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第七章 復讐と裏切りの円舞曲(ワルツ)
第325話 突然の乱入者
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「それにしても、トオルは本当に苦労性のようじゃな」
観客席へと戻った途端、明後日の方を向きながら、そんな言葉をフィルは口にする。先程の会話を聞いて、彼女なりに思う所があるのだろう。俺としては、三人を喜ばせる事を苦労とは考えていないのだが、第三者のフィルからすると、振り回されているように見えるらしい。
大切な人達の求めに応じて、受動的にハーレムを作る……冷静に考えてみると、確かにこれは苦労性か、もしくはドM。ただ、俺としては、その事実を少しでも否定したくて、曖昧な言葉を彼女に投げかける。
(そう、ですかね?)
「うむ。あの二人にスクルドと、独占欲の塊みたいなものじゃからの。一人の身には、持て余すじゃろうて」
「ふぃ、フィル様!? わ、私は、そんな……と、トオル様を、独り占めしようなどとは恐れ多いことですからして、私のような三流女神に――」
「じゃが、トオルがそれを求めるのであれば、遠慮なくするのであろう?」
「それは……はい。守護女神と致しまして、トオル様のお望みを、否定することはできませんから」
「と、いうことじゃ。な、我の言うたとおりであろう」
しかし、そこは熟年の女神様。知り合ってから一ヶ月も経たないと言うのに、三人の性格を熟知しているのだから恐ろしい。俺の名前の発音も、一週間足らずで皆に合わせてきたし、流石は年の功、経験が違うとは正にこのこと。なんて言ったら怒られるか。
けど、それならそれで腑に落ちない部分もある。三人の独占欲が強いと言うなら、同じように好きでいてくれているフィルは、その程度にしか俺を愛してくれていないのだろうか?
(だったらフィルは、俺のこと、独占したいとか思わないのかよ?)
「なんじゃ? トオルは我に、独占するほどの強い愛を、求めているのかの?」
(いや、それは……)
「ふふっ、冗談じゃ。そのようなこと、あの二人の前では、口が裂けても言えんからの」
そんな小さな我儘は、彼女にとって付け入る隙を与えるだけでしかなく、彼女出来た歴一ヶ月の俺は、いともたやすく女神の手玉に取られてしまう。
ちっぽけな男の焦る姿に、微笑みを浮かべる彼女の視線の先には、俺の大切な二人の女性が毅然とした態度で舞台の上に立っていた。
左右に連なるは、予選を勝ち抜いてきた歴戦の猛者達。見た目だけなら地味な部類に入る二人だけど、スポットライトを浴びた彼女達の輝きに勝てるものはいないと、先程の盛り上がりで証明されている。
(そうですね。俺の事となると、見境のつかなくなる二人ですから)
そんな凄い二人だけど、俺にとっては普通の女の子であり、大切にしたいという想いに駆られてしまう。異世界ラノベでよく見る円満なハーレムを築くのはまだまだ大変だけど、今は二人が優勝すると信じ、俺は彼女達を応援した。
「さぁて、ここからは、皆さんお待ちかねの水着審査の始まりだ―! 彼女達の見せる、仕草やポーズにも期待してくれ!」
前半がパフォーマンスなら、後半は水着審査。そして、ステージの真ん中には細長い出っ張りが追加され、観客席の途中までステージが増えている。
観客席のド真ん中が有料で、不自然にスペースの空いている理由はなんだろうと思っていたけど、なるほど、こういうわけか。
水着の美少女達を間近で見れる特等席、それが中心の席であり、良い席を求める男達がこぞって大金を出し合う。男としては認めたくないけど、良い商売してるよホント。女の人もチラホラいるから、やり方としては間違ってないんだろうけど、なんだかとても複雑な気分。
興奮する男達の熱に呆れていると一組目の出場者達が歩き出し、盛大に手を振りながら観客達に性的な部分を強調するようなアピールを繰り返す。
自分のどこが武器になるのか理解した上での行動だろうけど、俺個人としてはなんとなく気分が悪い。グラビアアイドルを否定しているような気もするけど、そういうのを極端に見せつけるのは、好きな男の前だけにして欲しい。
なんて夢を見ているから、ハーレムにも馴染みきれないんだろうな。非情になれるところは非情になって、もっと現実を見ないと。ここは向こうの世界じゃなくて、重婚の許された異世界なんだから。
そうこうしている間に、半分近くの女の子たちのアピールが終わり、二人の番がやってくる。サキュバスである天道も、皆と同じような行動に出るのかと思いきや、本物のモデルのように美しい姿勢で歩き始めた二人は、ダンスを踊るように背中合わせで左右の観客へと視線を送る。
女性の魅力を一切使わず、行動だけで魅せる二人はやはり最高に美しい。天道が俺に向けてウインクを見せるのはご愛嬌として、演舞さながらに動く二人は、差し詰め戦いの女神と言った所か。
これなら優勝は間違い無しと、二人がポーズを決めた瞬間、後方から突然の爆音と水しぶきが俺達観客を襲う。何事かと、皆が一斉に海の方へ振り向くと、そこに現れた生物の大きさに全ての人が言葉を無くす。
(キングクラーケン……だとぉ!)
