良い町です!」
(そうだな、田舎町にしては広いとこだよな。やっぱり、ヴァネッサさんのお墓が近くにあるからかな?)
「ヴァネッサさんって方は、有名な人なのです?」
(あぁ、一応この国の、初代女王様だった人だよ)
「なるほど、それなら納得です。どこの世界でも、有名人の住んでる場所は賑わうものですね……って、あれ? 世界ってどういう事でしょ?」
リレメンテの町は、首都リィンバースを除くと俺達が立ち寄った町の中でも一二を争う巨大な都市であり、金髪の彼女を驚かせる。
始祖の霊脈の影響もあってか全体的に魔物の数も少なく、魔神のはびこる状況下であってもかなりの活気が残っている。しかし、ゼパルの出現を考えると安全とも言えず、一度あいつが本気を出せばこの町も一瞬で崩壊してしまうことだろう。
「やーねー、あの男、また違う女の子を連れて歩いていたみたいよ。それも沢山」
「ほんと、どうなってるのかしらねー。けど、一度は私もさらわれてみたいわー。だって、イケメンなんでしょ?」
そして、幾分か前にアガレスはここを通り抜けたらしく、シャーリー達のことはみるみるうちに町の噂となっていた。
少女は気にしていないようだけれど、聞き込みさえできない俺は聞いているだけでも正直歯がゆい。しかし、俺を助けてくれた彼女を巻き込むわけにはいかないし、俺はこれからどうすればいいのだろう……
「ふっふふ~ん、男の子と二人で町を歩くのって、案外楽しいですー」
(男の子って……)
「違うです? もしかしてトールさん、女の子ですか!?」
(いや、男だけど……)
「そうですか。それなら、良かったです」
そんな絶望的な状況の俺とは違い、俺といる今この瞬間を目の前の少女は楽しんでくれている。さらわれた皆の事を忘れることなんて出来ないけれど、肩の力を抜く事も大切なことで、彼女はそれを俺に教えようとしてくれているのかも。
「それで、トールさん達は結局、何をしてたです? ぶらり、女人と巡る秘境の旅ですかね?」
(さっきも言っただろ? 危険な魔物を倒して回ってたんだ)
「それは聞いてますけど、どうしてそんな危険な事をしているのかと思いまして」
お気楽の塊のように終始笑顔で俺に接してくれている彼女だけれど、陽気なだけではなく鋭い洞察力も持ち合わせているようで、あえてはぐらかしていた話に堂々と踏み込んでくる。
危険な旅を続けている俺としては、これ以上その戦いに無関係な女の子を巻き込みたくないのだけれど、どうにもみんなお節介好きのようでこうして首を突っ込みたがる。
ゼパルともし出会ってしまったら彼女もまた意識を乗っ取られてしまうかもしれないし、ここはどうにかして……嫌われるしかないのか?
気持ちよく俺を拾ってくれた金髪の女の子とリレメンテヘと戻る道すがら、今までの出来事を完結に説明すると、彼女は深く頷きながら意味深な笑みを浮かべ始める。
見た目の割に伊達男って確かに俺は剣だけど、彼女の口から聞くとなんだか違う意味に聞こえてくる。人間だった頃の俺を目の前の彼女は知っているような気がして、嬉しいような悲しいような複雑な気持ちに包まれた。
それに、俺が好んで女の子たちを集めているわけじゃなくて……まぁ、好色漢なんて言われるよりかはましか。そもそも、モテるモテナイなんて議論については、未だに俺が理解できていないんだからさ。
「そんなスケコマシさんがどんな方なのか、俄然興味が湧いてきましたですよ」
スケ……もう好きに言ってくれ。
「それで、お名前は何て言うですか?」
女性をかどわかす酷い男のレッテルを様々な方角から貼られていく俺であったが、自分が名乗っていなかったことに彼女の問で気付かされる。旧知の仲のように感じていたけれど、実際俺達は初対面なんだよな。
(名前か。トオル、明石徹だよ)
「とおる……トールさんですか。凄く強そうなお名前ですです」
親しき仲にも礼儀ありと俺が彼女に名前を伝えると、異世界人特有なのかやはりトールと勘違いされる。トール様の事は俺も好きだし、命を救ってもらったお礼もあるわけで文句のつけようは無いのだけれど、正しく発音されないのはちょっとだけ寂しかったりもする。とは言え、それで拗ねるほど子供でもないし、侮蔑的な愛称でも無ければ何と呼ばれても良いんだけどさ。
「それでは、トールさんを町に連れ込みましょう。お姉さんと二人で、楽しいことするですよ!」
それにしても、終始彼女は笑顔のままで俺の心は満たされていく。俺なんかを抱えているだけで一体何が楽しいのかはわからないけれど、幸せそうな表情を浮かべる女の子を見ているだけで同じぐらい幸せになれる。彼女との出会いが何を意味するのかはわからないけれど、少しでも彼女のためになれたらなと密かに俺は思うのだった。
「ここが、トールさんの言ってたリレメンテですか。なかなかに大きくて良い町です!」
(そうだな、田舎町にしては広いとこだよな。やっぱり、ヴァネッサさんのお墓が近くにあるからかな?)
「ヴァネッサさんって方は、有名な人なのです?」
(あぁ、一応この国の、初代女王様だった人だよ)
「なるほど、それなら納得です。どこの世界でも、有名人の住んでる場所は賑わうものですね……って、あれ? 世界ってどういう事でしょ?」
リレメンテの町は、首都リィンバースを除くと俺達が立ち寄った町の中でも一二を争う巨大な都市であり、金髪の彼女を驚かせる。
始祖の霊脈の影響もあってか全体的に魔物の数も少なく、魔神のはびこる状況下であってもかなりの活気が残っている。しかし、ゼパルの出現を考えると安全とも言えず、一度あいつが本気を出せばこの町も一瞬で崩壊してしまうことだろう。
「やーねー、あの男、また違う女の子を連れて歩いていたみたいよ。それも沢山」
「ほんと、どうなってるのかしらねー。けど、一度は私もさらわれてみたいわー。だって、イケメンなんでしょ?」
そして、幾分か前にアガレスはここを通り抜けたらしく、シャーリー達のことはみるみるうちに町の噂となっていた。
少女は気にしていないようだけれど、聞き込みさえできない俺は聞いているだけでも正直歯がゆい。しかし、俺を助けてくれた彼女を巻き込むわけにはいかないし、俺はこれからどうすればいいのだろう……
「ふっふふ~ん、男の子と二人で町を歩くのって、案外楽しいですー」
(男の子って……)
「違うです? もしかしてトールさん、女の子ですか!?」
(いや、男だけど……)
「そうですか。それなら、良かったです」
そんな絶望的な状況の俺とは違い、俺といる今この瞬間を目の前の少女は楽しんでくれている。さらわれた皆の事を忘れることなんて出来ないけれど、肩の力を抜く事も大切なことで、彼女はそれを俺に教えようとしてくれているのかも。
「それで、トールさん達は結局、何をしてたです? ぶらり、女人と巡る秘境の旅ですかね?」
(さっきも言っただろ? 危険な魔物を倒して回ってたんだ)
「それは聞いてますけど、どうしてそんな危険な事をしているのかと思いまして」
お気楽の塊のように終始笑顔で俺に接してくれている彼女だけれど、陽気なだけではなく鋭い洞察力も持ち合わせているようで、あえてはぐらかしていた話に堂々と踏み込んでくる。
危険な旅を続けている俺としては、これ以上その戦いに無関係な女の子を巻き込みたくないのだけれど、どうにもみんなお節介好きのようでこうして首を突っ込みたがる。
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