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第九章 己の使命
第411話 平和すぎる日常
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「ちょっとメイ! あなた、私が起きる前に朝食食べたでしょ!」
「だってお姉さま、ぼくに体かしてくれないんだもん」
シャーリーをこの手に取り戻してから、どれだけの時間が経っただろうか。何も起こらないのを良いことに、穏やかな時を俺達は過ごしている。
シャーリーの体を乗っ取った、メイベルとの戦いから既に一週間が経過しているのだが、平和なこの時間が一生続けばいいのにな……因みに、何故一週間という単語がすぐに出てくるのかというと、メイとの戦いから一週間、俺は意識を失っていたのだ。道理であの時、俺を見ながらシャーリーが泣いていたわけである。
限界を超える膨大な魔力を消費すると、一週間は省エネモードに陥るようで、いくら神具の力があろうと気を付けなければいけないな。その間に、シャーリーとメイにもしもの事があったら、悔やんでも悔やみきれん。
メイと二人、二重人格のようになったシャーリーの体もどうなっていくのかわからないし、慎重な行動を心掛けねば……などと、現状を真面目に考えつつも、同じ口から別々の声音を交互に出し続けるシャーリーの姿に、自然と頬が緩んでしまう。
まるで、彼女が声優になったみたいで、あいつの事を思い出すのもあるのだけれど、普通の女の子のようにはしゃぐ王女様を見れるのがとても嬉しい。ただ、体が一つな事だけが、どちらにとっても不満なようで、何かあるごとに喧嘩は絶えない。
特に早朝、姉が寝ぼけてる間を狙ってメイが体を動かすせいで、シャーリーの不満が爆発しやすい。当然、普段は彼女が占有しているのだから、動けない苦痛を知っている俺としては、メイにも強く言えないんだよな。
「当たり前でしょ! これは私の体なの! トオルの恩情でここにいられるだけ、感謝してほしいぐらいだわ!」
「それ、お姉さまが威張ることじゃないよね? お兄ちゃんのおかげだよね!」
とまぁ、こんな感じで、二人は言い争いを続けているのである。色々不都合はあるんだろうけど、たった二人の姉妹同士、仲良くしてくれると嬉しいんだけどな。
(シャーリーも、たまには主導権、渡してやったらどうだ? パワーが有り余ってて、メイもウズウズしてるんだろ?)
「そうだよ! お兄ちゃんの言うとおりだよ! お姉さまはおーぼーなの!」
「何言ってるの! あなたにこの体貸したら、トオルに良からぬ悪さをするに決まってるじゃない! だから、ダメよ!」
自分の体が乗っ取られていた時の様子を、彼女も中から見ていたのだろうけど、いくらメイでもそんな事は……
「うー、だって、お兄ちゃん見てると、お股キュンキュンしてくるんだもん」
諸兄姉の皆様方、すまない。こいつはちょっと駄目そうである。お股キュンキュンとか、シャーリーの顔で言われたら、危うく俺が悶絶しそうだ。
「ね! トオルもわかったでしょ。これは、貴方にも関わる重要な問題なの」
「そんなこと言って、お姉さまだっていつも、お兄ちゃんのこと見ながら我慢してるくせに」
「わ、私は……」
それに、俺のためと言い張るシャーリー自身、エッチな女の子だってことは知ってるし、心の内がバレバレって大変だよな。
「欲望に身を任せない! そういうのが、デキる大人の女ってやつなの! あんまりわがまま言ってると、トオルに嫌われるわよ」
「き、きらいになんてならないもん! メイ、お兄ちゃんにきらわれたりしないもん!」
「どうかしらね~?」
「メイ、きらわれないもん。お兄ちゃんといっしょにいるもん。ひとりになんて、ならないもん」
そんなこんなで、内心を明かされてしまったシャーリーは、まるで戦姫の時のように容赦のない攻めを自分の妹にお見舞いする。大人げないとは正にこの事ではあったが、シャーリーを諌めるよりも、メイを庇ってやるほうが先だな。
