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第七章 復讐と裏切りの円舞曲(ワルツ)
第338話 潜入準備
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「あそこに見える洞窟が、我々の掴んだアジトになります」
木々生え揃う、山の上の斜面から見下ろす先には、情報通りと思われる鉱山の入り口が、俺達を待ち構えている。左右に見張りが二人と、典型的なお約束ではあるが、正面からの強行突破は避けるべきであろう。
一人を取り逃がす、もしくは、奥に伏兵が潜んでいた場合、さらわれた人達が危険にさらされる可能性が高い。あくまで目的は、クロエちゃん達の救出であり、そこを履き違えては言語道断。皆の安全を第一に、慎重に行かないと。
「入り口には見張りが二人……他に、入れるところはないの?」
「周囲を兵に散策させれば、あるいは」
ボーゲンハルトの言う通り、時間をかければ新しい道が開けるかもしれないけれど、今は一分一秒でも時間が惜しい。早さと安全を並行させるのは難しいけれど、それをやり遂げるのが俺たちの使命だ。
「……強行突破は、避けるべきよね」
「あの程度の賊でしたら、数で押し切れば問題はないかと」
「私達の目的は、あくまで民の救出。彼らを危険に晒すような行動は、極力避けるべきと思わない?」
「流石は姫。民の安全を第一に考えるそのお姿、私も見習わなくては」
坑道への入り口を、細い目で睨み続けるシャーリーも俺と同じ考えらしく、慎重に慎重を重ねようとする。それに比べてボーゲンハルトは、総勢二十名からなる騎士団の精鋭達を引き連れ、アジトの中へと強引になだれ込もうとした。
シャーリーをおだてる彼の姿勢はともかく、ボーゲンハルトの中に慎重という言葉は無さそうだ。
「って事は、誰かが囮になって侵入して、居るであろうクロエちゃん達を確保してから賊を退治する。って流れになるのかな?」
「そう言うことね。囮は私が務めるから、さらわれた人達の安全を確保する準備をお願い」
「姫様!?」
「この中で、無害な少女のふりができるのは私だけ。それに、セリーヌと約束したの。クロエは、私が助けるって」
自ら、死地へ飛び込まんとする姫の姿に、焦りの色を浮かべるボーゲンハルトであったが、彼女の決意の固さに言葉をつまらせる。
シャ―ロットの騎士であろうとする大変さは、俺も重々承知の上だけど、それが彼女なのだから仕方がない。こういう時、いつでも側で見守れるこの体は、彼女にとって、ある意味最適なのかも。
「でしたらその役目、私も適任なのではないかと」
姫と騎士、二人の主張がぶつかる中、右手を上げたのは幼女姿のクルス。彼女の容姿なら、敵を欺く事も容易であると思われるが、それならそれで、クルス一人に行かせればいいという結論に至らないだろうか?
「失礼ですが、お嬢様のお名前は?」
「クルスです。アマミヤ・クルスです」
「クルス様。姫のこと、よろしくおねがい致します」
しかし、思いの外ボーゲンハルトは物分りがよく、二人で侵入することをあっさりと認めてくれる。彼が見せる心変わりの早さに、言いしれぬものを感じたのだけど、俺の考えすぎだろうか?
それと、フルネームで説明する辺り、スクルドはよっぽど、その名前が気にいっているんだろうな。勢いだけで決めてしまった真名だけど、喜んでくれてるなら、それでもいいか。俺としても、嬉しいしな。
「はい、お任せください。シャーロットさんも宜しいですか?」
「もちろん。クルスが一緒だと、とても心強いわ。後は、そうね、外にいるみんなと、連絡がとれると良いのだけど」
「でしたら、端末の通信機能を使いましょう。シャーロットさん、アサミさん、お手持ちの端末を私にお貸しください」
両手を差し出すクルスの手のひらに、各々取り出したスマホのような端末を乗っけると、慣れた手付きで両方の画面を、彼女は素早く操作する。
服を作れる辺りから便利機能満載感はたしかにあったけど、通信機能まで備えているとなると、本当に万能だ。今までも……って、この二人が別々に行動した事、一度もなかったっけ。そういう意味では、初めての状況になるわけか。ちょっと緊張してきたけど、胸元から端末を取り出しやがった天道のせいで、俺の頭の中はめちゃくちゃだよ。
確かに大きな膨らみだけど、アレをどうやって、あそこに隠しているのかね。それに、角張ってる所が絶対に痛いだろうし、変なところで無茶するんじゃないよ。アザにでもなったら……って、エッチなこととか考えてないからな!
「そういう所が、すでに怪しいんだけどねー」
しかも、心の中をズケズケと読まない!