海の底よりいでしは、体長二十メートルにも迫る巨大なイカ。十本の足を水面に叩きつけ、浜辺の人間達を恐怖に陥れようとする。
そして、俺の心境と呼応するかのように、湧きに湧き上がっていた水着コンテストの観客達がパニックに陥った。
目の前の危険から逃げるため、大人も子供も関係なく、我先にと邪魔になる人間全てをなぎ倒し、一目散と駆け回る人々。その光景を否定するつもりはないが、泣いている子供達の姿を見ると、いたたまれない気持ちになる。
どうにかしたい。その気持ちはあるが、この状況ではフィルもスクルドも、バルカイトですら動けないし、俺なんかもってのほかだ。だが、この悲惨な状況で一人、あのバカでかい海洋生物に対し怒りを顕にする女性がいた。
「あのやろぉ、私のステージを台無しにしやがって……殺す。全身凍らせて、冷凍イカにして食ってやるんだから!」
その少女の名は、天道朝美。大好きな人に見せるためと息巻いていた彼女にとって、この場を混乱に陥れた張本人を許してはおけなかったのであろう。水着一枚の全身に冷気をまとい、壇上から飛び降りる彼女であったが、俺の脳裏にはどうしようもない不安がよぎる。
(お、おい! 勝てる見込みあるのかよ? イカ相手じゃ、テンプテーションは利かないんだぞ!)
今回の相手は超特大級の海洋生物。恋愛感情なんてあるとは思えないし、下手をすればあの十本の巨大な触手で、彼女の豊満な体をぐちょんぐちょんに汚されかねない。
「じょぶじょぶ、あんな海洋生物、私の氷の敵じゃないって。それにほら、イカの弱点って、氷か雷って相場が決まってるじゃん。だから、大丈夫」
しかも、その余裕の源がゲーム知識と来たものだから、余計に不安を掻き立てられる。確かに俺も使っては来たが、的中率は半々といった所。完全勝利の方程式としては、あまりにも弱すぎる。
「それに、利かないようだったら……最悪、海ごと凍らせる」
それでも彼女は本気のようで、天道の口元は激しい怒りに歪められていた。
観客席へと戻った途端、明後日の方を向きながら、そんな言葉をフィルは口にする。先程の会話を聞いて、彼女なりに思う所があるのだろう。俺としては、三人を喜ばせる事を苦労とは考えていないのだが、第三者のフィルからすると、振り回されているように見えるらしい。
大切な人達の求めに応じて、受動的にハーレムを作る……冷静に考えてみると、確かにこれは苦労性か、もしくはドM。ただ、俺としては、その事実を少しでも否定したくて、曖昧な言葉を彼女に投げかける。
(そう、ですかね?)
「うむ。あの二人にスクルドと、独占欲の塊みたいなものじゃからの。一人の身には、持て余すじゃろうて」
「ふぃ、フィル様!? わ、私は、そんな……と、トオル様を、独り占めしようなどとは恐れ多いことですからして、私のような三流女神に――」
「じゃが、トオルがそれを求めるのであれば、遠慮なくするのであろう?」
「それは……はい。守護女神と致しまして、トオル様のお望みを、否定することはできませんから」
「と、いうことじゃ。な、我の言うたとおりであろう」
しかし、そこは熟年の女神様。知り合ってから一ヶ月も経たないと言うのに、三人の性格を熟知しているのだから恐ろしい。俺の名前の発音も、一週間足らずで皆に合わせてきたし、流石は年の功、経験が違うとは正にこのこと。なんて言ったら怒られるか。
けど、それならそれで腑に落ちない部分もある。三人の独占欲が強いと言うなら、同じように好きでいてくれているフィルは、その程度にしか俺を愛してくれていないのだろうか?
(だったらフィルは、俺のこと、独占したいとか思わないのかよ?)
