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第七章 復讐と裏切りの円舞曲(ワルツ)
第320話 あなたの側に居たいから
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「ねぇねぇ、シャーロット。さっきから先輩のこと、一人で独占しすぎなんじゃないかな?」
浜辺へと戻るまでの道すがら、ひとしきりの魔力を放出しきった俺は、落ち着きを取り戻し皆の前に現れる。
十数分の遊泳ではもの足りず、シャーリーは水の中に浸かっていて、当然俺も背負われたままだ。そうなると、天道が黙っているはずもなく、海の中へと入ってきた彼女は、シャーリーに向かって猛抗議を繰り広げた。
「独占ね。そんな風に言われるおぼえは、これっぽっちも無いのだけど」
受け手側のシャーリーもシャーリーで、彼女に対しライバル心を抱いているからか、意地悪をするかのように全力で彼女に食って掛かる。
「これだからお姫様は……それとも、私に勝てる見込みがないからって、焦っちゃってるのかな~?」
「……なにで負けてるっていうのよ?」
「もちろん、体だよ?」
「くっ、トオルは私の恋人よ、私が一番触れ合ってて何が悪いっていうのよ!」
おうとつ加減では彼女に勝てないとわかっているようで、悔しそうに唇を噛むシャーリーも正論で対抗し、反撃の狼煙を上げる。
「むっ、それを言われると反論のしようがないけど、一応私も愛人なんで、先輩と一緒にいる権利はあると思います!」
しかし、その程度で引き下がる天道ではなく、最低限の権利をシャーリーへと主張すると、鋭い二人の視線が俺の体へと向けられた。
「トオル! どっちの意見が正しいと思う!」
「先輩! どっちの意見が正しいと思うかな!」
ハーレムを受け入れようと決意した時から、こういう事態は予測していたけど、いきなり来るとは前途多難である。
この状況、どちらを立てようと、選ばれなかった側が悲しみに暮れるのは明白。であれば、二人の意見を取り入れる事が、正しい選択と言えるであろう!
(よし、わかった。二人共、均等に俺とベタベタしなさい! 二人の間に挟むことも特別に許可します!)
シャーリーに天道、二人が同時に幸せになれる最高のアイデアを打ち出せたと自負していると、二人の視線がゴミムシを見るような残酷なものへと変化していく。どうやら俺は、この重要な局面で、また失敗をしたらしい。
「先輩のヘタレ、甲斐性なし」
「アサミのその意見には、兼ね同意する」
俺の中での最高は、二人にとっての最低だったようで、軽蔑の言葉とともに二人は同時に深いため息をつき、互いに視線を重ね合わせる。
「とりあえず、もう少しだけ待ちなさい。あなたの後だと、身体的魅力として勝てる気が全然しないのよ。だから、お願い」
「そうは問屋がおろさない……って、先輩を奪うのが淫魔としてのあるべき姿なんだろうけど、親友からの頼みだもんね。ここは、一度引き下がりますか」
和解した理由はよくわからなかったけど、二人の熱も冷めた事だし結果オーライってところかな?
「あ、それと先輩、結果オーライとか安易に考えないでよね。私にも、限度ってものがあるんだからさ。あんまり酷いと、次は強引に行くかんね!」
そんな捨て台詞を残しながら、シートに座るスクルドの元へと天道は去っていく。最近の俺、上手くやろうとすればするほど、裏目に出ている気がするな。
「アサミの言うた通り、トオルは自覚を持つべきだと我も思うぞ」
二人を怒らせ落ち込む俺に、追い打ちをかけるかの如く、フィルさんの口からお説教が飛んでくる。
(自覚、と言われましても……)
「まず、そこじゃ! 我に敬語は不要といつも言っておろう? 親しき仲にも礼儀はあるが、度を越した礼や謙遜は、相手を傷つけ不快にさせるものじゃて。みな、お主を信じて付いてきておるのじゃ、度を超えた優しさは毒になると教えたであろう?」
女の子達から言わせれば、優柔不断な男は言語道断と言った所なのだろうけど、自覚の一言で大まかに片付けられては、こちらとしても正直たまらない。
それに、よくよく考えてみると、こういう状況のラノベ主人公って、たいてい誤魔化してこの場から逃げるよな? その後、なんだかんだで仲直りして事なきを得るんだけど、男女関係の観点から見ても、動けない俺って相当不利なのでは……くそ! 歩けるってだけで器用に立ち回りおって、許さんぞラノベ主人公ども!
