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第九章 己の使命
第427話 楽しいきのこ狩り
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「シャーリー、これは?」
「どれどれ……うん、これも食べられるやつね」
亮太さんの家を出て林の中を進み、なだらかな斜面を登りきると、そこには山菜らしきものや沢山のきのこが生え揃っていて、その充実っぷりに俺は驚かされる。しかも、この全てが自然に生えたものだと聞かされて、感嘆の息が止まらなくなった。
ただし、見渡す限りの取り放題と言うわけではなく、収穫しすぎると生態系が壊れる恐れもあるので、班を三つに分けた上で程々に自然の恵みを拝借させて貰っている。今はシャーリーに、赤色のきのこの判別をして貰っているのだけれど、こいつは食べても問題ないらしい。
名前はあかのだけで、火を通すと歯ごたえのある旨味が堪能できるらしいのだが、斑点のあるものはぎこうだけと呼ばれ体に悪い毒きのこらしく、こうして都度訊ねるようにしている。
小さいきのこなんかも沢山あるのだけれど、成長途中のものなのか、えのきのような種類のものなのか判別がつかないため、ある程度の大きさのものを探して集めているのだ。
「シャーロット様、これ」
「……うん! どれも美味しそうな山菜ね。ありがとう、アイリ」
後ろでは、手の平ほどの山菜をアイリが集めているのだが、どれも食用として食べれるものらしく、彼女の知識の豊富さに素直に俺は感心する。
「凄いな、アイリは。俺も負けないように、頑張らないと」
「大丈夫、お兄も、すぐ、覚えられる」
俺達に褒められたアイリは、照れくさそうな笑みを浮かべつつ反対に俺の事まで励ましてくれる。素直で可愛いと言うか、もう少し大人びたら、彼女を放っておく男なんかいなくなるんじゃないのか? そう思うほどに末恐ろしいものを、最近のアイリからは感じ始めていた。
「たくさん取れたわよ、シャーロット」
そして、現状における最大の問題点が、天真爛漫なこの少女。
「……カーラ、私達のこと、殺す気?」
「な!? なんでそうなるのよ!」
「だってそれ、大半が毒キノコじゃない」
毒々しい紫色や、ところどころに赤い線の入った緑色のきのこを大量に抱えてくるカーラさん。ひと目見てわかる毒キノコの山なのだが、それがわからない彼女の色彩センスってもしかしなくてもヤバめ?
「お姉、センス無いから」
とりあえず殴るを地で行くカーラの感覚は、妹に呆れられる程に酷いようで、彼女には料理を作らせないのが懸命だな。
家庭的なカーラとか、ちょっと想像したんだけどな……まぁ、得手不得手は誰にでもあるわけだし、俺の願望を押し付けるのは、高身長イケメンの剣と魔法の達人を彼女から望まれるのと同じなわけで、互いを尊重し合うのも大切な事なのである。
もちろん、俺が強くなったり、彼女が料理の勉強をしてくれたりするのは、お互い大歓迎なんだろうけどさ。
「そんなにいっぱい採って来て、程々にしなさいって、サクラさんから言われただろ?」
何はともあれ、今は彼女の集め方だ。簡単に約束を破るのは、男女以前の問題で人間としてダメすぎる。
「む……だ、だって、トオルやシャーロットが喜ぶと思ったから」
「カーラの気持ちは嬉しいけど、ルールを守って楽しい採集活動だろ? ズルして採ったものなんて、俺は全然うれしくないからな」
「わ、わかったわよ」
俺やシャーリー皆のために、張り切ること自体は悪くないけど、度が過ぎるのは逆に迷惑を掛けるだけだからな。他のみんなも順調だといいけど、クルス姉辺りが心配だよな……サクラさんに迷惑かけてないか、とてつもなく不安だ。
「このくらい集めれば、問題無いかしらね。初めての割に、トオルもなかなか見る目あるじゃない」
それから少しの間、汗が流れるのも忘れるほどに集中してきのこを集めると、号令をかけたシャーリーから今日の働きを褒められる。
「常識の範囲で集めただけだよ。そこにある微妙な色のきのことか、採って良いのか俺にはわからないし」
