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第九章 己の使命
第429話 女神の怒り
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「ママ! パパー!!」
その中でも、即座に反応を示したのが義理の娘のリースで、全速力で走りながら俺に向かって抱きついてくる。
「り、リース、無事か?」
「はい! パパとママは大丈夫ですか?」
「あぁ、シャーリーも俺も無事だよ」
「私には、トオルが無事なようには見えないのだけど」
俺の身長が低いせいもあり、リースの胸がどうしても顎に当たるのだが、それを見たシャーリーが軽蔑の眼差しで俺の事を睨みつけてくる。
義理の娘に欲情するとか父親として最低の行為である事はわかっていながらも、二つの膨らみに包まれるとどうしても母性を感じてしまう。魔神の前でこの余裕とか、正直俺も避けたいんだけどな。
「昔に比べて精度は上がっておるようじゃが、あの程度のキマイラでは、話にもならんの」
「これはこれは、ヨルズ様。貴方様がいようとは、この爺も想定外でしたぞ」
「白々しい事を。それならそれで、構わぬがな」
いつもの調子の俺達三人を尻目に、フィルと魔神は臨戦態勢のままお互いを睨み合う。リィンバースと交友関係のあるフィルは、ラインバッハとも知り合いのようだ。
「やはり、人を混ぜぬ合成獣では、ここいらが限界のようですな」
「それはあの、ベリオル・ウォルフォードさんのように、ですか?」
しかし、ラインバッハに詰め寄ったのは白銀の鎧を纏う女神状態のクルス姉で、兜を外した彼女の表情は怒りにうち震えている。
「ホッホッホッ、知っておりましたか。ベリトが、バラしましたかな?」
「人を魔物に改造するなどと、この外道がぁ!!」
しかも、普段は絶対に見せることのない、悪鬼羅刹な女神の憤怒に思わず俺は息を呑む。いかなる時も穏やかで、叱られてばかりのドジっ子のクルス姉が、これ程までに激昂するなんて……やはり、女神としての使命が、命を弄ぶ魔神の所業を許しておけないのだろうか。
「落ち着くが良い、クルス。じゃが、お主の返答を聞いて、あのリィンバースの歪さに検討がついたのう。ラインバッハよ、お主、三百年前を再現しようとしておるな?」
それに、クルス姉をなだめるフィルも何かに気づいたらしく、彼女と同じ様にラインバッハを睨みつけた。
「結果的に、そうなってしまっただけですがの。それもこれも全て、姫様が悪いのですぞ?」
「私……が?」
二人の女神を前にしてもラインバッハの笑顔は歪まず、平然とした態度のまま今度は姫を咎め始める。
「聞く耳など、持たぬで良い!」
「その通りです! この場であの方は、塵も残さず灰へと還るのですから!」
家臣からの忠告に生真面目なシャーリーは後ずさるが、俺の体へ触れると同時に落ち着きを取り戻す。奴が何を言いたいのか皆目検討もつかなかったが、彼女に全てを押し付けた事で女神の怒りが爆発する。
二本の長槍を顕現させ臨戦態勢を取るフィルと、兜を現出させると同時に炎の翼と剣を構えるクルス姉。女神の放つ強大な波動に、大気が震え森がざわめき始めた。
「ふむ、データは取り終えましたが、黙って帰れそうには無いですの……では!」
そして、二人の魔力に呼応するかの如くラインバッハもまた魔力を開放させ、上半身の筋肉を膨張させる。
「少しの間、お付き合いいたしましょうかの!」
上半身半裸のマッスル老師に、剣と槍を輝かせる麗しの女神達。それぞれの緊張感が高まり始めた頃、俺の後ろにいたカーラが前へと飛び出し名乗りを上げた。
「へぇ、面白そうな筋肉おばけじゃない。リース! トオルのために、力、貸しなさい!」
「はい!」
ラインバッハのたくましい筋肉に、格闘家としての血が騒ぎ始めたのであろう、俺を引き合いに出しながらリースを呼んだカーラは、彼女の力を借りてドラグナーへと変身する。これで状況は三対一、不完全なシャーリーを圧倒したラインバッハ相手でも遅れを取ることは無いはずだ。
「その鎧……報告にあった竜装闘士とは、貴方のことでしたか」
「そうらしいわね。私にもよく、わからないんだけど」
カーラの纏う緑色をした軽装鎧の輝きに、ラインバッハの瞳の色が濁ったものへと一瞬変わるも、彼女は特に気にもせずいつも通りの様相を貫き通す。
何者にも怯まない彼女の姿勢は、男の俺から見ても正直うらやましい。まぁ、頭の中が空っぽという表現も出来るのだが……その方が、夢も詰め込めそうだしな。
「三対一でも、卑怯とは言うまいな。ラインバッハよ」
「えぇ、もちろんでございます。どこからでも、かかって来てくだされ」
