俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第八章 真実を知る者

第401話 紫炎を纏う魔神の天使

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「逃げ出さずに来てくれるなんて、ぼく嬉しいな。お兄ちゃんの、愛情を感じるよ」

 笑顔で語りかけてくる偽シャーリーことファントムは、約束通りに俺達が現れた事にかなりご機嫌な様子。

 自分から誘ったデートの現場に大切な人が来てくれて、喜んでいる女の子。そんな形容がよく似合う今の彼女だからこそ、何故俺達が戦わなければならないのかと、余計に違和感を感じてしまう。

(なぁ、ファントム。どうしても俺達、戦わなくちゃいけないのか?)

「優しくしてくれるのは嬉しいけど、これはもう運命なんだよね。それと、今のぼくにはメイベルって名前があるんだ。良いでしょう、可愛いでしょ。お兄ちゃんは、メイって呼んでくれると嬉しいな」

 それに、彼女が名乗ったメイベルと言う名前、どこかで聞いたことがある。メイベル……そうだ! シャーリーに指輪をはめながら、あの国王が言ってた名前だ! 

 となると、今のシャーリーはやはり悪魔に体を乗っ取られてるって訳か。

(悪いな、メイベル。今の俺じゃ君のことを、可愛らしく呼んでやれそうにない)

「そっか、残念だな。けど、これからお兄ちゃんはぼくに負けて、たくさんメイって呼ぶことになるんだから!」

 だと言うのに、俺は目の前の彼女に対して親近感を覚えてしまっている。見た目がシャーリーだからなのか、夢の中での出来事が俺の心を引っ張り、彼女と話をしていると優しくなってしまう自分がいた。

「トオル様は負けません。必ずや私が、勝利へと導いてみせます!」

 そんな俺を奮起させるためか、俺を抱えたクルス姉が威勢よく啖呵を切る。すると、心の奥に小さな炎が灯るのを俺は感じた。

 例え彼女が何者でも、負けられない理由が俺にはある。俺の後ろにいる人達は、家族同然の大切な人達で、皆の前からいなくなるなんてこと俺には二度と許されていない。だから俺は彼女を倒し、この手にシャーリーを取り戻す。そしてもう一度、あの国王と戦って決着を付けるんだ!

「随分と自信満々だね。そういうきみは、お兄ちゃんのなんなのさ?」

「我が名はクルス、アマミヤ・クルス。トオル様をお守りする、トオル様だけの女神です」

「女神? ……あぁ! お父様の言ってた犬だ! お兄ちゃんの体を舐め回すなんて許さないぞ!」

「い、犬とはなんですか! 確かにこのクルス、トオル様へと生涯を捧げた身ではありますが、そのような不埒なことは断じて致しません。それにですよ、私は舐めるぐらいなら、トオル様に舐め回されたほうが興奮します!」

「うわ、さすが犬、そういうこと平然というんだ……けど、お兄ちゃんになら、ちょっとだけ舐められてみたいかも。そしたら、メッ! ってお仕置きして、今度はぼくが楽しむんだ」

 これから始まるのは、お互いの所有権を賭けた壮絶な戦い……のはずなのだが、気持ちを切り替えたのは俺だけらしく、二人の間に戦いの空気は訪れない。

 メイベルに乗せられて、いつもどおりのドMをクルス姉は発症させているし、こいつら本当に戦う気があるのだろうか……それに、ジョナサンが言っていたのは、犬は犬でもペットと言うより番犬の意味だからな。そういう所がわからない辺り、どこかしらこの娘も子供なんだ。

(それで、やる気がないなら帰るぞメイベル)

「わわわ、まってまって! んもー、お兄ちゃんって本当にせっかちだよね。ふぜいがわからないと、女の子にきらわれちゃうんだぞ!」

 難しい言葉を使いたがったり、少し突き放すだけで動揺してしまう所も、彼女の子供っぽさに拍車をかけている。なんかもう、言葉責めだけで勝てそうな気もするけど、それは流石に大人気ないしやめておこう。それに、これで少しは主導権を握れただろうしな。

(わかったわかった。それじゃあやるぞ、クルス!)

「はい、トオル様!」

 雑念を振り払い、戦うことに全てを集中させた俺は、白銀の鎧を纏う女神の姿となったクルス姉の左手に握られる。ウォーミングアップも兼ねて、まずはこの状態から始めるとしよう。

「なーんか、むさ苦しそうで趣味悪い。全身鎧とか臭そうで、いまどきはやらないよ。待っててね、お兄ちゃん。その悪臭女から、ぼくがすぐに開放してあげる!」

 そして、独自の理論でクルス姉をけなすメイベルも、全身から紫の炎を撒き散らし戦闘態勢を取った。

「む、何という邪悪な気じゃ。シャーロットの体を使っているとは、とても思えん」

 驚きと焦り、二つの感情が混ざり合うフィルの言葉を背にしながら、クルス姉は俺の刀身を水平に構える。

「いくよ、お兄ちゃん!!」

 背中の炎を翼に変え、楽しそうに笑ったメイベルは、俺達へと襲いかかる。右手にまとわす紫炎の爪を、勢い任せに振り下ろす彼女の一撃は、後方へと下がるクルス姉の鎧に浅く傷をつける。

「チッ、外した。でも!」

 先端を掠めさせただけで女神の鎧に傷を負わす圧倒的なメイベルの魔力、その二振り目が彼女の左手から間を置かずに繰り出されると、白銀の女神は上空へと無様に打ち上げられてしまう。

 しかし、動揺する素振りなど一切見せず体勢を整え直したクルス姉は、ふらつくこと無く地面へと着地した。

(クルス、大丈夫か?)

「はい、問題ありません。打点はしっかりと、外させて頂きました」

 彼女の言葉を信じるなら、生身へのダメージはほぼ無いと見て間違いないのだが、メイベルはやはり強い。セイクリッドと魔神の力、光と闇が合わさって最強に……はなっていないだろうが、しっかりと闇に転換できているように俺には思える。となると、手加減している余裕はないか。

 けれども、クルス姉はシャーリーと違って、俺との相性が段違いに良いわけではない。性癖が……とかそういう話ではなく、王都で契約した時も、いきなり全力を出しきった事が疲労を招いた原因だったようなのである。

 それはこの二日、お互いに魔力を流し込み合う事で見えてきた研究の成果であり、二人で辿り着いた一つの結論。ディアインハイトを使うにしても、もう少しだけ時間が欲しい。

「平気なふりしてるけどさ、本当は辛いんじゃないの、お・ば・さ・ん」

「……トオル様、私達が勝ったあかつきには、あの子のお尻を百万回ほど叩いてもよろしいでしょうか?」

(百万は多い、百回にしとけ)

「お兄ちゃん!?」

 そのためには、相手に主導権を握らせないことが重要で、挑発を挑発で返すクルス姉に俺はうまく言葉を合わせる。百叩きの刑とか個人的には趣味じゃないのだが、いやみったらしくおばさんとか言っちゃう悪い子には、お仕置きするのも大切なことだよな。

(それと、シャーリーの状況によっては要相談な)

「かしこまりました」

 それでも、あの体はシャーリーのもので、彼女の知らない約束を俺達の勝手で適応させるのは流石にまずい。女神にお尻を叩かれながら泣くのを我慢するシャーリーとか、想像するだけで色々とおかしくなりそうだもの。
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