俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

文字の大きさ
上 下
410 / 526
第八章 真実を知る者

第409話 第八章 エピローグ 幸せな時を噛み締めて

しおりを挟む
(……ここ、は? ……シャー、リー?)

 いつの間に眠ってしまったのか、ぼ~っとする頭を抱えたままゆっくり目を覚ますと、むせび泣く幼女の顔が俺の瞳に飛び込んでくる。泣いている理由はわからないけれど、また俺はシャーリーを困らせてしまったらしい。

 背中には目の荒い木材の感触があり、どうやら俺は亮太さんの家のリビングまで戻ってきたようだ。

 だいぶ記憶が混濁しているけど、とにかく今はシャーリーを――

「トオル! トオルお兄さま! 無事で、無事で、よかった。本当に、よかったです!」

 必死に思考を回しながら、かける言葉を探していると、彼女は全力で俺の刀身を抱きしめ、激しく頬をこすりつけてくる。いつもの彼女よりも積極的で、言葉遣いも何か違うけど、俺が目を覚ました事がよっぽど嬉しかったらしい。妹キャラを演じれば俺が喜んでくれるとか、クルス姉辺りにでも吹き込まれたのかな? 

 母親の幻想を求めただけに留まらず、妹まで押し付けるようなら最低の彼氏だけど、プレイの一環と考えればちょっとだけ俺も嬉しいかも。

(おいおい、そんな俺が喜ぶだろうからって、お兄様なんて――)

 だが、お兄様という言葉を口にした瞬間、俺が今まで何をしていたのかを思い出し、頭の中がクリアになる。気を失う直前まで俺は、彼女の心の中にいて、もうひとりのシャーリーとも呼べる大切な存在を救ったのだ。

(今の、お兄様って呼んだのは、メイベル……か?)

「あ、ご、ごめんなさい。お兄さまが目を覚ましたのが嬉しくて、つい……」

 あの一連の出来事は俺の見ていた夢でなく、彼女がこの場にいる事はとても喜ばしいはずなのに、何故かメイは気まずそうに俺の刀身から瞳をそらす。

(なんで、そこで謝るんだよ)

「だって、この体はお姉さまのもので、お兄さまの側にいられれば、ぼくはそれだけで充分って」

 俺が気絶している間に一体何があったのかはわからないけれど、今までのメイとは打って変わって勢いがなく、意気消沈してしまっている。

 許可をするまで喋るなと、シャーリーが彼女に命令したとは考えにくいけど、もしそんな状況になっていたら、ちょっとだけ悲しい。

 シャーリーには悪いけど、女の子の事に関してだけは俺は贅沢な男だからな。シャーリーの妹がそこにいるなら、彼女とも触れ合えなければ気がすまないのである。

(メイの気持ちはわからんでもないし、その考え方については俺もとやかく言えないけど、それじゃさ、寂しすぎるだろ? シャーリーから何と言われようと、俺はメイとも話したい)

「お兄さま……」

(それと、お兄様禁止な。どうせ、反射的に声が出た時にシャーリーの体裁を取り繕おうとか考えてたんだろうけど、そうやってカッコつけて、自分を押し殺すのはやめろ)

 どの口が言っているのかと、皆から罵倒されそうだけど、そういう俺だからこそ彼女が感じているであろう本当の寂しさが良く分かる。

 側にいるだけで良いなんて言うのは、どう繕っても建前で、色々したいと欲にまみれるのが人間であり、男女というものなのである。

「ほら、言ったでしょ。トオルはそういうの気にしないし、むしろ嫌がるって」

「お姉さま……うん、わかった。えっと、トオル……お兄ちゃん。これで、いい、かな?」

(はい、よくできました)

 精神世界の時とは違い、彼女の頭をなでてやることは出来ないけれど、メイは俺の言葉に満面の笑みを浮かべてくれる。シャーリーともしっかり仲直りできたみたいだし、この件については兼ね万々歳かな。

「どうせトオルのことだ。ただ単に、お兄ちゃんって呼ばれたいだけなんだろうけどな」

(そ、そんなことねーし)