なんて、想像の産物に文句を垂れていても仕方がないか。他人は他人、自分は自分、俺にできるやり方でなんとかしないと。
(わかりました)
「うむ、我はトオルを信じておるぞ」
返事だけは一人前の男の柄頭を、フィルさんは優しく丁寧に撫でてくる。その感触が、まるで母親に慰められているかのようで……いかんいかん、これではまるでマザコンではないか。ともかく、皆に対する自分のあり方を、これからもっと考え直さないとな。
それにしても、いつもと比べてなんか違和感があるなと思ったら、真っ先に来るはずのスクルドが、浜辺のパラソルに掴まったまま震えている事に気がつく。如何に女神の姿に戻ろうと、怖いものは変わらないってわけね。
そこでふと思い出したのだが、ベリトの塔で水攻めにあった時のあいつ、怯えた素振りが全然無かったんだよな。あれって、どうしてなんだろう?
(スクルド―、お前水が怖い割に、なんで塔の水部屋の時は平気だったんだー)
普通の人間には聞こえない事を利用し、遠慮なく水の中から大声で伝えてみると、遠方からよくわからないハンドシグナルとか、ジェスチャー的なものが返ってくる。はっきり言って、彼女が何を伝えたいのか、俺にはさっぱりわからん。
「あの時は、ショックで、良く、覚えていないんです。と言っておるぞ」
(フィルさん、わかるんすか)
「うむ、あれは天界オリジナルのボディランゲージだな」
なるほど、ぐるぐる回ったり、蛇みたいな動きをしたり、流石天界人、何考えてるのか全くわからん。
「それと、さん付けは無しと言っておろう。我とお主の仲ではないか」
その後も、変な踊りを続けるスクルドを微笑ましく眺めていると、突然俺は鞘から抜かれ、しなやかであり、たくましくもある細い腕と、天道以上の豊満な胸に抱きしめられる。
その強烈な弾力性に、なんだこれ? 埋まる。刀身全体が、肉の塊に埋まるぅ! 固いのに、固いのに、なんて温もりなんだ! やべぇ、窒息死しそう。
と言うか、これが齢数万歳の母の力とか、ありえねぇぞおい! こんなのに挟まれてたら俺、おっぱい魔神になり……
(あ、あの~、フィル? そろそろ放してくれると、ありがたいんだが)
しかし、そんな極上の快楽を長時間貪れるはずもなく、後ろではシャーリーがめちゃくちゃ怒っていた。
浜辺へと戻るまでの道すがら、ひとしきりの魔力を放出しきった俺は、落ち着きを取り戻し皆の前に現れる。
十数分の遊泳ではもの足りず、シャーリーは水の中に浸かっていて、当然俺も背負われたままだ。そうなると、天道が黙っているはずもなく、海の中へと入ってきた彼女は、シャーリーに向かって猛抗議を繰り広げた。
「独占ね。そんな風に言われるおぼえは、これっぽっちも無いのだけど」
受け手側のシャーリーもシャーリーで、彼女に対しライバル心を抱いているからか、意地悪をするかのように全力で彼女に食って掛かる。
「これだからお姫様は……それとも、私に勝てる見込みがないからって、焦っちゃってるのかな~?」
「……なにで負けてるっていうのよ?」
「もちろん、体だよ?」
「くっ、トオルは私の恋人よ、私が一番触れ合ってて何が悪いっていうのよ!」
おうとつ加減では彼女に勝てないとわかっているようで、悔しそうに唇を噛むシャーリーも正論で対抗し、反撃の狼煙を上げる。
「むっ、それを言われると反論のしようがないけど、一応私も愛人なんで、先輩と一緒にいる権利はあると思います!」
しかし、その程度で引き下がる天道ではなく、最低限の権利をシャーリーへと主張すると、鋭い二人の視線が俺の体へと向けられた。
「トオル! どっちの意見が正しいと思う!」
「先輩! どっちの意見が正しいと思うかな!」
ハーレムを受け入れようと決意した時から、こういう事態は予測していたけど、いきなり来るとは前途多難である。
この状況、どちらを立てようと、選ばれなかった側が悲しみに暮れるのは明白。であれば、二人の意見を取り入れる事が、正しい選択と言えるであろう!
(よし、わかった。二人共、均等に俺とベタベタしなさい! 二人の間に挟むことも特別に許可します!)
