俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第七章 復讐と裏切りの円舞曲(ワルツ)

第343話 禍々しい魔導の欠片

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「つるぎさんも、あさみおねえちゃんも、いっちゃうの?」

「ごめんね、クロエ。また今度、お歌いっぱい聞かせてあげるから」

「……うん」

 天道との話がまとまり、俺達五人が奥へ進もうとすると、寂しそうにクロエちゃんが彼女の袖を掴んで引っ張る。

 せっかく再会できたというのに、ここでクロエちゃんとお別れするのは俺も寂しい所だけど、皆の安全を確保するためには必要な事。

 けど、このまま彼女を騎士団に預けるのは、なんだか危険な気がする。誰が何と言おうと、俺はまだボーゲンハルトの事を信用しきってはいない。

 そこで俺は、残ったフィルに全てを託すことにした。

(すまないフィル、助けた人達の……特に、クロエちゃんの護衛を頼めないか? 無いとは思うけど、罠って可能性も捨てきれないし、こっちにフィルが残ってくれると凄く安心できる)

「うむ、トオルたっての願いじゃ。こちらは我に任せるが良い」

 年の功と言うべきか、文句の一つも言わずにフィルは、俺の願いを聞き入れてくれる。流石に申し訳ないし、後でしっかりお礼をしよう。

「クロエとやら、トオルの代わりに我がそなたを守る事になった。名はフィルじゃ、よろしく頼む」

「ふぃる、おねぇちゃん? なんだか、おもしろいしゃべりかただね」

「む、そうかの?」

「うん!」

 古風なフィルの喋り方がツボに入ったようで、クロエちゃんは彼女になつき、フィルのしなやかな手を優しく握る。こっちはこっちで、姉と言うか母と言うか……とにかく、これで何とかなりそうだ。

「そんじゃ、俺もこっちだな。鉄壁姉さん一人に、全員任せるのは忍びねぇし」

「鉄壁とは、我のことか?」

「あぁ。どんなに動いても、あの水着で全く見えないから鉄壁。間違ってないだろ?」

「確かにアレは、特別な布地で作られてはおるが、その呼び名は受け入れがたくあるぞ」

 最後に残ったバルカイトは、絶対にシャーリーについてくるものと確信していたのだけど、別行動を選びフィルについていこうとする。クロエちゃんの護衛が増えるのは嬉しいことなのだけど、小さな子の前で、あの服の話は自重していただきたい。

 あんな際どいのにクロエちゃんが興味を持ったら、セリーヌさんに対して俺が死んで詫びなければいけなくなる。それぐらい、あの水着はあぶない水着なのだ。

「バルカイト、二人のことをお願いね」

「お嬢も、気をつけてな」

 小さな不安をいだきながらバルカイト達の出発を見送ると、俺達五人も洞窟の奥へと進んでいく。すると、今まで感じる事のなかった禍々しい魔力の波動が、嵐のように体の中を吹き抜けた。

「オーガにオルトロスにちびデーモン、なかなかニッチなのを揃える盗賊じゃない。更にきな臭くなってきたわ」

 暗闇の奥から現れたのは、多種多様な魔物の群れ。人並み外れた巨体のオーガに、双頭の首を持つ獣オルトロス。そして、三叉の槍を携え空を漂う小さなデーモンと、凶悪な魔物達の姿に一筋の汗が流れるが、焦らず俺は刀身に魔力を込める。

 そんな群れの中心へと恐れず一息で踏み込むと、小さな鬼が飛び回る暇すら与えずに、数体の魔物を光の剣でシャーリーが斬り伏せる。

「我は願う。氷の精霊フェンリルよ、凍てつく波動を放ち、彼らの脚を封じ給え。凍りつけ! アイシクルバインド!!」

 突出したシャーリーに魔物の視線が集中すると、まるで狙っていたかのように、天道が敵の足を止める。

「威力は最小限に……サラマンダー! エクスプロード!!」

 二人が作った隙を逃さず、火炎の魔弾を放ったクルスが大半の敵を掃討すると、残りの数匹をシャーリーが仕留め、魔物はあっさりと全滅した。

 ボーゲンハルトが入り込む隙もない三人の完全な連携に、小さな感動を俺は覚える。我の強い三人が、ワンフォーオール・オールフォーワンの精神で戦えるようになるなんて、俺も俄然やる気が出てきた! このまま魔神を全員倒して、この国に平和を取り戻す! なんて、そう簡単にはいかないよな。

