俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第八章 真実を知る者

第403話 爆裂する闘志

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「落ち着くが良いカーラ。何もしておらぬよう見えるかもしれぬが、我も即座に結界を張る準備はしておる。クルスが弾き漏らした所で、そう安安と食らうことはない故、安心せい」

「そうだな。一応俺も聖剣の準備はしてたが、鉄壁姉さんが気ぃ張ってるなら必要ないかもな」

「わたしも、お姉、守る」

「え、え!? 何? もしかして、純粋に観戦してたのって私だけ!!」

 ただし、プロレス気分で観戦していたのはカーラだけだったようで、皆の対応に恥ずかしながら悲鳴を上げる。徐々に彼女の立ち位置が朝美みたいになってきているけれど、俺個人としてはなんだかとても嬉しい。

 それはともかく、メイベルには一言言わないと俺も俺で気が済みそうにない。同じ内容を二度言うのはあんまりカッコつかないのだけれど、自分の意志を伝える事は大切だと思うから。

(メイベル!)

「な、なんだよ」

(一対一の戦いだって、お前言ったよな)

「そ、そうだよ。これはぼくとお兄ちゃんの、二人だけの戦いなんだから」

(だったら! 何でお前は無関係の人達を狙おうとする! そんなの、悪魔が良くやる最低の行為じゃないか!)

「う……し、しらないよそんなこと! そんなところにいるあいつらが悪いだけで、ぼくは何にも悪くないんだから!!」

 二人だけの戦いと言いながら皆を連れてきてしまったことは、彼女の言う通り俺の落ち度なのかもしれない。けれど、武器の一つも抜かない彼女達へと意図的に危害を加えようとする姿勢は、真剣勝負を求める者として絶対に間違ってる! 

(俺の体が無くなった時、お前が助けてくれたこと、俺は今でも感謝してる。お互い敵として今は戦っているけれど、本当は優しくて、触れ合い方を知らないだけなんだってずっと思ってた。けど、これ以上関係のない俺の仲間達を狙おうとするなら、俺はお前を本当に悪い子だって認識する)

 彼女がただの悪魔なのか、俺達と同じ心を持っている存在なのかを知りたくて、メイベルにとっては意地悪であろう問いかけをしてみると、俯きながら両の拳に彼女は力を込める。すると、頬の辺りから小さな水滴が流れ落ちるのを俺は見逃さなかった。

「だって、ぼくは……ぼくは、お兄ちゃんが欲しいだけだもん!」

 彼女の詳しい事情までは俺にもよくわからないけれど、シャーリーや朝美のようにメイベルもまた何かを俺に求めている。それが、あの娘の流した涙で、救えるものなら救ってやりたいと自然と心が囁いていた。

「私も、同じ気持ちです。あの子からは何か、既視感のようなものを感じます」

 まるで自分の事のようにクルス姉が彼女を思った瞬間、俺の刀身が光を放ち、鍔にはめ込まれた魔導石から魔力が湧き上がり始める。俺はたぶん、物凄い親不孝ものだ。母さんの死に際から逃げ、父さんを一人残してこの世界に来た。だからもう逃げない! 俺は、俺は! 

(行こう、クルス。二人を助けに)

「はい、トオル様」

 現実と向き合って、今度こそ俺は、大切な人を救い出す!! 

全てのアレス現象をフェノメーン

 シャーロットを真似るように俺の体をクルス姉が地面へと突き刺すと、いつもとは違うピンク色の魔法陣が足元に描かれていく。

強固なるシュタルク封印をズィーゲン

 俺に読むことは出来ないが、描かれている内容もシャーリーの時とは違い、光も鋭く情熱的に彼女の体を照らしだす。

円環の理すらゲゼッツ デス アヌルス

 すると、小さな火の粉が刀身から生まれ、俺の心までも熱く焦がす。

打ち砕きセルストゥガーン

 そして、詠唱も佳境に入ると、激情の輝きが魔法陣の周りを鋭く駆け巡った。

我らを栄光へと導き給えディ アインハイト ツア エーレ!)

