俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第九章 己の使命

第430話 傍観者

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「それじゃあ、ここは私から行かせてもらうわ……ね!」

 三人の中、真っ先に飛び出したのは、リースを体に纏うカーラ。一息で間合いを詰めると、目の前の筋肉に臆することなく右の拳を叩き込む。当然のようにラインバッハも彼女と拳を重ね、強者と戦う喜びに不敵な笑みをお互い浮かべあっていた。

 その後は、拳の乱打戦が続き、人間の体に戻った俺は二人の動きを追いかけるのが精一杯。

「カーラには悪いが、我らも混ぜさせてもらおうかの!」

「はい! 行きましょう、フィル様!」

 しかも、拮抗を感じ取った女神様達も途中から加わり、四人の攻撃が入り乱れる状況に俺はもうついていけない。これがいわゆる、「いやいや、無茶やろ」と呼ばれるイヤムーチャ視点と言うやつか。

 無力を超えた蚊帳の外の自分に、どうすれば良いのか本当にわからず途方に暮れる。無機物であろうと人間であろうと、これじゃ何にも変わらないじゃないか。

「ふむ、流石にこれは厳しいですな」

「私のトオルに手出したんだから、殴るぐらいじゃ済まさないわよ!」

「そうですね。私達のトオル様に手を出した以上、貴方様の死を持って償っていただきます!」

 皆は俺のために戦ってくれているというのに、俺は、俺は……

「ふむ、姫様を手に入れる良いチャンスと思いましたが、あの方の影響力は予想を遥かに超えているようですな。ここは、戦術的撤退を」

「待て! 逃がさな……うっ!? これって!」

「……!? カーラ! 下がれ! その煙を吸っちゃダメだ!!」

「ホッホッホッホッホッ、情報に振り回されているようでは、まだまだですぞ! それではまた、お会いしましょう」

 自らの不甲斐なさに意気消沈していると、ラインバッハの投げ捨てた瓶の中から桃色の煙が湧き上がり、大きな声を俺は張り上げる。しかし、今のはただの煙幕だったようで、まんまと俺は罠にはまり、捨て台詞を残しながら老魔神は姿を消した。

「簡単に帰っちゃって、見た目に反して歯ごたえのない相手だったわね。まぁ、最後はちょっと焦ったけど」

 煙の中から現れたカーラは小さなため息を吐き、リースもそれと同時に彼女の体から離れ女の子の姿へと戻る。シャーリーの時のような症状は見られず、本当にただのこけおどしであった事に俺は安堵した。

「お兄、大丈夫?」

「え? あ、あぁ、ありがとな、みんな」

 だが、表情の冴え渡らない俺を見てアイリが不安そうに声をかけてくれる。皆の足を引っ張り続ける自分が許せなくて、自然と表情が暗くなってしまったようだ。

「ほら、そんな顔しないの! あんまり酷いと、絞め落とすわよ」

「お姉、もう、危ない」

 そんな俺を元気づけようと軽い気持ちでヘッドロックをかけてくるカーラだったが、彼女の締め付けは想像以上に的確で俺の意識は天国まで飛んで行きそうになっていた。

「カーラさんは不器用を通り越して、力任せですからね。大丈夫ですか、パパ? リースの体でゆっくりと休んでくださいね」

 白目の増える俺を見たカーラが慌てて両手を離した事で、力の抜けた体は真正面へと倒れ込む。すると、目の前に立っていたリースが俺を優しく抱きとめ、まるで恋人のように温かく包み込んだ。

 リースのこの柔らかさ……今度は違う意味で、天国へと飛んでしまいそうになる。

「そういうあんたは、父親代わりに対して女の色気を使いすぎだと思うけど?」

「良いんです! 私はパパが、一番喜んでくれることをしたいんですから。必要とあらば、体だって差し出す所存です!」

 彼女の母性に甘えそのまま眠りに付きたい衝動に駆られるが、リースは俺の娘であってそんな事は断じて許されない。

「本音を言えば、襲いたくて仕方がないくせに」

「そうとも言います」

 その一線を超えることを虎視眈々とこの娘はいつも狙っているし、義理の父親として俺がしっかりしないと。

「リース、ママが困ることも、できればやめてくれよ?」

「わかっています。ですから、今のリースに出来るのはここまでです」

 どこまでが本気で、どこまでが嘘なのか推し量れない小悪魔な娘だけど、今は彼女を信じてこの体を預ける。少しでも誰かに触れていないと、俺の心はどこかへ本当に飛んでいってしまいそうだから。

「……帰りましょう、トオル。私達の場所へ」

 そして、シャーリーもまた戸惑いを浮かべ、嫉妬の一つも湧かせることが出来ないでいる。人間としての明石徹、その存在意義を見つけられない俺は、地面の底を再びもがき始めていた。
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