「お見事です。姫様」

 しかも、完全に開き直っているのか、ボーゲンハルトは上司を持ち上げる係長みたいになってるし、こいつは一体何のために付いてきてるんだか。

 役に立たない騎士団長の姿に俺が呆れ果てていると、洞窟最奥部にある大きな部屋へとシャーリー達はたどり着く。その部屋の中心には、魔法陣の描かれた床と奇妙な機械が設置されていて、各々三人は渋い表情を浮かべる。

「……なんというか、これは完全に……」

「はい、外道の所業と言わざるお得ません」

「それに、この腐臭……何をしていたか考えるだけで、吐き気がするわ」

 俺には全くわからないけど、結局ここの盗賊達は悪魔崇拝者みたいな奴らで、さらってきた人達を使い人体実験をしていた。という解釈で良いのだろうか? 

「シャーロットさん、見てください」

 推測する俺の隣で、機械に近づいたシャーリーが辺りを見回していると、後ろからクルスに声をかけられる。

「ん? どうした……!?」

 振り返った彼女がクルスに近づくと、目の前に置いてある奇妙な石の塊に驚きを示した。

「これって……ガンザナイト」

 幅の広い机の上に置かれていたのは、青黒い輝きを放つ、奇妙な形をした魔導鉱石たち。

(ガンザナイトって言うと、ナベリウスとバズーが使ってた?)

「えぇ。あの時のものとは硬度が違うけど、なんでこれが、こんな場所に大量に」

 初めて出会った魔神達が、魔力の限界を超えるために使ったあの石の塊が、二十個近く机の上に乱雑に置かれている。あの時は、ディアインハイトの力で何とかなったけど、その時のものより大きく、これがもし実験のために使われていたとしたら……

「……しゃー、ろっと」

「ん? あ、アサミ!?」

 シャーリーにクルス、そして俺の三人が魔導鉱石について考えていると、弱々しい天道の声と共に、何かの倒れる音が後ろから聞こえてくる。それを不審に思ったシャーリーが振り向くと、左手で口を抑えながら天道がうずくまっていた。

「うぅ、ごめん。それ見てたら、つわりが……」

「……どういうギャグなのよ、それ」

「あはは、少しでも気を紛らわせようと思って……!?」

「アサミさん? アサミさん!」

 禍々しい輝きを放つガンザナイトという魔石が、どんな影響を彼女に与えているのかはわからないけど、そんな事、今は考えてる場合じゃない! なんで朝美が、こんなにも苦しまなきゃならないんだよ。彼女が何か、悪いことでもしたってのかよ?

「……ごめん、はいても、嫌いにならないでね」

「バカ」

「姫様! 部屋の奥に人影が!!」

 少しでも彼女を安心させようと、精一杯の作り笑いで天道に微笑みかけるシャーリーの後ろで、部屋の奥を指差しながらボーゲンハルトが騒ぎ出す。こんな時にと思いながらも、指先の方へと視線を向けると、フードを被った人影が部屋の外へと走り去る所だった。

 あいつが黒幕なのかも知れないけど、天道の体調が最優先であり、今は一刻も早くここから立ち去らないと。

「いこ、しゃーろっと。おわないと」

 しかし、苦しみながらも当の本人は、奥へ行こうとシャーリーの袖を引っ張る。

「でも……」

「だいじょうぶ。それに、はなれたほうがきぶん……うっ!」

 このまま奥へ行くことも、ここから離れる手段の一つではあるが、どこかで戦闘になりでもしたら、それこそ彼女が危うくなる。天道なりに考えての発言だとは思うけど、そんな無茶をしたら、いつもの俺とかわらな……そっか、皆はいつも無茶する俺を、こんな気持ちで見ていたんだ。その辛さが今、本当の意味でわかったような気がする。
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