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第七章 復讐と裏切りの円舞曲(ワルツ)
第321話 愛と欲の間で
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「すまぬ。どうもトオルを見ていると、母性が疼いてしまってな。こういう役目は、恋人の特権であったな」
無理やり俺を取り上げられ、隠すこと無くふくれっ面をしているシャーリーの元へと俺の体をフィルは差し出す。すると、間髪入れずに俺を掴んだシャーリーは、胸元へと刀身を手繰り寄せると、強く強く抱きしめる。
「どうせ私は胸無いわよ。大人になっても大きくないわよ。悪かったわね」
(いやその、さっきのは驚いただけと言うか、びっくりしたと言うか、つまりだな――)
「……言い訳は聞きたくない」
(……ごめんなさい)
一生離してやるものかと強い意志を感じながらも、そっけない態度を彼女が取る理由は、溜まりに溜まった俺への不満を爆発させているからなのだろう。
そんな今の彼女には、言い訳にしか聞こえないかも知れないけど、大きさとか関係なく、一番ドキドキするのはシャーリーなんだって、どうやったら彼女に上手く伝えられるだろうか……
「女の子の魅力に男の子が逆らえぬのは種としての本能、それに不安や不満を抱くのであれば、離さぬよう、しっかり握りしめておかねばならぬぞ」
彼女以外に目移りする俺に不快感を顕にするシャーリーの事を、まるで先生のように諭すフィル。そんな彼女の言葉にシャーリーは両目を強張らせ、彼女を強く睨み返した。
「わかってる、わかってるわよ。わかってるからこそ、身の丈に合うことしかできないんじゃない。トオルに似合わないとか、変だなんて思われたくないもの」
自分にできる精一杯で俺の事を喜ばせたい。そんな彼女の誠実な気持ちに、胸の奥が熱くなってくる。王女という鎖が彼女を縛り付け、生真面目な彼女だからこそ積極的に出来ないこともある。そんな葛藤の中で、彼女が着ているこの水着も、俺の事を考えながら選んでくれたんだよな。この白くて可愛らしいワンピースの水着を、俺のために……っ!?
肌触りの良い水着の感触と、抱きしめられている小さな膨らみ、そこに大きな愛情を感じてしまった俺は、先刻以上に魔力を暴走させてしまう。
だがしかし、このまま全方位にぶちまけてしまっては、美しい彼女の白い水着を真っ赤に染め上げてしまいかねない。それだけは避けねばと、俺は彼女のいない方向に、溢れ出した全魔力を勢いよく放出した。
「と、トオル!? えっと、これ……」
(すまん、水着含めたシャーリーの感触に、すっごく興奮した)
前触れもなく吐き出された膨大な魔力量に戸惑うシャーリーを、なんとか落ち着かせようと今の状態を正直に話してみたが、よく考えてみると、はっきり言うのやばくね、これ? 胸の感触だけでもギリギリアウトなのに、水着の生地まで興奮の材料にするとか、はっきり言って最低すぎる。
「ふーん、そうなんだ。水着の感触で興奮するとか、トオルってほんと変態」
(いや、これはシャーリーが着てるからであって、他の女の子では意味がないと言いますか)
しかも、言い訳を考えれば考えるほどドツボにはまり、焦れば焦るほど魔力の循環が速くなって行って……あっ、駄目だこれ、もう一回出そう。
「もう、私なんかで興奮しちゃって……ばか」
(すまん、本当にすまん)
恋人の胸中で鼻血を流す無様な男を、彼女はそっと優しく抱きしめる。自分の腕が真っ赤に染まっていくにも関わらず、剣から腕を離さないシャーリーの姿は、周りから見れば薄気味悪く滑稽に映っていることだろう。それでもこの瞬間が、俺達にとっては最高に心の通じ合う時なのだ。
こんなにも俺を愛してくれて、ありがとうシャーリー。今以上に君を幸せにすると、俺もここに誓うよ。
「む~、だんだんと、私のお株が奪われてる気がする」
腕の色と同じくらい、頬を赤く染めながら微笑むシャーリーの笑顔を眺めていると、近づいてきた天道が突然俺に苦言を呈す。真っ赤に染まる俺の事を心配して来たのだろうけど、幸せそうな俺達を見た途端、いろんな気力を削がれたようだ。
「奪われてるって、塩を送ったのは貴方の方でしょ」
「うっ、それを言われると否定できないけども……でも私、サキュバスなんだよ? それなのにさ、先輩はシャーロットばっかに欲情して……あー、もう! 先輩とエッチがしたいぃ! 興奮する先輩の事いじめたいー!」
(お前なぁ……っておい! 背中! 出てるぞ羽!)
