俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第七章 復讐と裏切りの円舞曲(ワルツ)

第328話 アマミヤ・クルス

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(天道、大丈夫……か?)

「私、何やってんだろうな。ハハッ……テラワロス」

 浜辺の上にしゃがみ込む天道に声をかけると、彼女は覇気の無い声で自分を咎め始める。

 彼女のした事は滅茶苦茶だったけど、俺のためにやったと考えれば言葉が見つからない。このまま彼女を怒るのは、天道という個性を否定することに繋がりかねず、俺は途方に暮れていた。

「でもさ、先輩……あれで興奮するとか、どういう神経してるのさ! 私、本当に怖くて、こわくて、こわぁ」

 すると、彼女はあの時の恐怖を思い出したのか、その場で俺に怒りをぶつけて泣き出してしまう。彼女の言いたい事はわかるし、俺自身そんな自分が大嫌いだけど、水着に触手で美少女な後輩がヌルヌルにされて、真顔で対処しろって言うのは思春期を否定するような気もするわけで……あー! 俺にどうしろと!!

「ふむ、男というのは、皆そういう者なのではないか?」

 目の前の天道の泣き顔に、触手に絡まれていた時の彼女の泣き顔が重なって俺が真剣に悩んでいると、横からフィルがとんでもない事を当然のように口にする。

 意中の女の子がエッチな表情でエッチな目に合っていたら、男はみんな興奮するとか、何いってんですかねこの人。

「我の周りでは、気になる女を見れば無理やり関係を迫り、すぐに欲情するのは当たり前であったがな」

 そういえば、神話上の神様ってみんな結構短期だったり、一目惚れでお持ち帰りする俺様系みたいなのが多いなーって、調べたときに思ったっけ。好きな女に声をかけ、子供を作るのがジャスティス! みたいな所あるからなー……

「先のアサミは、中々に良い表情をしていたからのぅ。神の誰かが見ていれば、無理やり求められていた可能性も十二分にあり得るのだが……」

「えっと、なにそれこわい」

「それに、そなたも言っておったではないか。トオルと交わりたいと」

「うっ、それは、そう言いましたけど……」

「なれば、どのような状況であろうと、好きな異性に欲情されるのは、喜ぶべき事なのではないか? あのまま進んでおれば、慰めと称して、してもらえたやもしれぬぞ?」

 本日二度目になるが、天界人独特の思考は、思春期の人間にとってあまりにもインパクトが強すぎる。そういう展開のエロ本も無くはないが、リアルにそれを求められると、罪悪感でいっぱいになるぞ俺。

 それにほら、流石の天道もドン引きしてるし……フィルにはもう少し、現代的な乙女の恥じらいを覚えてもらう必要があるな。

「で、でも……初めて、だし」

「ふむ、膜が気になるのであれば、その程度回復するのは容易であるが」

「ま、膜の問題とか、そういうんじゃなくて! ……初めては、大切にしたいから」

 そんな事を考えている俺の目の前で、初めては大切にしたいと頬を赤らめる天道の姿に心臓が跳ね上がる。彼女の本音、天道朝美の本質的な部分に触れて、改めて俺は、彼女のことを可愛いと思う。

(フィルさ、俺の世界の、特に俺の住んでた国の女の子には、そういう子が多いんだよ)

 実際のところはどうか知らんし、俺の願望って部分は大いにあるけど、天道は理想の女の子で、俺としては凄く嬉しい。やっぱり俺は彼女のこと、本当はどこかで愛しているのかも知れない。

「……そう思ってるなら、先輩はもっと自覚を持ちなさい! じゃないと、誰かに純血とられちゃうんだから……」

(あー……ごめん)

 彼女が俺の内面をどこまで見ているのかわからないけど、結局全部聞かれているような気がして、少しだけ気まずくなる。それでも、俺を睨む元気が出てきただけ、良かったのかな。

「なるほど。トオルはその様な、清楚な女性が好みであるのだな」

(……まぁ、できれば恥じらいはあった方がいいかな。もちろん、エッチな女の子も嫌いではないけど)

「了解した。なるべく最善を尽くせるよう、我も努力しよう」

 フィルの話した実体験のおかげで結果的に天道は落ち着きを取り戻したが、最善って、どういう意味ですかね? また俺の心労が増えるのかと思うと、少しだけゲンナリする。それに、後ろからはシャーリーの圧が増しているし、俺の安息には、まだまだ時間がかかりそうだ。

「あのー、トオル様?」

(ん、どうした、スクルド?)