クルス姉に作ってもらったサイドポーチもいっぱいになったし、認めてもらえるのは嬉しいけど俺の知識なんてまだまだだ。
「これは、そうね……あかのだけではあるけど、生育がいまいちかしら。食べられない事はないけど、たぶん美味しくないわね」
「だよな」
細かい部分を見分けられるようになって、始めて一人前として褒められるべきだと俺は思うのである。
「お兄、がっかり?」
「そういう訳じゃないけど、褒められるような事はしてないって言うかさ……」
しかし、そんな俺の考えを聞いたシャーリーは、少しむくれた表情で俺の顔を見上げてくる。
「私からの賛美を、トオルは受けられないって言うわけ?」
「いや、そうは言ってないけど……」
「なら、素直に喜んでおきなさい。謙遜し、すぎるのも! 相手に、たいして! 失礼、なんだから!」
私にぐらい逆らわずに褒められろと右手を上げるシャーリーだったが、彼女の手はギリギリ俺の頭に届かず、悔しそうに背伸びを繰り返す。
どんなに喋りが大人びていて年齢が俺より上だとしても、やっぱり彼女は小さな幼女で、俺は素直に片膝をつき王女様からの洗礼を頭に受けた。
「うぅ、お姉さま。きのこいっぱいで、目、チカチカする」
優しい微笑みを浮かべながら、俺の頭を撫でるシャーリーの雰囲気が突然変わると、今まで隠れていた妹のメイベルが姿を表す。やけにおとなしいと思っていたら、きのこの色と数の多さに当てられていたって訳だ。
こういう子供らしい所も、メイの可愛さの一つだよな。
「あなたねぇ、このタイミングで……まぁ、いいか。そろそろ皆と合流して――」
「いやはや、姫様とそのご友人様方は、随分と呑気なものですな」
妹のメイの登場に興をそがれたシャーリーが俺の頭から手を離すと、老人の声が森の奥から聞こえてくる。忘れようにも忘れられない、とぼけたこの喋り方は……
「そちらこそ、随分と早いご帰還ね。ラインバッハ」
王女様の体を小学生のようにし、副次的とは言え俺の体を人間に戻した魔神、宮廷魔術師のラインバッハ老師が俺達を見てあざ笑っていた。
「どれどれ……うん、これも食べられるやつね」
亮太さんの家を出て林の中を進み、なだらかな斜面を登りきると、そこには山菜らしきものや沢山のきのこが生え揃っていて、その充実っぷりに俺は驚かされる。しかも、この全てが自然に生えたものだと聞かされて、感嘆の息が止まらなくなった。
ただし、見渡す限りの取り放題と言うわけではなく、収穫しすぎると生態系が壊れる恐れもあるので、班を三つに分けた上で程々に自然の恵みを拝借させて貰っている。今はシャーリーに、赤色のきのこの判別をして貰っているのだけれど、こいつは食べても問題ないらしい。
名前はあかのだけで、火を通すと歯ごたえのある旨味が堪能できるらしいのだが、斑点のあるものはぎこうだけと呼ばれ体に悪い毒きのこらしく、こうして都度訊ねるようにしている。
小さいきのこなんかも沢山あるのだけれど、成長途中のものなのか、えのきのような種類のものなのか判別がつかないため、ある程度の大きさのものを探して集めているのだ。
「シャーロット様、これ」
「……うん! どれも美味しそうな山菜ね。ありがとう、アイリ」
後ろでは、手の平ほどの山菜をアイリが集めているのだが、どれも食用として食べれるものらしく、彼女の知識の豊富さに素直に俺は感心する。
「凄いな、アイリは。俺も負けないように、頑張らないと」
「大丈夫、お兄も、すぐ、覚えられる」
俺達に褒められたアイリは、照れくさそうな笑みを浮かべつつ反対に俺の事まで励ましてくれる。素直で可愛いと言うか、もう少し大人びたら、彼女を放っておく男なんかいなくなるんじゃないのか? そう思うほどに末恐ろしいものを、最近のアイリからは感じ始めていた。
「たくさん取れたわよ、シャーロット」
そして、現状における最大の問題点が、天真爛漫なこの少女。
「……カーラ、私達のこと、殺す気?」
「な!? なんでそうなるのよ!」
「だってそれ、大半が毒キノコじゃない」
毒々しい紫色や、ところどころに赤い線の入った緑色のきのこを大量に抱えてくるカーラさん。ひと目見てわかる毒キノコの山なのだが、それがわからない彼女の色彩センスってもしかしなくてもヤバめ?