「ううっ、先輩が仲良くしてくれないのが悪いんだぞぉ!」
シャーリーと彼女が喧嘩をして、俺をいじめるぐらいまでなら甘んじて受け入れられるけど、公共の場で淫魔の羽を堂々と出現させるのは流石に不味い。冒険者か何かに目をつけられて、魔物として追いかけられたら一大事じゃ済まないぞ……それに、人間に狩られる天道とか見たくないし、理不尽な悪ふざけだけは本当にやめて欲しい。
けど、俺が悪い部分もゼロじゃないわけで……仕方がない、少しは天道の言うことも聞いてやるか。
(わかったよ、今から少し――)
「トオル、少しお腹が空いてきたわ。食事がしたいんだけど、もちろん付き合ってくれるわよね? あとアサミも、その翼、今すぐにしまいなさい。じゃないと、私がここで狩る事になるけど、良いわよね?」
しかし、後方で膨らみ続ける小さな少女の大きな圧と、全てを無に帰す満面の笑みに、俺達二人は逆らえないのであった。
無理やり俺を取り上げられ、隠すこと無くふくれっ面をしているシャーリーの元へと俺の体をフィルは差し出す。すると、間髪入れずに俺を掴んだシャーリーは、胸元へと刀身を手繰り寄せると、強く強く抱きしめる。
「どうせ私は胸無いわよ。大人になっても大きくないわよ。悪かったわね」
(いやその、さっきのは驚いただけと言うか、びっくりしたと言うか、つまりだな――)
「……言い訳は聞きたくない」
(……ごめんなさい)
一生離してやるものかと強い意志を感じながらも、そっけない態度を彼女が取る理由は、溜まりに溜まった俺への不満を爆発させているからなのだろう。
そんな今の彼女には、言い訳にしか聞こえないかも知れないけど、大きさとか関係なく、一番ドキドキするのはシャーリーなんだって、どうやったら彼女に上手く伝えられるだろうか……
「女の子の魅力に男の子が逆らえぬのは種としての本能、それに不安や不満を抱くのであれば、離さぬよう、しっかり握りしめておかねばならぬぞ」
彼女以外に目移りする俺に不快感を顕にするシャーリーの事を、まるで先生のように諭すフィル。そんな彼女の言葉にシャーリーは両目を強張らせ、彼女を強く睨み返した。
「わかってる、わかってるわよ。わかってるからこそ、身の丈に合うことしかできないんじゃない。トオルに似合わないとか、変だなんて思われたくないもの」
自分にできる精一杯で俺の事を喜ばせたい。そんな彼女の誠実な気持ちに、胸の奥が熱くなってくる。王女という鎖が彼女を縛り付け、生真面目な彼女だからこそ積極的に出来ないこともある。そんな葛藤の中で、彼女が着ているこの水着も、俺の事を考えながら選んでくれたんだよな。この白くて可愛らしいワンピースの水着を、俺のために……っ!?
肌触りの良い水着の感触と、抱きしめられている小さな膨らみ、そこに大きな愛情を感じてしまった俺は、先刻以上に魔力を暴走させてしまう。
だがしかし、このまま全方位にぶちまけてしまっては、美しい彼女の白い水着を真っ赤に染め上げてしまいかねない。それだけは避けねばと、俺は彼女のいない方向に、溢れ出した全魔力を勢いよく放出した。
「と、トオル!? えっと、これ……」
(すまん、水着含めたシャーリーの感触に、すっごく興奮した)
前触れもなく吐き出された膨大な魔力量に戸惑うシャーリーを、なんとか落ち着かせようと今の状態を正直に話してみたが、よく考えてみると、はっきり言うのやばくね、これ? 胸の感触だけでもギリギリアウトなのに、水着の生地まで興奮の材料にするとか、はっきり言って最低すぎる。
「ふーん、そうなんだ。水着の感触で興奮するとか、トオルってほんと変態」
(いや、これはシャーリーが着てるからであって、他の女の子では意味がないと言いますか)
しかも、言い訳を考えれば考えるほどドツボにはまり、焦れば焦るほど魔力の循環が速くなって行って……あっ、駄目だこれ、もう一回出そう。
「もう、私なんかで興奮しちゃって……ばか」
(すまん、本当にすまん)
恋人の胸中で鼻血を流す無様な男を、彼女はそっと優しく抱きしめる。自分の腕が真っ赤に染まっていくにも関わらず、剣から腕を離さないシャーリーの姿は、周りから見れば薄気味悪く滑稽に映っていることだろう。それでもこの瞬間が、俺達にとっては最高に心の通じ合う時なのだ。
こんなにも俺を愛してくれて、ありがとうシャーリー。今以上に君を幸せにすると、俺もここに誓うよ。
「む~、だんだんと、私のお株が奪われてる気がする」
腕の色と同じくらい、頬を赤く染めながら微笑むシャーリーの笑顔を眺めていると、近づいてきた天道が突然俺に苦言を呈す。真っ赤に染まる俺の事を心配して来たのだろうけど、幸せそうな俺達を見た途端、いろんな気力を削がれたようだ。
「奪われてるって、塩を送ったのは貴方の方でしょ」
「うっ、それを言われると否定できないけども……でも私、サキュバスなんだよ? それなのにさ、先輩はシャーロットばっかに欲情して……あー、もう! 先輩とエッチがしたいぃ! 興奮する先輩の事いじめたいー!」
(お前なぁ……っておい! 背中! 出てるぞ羽!)
「ううっ、先輩が仲良くしてくれないのが悪いんだぞぉ!」
シャーリーと彼女が喧嘩をして、俺をいじめるぐらいまでなら甘んじて受け入れられるけど、公共の場で淫魔の羽を堂々と出現させるのは流石に不味い。冒険者か何かに目をつけられて、魔物として追いかけられたら一大事じゃ済まないぞ……それに、人間に狩られる天道とか見たくないし、理不尽な悪ふざけだけは本当にやめて欲しい。
けど、俺が悪い部分もゼロじゃないわけで……仕方がない、少しは天道の言うことも聞いてやるか。
(わかったよ、今から少し――)
「トオル、少しお腹が空いてきたわ。食事がしたいんだけど、もちろん付き合ってくれるわよね? あとアサミも、その翼、今すぐにしまいなさい。じゃないと、私がここで狩る事になるけど、良いわよね?」
しかし、後方で膨らみ続ける小さな少女の大きな圧と、全てを無に帰す満面の笑みに、俺達二人は逆らえないのであった。
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