 惜しげもなく怒りを顕にするシャーロットの小言を警戒していると、俺を抱きかかえるスクルドから声をかけられ、後ろを振り返る。

「その、ご褒美と言うわけではないのですが、トオル様に一つ、お願いしたい事がございまして。聞いて、いただけますでしょうか?」

(俺に出来ることなら何でもするけど、あんまり無茶な事は言うなよ?)

「は、はい! ありがとうございます!」

 苦手なものに立ち向かい、克服しようと頑張った彼女には報いてあげたい。そう思いながらも、最低限の線引をしてしまうのは、今なんでも? って顔をしている天道が原因だな。サキュバスさんのお願いは、どう足掻いても健全な方向には向かないからな。

(で、何をして欲しいんだ?)

「あの、ですね……フィル様と同じようなあだ名を、真名をつけてもらいたいんです。だめ、ですか?」

 真名、か……安易につけてしまったフィルからは、プロポーズの言葉とか言われたけど、女神にとって大切なものなんだよな。特にスクルドの場合、自分が何者なのかって悩んでた時期もあるし、新しい名前をつけてやると安心するのかも。それなら、彼女のために頑張ってみるか。

(いや、つけること自体は構わないけど、あんまり期待するなよ?)

「はい!」

 とは言ったものの、前回考えた時は、全然いいのが思い浮かばなかったんだよな。馴染みが出て来たとは言え、今回もあまり自信は無い。

 けど、照りつける日差しと同じくらい眩しい笑顔を守るために、最大限の努力はしないとな。

 とりあえず、名前のモジリからスタートしてみよう。スクルド、クルド、くる、クルス、くる……

(クルス……雨宮あまみや来栖くるす

 ふと、そんな名前が思い浮かんだのだが……って、雨宮来栖と言えば、天道が演じたアニメのキャラクター名じゃねえか! しかも、なんかこっち見ながら、中の人がニヤニヤしてるし。まずい、このままだと、天道に一生ネタにされる。

(いや、俺達の世界の名前じゃあれだよ……な。って、あれ?)

「クルス……アマミヤ・クルス。ああ、なんと素晴らしい響きなのでしょう」

 それを危惧し、慌てて取り消そうとした所、既にスクルドは天にも登る表情で、俺の刀身を抱きしめていた。これはもう、取り下げられるような状況じゃないな。

「かしこまりました。今から私はスクルドの名を捨て、アマミヤ・クルスの名を胸に、生きていくことを宣言します」

 こうしてスクルドは、雨宮来栖に名前を変えて生きていくことになったのだが……こんなに適当で本当にいいのか? 

「もー、他人のあだ名にデビュー作のキャラ名付けるとか、どんだけ私のこと好きなんだってーの、先輩ってばー」

 しかも、天道は滅茶苦茶喜んでるし、逆に俺が恥ずかしい。

(いや、その、今のは反射的にだな)

「反射的に出ちゃうぐらい思ってくれてるとかも~。しょうがないな~、その深い愛に免じて、さっきのことは許したげる」

 無意識のうちに女の子を喜ばせ、彼女の機嫌を直してしまう。これこそ正に、結果オーライというやつなのだろうけど、なんだかさっぱり腑に落ちない。

 けど、女の子が笑顔ならそれでもいいかと、腰をくねらせる天道の姿を見ながらそう思ってしまうのだった。
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