俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第九章 己の使命

第442話 二度目の再会

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「トオル」

(ただいま。で、いいのかな?)

「バカ」

 身動きの取れない体に戻り、初めて出会った彼女の顔は複雑な表情をしている。

 本音を言えば彼女だって俺がこの姿に戻ることを拒絶していた訳だし、当然と言えば当然か。けど、彼女達の後ろで何も出来ずに怯えているだけなんて事、俺には出来ない。

 いきなり罵声を浴びせかけられてしまったけど、出来ることがあるならば、どんな形であろうと前に進むのが明石徹という人間なのである。

「それで、調子はどうなのよトオル?」

 そんな中、普段どおりに接してくれるカーラの優しさに込み上げてくるものを感じたが、こいつの場合これしか出来ないのだろうと考えると可愛かったりもする。

(そうだな、バルカイトのために急ぎたいところだけど、シャーリー、少し試してくれないか?)

 遺跡を守るため懸命に戦ってくれているバルカイトとフィルのために、今すぐここを飛び出したい気持ちに駆られるが、調整や試運転もとても大切なこと。この前のように不備があって、またもや皆に迷惑をかけるようでは、彼氏として最低すぎる。

「うん、わかったわ」

 皆が見守る中、優しくほほえみながら近づいてきたシャーリーが俺を握ると、地面から力強く引き抜く。そして、二歩後ろへと下がると、彼女は全力で俺の体を振り回した。

 まるで何かを断ち切るようないつも以上の彼女の気迫に、俺すらも気圧され皆も驚きの表情を浮かべる。特に顕著だったのがリースで、怯えたような表情をシャーリーに見せたのは、初めてのことなのではないだろうか。

 俺との思い出や苛立ち、そしてこれからを彼女は体に刻みつけているように感じた。

「……トオル、ディアインハイト」

(あぁ)

 一通り俺を振り回し馴染んだことを確認すると、彼女は地面へと俺を突き立てディアインハイトの詠唱を始める。青白い光に包まれて二人の意識が一つになると、シャーリーの体は大人のものへと変化していた。

(大丈夫、みたいだな)

「うん。この感じ、ぼく、好きだな」

「えぇ、そうね。メイと私とトオル、三人が一番近くにいられる瞬間ですものね」

 精神的な繋がりは、俺達三人を強く結び一時の安らぎと強さを与えてくれる。メイを含めた二度目のディアインハイトはとても心地よく、彼女の心を満たしながら俺にも幸せを分け与えてくれた。それはまるで、男女が繋がるような……って、こんな時に変な想像をしない! 

「……トオル」

 当然、エッチなことを考えた結果シャーリーに白い目で見られてしまうのだが、こういう時の精神リンクってやっぱりちょっとしんどい。

(それで~、私のことは、無視なのかしら?)

 そして、何故かここでヴァネッサさんが俺達の会話に混ざり込もうとしてくる。久しぶりのお客様とか言ってたし、もしかしてちょっと寂しかったりしているのだろうか?

(そうよね~、同じ血脈の人間って言っても、私は四百年も前のおばあちゃんですものね)

(……あのー、もしかしてヴァネッサさん、俺達と一緒に行きたかったりします?)

(三百年以上も一人で過ごした人間の気持ち、トオルくんにはわかるかしら~?)

 俺の目には一応笑顔に映っているけど、内心燃えてるヴァネッサさんが凄く怖い。このまま彼女を置いていけば、次は本当に一生誰にも会えないかも知れないし、そう考えると可哀想な印象も受ける。ここに俺が幽閉されたら、いくら一人が好きと言っても流石に耐えられないだろう。

(シャーリー?)

「……連れていけば良いんですね、ヴァネッサ様」

 そんな思いを乗せて彼女に言葉を送ると、シャーリーはため息を吐きながらもヴァネッサさんの柄を握る。

(あらあら~、連れて行ってくれるの~、嬉しいわ~)

「……ねぇ、トオル。この人、置いていったほうが良いと思わない?」

(あらあら~、冷たいわ~)

 しかし、ヴァネッサさんのおとぼけっぷりが気に入らなかったらしく、彼女は柄を握ったまま抜くことを戸惑っていた。

(えっと、ヴァネッサさんはその、俺達について来たいって事で良いんですよね? できれば、簡潔な回答でお願いします)

(も~、トオルくんの意地悪。けどー、お姉さん、それぐらいはっきり言える子の方が好きよ~)

 このままでは支障が出ると語気を強めて声をかけるも、やっぱり彼女はマイペースに場をかき乱してくれる。悪いけど、本当に時間が無いって事わかってるのかなこの人は……

(で、どうなんですか? ヴァネッサさん)

(もちろんよ~。私、あなたのこと、気になってるもの~)

「……気になってる?」

 とは言え、真面目に答えれば答えるなりに彼女は地雷をばら撒いてきて、俺の事を困らせてくる。まるで朝美のようで……等と考えている暇も無くシャーリーに睨みつけられて、俺に向かって聞かれても俺の方が困るんですが。

(えぇ、トオルくんの体の大半は、私の映し身みたいなものじゃない? でも~、色々と違う部分もあって、お姉さん心配なのよ~。それに~、私が近くにいれば~、トオルくんに何かあっても、すぐ見てあげられると思うんだけどな~)

「そうね、それは確かに魅力的な提案ね。ただし、トオルに何かあったら、ご先祖様であろうとためらいなく叩き折るから、そこの所よろしく」

 それに、シャーリーの最後の言葉が暴走族みたいになってたけど、この二人凄く馬が合わないんだろうな。似た者同士とは言え、朝美とはまた別のベクトルで犬猿の仲なのかも。まぁ、あいつが今でもここに居れば、シャーロットとは仲良しだよ! って言うんだろうけどな。

 それに、俺が一度死にかけたことで、二人の意識も変わっただろうし……ま、今は考えてても仕方がないか。

「よし、行こうかトオル」

(あぁ、バルカイトとフィルを、助けに行かないとな)

 ヴァネッサさんを引き抜くと、シャーリーは軽く素振りをし台座と部屋に背を向ける。二人の安否を気遣いながら、外へ向かって俺達は駆け出すのだった。
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