それでも尚、老魔神の見せる余裕の姿に震え上がるほどにゾッとする。奴の強さはわかっているし、何もできない今の俺には、皆を信じて祈ることしかできなかった。
その中でも、即座に反応を示したのが義理の娘のリースで、全速力で走りながら俺に向かって抱きついてくる。
「り、リース、無事か?」
「はい! パパとママは大丈夫ですか?」
「あぁ、シャーリーも俺も無事だよ」
「私には、トオルが無事なようには見えないのだけど」
俺の身長が低いせいもあり、リースの胸がどうしても顎に当たるのだが、それを見たシャーリーが軽蔑の眼差しで俺の事を睨みつけてくる。
義理の娘に欲情するとか父親として最低の行為である事はわかっていながらも、二つの膨らみに包まれるとどうしても母性を感じてしまう。魔神の前でこの余裕とか、正直俺も避けたいんだけどな。
「昔に比べて精度は上がっておるようじゃが、あの程度のキマイラでは、話にもならんの」
「これはこれは、ヨルズ様。貴方様がいようとは、この爺も想定外でしたぞ」
「白々しい事を。それならそれで、構わぬがな」
いつもの調子の俺達三人を尻目に、フィルと魔神は臨戦態勢のままお互いを睨み合う。リィンバースと交友関係のあるフィルは、ラインバッハとも知り合いのようだ。
「やはり、人を混ぜぬ合成獣では、ここいらが限界のようですな」
「それはあの、ベリオル・ウォルフォードさんのように、ですか?」
しかし、ラインバッハに詰め寄ったのは白銀の鎧を纏う女神状態のクルス姉で、兜を外した彼女の表情は怒りにうち震えている。
「ホッホッホッ、知っておりましたか。ベリトが、バラしましたかな?」
「人を魔物に改造するなどと、この外道がぁ!!」
しかも、普段は絶対に見せることのない、悪鬼羅刹な女神の憤怒に思わず俺は息を呑む。いかなる時も穏やかで、叱られてばかりのドジっ子のクルス姉が、これ程までに激昂するなんて……やはり、女神としての使命が、命を弄ぶ魔神の所業を許しておけないのだろうか。
「落ち着くが良い、クルス。じゃが、お主の返答を聞いて、あのリィンバースの歪さに検討がついたのう。ラインバッハよ、お主、三百年前を再現しようとしておるな?」
それに、クルス姉をなだめるフィルも何かに気づいたらしく、彼女と同じ様にラインバッハを睨みつけた。
「結果的に、そうなってしまっただけですがの。それもこれも全て、姫様が悪いのですぞ?」
「私……が?」
二人の女神を前にしてもラインバッハの笑顔は歪まず、平然とした態度のまま今度は姫を咎め始める。
「聞く耳など、持たぬで良い!」
「その通りです! この場であの方は、塵も残さず灰へと還るのですから!」
家臣からの忠告に生真面目なシャーリーは後ずさるが、俺の体へ触れると同時に落ち着きを取り戻す。奴が何を言いたいのか皆目検討もつかなかったが、彼女に全てを押し付けた事で女神の怒りが爆発する。
二本の長槍を顕現させ臨戦態勢を取るフィルと、兜を現出させると同時に炎の翼と剣を構えるクルス姉。女神の放つ強大な波動に、大気が震え森がざわめき始めた。
「ふむ、データは取り終えましたが、黙って帰れそうには無いですの……では!」
そして、二人の魔力に呼応するかの如くラインバッハもまた魔力を開放させ、上半身の筋肉を膨張させる。
「少しの間、お付き合いいたしましょうかの!」
上半身半裸のマッスル老師に、剣と槍を輝かせる麗しの女神達。それぞれの緊張感が高まり始めた頃、俺の後ろにいたカーラが前へと飛び出し名乗りを上げた。
「へぇ、面白そうな筋肉おばけじゃない。リース! トオルのために、力、貸しなさい!」
「はい!」
ラインバッハのたくましい筋肉に、格闘家としての血が騒ぎ始めたのであろう、俺を引き合いに出しながらリースを呼んだカーラは、彼女の力を借りてドラグナーへと変身する。これで状況は三対一、不完全なシャーリーを圧倒したラインバッハ相手でも遅れを取ることは無いはずだ。
「その鎧……報告にあった竜装闘士とは、貴方のことでしたか」
「そうらしいわね。私にもよく、わからないんだけど」
カーラの纏う緑色をした軽装鎧の輝きに、ラインバッハの瞳の色が濁ったものへと一瞬変わるも、彼女は特に気にもせずいつも通りの様相を貫き通す。
何者にも怯まない彼女の姿勢は、男の俺から見ても正直うらやましい。まぁ、頭の中が空っぽという表現も出来るのだが……その方が、夢も詰め込めそうだしな。
「三対一でも、卑怯とは言うまいな。ラインバッハよ」
「えぇ、もちろんでございます。どこからでも、かかって来てくだされ」
それでも尚、老魔神の見せる余裕の姿に震え上がるほどにゾッとする。奴の強さはわかっているし、何もできない今の俺には、皆を信じて祈ることしかできなかった。
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