俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第八章 真実を知る者

第379話 幼女の決意を尋ねる少女

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「シャーロット、起きてる?」

「んん……」

 シャーリーと二人、沢山の事について語り明かした翌日。日も昇りきらぬ時間から、一人の女性がノックとともに部屋の扉を開け放つ。

「あんたって存外、早起きよね。王女様なんだから、もう少し寝てたら良いのに」

 シャーロットを心配したカーラが、待ちきれぬと言わんがばかりにいの一番に飛び込んできたのだが、寝起きの悪いシャーリーは不機嫌に目を細めながら彼女の事を睨みつける。

 彼女をよく知る俺からすれば、これも仕方のない事と笑って済ませられるのだが、カーラからすればいきなり因縁をつけられているような状況で、その不条理さに憤怒しないか心配である。

「ほーら、起きてるんならシャキッとしなさいよ! これからどうするか、あんたの一存にかかってるんだから」

「これ……から?」

 しかし、カーラは別段気にした素振りも見せず、寝ぼけ眼のシャーリーの体を少し強めに揺さぶり続けた。

 どうやら彼女は、シャーリーの決断を確かめに来たらしい。ただ、この状態のシャーリーが、まともに会話など出来るだろうか? 

「そう、これから! あんたが本当に、この国を取り戻す覚悟があるのかって、私は聞きたいの」

「とり、もどす……当然、戦うわよ。全員ぶっ飛ばして、トオルと一緒に……一緒に……」

 不完全な状態のシャーリーが、どんな回答をするのかと内心ハラハラしていたのだが、彼女の中に根付いた決意は相当に深く、この状態であろうと彼女は自然に言葉をひねり出していた。

「わかった。そこまで言うなら、私も全力で付き合ってあげる。それじゃ、また後でね」

 シャーロットがどうしたいのか、本当にその一言が聞きたかっただけらしく、カーラはあっさりと部屋を後にする。なんだかんだで本当に、カーラは面倒見が良いよな。仲間思いで優しくて……なんて言ってると、シャーリーがまたヤキモチ焼きそうなので、考えるのはやめることにしよう。

「ママー、起きてますかー」

 それから程なくして今度はリースが部屋を訪れるも、シャーリーの頭は回っていないのか、唸り声を上げながらゆっくり頭を揺らしている。

「こんな時でもママは、いつもどおりで可愛いです」

 無防備なシャーリーの頭の上にリースが右手を乗せると、彼女は嬉しそうに目を細め意味のない言葉を口にする。これが一国の王女様だって言うのだから、リースの気持ちもわかる気がした。

「パパも、そう思いますよね」

(ばれてたか)

「当然です! リースはいつでも、パパと一心同体なんですから」

 母の頭を撫で回しながら誇らしげに微笑む娘いわく、パパのプライバシーは彼女にまで筒抜けらしい。念話の出来る時点で、もしやとは思っていたけど、心で会話が出来るのも良し悪しだな。

「……あれ? リース? 私……」

 直後、寝ぼけていたシャーリーの意識が覚醒し、同時に彼女の頭からリースは手を放す。母親のプライドだけは傷つけまいとそのタイミングでどけるとは、なんという策士。まぁ、怒られるのを警戒して、咄嗟に手を引いたというのが正しい見立てなのだろうけど。

「おはようございます、ママ。調子の方は、いかがですか?」

「えっと、お腹の方は、疼いてない」

 何事も無かったかのような笑顔を見せるリースにつられて、呪印の浮かび上がる辺りをシャーリーは撫で回す。フィルに渡されたエリクシルを飲んでから丸一日、彼女のお腹が光るような事はなく、今のところは安定しているようだ。

「そうですか、良かった」

「もしかして、心配してくれたの?」

「もちろんです! ママは大切な、私のママですから」

「ありがとうね、リース」

 血の繋がりだけでなく、種の壁すら超えてお互いを支え合う二人を見ていると、まだまだ世の中捨てたもんじゃないなと思えてくる。世界に生きる全ての者が、慈愛の精神で満たされていたら……なんて妄言はともかく、幸せなはずのシャーリーが娘の前で突然ため息を吐いた。

「どうかしましたか、ママ?」

「お腹が空いたのだけれど、朝食は、食べれないのよね」

 ここ数日の間でシャーリーの腹ペコキャラが突然ブレイクを始めたけど、今まであまり気にしてこなかっただけで、食べること自体は好きだったもんな。アイスクリンの食べ歩きとか、本当に懐かしい。

「ママのその呪印、リースが変わりに受けられれば良かったのですが……」

「子供がそんなこと言わないの。これでもママは、とっても強いんだから」

「はい! 私にとってママは、世界一のママです!」

 自分がママの代わりになれたらと塞ぎ込んでしまう娘の愛情に、力強い笑みをシャーリーは浮かべる。母親であろうとする幼女の姿をした王女様の決意に、義理の娘であるリースも満面の笑みを浮かべた。

「とりあえず、皆の所に顔を出しましょ。フィルから薬をもらわない、と……」

「こんな風に、なっちゃうわけですね」

 リースが安心した所でベッドからシャーリーが立ち上がろうとすると、彼女を掌握した空腹が幼女の体を地面へとへばりつかせようとする。その瞬間、リースが彼女を支えることで事なきを得たが、一人で歩くのは無理そうだな。

「わかりました、リースがママの支えになりましょう。パパをとってきますので、もう少しベッドに座っていてください」

 ふらつく母の体をもう一度ベッドの上に座らせると、リースは俺を背中に背負いシャーリーの手を握る。

「私のほうが子供みたいで、なんだか恥ずかしいわね」

「困った時には助け合う。それが家族だと、リースは思っていますから、細かいところは気にしないでください」

 できた娘に連れられて部屋を後にしたシャーリーは、少しだけ頬を染めながらゆっくりと階段を降りていく。

「いつまでも降りてこないと思ったら、シャーロットの所に顔を出してたってわけね」

 一階に併設されている食堂のテーブルには、既にカーラとフィルが座っており、食べ終えた食器がきれいに並べられている。普段の彼女を見ていると全くイメージとして湧かないのだが、意外とカーラは几帳面でものの並べ方なんかにはうるさいのである。

「良いではないか。家族を心配する行為は、生物にとって当たり前の行動じゃて」

「……フィル……くすり……おねがい」

「おっと、そうであったな」

 縦肘をつくカーラの事ばかり考えていたが、体力の限界に片足を突っ込んだシャーリーの口調は、少し前までの寡黙なものへと逆戻り。フィルから渡された瓶の蓋を開けると、彼女は青い液体を一口に飲み干す。

「はぁぁぁぁぁっ、いきかえるわぁ」

「おっさん臭いわよ、シャーロット」

 エリクシルの回復作用によるあまりの気持ちよさに、完全にオヤジになったシャーリーは、無慈悲にツッコミを入れるカーラの事を無言で睨み返す。

 こんな表情もするのかと、新たなシャーリーの一面が見れて俺としては嬉しいのだが、彼氏相手にこういう姿はあんまり見せたくないんだろうな。男の俺でも、カッコ悪い姿は見せたくないと思ってるわけだし、女の子ならなおさらか。
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