「なんじゃ? トオルは我に、独占するほどの強い愛を、求めているのかの?」
(いや、それは……)
「ふふっ、冗談じゃ。そのようなこと、あの二人の前では、口が裂けても言えんからの」
そんな小さな我儘は、彼女にとって付け入る隙を与えるだけでしかなく、彼女出来た歴一ヶ月の俺は、いともたやすく女神の手玉に取られてしまう。
ちっぽけな男の焦る姿に、微笑みを浮かべる彼女の視線の先には、俺の大切な二人の女性が毅然とした態度で舞台の上に立っていた。
左右に連なるは、予選を勝ち抜いてきた歴戦の猛者達。見た目だけなら地味な部類に入る二人だけど、スポットライトを浴びた彼女達の輝きに勝てるものはいないと、先程の盛り上がりで証明されている。
(そうですね。俺の事となると、見境のつかなくなる二人ですから)
そんな凄い二人だけど、俺にとっては普通の女の子であり、大切にしたいという想いに駆られてしまう。異世界ラノベでよく見る円満なハーレムを築くのはまだまだ大変だけど、今は二人が優勝すると信じ、俺は彼女達を応援した。
「さぁて、ここからは、皆さんお待ちかねの水着審査の始まりだ―! 彼女達の見せる、仕草やポーズにも期待してくれ!」
前半がパフォーマンスなら、後半は水着審査。そして、ステージの真ん中には細長い出っ張りが追加され、観客席の途中までステージが増えている。
観客席のド真ん中が有料で、不自然にスペースの空いている理由はなんだろうと思っていたけど、なるほど、こういうわけか。
水着の美少女達を間近で見れる特等席、それが中心の席であり、良い席を求める男達がこぞって大金を出し合う。男としては認めたくないけど、良い商売してるよホント。女の人もチラホラいるから、やり方としては間違ってないんだろうけど、なんだかとても複雑な気分。
興奮する男達の熱に呆れていると一組目の出場者達が歩き出し、盛大に手を振りながら観客達に性的な部分を強調するようなアピールを繰り返す。
自分のどこが武器になるのか理解した上での行動だろうけど、俺個人としてはなんとなく気分が悪い。グラビアアイドルを否定しているような気もするけど、そういうのを極端に見せつけるのは、好きな男の前だけにして欲しい。
なんて夢を見ているから、ハーレムにも馴染みきれないんだろうな。非情になれるところは非情になって、もっと現実を見ないと。ここは向こうの世界じゃなくて、重婚の許された異世界なんだから。
そうこうしている間に、半分近くの女の子たちのアピールが終わり、二人の番がやってくる。サキュバスである天道も、皆と同じような行動に出るのかと思いきや、本物のモデルのように美しい姿勢で歩き始めた二人は、ダンスを踊るように背中合わせで左右の観客へと視線を送る。
女性の魅力を一切使わず、行動だけで魅せる二人はやはり最高に美しい。天道が俺に向けてウインクを見せるのはご愛嬌として、演舞さながらに動く二人は、差し詰め戦いの女神と言った所か。
これなら優勝は間違い無しと、二人がポーズを決めた瞬間、後方から突然の爆音と水しぶきが俺達観客を襲う。何事かと、皆が一斉に海の方へ振り向くと、そこに現れた生物の大きさに全ての人が言葉を無くす。
(キングクラーケン……だとぉ!)
海の底よりいでしは、体長二十メートルにも迫る巨大なイカ。十本の足を水面に叩きつけ、浜辺の人間達を恐怖に陥れようとする。
そして、俺の心境と呼応するかのように、湧きに湧き上がっていた水着コンテストの観客達がパニックに陥った。
目の前の危険から逃げるため、大人も子供も関係なく、我先にと邪魔になる人間全てをなぎ倒し、一目散と駆け回る人々。その光景を否定するつもりはないが、泣いている子供達の姿を見ると、いたたまれない気持ちになる。
どうにかしたい。その気持ちはあるが、この状況ではフィルもスクルドも、バルカイトですら動けないし、俺なんかもってのほかだ。だが、この悲惨な状況で一人、あのバカでかい海洋生物に対し怒りを顕にする女性がいた。
「あのやろぉ、私のステージを台無しにしやがって……殺す。全身凍らせて、冷凍イカにして食ってやるんだから!」
その少女の名は、天道朝美。大好きな人に見せるためと息巻いていた彼女にとって、この場を混乱に陥れた張本人を許してはおけなかったのであろう。水着一枚の全身に冷気をまとい、壇上から飛び降りる彼女であったが、俺の脳裏にはどうしようもない不安がよぎる。
(お、おい! 勝てる見込みあるのかよ? イカ相手じゃ、テンプテーションは利かないんだぞ!)
今回の相手は超特大級の海洋生物。恋愛感情なんてあるとは思えないし、下手をすればあの十本の巨大な触手で、彼女の豊満な体をぐちょんぐちょんに汚されかねない。
「じょぶじょぶ、あんな海洋生物、私の氷の敵じゃないって。それにほら、イカの弱点って、氷か雷って相場が決まってるじゃん。だから、大丈夫」
しかも、その余裕の源がゲーム知識と来たものだから、余計に不安を掻き立てられる。確かに俺も使っては来たが、的中率は半々といった所。完全勝利の方程式としては、あまりにも弱すぎる。
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