俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第八章 真実を知る者

第375話 不安と答えと

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「……ごめんなさい、また迷惑かけて」

 女将さんに連れられて、二階の部屋に運び込まれたシャーリーは、皆に向かって頭を下げる。

 部屋の広さの都合から、ここに居るのはカーラとリース、そしてフィルの三人だけだが、彼女の謝罪に全員が一斉に首を横に振る。

「迷惑だなんて思ってないわよ。それに、元はと言えば、私達の責任じゃない。トオルにも言ったけど、恨みつらみの感情があるなら、今からでも私を刺しなさい」

 シャーロットが悪いだなんて、この中にいる誰一人として思っていないだろうけど、今度はカーラがあの時の調子で私を斬れと言ってくる。

「そんなこと出来ないって、トオルなら言ったでしょうね。それに、リースもなついているんですもの、今更あなた達のことを、悪者扱いなんて出来ないわ」

 修練場でぶん殴られた時の陰気臭い雰囲気が蘇り、一瞬肝を冷やしかけたが、シャーリーは笑顔でカーラの言葉を否定した。

「まっ、今更斬られてあげても、トオルが絶対に泣き出しそうだから、そういう訳にはいかないのよね。それと、ちっこい竜ならともかく、同じぐらいの人間に背中から両肩掴まれるのは、ちょっと怖いんだけど」

「あ、ごめんなさい。つい、いつもの癖で」

 そんな二人を心配してか、リースは両手を後ろからカーラの肩にそっと乗せる。シャーリーの足に掴みかかっていた頃のように、カーラは悪い人間じゃないと主張したいのであろう。

 本人も癖と言っているし、彼女にも悪気は無いのだろうけど、後ろからがっちり掴まれるのは圧力が凄いのもわかる気がする。

 俺がもし人間の体だったら、今のリースに抱きつかれた瞬間、動けなくなる自信がある。もちろん、大人シャーリーやカーラにだってそうだし、男で身長低いって、本当にメリットが無いよな。

 と言うより、俺が泣き出すって……カーラが死んだらとか、考えたくもない。

「それで、結局のところ、呪印の発動はまちまちな訳だ。そんな体で、本当に戦えるの?」

「大丈夫よ、ってはっきり言えない所が情けないけど、だましだまし付き合っていくしかないわね。サクラでも消せない呪印なら、それこそ、大賢者とか導師なんていう、神にも匹敵する治癒術の使い手でもないとどうにもならないわよ」

 それに、呪印についてはわからないことだらけで、本当に戦えるのかと俺もカーラと同じ気持ちではあるけど、シャーリーの気持ちを考えると一概には否定できない。

「すまぬな。我等二人は、治癒術に置いてはからっきしでの。アポロン、アスクレピオス、パナケイア辺りと連絡が取れればよいのじゃが」

 しかも、フィルはフィルで、凄い名前の神様を片っ端からあげていくし、どんだけ広いんだよ神様ネットワーク。というか、そんなにいるのかよこの世界。

「良いのよフィル、これ以上、神様に頼ろうなんて思ってないもの。それに、二人がいてくれるのもトオルのおかげな訳だし、私の立場からすれば、頼めるようなものでもないしね。後は、これを作り出した元凶に聞くのが、一番手っ取り早いと思うのだけど」

「であれば、どれほど効くか定かではないが、こいつを使うと良かろう」

 不利な状況であることを理解しながら、それでも押し通ろうとするシャーリーの決意に突き動かされ、一本の瓶をフィルは差し出す。瓶いっぱいに詰め込まれた青色の液体を見た瞬間、げんなりとした表情をシャーリーは浮かべた。

「……またエリクシルって、神様が関わると、もう何でもありね。私の築いてきた常識が、一瞬の内に瓦解しそう。けど、これを作れるってことは、あそこにいるのは神にも匹敵する、本物の魔神って可能性が高いわけね」

 フィルの渡したそれは、グラシャラボラスとの戦いの時、霧崎がよこしたあの液体。俺の記憶ではもう少し、ドロっとしていたような気がするのだけれど、製法とか純度とか、作る存在によって中身が少し違うのかも。

「手元にある予備は二本。今日と明日は食事を取らず、これで体を保つが良い」

「そうね、朝食べた美味しいパンのせいで、夜の食事にありつけなかったら最悪だものね」

 特に不満の声も上げず瓶の中身を飲み干すと、意味深な言葉をシャーリーは口にする。

「なんじゃ、聞こえておったか」

「えぇ。半分は、トオルがいてくれてるおかげだけど」

 気持ち悪いと嘆いていた中、食べ物が悪い影響を与えているとフィルが口にしていたのを、彼女は聞いていたのだろう。俺が居ることで彼女の役に立てるなら、それはとても嬉しいことだ。

「……ねぇ、シャーロット。本当にこのまま戦っていいの? 逃げるって選択肢もあるんじゃない?」

 しかし、ドーピングまでして戦おうとするシャーリーの姿に、カーラはとても不安な表情を浮かべる。

「カーラまで、そんな事言う?」

「私はただ、トオルに泣いてほしくないだけよ。あんたに何かあった時がトオルが一番かなしむって、私にだってわかるんだから」

 彼女は常に俺のことを考えていてくれて、女神であるクルス以上に入れ込まれているような気がする。そのせいか、シャーリー以上に無茶をしそうで、彼女が一番危ういように俺には思えた。

 それに、二人が喧嘩をしているように見えたのか、悲しそうな表情をリースも浮かべているし、ここは一人の男として、何かドーンと言わないと。

「ともかくじゃ、今はゆっくり休んで、一晩考えるのが良かろう。トオルもそうじゃが、リースも悲しんでおるしの」

「心配ばっかりかけて、ダメなママでごめんね」

「大丈夫です。ママが大変なことは、私もよくわかっていますから」

 リースを安心させようと、大きく息を吸い込んだ瞬間、その役はフィルに奪われてしまったが、話がまとまったようなので良しとしよう。

「それじゃ、私はこの辺で。リース行くわよ」

「あっ、待ってください、カーラさん」

 その直後、少しきつめな言葉を残すと、リースを連れてカーラは出ていった。

「人間とはまことに、不器用なものじゃの。それ故に、愛おしくもあるのじゃが。さて、我もひとまず出ようかの。トオルよ、シャーロットを頼んだぞ」

 どうにもならない現状に、自然と苛立ちを感じてしまうカーラの気持ちを理解しながら、フィルも部屋を後にする。人生を左右するこの局面、俺達はどうするべきなのか、重い選択を迫られていた。
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