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第七章 復讐と裏切りの円舞曲(ワルツ)
第330話 彼女のキスと壊れ始めた気持ち
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「……先輩」
(ん? どうした?)
「ご褒美」
花火の途中ではあったが、これからどうするべきかと頭の中で考えていると、鍔にはめ込まれたクリスタルに柔らかな感触が押し付けられる。一瞬、何が起きたのかわからなかったが、俺は天道に、キスされていた。
「ほんとだ。唇がしびれて、脳が蕩けそう」
(お、おま! なに、突然)
「約束したじゃんか。こんどキス、させてくれるって」
あまりの不意打ちから思考の回路が絡まり合い、慌てふためきながら恍惚な表情を眺めていると、浮かない顔の天道の言葉に火山での約束を俺は思い出す。
(悪い、また忘れてた。ごめん)
こんどしてやると言ったのは、俺のはずなのに、されて驚くとか最低すぎんだろ。むしろ、美少女に口づけされたんだから、男として喜べって話だ。
「もう、そうやって自分のこと、すぐに卑下しないの。先輩の存在は、先輩の思っている以上に私達に影響を与えてるってこと、もっと自覚してくれればそれでいいから。それに、先輩のことは私が守る。私が守るから……」
(……お前もさ、シャーリーみたいなこと、言うようになったよな)
「そうかな?」
(そうだよ)
不甲斐ない俺を抱きしめながら、彼女がかける優しい言葉にシャーロットの面影を感じてしまう。もしかすると俺は、自分で思っている以上に母性という名の愛情に飢えているのかも知れない。
「それじゃ私達、最初からきっと似た者同士だったんだよ。だからシャーロットも、先輩のこと好きになったんじゃないかな……はっ、ということは、先輩はシャーロットと同じぐらい、私のことも好きってことじゃ!」
(さあて、どうだろうな)
三度も泣かせた罪悪感からか、俺は気まぐれで彼女への言葉を濁してみる。シャーリーよりも先に天道と出会っていたら。俺がもし死なないで、天道が俺に告白していたら。そんなもしもがあったら、俺はこいつと恋に落ちていたのかもしれない。
そう思えるぐらい惹かれるものが、彼女の中には確かにあるのだ。それに、実際俺は、薙沙ちゃんのことが大好きだったわけだしな。
「それってそれって、私にもまだ、脈があるってことなのかな!?」
(あのなぁ。誰がなんと言おうと、俺が一番好きなのは、あくまでもシャーリーだからな)
「わかってるって。私が言いたいのは、愛人一号としてってことだよ。当然でしょ」
(当然でしょって……プライドとか無いわけ?)
「それを先輩が言う?」
(うっ、そう返されると言葉に困るな)
「でしょー。それに、大好きな人のそばに居られるなら、私はなんだってするんだから。愛人だろうが召使いだろうが肉奴隷だろうが」
(……いやまて、最後のは問題発言だろ)
「えー、先輩に毎日好き勝手に突かれるとか――」
(頼む……自重してくれ)
「はーい」
そんなこんなで、いつもの調子に戻った天道は、俺に酷いデジャブを残し、エロネタの化身として降臨する。天道の笑顔のためなら何だって出来ると言いたいけど、淫魔の感覚で付き合ったら、たぶん体が持たない。もう少し控えめになってくれると、俺としては嬉しいんだけどな。
「……ねぇ、先輩」
(ん?)
「私が先輩の一番になれる可能性って、もう百パーセント無いのかな」
天真爛漫ないつもの彼女に振り回された直後だからか、遠くを見つめる儚げな瞳に、自然と心が吸い寄せられていく。このまま何もしなかったら、元気な彼女がどこか遠くに行ってしまいそうで、俺を急激に不安にさせた。
「って、何言ってんだろな私。ついさっき、二番で良いって言ったばっかりなのに。でもさ、もし、もしもだよ。シャーロットが死んだりしたらさ、先輩は私を一番に……貰って、くれる?」
しかも、あり得ないほど真剣な眼差しで、あり得ないことを口にされたら、どうするべきかと俺も身構えてしまう。
(……お前、変なこと考えてないよな?)
「だから! もしも、もしもの話だよ! あー、今の無し! 今の忘れて。ただの、心の迷いだから。迷い、だか……」
(ん? 天道? どうかしたのか?)