(あー、わかったわかった。大丈夫だから)
「……ほんとう?」
(あぁ、本当だよ。それに、メイを引き入れたのは俺だし、この程度でお払い箱とか、俺が遊び人になっちまう。好きって言ったなりの責任はとるよ)
「ほーら、お姉さま! ぼくの言ったとおりでしょ!」
子供のような二人を見ていたからか、自然と言葉も達観したものになってしまい、ちょっと偉そうな自分がいる。細かい事を気にしてしまう俺とは違って、メイは素直に受け入れてくれるけど、調子に乗せすぎるのもあんまり良くないよな。
(ただし、あんまり酷かったり、シャーリーをずっと困らせるようなら、俺も考えるけどな)
「だ、だいじょうぶ! メイ、がんばるもん! メイ、がんばるから!」
(よし、それでこそ、俺の大好きなメイだ)
「大好きって、えへへ~、ぼく照れちゃうな~」
とは言え、メイの年齢を考えると強く怒るのも得策ではないだろうし、最後は結局甘やかしてしまう。精神年齢も同じようなものだろうし、生まれたばかりの赤子に対して暴力的にふるまうなんて事、いくらなんでも俺にはできないよ。
ただ、一つだけわかったことがある。こういうのが、チョロインって呼ばれるタイプの女の子なんだろうなって。
それにしても、本当に平和だ。俺達が今かくまってもらっているのは、シャーリーの剣術の師匠である亮太さんの道場で、王都からは目と鼻の先のはずなのに、国王であるジョナサンは一向に仕掛けてくる気配がない。
あえて自分から出てこない辺り、かなりの慎重派なのか、それとも何か狙いがあるのか。どちらにせよ、どこかのタイミングで一度ここを離れなければとは思っているのだけれど、シャーリーはどう考えているのだろう? 父親であるジョナサンが魔神であった事も含めて、一度詳しく聞いてみたい所だが、今はその時じゃないよな。
それに、彼女には別に、聞いてみたいこともあるし。
「だってお姉さま、ぼくに体かしてくれないんだもん」
シャーリーをこの手に取り戻してから、どれだけの時間が経っただろうか。何も起こらないのを良いことに、穏やかな時を俺達は過ごしている。
シャーリーの体を乗っ取った、メイベルとの戦いから既に一週間が経過しているのだが、平和なこの時間が一生続けばいいのにな……因みに、何故一週間という単語がすぐに出てくるのかというと、メイとの戦いから一週間、俺は意識を失っていたのだ。道理であの時、俺を見ながらシャーリーが泣いていたわけである。
限界を超える膨大な魔力を消費すると、一週間は省エネモードに陥るようで、いくら神具の力があろうと気を付けなければいけないな。その間に、シャーリーとメイにもしもの事があったら、悔やんでも悔やみきれん。
メイと二人、二重人格のようになったシャーリーの体もどうなっていくのかわからないし、慎重な行動を心掛けねば……などと、現状を真面目に考えつつも、同じ口から別々の声音を交互に出し続けるシャーリーの姿に、自然と頬が緩んでしまう。
まるで、彼女が声優になったみたいで、あいつの事を思い出すのもあるのだけれど、普通の女の子のようにはしゃぐ王女様を見れるのがとても嬉しい。ただ、体が一つな事だけが、どちらにとっても不満なようで、何かあるごとに喧嘩は絶えない。
特に早朝、姉が寝ぼけてる間を狙ってメイが体を動かすせいで、シャーリーの不満が爆発しやすい。当然、普段は彼女が占有しているのだから、動けない苦痛を知っている俺としては、メイにも強く言えないんだよな。
「当たり前でしょ! これは私の体なの! トオルの恩情でここにいられるだけ、感謝してほしいぐらいだわ!」
「それ、お姉さまが威張ることじゃないよね? お兄ちゃんのおかげだよね!」
とまぁ、こんな感じで、二人は言い争いを続けているのである。色々不都合はあるんだろうけど、たった二人の姉妹同士、仲良くしてくれると嬉しいんだけどな。
(シャーリーも、たまには主導権、渡してやったらどうだ? パワーが有り余ってて、メイもウズウズしてるんだろ?)
