俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

文字の大きさ
上 下
428 / 526
第九章 己の使命

第427話 楽しいきのこ狩り

しおりを挟む
「シャーリー、これは?」

「どれどれ……うん、これも食べられるやつね」

 亮太さんの家を出て林の中を進み、なだらかな斜面を登りきると、そこには山菜らしきものや沢山のきのこが生え揃っていて、その充実っぷりに俺は驚かされる。しかも、この全てが自然に生えたものだと聞かされて、感嘆の息が止まらなくなった。

 ただし、見渡す限りの取り放題と言うわけではなく、収穫しすぎると生態系が壊れる恐れもあるので、班を三つに分けた上で程々に自然の恵みを拝借させて貰っている。今はシャーリーに、赤色のきのこの判別をして貰っているのだけれど、こいつは食べても問題ないらしい。

 名前はあかのだけで、火を通すと歯ごたえのある旨味が堪能できるらしいのだが、斑点のあるものはぎこうだけと呼ばれ体に悪い毒きのこらしく、こうして都度訊ねるようにしている。

 小さいきのこなんかも沢山あるのだけれど、成長途中のものなのか、えのきのような種類のものなのか判別がつかないため、ある程度の大きさのものを探して集めているのだ。

「シャーロット様、これ」

「……うん! どれも美味しそうな山菜ね。ありがとう、アイリ」

 後ろでは、手の平ほどの山菜をアイリが集めているのだが、どれも食用として食べれるものらしく、彼女の知識の豊富さに素直に俺は感心する。

「凄いな、アイリは。俺も負けないように、頑張らないと」

「大丈夫、お兄も、すぐ、覚えられる」

 俺達に褒められたアイリは、照れくさそうな笑みを浮かべつつ反対に俺の事まで励ましてくれる。素直で可愛いと言うか、もう少し大人びたら、彼女を放っておく男なんかいなくなるんじゃないのか? そう思うほどに末恐ろしいものを、最近のアイリからは感じ始めていた。

「たくさん取れたわよ、シャーロット」

 そして、現状における最大の問題点が、天真爛漫なこの少女。

「……カーラ、私達のこと、殺す気?」

「な!? なんでそうなるのよ!」

「だってそれ、大半が毒キノコじゃない」

 毒々しい紫色や、ところどころに赤い線の入った緑色のきのこを大量に抱えてくるカーラさん。ひと目見てわかる毒キノコの山なのだが、それがわからない彼女の色彩センスってもしかしなくてもヤバめ? 

「お姉、センス無いから」

 とりあえず殴るを地で行くカーラの感覚は、妹に呆れられる程に酷いようで、彼女には料理を作らせないのが懸命だな。

 家庭的なカーラとか、ちょっと想像したんだけどな……まぁ、得手不得手は誰にでもあるわけだし、俺の願望を押し付けるのは、高身長イケメンの剣と魔法の達人を彼女から望まれるのと同じなわけで、互いを尊重し合うのも大切な事なのである。

 もちろん、俺が強くなったり、彼女が料理の勉強をしてくれたりするのは、お互い大歓迎なんだろうけどさ。

「そんなにいっぱい採って来て、程々にしなさいって、サクラさんから言われただろ?」

 何はともあれ、今は彼女の集め方だ。簡単に約束を破るのは、男女以前の問題で人間としてダメすぎる。

「む……だ、だって、トオルやシャーロットが喜ぶと思ったから」

「カーラの気持ちは嬉しいけど、ルールを守って楽しい採集活動だろ? ズルして採ったものなんて、俺は全然うれしくないからな」

「わ、わかったわよ」

 俺やシャーリー皆のために、張り切ること自体は悪くないけど、度が過ぎるのは逆に迷惑を掛けるだけだからな。他のみんなも順調だといいけど、クルス姉辺りが心配だよな……サクラさんに迷惑かけてないか、とてつもなく不安だ。

「このくらい集めれば、問題無いかしらね。初めての割に、トオルもなかなか見る目あるじゃない」

 それから少しの間、汗が流れるのも忘れるほどに集中してきのこを集めると、号令をかけたシャーリーから今日の働きを褒められる。

「常識の範囲で集めただけだよ。そこにある微妙な色のきのことか、採って良いのか俺にはわからないし」

 クルス姉に作ってもらったサイドポーチもいっぱいになったし、認めてもらえるのは嬉しいけど俺の知識なんてまだまだだ。

「これは、そうね……あかのだけではあるけど、生育がいまいちかしら。食べられない事はないけど、たぶん美味しくないわね」

「だよな」

 細かい部分を見分けられるようになって、始めて一人前として褒められるべきだと俺は思うのである。

「お兄、がっかり?」

「そういう訳じゃないけど、褒められるような事はしてないって言うかさ……」

 しかし、そんな俺の考えを聞いたシャーリーは、少しむくれた表情で俺の顔を見上げてくる。

「私からの賛美を、トオルは受けられないって言うわけ?」

「いや、そうは言ってないけど……」

「なら、素直に喜んでおきなさい。謙遜し、すぎるのも! 相手に、たいして! 失礼、なんだから!」

 私にぐらい逆らわずに褒められろと右手を上げるシャーリーだったが、彼女の手はギリギリ俺の頭に届かず、悔しそうに背伸びを繰り返す。

 どんなに喋りが大人びていて年齢が俺より上だとしても、やっぱり彼女は小さな幼女で、俺は素直に片膝をつき王女様からの洗礼を頭に受けた。

「うぅ、お姉さま。きのこいっぱいで、目、チカチカする」

 優しい微笑みを浮かべながら、俺の頭を撫でるシャーリーの雰囲気が突然変わると、今まで隠れていた妹のメイベルが姿を表す。やけにおとなしいと思っていたら、きのこの色と数の多さに当てられていたって訳だ。

 こういう子供らしい所も、メイの可愛さの一つだよな。

「あなたねぇ、このタイミングで……まぁ、いいか。そろそろ皆と合流して――」

「いやはや、姫様とそのご友人様方は、随分と呑気なものですな」

 妹のメイの登場に興をそがれたシャーリーが俺の頭から手を離すと、老人の声が森の奥から聞こえてくる。忘れようにも忘れられない、とぼけたこの喋り方は……

「そちらこそ、随分と早いご帰還ね。ラインバッハ」

 王女様の体を小学生のようにし、副次的とは言え俺の体を人間に戻した魔神、宮廷魔術師のラインバッハ老師が俺達を見てあざ笑っていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

処理中です...