「あっ、ううん! 大丈夫、大丈夫」
(もしかして、疲れたのか? 俺のために、無理しなくて良いんだぞ?)
「そんな事無い! そんな事、無いから……」
止む事のない、不安定な彼女の言動に危うさすら感じ始めたが、天道はそれを否定しここに居座ろうとする。
俺との思い出を作りたい。打ち明けたいことが沢山ある。そんな気持ちはわからなくもないが、放っておけないという気持ちの方が、心の中で強くなっていく。
「ハハッ。人間ってさ、不便な生き物だよね。伝えたいことも、上手く伝えられなくてさ」
(なぁ天道? どうしたんだよ。さっきから、お前らしくもない)
「……先輩、私らしいって何かな? 本当の私って何なのかな? 先輩が居なくなって、シャーロットの事見てたら、よく、わからなくなってきちゃった。私ってほら、短い間だったけど声優やってたじゃん。色んなキャラになりきって、天童渚沙っていう、もう一つの顔もあって。それに、こっちの世界に来たら、サキュバスにまでなっちゃってさ。どれがホントの自分なんだろって、ちょっとだけ悩んでみたり……なんかさ、先輩が羨ましくなってきたよ」
これは俺の私見だけど、天道は俺のために自分を変えたいと思って、いろんな可能性を探してきた。その中で出来たシャーロットとの確執とか、俺の死に振り回されて、彼女の心は少しずつ壊され始めているのかも知れない。
「今の先輩はさ、自分に正直じゃないと生きていけないわけじゃん。誰かに何かをしてもらうには、正直な気持ちを伝えないといけない。もちろん我慢は出来るけど、それで逃げることも、自分でなんとかすることも出来なくて、最後は誰かに頼ることになる。先輩の性格だと、そんなの耐えられないとか言いそうだけど、私としてはそれに答えるだけで良いし、嫌なことはきっぱりと断れるから、凄く楽だなって思っちゃう」
(それ言ったら、お前だって、俺に対しては正直だろ?)
「そりゃ、先輩大好きってのは本音だけど、これでもいっぱい隠し事してるんだぞ。もうさ、先輩と同じ剣になって、最初の時みたいな精神世界でエッチな事して一生過ごしたいなぁ」
(何だ何だ、結局それが目的かよ)
「あ、ごめんごめん、今のは無意識で言っちゃったよ。こういうのってやっぱサキュバスの性なのかな」
(お前、本当に大丈夫か?)
不安定な彼女を気にして、冗談を交えながらなるべく軽口を叩くようにはしているけど、熱に浮かされているような天道の雰囲気がとても俺を心配させる。それに、彼女の口から出るサキュバスという言葉が、更に俺を不安にさせた。
「大丈夫。大丈夫だけど……ごめんね、先輩」
(……お前がさ、何に悩んでるのかはわからないけど、お前はお前だから。全部ひっくるめて、天道朝美だろ?)
「なんかそれ、誰にでも言ってそうだよね」
(悪かったな。どうせ俺には、気の利いた言葉なんて言えねぇよ)
「もぅ、そんなに拗ねないでってば。そんな先輩も可愛くて好きだけど。でも、そうだね。そんな風に言ってもらえるだけでも、私はきっと幸せ者なのかな」
彼女の言葉一つ一つが、俺の心を強く締め付ける。最初からお前は不幸なんかじゃない! そんなふうに言えない自分が、とても惨めでかっこ悪く思えた。
(なぁ天道、帰ったほうが良いって。やっぱりお前、なんか変だ)
「いやっ!! 見るの。先輩と二人で花火、見るの! だって、綺麗だよ。こんなに、綺麗だよ?」
耳にも入らなくなった花火の残光は、確かにとても綺麗だったけど、俺にはもう癇癪を起こす目の前の女の子の姿しか目に入らない。
(……確かに綺麗だけど、火照ったお前の顔と、涙の方が眩しすぎて目に入ってこない)
「なんか、あんまり嬉しくない。でも、きもちは伝わってくる。先輩のやさしいきもち、伝わってくるよ……」
(だったら、俺のこと強く抱きしめてろよ。そしたらもう少し、落ち着くだろ?)
「先輩……うん、あんがと」
今の俺に出来ることなんてあまりにも少なすぎて、その中で彼女を一番安心させられる方法を考える。すると提案通り俺の刀身は、彼女の胸に強く強く抱きしめられた。
遠くで響く花火の音よりも、近くで響く彼女の吐息と蒸せるような体温が、俺の全身にこびりついていた……
(ん? どうした?)