「これでよし。シャーロットさんは、必要になったらこのボタンを押してください。アサミさんは、端末から音が聞こえたらこちらのボタンを。後は、喋るだけで大丈夫ですので」
「使いこなせる自信はないけど、本当にすごいわね、これ」
「ほんとほんと、完全にスマホだよねー。まっ、機能はかなり魔法よりだけどさ」
暇を持て余した天道さんに、いつもどおり絡まれていると、設定の終わったクルスからお互い端末を返される。中世ぐらいの技術レベルだと、こういう機械ってやっぱりオーパーツなんだろうな。
「よし。行きましょうか、クルス」
「はい」
(てんどうー、フィル―、こっちは頼んだぞー)
準備を終えたシャーリーは、クルスを引き連れ斜面を下っていく。天道一人残すのは不安だけど、あっちにはフィルもバルカイトもいるし、問題無いだろう。
木々生え揃う、山の上の斜面から見下ろす先には、情報通りと思われる鉱山の入り口が、俺達を待ち構えている。左右に見張りが二人と、典型的なお約束ではあるが、正面からの強行突破は避けるべきであろう。
一人を取り逃がす、もしくは、奥に伏兵が潜んでいた場合、さらわれた人達が危険にさらされる可能性が高い。あくまで目的は、クロエちゃん達の救出であり、そこを履き違えては言語道断。皆の安全を第一に、慎重に行かないと。
「入り口には見張りが二人……他に、入れるところはないの?」
「周囲を兵に散策させれば、あるいは」
ボーゲンハルトの言う通り、時間をかければ新しい道が開けるかもしれないけれど、今は一分一秒でも時間が惜しい。早さと安全を並行させるのは難しいけれど、それをやり遂げるのが俺たちの使命だ。
「……強行突破は、避けるべきよね」
「あの程度の賊でしたら、数で押し切れば問題はないかと」
「私達の目的は、あくまで民の救出。彼らを危険に晒すような行動は、極力避けるべきと思わない?」
「流石は姫。民の安全を第一に考えるそのお姿、私も見習わなくては」
坑道への入り口を、細い目で睨み続けるシャーリーも俺と同じ考えらしく、慎重に慎重を重ねようとする。それに比べてボーゲンハルトは、総勢二十名からなる騎士団の精鋭達を引き連れ、アジトの中へと強引になだれ込もうとした。
シャーリーをおだてる彼の姿勢はともかく、ボーゲンハルトの中に慎重という言葉は無さそうだ。
「って事は、誰かが囮になって侵入して、居るであろうクロエちゃん達を確保してから賊を退治する。って流れになるのかな?」
「そう言うことね。囮は私が務めるから、さらわれた人達の安全を確保する準備をお願い」
「姫様!?」
「この中で、無害な少女のふりができるのは私だけ。それに、セリーヌと約束したの。クロエは、私が助けるって」
自ら、死地へ飛び込まんとする姫の姿に、焦りの色を浮かべるボーゲンハルトであったが、彼女の決意の固さに言葉をつまらせる。
シャ―ロットの騎士であろうとする大変さは、俺も重々承知の上だけど、それが彼女なのだから仕方がない。こういう時、いつでも側で見守れるこの体は、彼女にとって、ある意味最適なのかも。
「でしたらその役目、私も適任なのではないかと」
姫と騎士、二人の主張がぶつかる中、右手を上げたのは幼女姿のクルス。彼女の容姿なら、敵を欺く事も容易であると思われるが、それならそれで、クルス一人に行かせればいいという結論に至らないだろうか?
「失礼ですが、お嬢様のお名前は?」
「クルスです。アマミヤ・クルスです」
「クルス様。姫のこと、よろしくおねがい致します」
しかし、思いの外ボーゲンハルトは物分りがよく、二人で侵入することをあっさりと認めてくれる。彼が見せる心変わりの早さに、言いしれぬものを感じたのだけど、俺の考えすぎだろうか?
それと、フルネームで説明する辺り、スクルドはよっぽど、その名前が気にいっているんだろうな。勢いだけで決めてしまった真名だけど、喜んでくれてるなら、それでもいいか。俺としても、嬉しいしな。
「はい、お任せください。シャーロットさんも宜しいですか?」
「もちろん。クルスが一緒だと、とても心強いわ。後は、そうね、外にいるみんなと、連絡がとれると良いのだけど」
「でしたら、端末の通信機能を使いましょう。シャーロットさん、アサミさん、お手持ちの端末を私にお貸しください」
両手を差し出すクルスの手のひらに、各々取り出したスマホのような端末を乗っけると、慣れた手付きで両方の画面を、彼女は素早く操作する。
服を作れる辺りから便利機能満載感はたしかにあったけど、通信機能まで備えているとなると、本当に万能だ。今までも……って、この二人が別々に行動した事、一度もなかったっけ。そういう意味では、初めての状況になるわけか。ちょっと緊張してきたけど、胸元から端末を取り出しやがった天道のせいで、俺の頭の中はめちゃくちゃだよ。
確かに大きな膨らみだけど、アレをどうやって、あそこに隠しているのかね。それに、角張ってる所が絶対に痛いだろうし、変なところで無茶するんじゃないよ。アザにでもなったら……って、エッチなこととか考えてないからな!
「そういう所が、すでに怪しいんだけどねー」
しかも、心の中をズケズケと読まない!
「これでよし。シャーロットさんは、必要になったらこのボタンを押してください。アサミさんは、端末から音が聞こえたらこちらのボタンを。後は、喋るだけで大丈夫ですので」
「使いこなせる自信はないけど、本当にすごいわね、これ」
「ほんとほんと、完全にスマホだよねー。まっ、機能はかなり魔法よりだけどさ」
暇を持て余した天道さんに、いつもどおり絡まれていると、設定の終わったクルスからお互い端末を返される。中世ぐらいの技術レベルだと、こういう機械ってやっぱりオーパーツなんだろうな。
「よし。行きましょうか、クルス」
「はい」
(てんどうー、フィル―、こっちは頼んだぞー)
準備を終えたシャーリーは、クルスを引き連れ斜面を下っていく。天道一人残すのは不安だけど、あっちにはフィルもバルカイトもいるし、問題無いだろう。
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