シャーリーに天道、二人が同時に幸せになれる最高のアイデアを打ち出せたと自負していると、二人の視線がゴミムシを見るような残酷なものへと変化していく。どうやら俺は、この重要な局面で、また失敗をしたらしい。
「先輩のヘタレ、甲斐性なし」
「アサミのその意見には、兼ね同意する」
俺の中での最高は、二人にとっての最低だったようで、軽蔑の言葉とともに二人は同時に深いため息をつき、互いに視線を重ね合わせる。
「とりあえず、もう少しだけ待ちなさい。あなたの後だと、身体的魅力として勝てる気が全然しないのよ。だから、お願い」
「そうは問屋がおろさない……って、先輩を奪うのが淫魔としてのあるべき姿なんだろうけど、親友からの頼みだもんね。ここは、一度引き下がりますか」
和解した理由はよくわからなかったけど、二人の熱も冷めた事だし結果オーライってところかな?
「あ、それと先輩、結果オーライとか安易に考えないでよね。私にも、限度ってものがあるんだからさ。あんまり酷いと、次は強引に行くかんね!」
そんな捨て台詞を残しながら、シートに座るスクルドの元へと天道は去っていく。最近の俺、上手くやろうとすればするほど、裏目に出ている気がするな。
「アサミの言うた通り、トオルは自覚を持つべきだと我も思うぞ」
二人を怒らせ落ち込む俺に、追い打ちをかけるかの如く、フィルさんの口からお説教が飛んでくる。
(自覚、と言われましても……)
「まず、そこじゃ! 我に敬語は不要といつも言っておろう? 親しき仲にも礼儀はあるが、度を越した礼や謙遜は、相手を傷つけ不快にさせるものじゃて。みな、お主を信じて付いてきておるのじゃ、度を超えた優しさは毒になると教えたであろう?」
女の子達から言わせれば、優柔不断な男は言語道断と言った所なのだろうけど、自覚の一言で大まかに片付けられては、こちらとしても正直たまらない。
それに、よくよく考えてみると、こういう状況のラノベ主人公って、たいてい誤魔化してこの場から逃げるよな? その後、なんだかんだで仲直りして事なきを得るんだけど、男女関係の観点から見ても、動けない俺って相当不利なのでは……くそ! 歩けるってだけで器用に立ち回りおって、許さんぞラノベ主人公ども!
なんて、想像の産物に文句を垂れていても仕方がないか。他人は他人、自分は自分、俺にできるやり方でなんとかしないと。
(わかりました)
「うむ、我はトオルを信じておるぞ」
返事だけは一人前の男の柄頭を、フィルさんは優しく丁寧に撫でてくる。その感触が、まるで母親に慰められているかのようで……いかんいかん、これではまるでマザコンではないか。ともかく、皆に対する自分のあり方を、これからもっと考え直さないとな。
それにしても、いつもと比べてなんか違和感があるなと思ったら、真っ先に来るはずのスクルドが、浜辺のパラソルに掴まったまま震えている事に気がつく。如何に女神の姿に戻ろうと、怖いものは変わらないってわけね。
そこでふと思い出したのだが、ベリトの塔で水攻めにあった時のあいつ、怯えた素振りが全然無かったんだよな。あれって、どうしてなんだろう?
(スクルド―、お前水が怖い割に、なんで塔の水部屋の時は平気だったんだー)
普通の人間には聞こえない事を利用し、遠慮なく水の中から大声で伝えてみると、遠方からよくわからないハンドシグナルとか、ジェスチャー的なものが返ってくる。はっきり言って、彼女が何を伝えたいのか、俺にはさっぱりわからん。
「あの時は、ショックで、良く、覚えていないんです。と言っておるぞ」
(フィルさん、わかるんすか)
「うむ、あれは天界オリジナルのボディランゲージだな」
なるほど、ぐるぐる回ったり、蛇みたいな動きをしたり、流石天界人、何考えてるのか全くわからん。
「それと、さん付けは無しと言っておろう。我とお主の仲ではないか」
その後も、変な踊りを続けるスクルドを微笑ましく眺めていると、突然俺は鞘から抜かれ、しなやかであり、たくましくもある細い腕と、天道以上の豊満な胸に抱きしめられる。
その強烈な弾力性に、なんだこれ? 埋まる。刀身全体が、肉の塊に埋まるぅ! 固いのに、固いのに、なんて温もりなんだ! やべぇ、窒息死しそう。
と言うか、これが齢数万歳の母の力とか、ありえねぇぞおい! こんなのに挟まれてたら俺、おっぱい魔神になり……
(あ、あの~、フィル? そろそろ放してくれると、ありがたいんだが)
しかし、そんな極上の快楽を長時間貪れるはずもなく、後ろではシャーリーがめちゃくちゃ怒っていた。
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