「ご褒美」
花火の途中ではあったが、これからどうするべきかと頭の中で考えていると、鍔にはめ込まれたクリスタルに柔らかな感触が押し付けられる。一瞬、何が起きたのかわからなかったが、俺は天道に、キスされていた。
「ほんとだ。唇がしびれて、脳が蕩けそう」
(お、おま! なに、突然)
「約束したじゃんか。こんどキス、させてくれるって」
あまりの不意打ちから思考の回路が絡まり合い、慌てふためきながら恍惚な表情を眺めていると、浮かない顔の天道の言葉に火山での約束を俺は思い出す。
(悪い、また忘れてた。ごめん)
こんどしてやると言ったのは、俺のはずなのに、されて驚くとか最低すぎんだろ。むしろ、美少女に口づけされたんだから、男として喜べって話だ。
「もう、そうやって自分のこと、すぐに卑下しないの。先輩の存在は、先輩の思っている以上に私達に影響を与えてるってこと、もっと自覚してくれればそれでいいから。それに、先輩のことは私が守る。私が守るから……」
(……お前もさ、シャーリーみたいなこと、言うようになったよな)
「そうかな?」
(そうだよ)
不甲斐ない俺を抱きしめながら、彼女がかける優しい言葉にシャーロットの面影を感じてしまう。もしかすると俺は、自分で思っている以上に母性という名の愛情に飢えているのかも知れない。
「それじゃ私達、最初からきっと似た者同士だったんだよ。だからシャーロットも、先輩のこと好きになったんじゃないかな……はっ、ということは、先輩はシャーロットと同じぐらい、私のことも好きってことじゃ!」
(さあて、どうだろうな)
三度も泣かせた罪悪感からか、俺は気まぐれで彼女への言葉を濁してみる。シャーリーよりも先に天道と出会っていたら。俺がもし死なないで、天道が俺に告白していたら。そんなもしもがあったら、俺はこいつと恋に落ちていたのかもしれない。
そう思えるぐらい惹かれるものが、彼女の中には確かにあるのだ。それに、実際俺は、薙沙ちゃんのことが大好きだったわけだしな。
「それってそれって、私にもまだ、脈があるってことなのかな!?」
(あのなぁ。誰がなんと言おうと、俺が一番好きなのは、あくまでもシャーリーだからな)
「わかってるって。私が言いたいのは、愛人一号としてってことだよ。当然でしょ」
(当然でしょって……プライドとか無いわけ?)
「それを先輩が言う?」
(うっ、そう返されると言葉に困るな)
「でしょー。それに、大好きな人のそばに居られるなら、私はなんだってするんだから。愛人だろうが召使いだろうが肉奴隷だろうが」
(……いやまて、最後のは問題発言だろ)
「えー、先輩に毎日好き勝手に突かれるとか――」
(頼む……自重してくれ)
「はーい」
そんなこんなで、いつもの調子に戻った天道は、俺に酷いデジャブを残し、エロネタの化身として降臨する。天道の笑顔のためなら何だって出来ると言いたいけど、淫魔の感覚で付き合ったら、たぶん体が持たない。もう少し控えめになってくれると、俺としては嬉しいんだけどな。
「……ねぇ、先輩」
(ん?)
「私が先輩の一番になれる可能性って、もう百パーセント無いのかな」
天真爛漫ないつもの彼女に振り回された直後だからか、遠くを見つめる儚げな瞳に、自然と心が吸い寄せられていく。このまま何もしなかったら、元気な彼女がどこか遠くに行ってしまいそうで、俺を急激に不安にさせた。
「って、何言ってんだろな私。ついさっき、二番で良いって言ったばっかりなのに。でもさ、もし、もしもだよ。シャーロットが死んだりしたらさ、先輩は私を一番に……貰って、くれる?」
しかも、あり得ないほど真剣な眼差しで、あり得ないことを口にされたら、どうするべきかと俺も身構えてしまう。
(……お前、変なこと考えてないよな?)
「だから! もしも、もしもの話だよ! あー、今の無し! 今の忘れて。ただの、心の迷いだから。迷い、だか……」
(ん? 天道? どうかしたのか?)
