俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第九章 己の使命

第421話 家族の絆

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男子おのこを抱きしめる女子おなごという者はじゃな、こう安心できるよう、なるべく優しく包み込まねばならぬ」

 フィルの助け舟に敬意を評しながらその場で一つ溜め息を吐くと、今度は二つの大きな桃が頭の上に乗せられる。先程のクルス姉と同じように、普通に抱きしめられているだけのはずなのに、彼女は程よい力加減を完全に熟知していて……

「これ……母さん」

 だめだ、この暖かさがあまりにも懐かしすぎて、フィルのことが母さんにしか見えなくなって……俺、強制的にマザコンにさせられる! 

「っと、我の役目はここまでのようじゃな。後は、そなたに任せるぞ、シャーロットよ」

 十年ぶりに感じてしまった母親の温もりに、喜びの涙を流してしまう情けない俺を放っておけなくなったのか、持ち主である王女様が俺の目の前に立ちふさがる。何と声をかけたら良いのか、この支離滅裂な流れの果てに言葉が見つからない。

 慕ってくれる女の子達に良いように遊ばれて、ハーレムの主としては完全に失格だよな。

「……えっと、トオルは、私に何をして欲しい?」

「……はへ?」

 慎ましくも微笑ましい女の子達との愛の営みも佳境を迎え、遂に登場した真打ちに何を要求されるのかと嬉し恥ずかし身構えていると、あまりに気の抜けた問いかけに素っ頓狂な声を俺は上げてしまう。

「だから! 何をして欲しいかって聞いてるの……トオルになら、何でもしてあげるわよ?」

 彼女の言いたい事は理解しているつもりだけど、そこは不意打ちでキスとかさ、シャーロット王女殿下のやりたい放題なはずなのに、何で彼女は主導権を男の俺に譲ろうとしてくれるんですかね? まぁ、百歩譲って彼女の優しさとしても、女の子や王族の方が何でもしてあげるなんてこと、簡単に言わないほうが良いと思うんだけどな。

「まったく、こういう時のお姉さまって、本当にいくじがないよね」

「メ、メイ!」

 男として、この場合どうするべきかと悩んでいると、痺れを切らしたメイベルがシャーリーに変わって体を動かしゆっくり俺へと近づいてくる。

「でも、安心していいよお兄ちゃん。ぼくは、お姉さまみたいにウジウジと悩むタイプじゃないんで。自分の気持ちに正直に、お兄ちゃんにいっぱい甘えちゃうんだ!」

 そうしてメイは俺へと抱きつき、全身を巧みに擦り寄せながら無邪気に愛を囁いた。

「羨ましいでしょ~。お姉さまももっと、前に出てきていいんだよ」

「と、トオル、迷惑、じゃないかしら?」

 彼氏の体を独り占めする妹の挑発に乗せられて、穴から顔を出すモグラのように姉も姿を表したが、それでも尚俺を気にする王女様が愛おしすぎて、自然と笑みが込み上げてくる。

「迷惑なわけ無いだろ。シャーリーとこうして抱き合えて、俺は今、世界で一番の幸せ者だよ」

「……バカ」

 こうなると俺は、俺らしくもないキザなセリフに歯止めが効かなくなるらしく、照れ隠しをするシャーリーに可愛らしく罵られてしまう。

「むー! お兄ちゃん! メイは!」

 そんな小さな幸せと、俺達の甘い空気に不満を持ったメイが、今度はむくれ顔で俺の事を睨みつけてきた。

「もちろん、メイもに決まってるだろ? 大切な二人を、一度にこうして抱きしめられるなんて、俺は本当に果報者だ」

 ちょっとクールで照れ屋な姉に、元気いっぱい正直者な妹。二人の可愛い彼女に俺は、心の底からメロメロだ。

「まっ、一度も話題に上がらないお兄さんには、関係のない話だけどな」

 姉妹の笑顔に包まれて、周りの女の子達の嫉妬すら気にならなくなり始めた頃、全くと言っていいほど予想外の所から不満の声が上げられる。女の子にしか興味のないバルカイトから、まさか愚痴が飛んでこようとは……

 しかし、よくよく考えてみると、面と向かってバルカイトにお礼を言った事って無いよな。シャーリーと出会ってからずっと、何だかんだでお世話になりっぱなしな訳だし、ここは一つ感謝の気持を伝えてみるのもいいかも。

「バルカイトは、俺の大切な兄貴分だよ。これでも、頼りにしてるつもりなんだぜ?」

「そうかい。だったら俺も、たまには期待に応えないとな」

 だいぶ歳は離れてしまっているけれど、満更でもなく笑うたった一人の男友達と、こうして兄弟の契りが交わせたのは凄く嬉しい。段々と俺が一人じゃなくて、皆に頼られているのだという実感が俺に最高の笑顔をくれた。

「ふふっ、パパも大変ですね」

「リース、おまえなぁ」

 とはいえ、バルカイトが割り込んできたのもリースの質問が原因だろうし、まるで他人事のような義理の娘にお説教をしてやりたいという感情が込み上げてくる。いつもは甘やかしてばかりだけど、たまには娘をしつけたって罰は当たらないよな。

「ごめんなさい、パパ。リースはこの後ちょこんと叱られて、もうやっちゃダメだぞって抱きしめて貰えればそれで満足ですから」

 ところが、これから彼女にするはずの行為を寸分違わず言い当てられ、ここまで狙い通りだったのかと俺は深い溜め息を吐く。

 朝美がこの場にいたとしたら、リースと二人最高の小悪魔コンビネーションを見せてくれた事だろう。それぐらい、俺は娘に勝てる自信が全くもって無かったのである。

「リース、こっちに来なさい」

「はい! ママ!」

「……ほら、トオル」

 しかも、娘の話を聞いた王女様は俺達の側へと彼女を呼び寄せ、俺に願いを叶えてやれと強い口調で要求してくる。こうなると、極端に立場が弱くなるのが婿養子と言うものであり、何も言わずに俺はリースに笑顔を作ってみせた。

「こーら、もうやっちゃダメだぞ」

「はい!! 大好きです、パパ!!」

 すると、シャーリーに対する返事より大きな声で答えたリースは、母親を巻き込みながら力強く俺の体へと抱きついてくる。大切な二人の嫁の隣に義理の娘が加わって、三色の宝石達が今この腕の中で眩しいほどの輝きを放つ。

 俺が求めてやまなかったもの、家族の絆がここにはあって、俺はそれを守りたいと強く強く願うのであった。
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