 それに、お兄様なんて呼ばれるほど俺は偉い人間じゃないし、そんな風に呼ばせていたらむず痒くて死んでしまう。

 まぁ、バルカイトの言う通り、お兄ちゃん! って響きが好きなのもあるけど。

「良かったですね、トオル様。妹様がお出来になられて、これで寂しくありませんね」

(お、おう……そう、だな)

 兄弟姉妹というカテゴリーの繋がりからか、義理の姉となった女神様が、異常なまでの反応を示した事に俺は恐怖する。

 メイベルの妹キャラが定着したのを良いことに、姉としての地位をアピールする算段なのかと思いきや、彼女は本当に嬉しそうに静かに俺に微笑みかけてくる。

 皆を平等に扱うと覚悟した手前、姉という特別な立場を隠すことばかり考えてしまう俺だけど、家族が増えたことを純粋に喜んでくれるクルス姉を見ていたら、情けない感情が込み上げて来た。

 弱いところは、彼女に全て見せつけたと言っても過言ではないし、近い将来、皆に打ち明けるのも悪くないのかも。妹と姉に本妻、それから大勢の愛人に囲まれて……俺にはもったいなさすぎると言うか、久方ぶりに強烈な罪悪感に襲われていた。

「お兄、わたし、いらない子?」

(……そんな訳ないだろ。アイリも、俺にとっては大切な家族だよ)

 それに、アイリみたいな引っ込み思案な女の子もいることだし、これからはもっと皆に気を配らないと。シャーロットなんか、同時に喋れる二重人格みたいなものだし、ますます気合を入れないと二人に振り回されちまう。

 浮かない表情で話しかけてきたアイリを安心させ、心に活を入れながら俺の一番大切な人の顔を見上げると、いつもと何かが違うことに俺は気がつく。

 それは、彼女の瞳の色であり、晴れ渡る空のような青色は左目だけに残り、反対側の瞳は、メイベルが乗り移っていた時の無邪気に澄み渡る琥珀色。いわゆる、オッドアイというやつになっていたのだ。

「私の顔に、何かついてる?」

 初めて間近で見る不思議な輝きに心奪われていると、見つめられていることに気がついたシャーリーが、照れくさそうな表情で俺のことを見つめ返してくる。

(あ、いや、瞳の色が両方違うなって思ってさ。オッドアイって初めて見るから、なんか新鮮で)

「変じゃ、無いかしら」

「変じゃ、無いかな」

 けれども、俺の返答は二人にとって予想外だったらしく、変わってしまった自分の部位を指摘された姉妹は、一つの声帯から別々の声音で同じ言葉を口にする。

 天使と悪魔、驚異のメカニズムに驚きたいところではあったが、自分のしでかした失敗にすかさず俺はフォローを入れた。

(変なもんか。むしろ、俺個人としては綺麗でかっこよくて、凄く好きだよ。ごめんな、心配かけて)

「ううん、いいの。受け入れてくれるだけで、私にとっては凄く嬉しいから」

 自分が気に入っているからと言って、何も考えずに不用意な発言はするべきじゃないなと猛省していると、彼女は俺の体を持ち上げ、椅子の上へと立てかける。

「それじゃあメイ。改めて、挨拶しよっか」

「うん、そうだね、お姉さま」

 姉妹の突然の行動に、今度は俺が驚かされるが、新しい自分たちとのケジメを二人は俺につけたいらしい。俺にとっては一人、新しい彼女と妹が増えただけだと言うのに、そういう律儀な所が大好きなんだよな。

 よし、俺も男だ。新たなシャーリーの出立に、喜びと敬意を持って応えよう。

「私、シャーリーこと、シャーロット・リィンバース」

「ぼく、メイこと、メイベル・リィンバース」

「「ふつつか者ですが、二人ともどもよろしくお願い致します」」

 こうして俺とシャーリーとの間に、メイベルと言う名の新しい絆が刻まれる。

 これから先、ジョナサン達との戦いがどうなっていくのかはわからないけれど、今はただ、家族の増えた幸せを、心から噛みしめるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...