「あっ、ううん! 大丈夫、大丈夫」
(もしかして、疲れたのか? 俺のために、無理しなくて良いんだぞ?)
「そんな事無い! そんな事、無いから……」
止む事のない、不安定な彼女の言動に危うさすら感じ始めたが、天道はそれを否定しここに居座ろうとする。
俺との思い出を作りたい。打ち明けたいことが沢山ある。そんな気持ちはわからなくもないが、放っておけないという気持ちの方が、心の中で強くなっていく。
「ハハッ。人間ってさ、不便な生き物だよね。伝えたいことも、上手く伝えられなくてさ」
(なぁ天道? どうしたんだよ。さっきから、お前らしくもない)
「……先輩、私らしいって何かな? 本当の私って何なのかな? 先輩が居なくなって、シャーロットの事見てたら、よく、わからなくなってきちゃった。私ってほら、短い間だったけど声優やってたじゃん。色んなキャラになりきって、天童渚沙っていう、もう一つの顔もあって。それに、こっちの世界に来たら、サキュバスにまでなっちゃってさ。どれがホントの自分なんだろって、ちょっとだけ悩んでみたり……なんかさ、先輩が羨ましくなってきたよ」
これは俺の私見だけど、天道は俺のために自分を変えたいと思って、いろんな可能性を探してきた。その中で出来たシャーロットとの確執とか、俺の死に振り回されて、彼女の心は少しずつ壊され始めているのかも知れない。
「今の先輩はさ、自分に正直じゃないと生きていけないわけじゃん。誰かに何かをしてもらうには、正直な気持ちを伝えないといけない。もちろん我慢は出来るけど、それで逃げることも、自分でなんとかすることも出来なくて、最後は誰かに頼ることになる。先輩の性格だと、そんなの耐えられないとか言いそうだけど、私としてはそれに答えるだけで良いし、嫌なことはきっぱりと断れるから、凄く楽だなって思っちゃう」
(それ言ったら、お前だって、俺に対しては正直だろ?)
「そりゃ、先輩大好きってのは本音だけど、これでもいっぱい隠し事してるんだぞ。もうさ、先輩と同じ剣になって、最初の時みたいな精神世界でエッチな事して一生過ごしたいなぁ」
(何だ何だ、結局それが目的かよ)
「あ、ごめんごめん、今のは無意識で言っちゃったよ。こういうのってやっぱサキュバスの性なのかな」
(お前、本当に大丈夫か?)
不安定な彼女を気にして、冗談を交えながらなるべく軽口を叩くようにはしているけど、熱に浮かされているような天道の雰囲気がとても俺を心配させる。それに、彼女の口から出るサキュバスという言葉が、更に俺を不安にさせた。
「大丈夫。大丈夫だけど……ごめんね、先輩」
(……お前がさ、何に悩んでるのかはわからないけど、お前はお前だから。全部ひっくるめて、天道朝美だろ?)
「なんかそれ、誰にでも言ってそうだよね」
(悪かったな。どうせ俺には、気の利いた言葉なんて言えねぇよ)
「もぅ、そんなに拗ねないでってば。そんな先輩も可愛くて好きだけど。でも、そうだね。そんな風に言ってもらえるだけでも、私はきっと幸せ者なのかな」
彼女の言葉一つ一つが、俺の心を強く締め付ける。最初からお前は不幸なんかじゃない! そんなふうに言えない自分が、とても惨めでかっこ悪く思えた。
(なぁ天道、帰ったほうが良いって。やっぱりお前、なんか変だ)
「いやっ!! 見るの。先輩と二人で花火、見るの! だって、綺麗だよ。こんなに、綺麗だよ?」
耳にも入らなくなった花火の残光は、確かにとても綺麗だったけど、俺にはもう癇癪を起こす目の前の女の子の姿しか目に入らない。
(……確かに綺麗だけど、火照ったお前の顔と、涙の方が眩しすぎて目に入ってこない)
「なんか、あんまり嬉しくない。でも、きもちは伝わってくる。先輩のやさしいきもち、伝わってくるよ……」
(だったら、俺のこと強く抱きしめてろよ。そしたらもう少し、落ち着くだろ?)
「先輩……うん、あんがと」
今の俺に出来ることなんてあまりにも少なすぎて、その中で彼女を一番安心させられる方法を考える。すると提案通り俺の刀身は、彼女の胸に強く強く抱きしめられた。
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