俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第十章 記憶を無くした少女

第451話 あの娘の面影

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(ごめん、ごめんってばシャーリー、カーラも許してくれって。ほ、ほら、朝美も、そんなに怒るな……って……ごめん。何言ってんだろうな俺)

 慌てふためいた結果なのか、あまりに自然に口をついた少女の名前に乾いた笑いが止まらなくなる。天道朝美なんて名前の娘はもうどこにもいないのに、何でこんなにも俺の心を縛り続けるのだろう。

 俺にはとてももったいない、天真爛漫なみんなのアイドル。声に雑誌にライブと、一部のメディアを総なめにしたあいつの事を、結局俺はどう思っていたんだろう。その答えはきっと、一生かけても出ない気がする。

 シャーリー以上に自然でまるで空気のように居た彼女の事を、形容する言葉なんてきっと見つからないだろうから。

「トオル……私が側にいる、絶対に側にいる。あなたのこと絶対に放さないから、だから……」

 あいつの顔を思い浮かべるたびに感じる、締め付けられるような衝動。痛みと共に沈み込む俺の姿を見たシャーリーが刀身を深く抱きしめると、その優しさに包まれて心の中は安らぎを覚えていた。

「お兄ちゃんって意外と甘え上手だよね。そうやってすーぐ、お姉さまに心配させるし」

(め、メイ!? 別にこれは、そういう訳ではなく――)

「そんなに照れなくていいよー、ぼくもお姉さまも満更じゃないし。ね、お姉さま」

「えぇ、トオルはもっと、私に甘えていいんだから」

 バル兄を失ってからのこの数日張り詰めた空気が続いていたけど、やっぱりこの瞬間が凄く落ち着く。もちろん、こういう状況になりたいがためにわざと困らせているわけではないけど、二人が喜んでくれるのならそれでいいか。

「トオル様は実は、ずる賢いお方と……」

(えっと、クルス姉? 何をメモしているのかな?)

「いえ、今までのトオル様の行動も全て計算ずくだったのではと考えると……か、体の震えが、とま、とまりゃにゃく!」

 そんなメイの発言を聞いて一体何を考えたのか、うぇへ、うぇへと、クルス姉はドMの痴態を久々にさらけ出していく。嬉しそうに発情する彼女を見ながらいつも思うけど、俺にいじめられる事の何がクルス姉は楽しいのやら。

(うふふ~、トオル君も、中々の策士ね~)

「ほんと、トオルといると飽きないと言うか、ペースを乱されるのよね。いい意味で」

「トオル、おにい、甘えんぼ?」

「はい。パパは甘えんぼさんです」

(お、お前らなぁ)

 しかも、ヴァネッサさんを筆頭にアイリやリースにまでいじられ始め、これだけ好き勝手に言われると結構堪える。ただ、こういう状況も悪くないと思ってしまうぐらいには、俺の脳内もクルス姉と同じなのかもしれない。

「おにぃ、良い子、良い子」

「パパ、イイコイイコですよ」

 とは言え、義理の娘と年下に慰められながら撫で撫でされ続けるとか、回りの一般人にはわからないとは言え、いくらなんでも恥ずかしくて死にそうだった。

「おや、このような場所にきれいなお嬢様方が、珍しいですね」

 総勢六名の女性客ともあり、店に入った時も大概男たちから好機の視線を集めたものだが、皆が俺の周囲に集まり再び目を釘付けにし始めた頃、俺達の前へと現れたのは翠眼茶髪のイケメン。この店では珍しい風貌に俺は両目を見開くが、皆は何かを探るように男の事を睨みつける。いきなり声をかけられて俺もびっくりしたが、目くじらを立てる程の事だろうか? 

「私の名前はシュバルツ、しがない冒険者です」

「それで、その冒険者が私達に何の用な訳?」

 その中でもとりわけ不機嫌だったのは、未だに肉を頬張り続けるカーラ。やはり何かしらの嫌な思い出があるらしく、男に向ける視線に容赦がない。一途な男を演じていないと、俺もこっぴどく叱られそうだ……って、ハーレム作ってる時点で一途も何も無いのだが。

 まぁ、俺を愛してくれている皆に対して一途ということで。

「いえ、皆様があまりに美しいものですから、ここは少々危険だとお伝えしたく思いましてね」

「ご忠告どうも。ただね、こういう場所にいる以上、あんたも同類なのよ。わかる?」

 声をかけてきた男に下心があるのは俺にもわかるが、あまりに邪険な彼女の扱いに心が痛む。カーラの正論も理解は出来るのだが、俺がこんな扱いを受けたら立ち直れない自信があった。

「こちらの料理は大変美味しくありますが、経営の都合上そう思われても仕方がありません。今日のところは引き下がるといたしましょう」

「お生憎様、あんたみたいのがいるなら、二度と来ないわよ」

 結局最後まで肉を頬張り続けたカーラであったが、テーブルに手を付け不機嫌に席を立つと、肩を怒らせながら一人酒場を後にする。皆も静かに食事を続けているが、俺の刀身を挟むリースの両足には強い力が込められていた。

 俺みたいのを好きになるぐらいだし、気取った雰囲気を醸し出す男は嫌いなのかも。

「それでは、私も失礼させていただきます。ごきげんよう」

 そんな彼女達の態度に脈無しと感じ取ったのか、さり気なく一礼すると男も店を後にする。世の中やっぱり変なやつが多いなと思いながらも、リースの良い匂いに俺は目眩を覚えるのであった。
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