 ディアインハイトの詠唱を終えると普段の光ではなく、地面からは炎の渦が舞い上がりクルス姉を焼き尽くす勢いで彼女の全身を包み込む。

 白銀の鎧が発熱し赤みを帯び始めると、全ての装甲の継ぎ目が展開し、むき出しになったフレームから抑えきれない膨大な魔力が外界へと放出される。それと同時に鎧の色も元へと戻り、放出を終えたフレームが赤色に発光を始めると、フルフェイスのマスクが変形し端麗な彼女の素顔が顕になる。

 これがクルス姉と俺の新たな力、正式に契約を果たした女神と聖剣の、爆裂形態バーストフォーム

「感じます。トオル様の優しさを、熱くたぎる心音を! お姉ちゃんの心は今、マグマのように燃えたぎっているのです!!」

 俺の魔力を取り込んだクルス姉も、バーストの名に恥じぬ勢いで魔力の放出を再開するが、それでも間に合っていないようで性格まで弾け飛んでしまっている。

 堂々とお姉ちゃん言い始めたのは若干気になるけど、今は目の前にいる囚われの王女様を助け出すことに専念しないと。

「また変身とか、女神様って曲芸師かなんかだっけ? それにさ、こう言ったら嫌われちゃうかもだけど、お兄ちゃんの、剣に仕える神様ってどうなのさ?」

 そんなクルス姉とは裏腹に、更に落ち込んでしまったメイベルは、死んだ魚のような瞳で俺達へと問いかけてくる。強化されたクルス姉への妬みなのか、シャーリー以外にディアインハイトを使った俺に対する嫉妬なのか……まぁ、シャーリーの中から俺を見ていたという彼女の発言が本当ならディアインハイトのことも知っているだろうし、彼女のテンションが下がっている理由は後者なのだろう。

 それに、こんな男に忠を尽くす女神ってのもおかしな話ではあるし、そこにツッコミを入れられたら一生否定は出来ないだろうな。

「貴方に何と言われようと、私は一向に構いません。アマミヤ・クルスは、スクルドの名を捨てた、トオル様だけの女神なのですから!」

 とは言え、これが俺を支えてくれる女神なのだから、誰にも文句は言わせない。俺にとっては最高の、駄目駄目だけどかっこいい、義理の姉なのだから。

「お兄ちゃんだけの女神、か。面白いね。でも、ぼくには勝てないよ。だって、メイのちからは、お父様にさずかったものなんだから!」

「トオル様! 来ます!!」

(あぁ、今助けるからな、シャーリー!!)

 ディアインハイトの能力で一つとなった俺達へと、臆すること無くメイベルは正面から襲いかかってくる。魔力で練られた二本の爪は先程よりも巨大化し、一メートルほどの大きさで空間を切断しようとするのだが、炎を纏った俺の刀身が触れただけで水晶のように砕けてしまう。

「この!」

 右手が駄目なら左手と、反射的に振るった二本目も刀身が触れただけで離散し、驚く暇も与えられずにメイベルは、クルス姉の剣閃によって薙ぎ払われる。

 地面を転がり、起き上がったメイベルの体に傷らしきものは見当たらなかったが、胸の下に両手を当てると彼女は突然苦しみ始めた。

「からだ、熱い。いたい、いたいよ、お兄ちゃん」

「悪しき魂を浄化する事が、我々女神に与えられた本来の役目。貴方が心を入れ替えぬと言うのであれば、トオル様の炎は貴方の存在を焼き尽くす事でしょう」

 今まで俺も知らなかったけれど、この世界の女神様にはそういう力があるらしい。シャーリーが倒した魔神も塵となって消えていくし、悪を滅すると言う事は悪い心ごと浄化する行為なのかも知れない。だとすると、俺達が戦ってきた魔神たちには、改心しようという腹づもりが一ミクロンもなかったってわけか。

 けれども、誰かの助けになりたいと本心から心を入れ替えさえすれば、魂だけは助かるとかそういう事なのか? 

「うる、さいな。ただの犬のくせに、お兄ちゃんの、なにがわかるってのさ?」

「そういう貴方こそ、トオル様の何を知っていると?」

「ぼくはね、ずっと見てきたんだ。お兄ちゃんの弱さも、かなしみも。ずっと一人で悩んでて、ぼくならお兄ちゃんを、もっと幸せにできる! それに、お兄ちゃんをいちばん愛してるのはぼく! お姉さまでも、忠犬でも、ましてやそこの、野次の馬でもなんでもない! ぼくがいちばんお兄ちゃんの、こころのそこにふれたんだから!」

 それならメイベルは、俺の事しか考えられない目の前の女の子はどうなのだろう? 大局的に見れば、彼女の行動や考え方は確かに悪い事であり、俺だって肯定するつもりはない。それでも、彼女が俺を幸せにしたいと、一緒に居たいと願っている事は本心からの想いなんだって俺には伝わってくる。

 彼女の言う心の底とは夢の中での出来事で、俺の想いに一番近づいたのは間違いなくメイベルだ。あの時見た幻想が俺の求めているもので、クルス姉に話した以上に自分でも気づかないふりをしていた何かがあるのだとすれば、彼女はそれすらも見たのかも知れない。

 シャーリーよりも遠くて、シャーリーよりも近い存在。それが彼女の中にいるメイベルという女の子なのだとしたら、クルス姉と同じぐらい彼女は俺しか見えていないんだろうな。
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