「お姉、センス無いから」
とりあえず殴るを地で行くカーラの感覚は、妹に呆れられる程に酷いようで、彼女には料理を作らせないのが懸命だな。
家庭的なカーラとか、ちょっと想像したんだけどな……まぁ、得手不得手は誰にでもあるわけだし、俺の願望を押し付けるのは、高身長イケメンの剣と魔法の達人を彼女から望まれるのと同じなわけで、互いを尊重し合うのも大切な事なのである。
もちろん、俺が強くなったり、彼女が料理の勉強をしてくれたりするのは、お互い大歓迎なんだろうけどさ。
「そんなにいっぱい採って来て、程々にしなさいって、サクラさんから言われただろ?」
何はともあれ、今は彼女の集め方だ。簡単に約束を破るのは、男女以前の問題で人間としてダメすぎる。
「む……だ、だって、トオルやシャーロットが喜ぶと思ったから」
「カーラの気持ちは嬉しいけど、ルールを守って楽しい採集活動だろ? ズルして採ったものなんて、俺は全然うれしくないからな」
「わ、わかったわよ」
俺やシャーリー皆のために、張り切ること自体は悪くないけど、度が過ぎるのは逆に迷惑を掛けるだけだからな。他のみんなも順調だといいけど、クルス姉辺りが心配だよな……サクラさんに迷惑かけてないか、とてつもなく不安だ。
「このくらい集めれば、問題無いかしらね。初めての割に、トオルもなかなか見る目あるじゃない」
それから少しの間、汗が流れるのも忘れるほどに集中してきのこを集めると、号令をかけたシャーリーから今日の働きを褒められる。
「常識の範囲で集めただけだよ。そこにある微妙な色のきのことか、採って良いのか俺にはわからないし」
クルス姉に作ってもらったサイドポーチもいっぱいになったし、認めてもらえるのは嬉しいけど俺の知識なんてまだまだだ。
「これは、そうね……あかのだけではあるけど、生育がいまいちかしら。食べられない事はないけど、たぶん美味しくないわね」
「だよな」
細かい部分を見分けられるようになって、始めて一人前として褒められるべきだと俺は思うのである。
「お兄、がっかり?」
「そういう訳じゃないけど、褒められるような事はしてないって言うかさ……」
しかし、そんな俺の考えを聞いたシャーリーは、少しむくれた表情で俺の顔を見上げてくる。
「私からの賛美を、トオルは受けられないって言うわけ?」
「いや、そうは言ってないけど……」
「なら、素直に喜んでおきなさい。謙遜し、すぎるのも! 相手に、たいして! 失礼、なんだから!」
私にぐらい逆らわずに褒められろと右手を上げるシャーリーだったが、彼女の手はギリギリ俺の頭に届かず、悔しそうに背伸びを繰り返す。
どんなに喋りが大人びていて年齢が俺より上だとしても、やっぱり彼女は小さな幼女で、俺は素直に片膝をつき王女様からの洗礼を頭に受けた。
「うぅ、お姉さま。きのこいっぱいで、目、チカチカする」
優しい微笑みを浮かべながら、俺の頭を撫でるシャーリーの雰囲気が突然変わると、今まで隠れていた妹のメイベルが姿を表す。やけにおとなしいと思っていたら、きのこの色と数の多さに当てられていたって訳だ。
こういう子供らしい所も、メイの可愛さの一つだよな。
「あなたねぇ、このタイミングで……まぁ、いいか。そろそろ皆と合流して――」
「いやはや、姫様とそのご友人様方は、随分と呑気なものですな」
妹のメイの登場に興をそがれたシャーリーが俺の頭から手を離すと、老人の声が森の奥から聞こえてくる。忘れようにも忘れられない、とぼけたこの喋り方は……
「そちらこそ、随分と早いご帰還ね。ラインバッハ」
王女様の体を小学生のようにし、副次的とは言え俺の体を人間に戻した魔神、宮廷魔術師のラインバッハ老師が俺達を見てあざ笑っていた。
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