「そうだよ! お兄ちゃんの言うとおりだよ! お姉さまはおーぼーなの!」
「何言ってるの! あなたにこの体貸したら、トオルに良からぬ悪さをするに決まってるじゃない! だから、ダメよ!」
自分の体が乗っ取られていた時の様子を、彼女も中から見ていたのだろうけど、いくらメイでもそんな事は……
「うー、だって、お兄ちゃん見てると、お股キュンキュンしてくるんだもん」
諸兄姉の皆様方、すまない。こいつはちょっと駄目そうである。お股キュンキュンとか、シャーリーの顔で言われたら、危うく俺が悶絶しそうだ。
「ね! トオルもわかったでしょ。これは、貴方にも関わる重要な問題なの」
「そんなこと言って、お姉さまだっていつも、お兄ちゃんのこと見ながら我慢してるくせに」
「わ、私は……」
それに、俺のためと言い張るシャーリー自身、エッチな女の子だってことは知ってるし、心の内がバレバレって大変だよな。
「欲望に身を任せない! そういうのが、デキる大人の女ってやつなの! あんまりわがまま言ってると、トオルに嫌われるわよ」
「き、きらいになんてならないもん! メイ、お兄ちゃんにきらわれたりしないもん!」
「どうかしらね~?」
「メイ、きらわれないもん。お兄ちゃんといっしょにいるもん。ひとりになんて、ならないもん」
そんなこんなで、内心を明かされてしまったシャーリーは、まるで戦姫の時のように容赦のない攻めを自分の妹にお見舞いする。大人げないとは正にこの事ではあったが、シャーリーを諌めるよりも、メイを庇ってやるほうが先だな。
(あー、わかったわかった。大丈夫だから)
「……ほんとう?」
(あぁ、本当だよ。それに、メイを引き入れたのは俺だし、この程度でお払い箱とか、俺が遊び人になっちまう。好きって言ったなりの責任はとるよ)
「ほーら、お姉さま! ぼくの言ったとおりでしょ!」
子供のような二人を見ていたからか、自然と言葉も達観したものになってしまい、ちょっと偉そうな自分がいる。細かい事を気にしてしまう俺とは違って、メイは素直に受け入れてくれるけど、調子に乗せすぎるのもあんまり良くないよな。
(ただし、あんまり酷かったり、シャーリーをずっと困らせるようなら、俺も考えるけどな)
「だ、だいじょうぶ! メイ、がんばるもん! メイ、がんばるから!」
(よし、それでこそ、俺の大好きなメイだ)
「大好きって、えへへ~、ぼく照れちゃうな~」
とは言え、メイの年齢を考えると強く怒るのも得策ではないだろうし、最後は結局甘やかしてしまう。精神年齢も同じようなものだろうし、生まれたばかりの赤子に対して暴力的にふるまうなんて事、いくらなんでも俺にはできないよ。
ただ、一つだけわかったことがある。こういうのが、チョロインって呼ばれるタイプの女の子なんだろうなって。
それにしても、本当に平和だ。俺達が今かくまってもらっているのは、シャーリーの剣術の師匠である亮太さんの道場で、王都からは目と鼻の先のはずなのに、国王であるジョナサンは一向に仕掛けてくる気配がない。
あえて自分から出てこない辺り、かなりの慎重派なのか、それとも何か狙いがあるのか。どちらにせよ、どこかのタイミングで一度ここを離れなければとは思っているのだけれど、シャーリーはどう考えているのだろう? 父親であるジョナサンが魔神であった事も含めて、一度詳しく聞いてみたい所だが、今はその時じゃないよな。
それに、彼女には別に、聞いてみたいこともあるし。
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