俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第九章 己の使命

第446話 全てを賭して

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(もう、仕方ないわね。それじゃ今回は、シャーロットちゃん自身に力を貸してあげる。ほら、受け取りなさい)

 大切な人を守るために自暴自棄になりかけるシャーリーを見て、呆れ果てたヴァネッサさんが彼女のために力を与える。光り輝く剣が球体の形を取りシャーリーの体へ吸い込まれると、白い光とともに彼女の鎧も輝き始めた。

 黄金に煌めくその姿は、ロボットアニメの最終形態のようで、これって所謂スーパーモードってやつなのでは? 俺の刀身にも力が溢れてくるし、これなら奴にも勝てそうな気がする! 

(今の私だと、シャーロットちゃんに分け与えられる力はほんの少し。それも限定的で、時間も五分と言ったところかしら)

「それで十分! ラインバッハ、覚悟は出来てるわよね?」

「ホッホッホッ、不完全な姫様達の力で、どこまでやれますかな?」

「それは、止めてみせてから言って欲しいわね!!」

 黄金の翼を四方に広げ、恐るべき速度で突き進む姫騎士は、高速で俺を振り上げると魔神めがけて振り下ろす。自転車と新幹線程も違う今の彼女のスピードにラインバッハも度肝を抜かれ、俺の刀身を筋肉質の胸部にかすめさせる。すると、傷口から光が溢れ出し筋肉魔神の体が後方へと吹き飛ばされた。

 まるで、時限爆弾でも仕掛けられたかのような奴の動きと反応に、何が起きているのかとラインバッハ本人も驚いているようだが、俺自身何が起きているのか全くわからない。

 これがヴァネッサさんの力、それも、ほんの一端なのだとしたら、彼女と一つに合わさった時、俺はどうなってしまうのだろう……

「これ、は……むぅ、やりますなぁ姫様。これが、ブレイズブルーの力というものですか」

「そうらしいわね。面白いじゃない、ヴァネッサ様」

(うふふ~、喜んでもらえて嬉しいわ~)

 そんな恐怖を感じながらも、今まで手も足も出なかった魔神に対抗できているのも確かであり、この瞬間こそが千載一遇の好機。今は彼女を、ヴァネッサさんを信じて、ラインバッハを倒さなければ。

「それでは爺も、全身全霊を賭して戦うとしますかの!」

 リィンバースの神とも呼べる初代女王、ヴァネッサさんの力を借りて逆転を果たした俺たち。しかし、その力を持ってしてもラインバッハは引き下がらず、両の拳に力を込めると奴の全身が真っ赤に輝きを放ち始める。あれが奴の、ラインバッハが内に秘める力の全力。

 俺達の世界で有名だった、大冒険格闘マンガを引き合いに出せばこちらの方が有利なのだろうけど、アレと同じとは到底思えない。時間も残り三分とちょっとと、相手の力量を見極めている暇もないし、後はもうシャーリーを信じるしか無いのだ。

「……大丈夫よ、トオル。私は絶対に、負けないから」

(シャーリー……)

「ヴァネッサ様も、トオルのためなら文句はないですわよね?」

(そうね~、トオルくんのためなら、私ももっと頑張っちゃおうかしら~)

 お互いに切り札を切り合い、状況の読めなくなった俺を心配してか力強くシャーリーが声をかけてくれる。

 俺を介してなら二人の息もバッチリだし、俺も全てをこの刃に注ぐ! そして、この国の平和を取り戻すんだ!! 

「では、いきますぞ、姫様!」

 ラインバッハが足を運び地面の土を踏み込むと、奴の体が瞬時に消えて俺達の眼前に現れる。伸びる拳の一撃を引きつけるようにシャーリーが回避すると、目にも留まらぬ攻防が魔物の集まる神聖なる地で繰り広げられ始めた。

「楽しい、楽しいですぞ姫様! 全力の私と戦えるとは、爺は、爺は、嬉しゅうございます!」

「みんなの力を借りてって言うのが癪でしょうけど、文句はないわよね!」

「もちろんにございますぞ!」

 鋼の肉体との鍔迫り合いを繰り返す中、親心というべきなのか自らと同等以上に戦う姫の姿に喜びを覚え、歓喜の雄叫びを上げるラインバッハ。

 今の俺達で互角と考えると、彼らの強さは想像以上であり、ジョナサンに負けたのも頷ける。メイと俺達三人でも、もしかしたら勝てなかったのかも……なんて、悩んでいる場合じゃない。

 偶然とは言え、今の俺達にはヴァネッサさんという強い味方が付いているのだ。俺達四人に、負ける道理はない! 

「ですが、勝つのは私ですぞ!」

 拳と剣がぶつかり合い、ラインバッハの体勢を突き崩した瞬間、奴の足元から現れた大きなアギトがシャーリー目掛けて牙をむく。寸田の所で回避こそしたが、奴は巨大なワニの化け物を召喚しそいつに攻撃させたらしい。

 ワニと言えばアガレスが使役すると言われる動物の一種だが、魔神の特性に召喚術を組み合わせるだなんて、正直もう何でもありだな。

「これをお避けになるとは、いやはや、姫様は本当に立派になられた」

「爺は本当に、落ちるところまで落ちたわね」

「我々が行っているのは戦争。これは、騎士同士の戦いではありませぬぞ姫様」

「……そうね、甘さは捨てろって言うことよね」

 ワニに乗り、鷹を左手に装着し、背中にはニワトリのような翼を生やしたラインバッハは、アガレスとしての装備を身につけ俺達の前に立ちはだかる。ヴァネッサさんの言葉が正しければ、こちらの時間は残り一分、これで勝負をつけようと言うわけか。

 お互いの闘気が高まり、時間が止まったかのような錯覚を覚えること数瞬、ワニの口が大きく開くと強大な魔力の波動がシャーリーめがけ放たれる。その一撃を紙一重で避けた彼女は、鷹を纏った左手をラインバッハが構えるのも待たずに奴の横をすり抜けると、円を描くように疾走する。

 彼女の動きは音速を超え、目まぐるしく変わる視界の波に意識が朦朧とするも、俺は必死にシャーリーの魔力へとしがみつく。

 縦横無尽に振り回される俺ですら耐えきれないシャーリーの今の速度、その中心にいるだけで圧倒的な風圧の力にラインバッハの体が切り刻まれていく。

「むぅ、こ、これは!?」

 魔神の力ですら抗えない凄まじい暴風に、為す術もなく圧縮されラインバッハの体は少しずつねじ切られながら魔力も離散を始める。

「見せてあげる。これが私の、私たちの必殺技!!」

 舌を噛むのではないかと心配になるぐらい、はっきりと声を荒げさせたシャーリーは、徐々に魔神の懐へと近づいていく。

「自幻流奥義、十の太刀三節、舞い踊る斬撃の嵐シュトゥルム・ウント・タンツェ!!」

 戦場の真っ只中を舞い踊る戦姫は、自らが起こした嵐の中で十の斬撃を繰り出すと、ラインバッハの体を細切れに切り刻み勝負を決める。

「おみ……ごと……です……ひめ……さま」

 彼女の祖父代わりであり、俺達を苦しめ続けた筋肉魔神の爺さんは、そんな言葉を残しながら塵となって消えていった。
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