俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第九章 己の使命

第419話 小さい男子の受難

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「いてっ!」

「お兄、がまん」

 駆けつけてくれたカーラに全力で殴り飛ばされた俺は、白目をむきながら気絶した状態で亮太さんの家まで運ばれる。裸の男を背負った彼女が、一体何を思っていたのかは気になるところだが、それを聞くと逆に俺が恥ずかしくなりそうなのでやめておこう。

 いくら気の知れた間柄とは言え、女の子二人に裸体をまじまじと観察されたとか、もうお婿に行けない。運ばれてきた瞬間、みんなが何を思ったのかも……うん、考えない様にしておこう。

 それにしても、回復魔法の光って結構痛いものなんだな。漫画とかだと全然反応無いし、無痛なものだと思っていたけど、軽い電気が頬に走ってちょっとだけびっくりした。

 冷静に考えてみると無理やり治癒力を向上させるわけだし、何の痛みも感じないなんて事は流石にありえないよな。だとすると、皆は痛みに慣れているから何の反応も示さないのかな? もしくは、傷の痛みが強すぎて感じていないだけなのかも。

「トオル、大丈夫?」

 初めて感じる、小さな痛みに反応してしまう軟弱者を心配して、カーラが俺に声をかけてくれる。

 状況が状況だったとはいえ、殴ってしまった事に罪悪感を抱いているのか、いつもに比べて勢いがない。幼女の姿のシャーリーに運ばせる訳にはいかないとは言え、裸の俺を運んでくれた……やめておこう、想像するだけで色々ときつい。

「あぁ、ちょっと、びっくりしただけだよ。これでまた気絶したら、男として以前に、人間としてダメだろ?」

「わ、悪かったわよ。でもね、裸で女の子に抱きついてる、あんたが悪いんだからね!」

 彼女が俺を殴ったのはシャーロットを思っての事だろうし、皆が仲良くなってくれるのは俺としても凄く嬉しい。何せ、予定通りに事が運べばこのままハーレムルートに直行だろうし、女の子達の仲が悪ければ地獄も良い所だろほんと。

 それに、裸で抱きつく男とか、合意の上でのベッドの中でもなければ罪に問われるのは当然な訳で、カーラの言う通りなのだから何も言い返せない。むしろ、殴り飛ばされただけなのを幸運と思うべきか、向こうの世界なら即刻逮捕されて人生破滅ルートだよ。

 この世界に来るまでに、まともな人生をおくれていたとは言わないけど、そんな事で捕まったら俺を好きでいてくれた朝美に申し訳が立たないしな。

「お姉、そそっかしい」

「アイリだって、裸のトオルを見た瞬間、びっくりしてたじゃない」

「あれは……でも、なぐったり、しない」

 とりあえずの応急処置として、今の俺はクルス姉が作ってくれた貴族風のシャツとズボンを穿いているのだが、オーバーオールだけは何とかならなかったのだろうか……それでも、やたらめったらゴテゴテしてる上着とかないだけマシだし、この家に運ばれて来た時に俺の裸体がどこまで少女達の慰みものになっていたのか、それだけは絶対に聞きたくない。

 全員で殴りかかってくる以前に、物珍しい感じで貧相なこの体を皆が査定していたとか、想像するだけで心の底から死にたいっす。

「それで、さっきからやけにフィルが俺の事見つめてるんだけど、トール様に比べると、やっぱりこう情けないよな」

「いや、そのような事は全くもって考えていなかったのじゃが、トオルは、いくつなのかと思っての」

 そして、年齢不詳と謳われる、男子としては小さな体と俺の幼い顔立ち。この容姿のせいで、エロ本売り場には基本入れなかったからな……入れたとしても、斎藤とか斎藤兄に買ってきて貰わないと絶対レジで止められたし。童顔ってさ、ほんと辛いんすよこれ。

「えっと……向こうで死んだ時は、一応十八でした」

「十八って、あんた、それにしては小さくない?」

 だからこそ、この反応を危惧して言いたくなかったのだが、ストレートすぎるカーラの感想に胸の奥が食い破られる。えぇ、小さいですよ、小さいですとも! 好き好んでこんな身長でいませんよ!! ……いかん、つい愚痴になってしまった。

「そうですね。成人男性というカテゴリーで見れば、幾分かパパの体は小さいと思います」

「私も、自分より小さい男ってのはちょっとね」

「悪かったな。どうせ俺はチビだよ」

 しかも、義理の娘であるリースにまで指摘された俺は、見た目同様小さな子供のように女の子達の前でふてくされてしまう。

 元の身長で考えれば、アイリ以外の女の子達は皆俺より身長が高いわけで、女神様っていうのは何でこう恵まれた体格をしてらっしゃるのですかね……まぁ、クルス姉いわく、ある種の威厳を保つためって話だから、みんながみんな望んでなってるわけでも無いんだろうけどな。

「シャーリーも、本音を言えば幻滅しただろ?」

「あら? 私だってトオルと一緒で、見た目で男を選ぶような安い女じゃないわ。それに、この姿なら貴方の方が大きい訳だし、小さな王子様って言うのも嫌いじゃないわよ」

「ぼくはね、お兄ちゃんの熱を感じられるなら、それだけで十分かな」

「お前ら……」

 自暴自棄になった俺の、子供のような憎まれ口を彼女は受け流すと、二人の姉妹は俺を見ながら優しい笑顔を浮かべてくれる。そんな彼女の慰めがあまりにも嬉しすぎて、思わず涙を流しそうになってしまった。

「そ、そうね、小さい男ってあんまり馴染みないけど、トオルならそれも有りかしら。気がしれちゃってる部分もあるけど、弟って言うのも結構いいかもね」

 カーラもカーラで、シャーリー達と競り合おうと焦る姿が可愛くて、朝美同様なんとなく憎めないんだよな。

「お待ち下さいカーラさん!」

 すると、異議申し立てをするかの如く、テーブルに平手を叩きつけながらクルス姉が立ち上がる。しかも、何故か彼女は女神の姿に変身していて、いったい何が始まると言うのだろう……

「そこは、私のポジションです! トオル様のお姉ちゃんの座、それだけは、なんとしても譲れません!」

 なるほど、義理の姉としては、俺が他の誰かに弟呼びされることに我慢ならなかった……ん、弟? 姉? ……!? 

「って、クルス姉! その話は、皆の前では絶対にするなって言っただろうがぁ!!」

「ダメです! お姉ちゃんの立場だけは、誰にも譲れません!」

 アイリが頬を治療している事さえ忘れ、彼女を振り払うように立ち上がった俺は、動揺も隠せぬままに彼女の事をクルス姉と呼んでしまう。カーラが俺を弟扱いするなんて事は完全に予想外だったし、不注意とは言え二人の秘密がこんな形でバレようとは、頭も痛いし胃も痛い。

 それと、椅子から転げ落ちたアイリは大丈夫だろうか? 

「えっと、大丈夫か、アイリ?」

「ちょっと、びっくりしただけ」

「そっか。ごめんな、いきなり払い除けて」

「ううん、大丈夫。それより、お兄、後ろ」

「へ?」

 地面に尻餅をついた彼女を右手で引っ張り起こすと、雪解けの花のように咲く儚くも麗しの笑顔をアイリは浮かべてくれる。本当は痛いだろうにと、さすれない彼女の部位を頭の中で思い描いていると、後ろに誰かがいる事を彼女が指差し教えてくれた。
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