俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第八章 真実を知る者

第387話 王都脱出

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(うっ……シャー……リー?)

「お気づきになられましたか、トオル様」

 俺の意識が目覚めたのは、二つの大きな谷の間。珍しく甲冑を脱ぎ捨てた女神状態のクルスが、二つの豊満な桃の間に俺の刀身を挟んでいる。揺れる胸の感触で目を覚ますとか、相変わらず最低だろ俺。

(クルス……か? ここは、天国……じゃ、ないよな)

「はい、クルスはいつでもトオル様のお側におります。ここに居るのも正真正銘、生身の体のアマミヤ・クルスです」

 シャーリーともまた違う、クルスの柔らかな感触があまりにも気持ちよさすぎて、ついに天国へと登ったかと思いきや、ここはまだ現実らしい。男を目覚めさせるには、女の柔肌……って、流石に知識が偏りすぎてるぞクルスくん。

(そっか……それで、状況は?)

「これから王都を脱出します」

(そうか……くっ、シャーリー)

 気持ちいい感触をごまかすために冷静沈着を貫いていると、厳しい現実を彼女に突きつけられる。最愛の人を見捨てて俺は、逃げ出すことを選んだんだ。

 けれども、その選択はたぶん間違って無くて、二人が助かるかは……これからって訳だよな。

「それよりも、今は、ここをどう切り抜けるかじゃ」

 クルスの胸とか気にしてないで、まずは状況を整理しないと。

 狭くて暗く、左右から光の差し込むこの場所は、どこかの裏路地。おそらく、住宅街の一角であると思われるが、二人はそこで何かをやり過ごしている様子。少ない魔力で辺りを探ってみると……なんだこれ? 臭気というか、魔物だらけじゃねぇか。今まで平和そのものだったリィンバースの都に、なんでこんなに大量の魔物が? しかも、空は赤く染まっていて、まるで世界の終わりみたいだ。

 そんな疑問はともかく、こいつらから二人は身を隠してたってわけか。路地の隙間からでっかいのが通り過ぎるのが見えるし、厄介そうだなこいつは。

(なるほど、状況は理解した。二人でも、危ない数なのか?)

「いえ、軽く倒せる相手とは思いますが、先程のトオル様のご様子を察しまして、お伺いを立ててからの方がよろしいかと」

「そういう事じゃて」

 今横切ったのはアークデーモンで、神にも等しい大型モンスターがわっさわっさといるものかと思いきや、そういう事では無いらしい。俺の事を心配して、目覚めるのを待っててくれたってわけか。クルスのくせに、憎いことをしてくれる。空気の読めなかったこいつが成長してるのを感じると、軽い嫉妬を覚えそうだ。

(わかった、とにかくここを離れよう。行けるな、クルス?)

「はい! トオル様のご命令とあらば、アマミヤ・クルス、全身全霊を持って、主の道を切り開きます!」

「トオルのため、全力を持って我も事を運ぼうぞ」

(よし、それなら早速……そういえば、カーラやアイリは?)

 心の底から俺を思ってくれる俺だけの女神に指示を出し、この場を切り抜けようと気合を入れた瞬間、ここにはいない仲間達の姿が頭の中を次々とよぎり始める。

「うむ、それなのじゃがな。最悪の場合を想定し、城門前を抑えるよう頼んだのじゃが、裏目に出たかもしれぬの」

(そんな!?)

「まぁ、心配するようなことは無いと思うがの。リースもついておるし、何より、バルカイトもおる」

「そうですね。そういう意味では、バルカイトさんが一番危険な気もしますし」

「じゃな。少しばかり、あいつの酒に付きおうたことがあるんじゃが、あれもあれで、女人にかける情熱が半端でないからのう」

 俺を心配させぬよう気楽な雰囲気を二人は作ってくれるが、都にひしめく魔物達の数を見て安心なんかしていられない。これ以上誰かが欠けるなんて、万が一にもあってはいけないんだ。

 それが例え、バルカイトであろうとも……

「では、行こうかの!」

「はい! トオル様、少しの間揺れると思いますが、我慢なさってくださいね」

 俺の長い沈黙から不安と苛立ちを感じとったのか、フィルが先陣を切り、鎧を纏い直したクルスが後に続く。

 路地裏を飛び出すと同時に飛び上がったフィルが、二本の槍で次々と魔物達を薙ぎ倒すと、その後方、俺を左手に握りしめたクルスが、彼女の討ち漏らしを右手から放つ炎弾で焼き尽くしていく。

 全てを槍で粉砕するフィルと、片手一本で剣と魔法を交互に使い分け的確に処理をするクルス。魔物に一切触れさせること無く空を舞う二人の女神の姿に、俺はあ然としてしまう。魔神相手でなければこれ程のものなのかと、二人の強さを改めて見せつけられ、彼女たちの力がチート級であることを思い知らされた。そうだよな、あんなんでも神様なんだよな……色んな意味で。

 フィルの水着とか、クルスのドMが頭をよぎる中、二人はついに城門近くへとたどり着く。するとそこには、数百を超える魔物の群れが渦を巻くように集まっていた。その中心、門の手前には、おそらくカーラとアイリが……

(カーラ! カーラ!! まさか、死んで……)

「はぁぁぁぁぁぁっ、旋風脚!!」

 数え切れない程の異形に覆われた絶望的な状況に皆の死を覚悟した瞬間、台風の目から巨大な嵐が発生し全ての魔物を吹き飛ばす。近くにあった見張り小屋や、荷馬車のたぐいまで消え去る中、片足を上げて止まっていたのは、龍の鎧を纏うカーラだった。

「お姉、拍手」

「褒めてる暇があるなら、次の準備する。私だって、そんなに長くは持たないんだから」

 辺りに敵がいない事を確認し警戒を解いたカーラは、能天気に手を叩く妹に向かって呆れた声を上げる。少々の傷は負っているものの、アイリもバルカイトも無事な様子で俺は安堵のため息を吐く。

「で、いったい誰が死んでるって? 私とリースのコンビ、舐めないでよね」

 それと、先程の俺の言葉もしっかりと聞こえていたようで、彼女は俺に視線を移すと軽い感じにウインクをしてみせる。今まで見たことのないカーラの一面に少しだけ胸の高鳴りを覚えるも、うまく目をつぶっていられずパチパチさせてしまう不器用加減に、不覚にも俺は笑ってしまう。

 亮太さんじゃないけど、こいつと居ると純粋に楽しくて、笑いとともに元気が出てくる。そんな彼女もまた、俺にとってはかけがえのない、無くてはならない存在なのだと心の奥に刻み込まされた。
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