315 / 526
第六章 それぞれの想い
第314話 第六章 エピローグ ただいまと新たなる旅路へ
しおりを挟む
(あのトールって神様さ、そんなに俺に似てるかな?)
火口からの帰り道、そんな言葉を俺が口にすると、刀身を抱きしめていたシャーリーの足が突然動きを止める。トール様という響きの悪さと、身勝手に皆を振り回すあの人の傍若無人っぷりに嫌気がさしたのがまずかった。
「ねぇ、トオル。その話、私一度も口にした覚えないんだけど?」
(え? そ、そうだったか?)
「そうよ……貴方、いったいどこから見ていたわけ?」
失言一つで感のいい彼女に気づかれてしまった俺は、シャーリー達の動向を夢と言う形でずっと追ってきたことを正直に話す。すると、彼女は盛大に大きなため息を吐いた。
「仕方ないとは言え、全部貴方に見られてたってわけね。自業自得とは言え、数日前の私に向かって、生きろ! って言いたくなるわ」
あの時の心情を思い返しているのか、俺を抱きしめる彼女の両腕に、少しだけ力がこもる。
「ほらー、先輩のこと信じてないから、そういう事になるんだぞ」
「信じてなかったわけじゃ無いわよ。ただ、私の心が弱かっただけ」
「ふふーん! そんなんじゃ、いつか私に先輩取られちゃうんだからね!」
反省とともに沈み込むシャーリーに対し、意気揚々と言葉を紡ぐ天道であったが、見ていたのはシャーリーだけじゃないんだぞと俺はツッコミを入れてしまう。
(あのー、自信満々なところ悪いんですけど、天道さんの方も、色々ばっちり見ちゃってるんですよねー)
「……まさか、アレとか、アレとか?」
(たぶん、そのアレとかアレ)
「……先輩、サイテー」
勝ち誇った笑みから一転、生ゴミを見るような瞳への熱い手のひらクルクル返し、本当に! ありがとうございます! 話せば話すだけ目新しい反応を見せてくれて、お前といると本当に飽きないよ。
(でもさ、お前の頑張ってた所もちゃんと見れたし、それに関しては、これでもかって感謝してる)
「んー。そりゃ、もちろん嬉しいけどさ。女の子の秘密を盗み見する行為は、やっぱり良くないと思います」
複雑な表情で手を挙げる天道の意見も最もだが、俺だって見たくて見ていたわけじゃないし、不可抗力なのだからしょうがない。
「でも、私達はいつでもトオルの内面を覗けるわけだし、これってやっぱり、おあいこなんじゃないかしら?」
「む、それを言われると一理ある」
むしろ、その点を考慮すれば、そちら側だけ一方的に見れて卑怯だと思います。
「あの、トオル様? 私の、ことは……」
(スクルドも、俺のために悲しんでくれてありがとな。これからはもっと、自分のことを大切にするよ)
「トオル様……」
(だからさ、笑ってくれ。スクルドに、涙は似合わないから)
「はい!」
自らの恥部を否定的に捉える二人に比べ、控えめに、それも泣いてまで主張してくるスクルドが可愛すぎて、精一杯の紳士的態度を、俺は彼女に見せる。
主従としての関係が深まってから日増しに思うが、スクルドがあまりに従順すぎて可愛くてやばい。駄女神、堕女神、言ってきたけど、シャーリーがいなかったら落ちてる自身がある。
改めて思うけど、皆が皆、違う魅力に溢れすぎてて、やばいだろこのパーティー……
「……求婚した直後に他の女をくどくなんて、トオルもなかなかいい度胸してるわよね? しかも、二人も」
(いや、別に口説いてるわけじゃ……)
しかし、直前のフィルの件もあってか、もの言いたげな瞳のシャーリーにヤキモチを焼かれてしまう。
「先輩の言うとおりだよ! それに、さっき妾もオッケーって、自分で言ってたじゃん」
「それとこれとは、話が別よ! 私だって、そんな風に言われたいじゃない……」
俺を介護しようと頑張る天道に、本音をつぶやき照れるシャーリー。そして、俺の言葉にトリップし続けるスクルドと、いつにも増してこの三人、息が合っているのか悪いのか。
「人間とは、想像以上に面白い生きものだな」
「トオルは真面目なんだよ。それこそ、女神様を自然に口説き落とすほどにな」
(バルカイト!)
「ふふっ、その通りだな」
「キュー!」
そこにバルカイトまで加わって、リースだけでなく、フィルさんにまで笑われてしまう。こういう時、被害に合うのはいつも俺だし、たまにはちょっとだけ、皆に意地悪してみようかな。
(お前らもお前らで、俺を人間として蘇らせる方法の一つでも、探してくれれば良かったのに)
絶対に叶うはずのない、些細な当てつけの言葉を口にすると、鳩が豆鉄砲を食ったような表情で三人は俺を見る。
(えっと、その発想は無かったって顔、皆さんしてらっしゃいます?)
「だ、だって、しょうがないじゃない。トオルが人間ってイメージ、私の中には無いんだもの」
「そうそう、先輩って言ったらもう剣! って感じだよね」
「私にとって、姿かたちなど関係ありません。トオル様はトオル様、生きてさえいてくだされば、それ以上の幸せはないのです」
(……あ、っそ、まっ、いいけどさ。俺も皆といられるだけで、十分幸せだし)
三者三様、反応は様々だったが、真面目に答えを返されては否定のしようがない。俺自身、人間に戻ろうなんてこと、これっぽっちも考えなかったしな。
それに、彼女に振り回されるのも慣れたもので、世界に一つぐらい、こんな形の恋があっても良いよな。
「無機物を人間に戻す方法か。すまぬ、生憎そのような心得は、我も持ち合わせてはおらん。何か力になれれば良かったのだが」
(いやいや、とんでもないっす。その気持ちだけで、充分ですから)
フィルさんも凄く真面目なのか、神妙な顔つきで俺のネタに答えてくれるし、これ以上を求めるのは流石に我儘か。スクルドの時もそうだったけど、なんだかんだ、女神様ってのは真面目なんだね。
「ほほー、いくら先輩でも、女神さまには頭が上がらないってわけだ」
(そりゃ、まぁな)
全力で戦っていた高揚感からか、少し前までは何も感じなかったけど、女神特有の威圧感を、俺は今フィルさんから感じている。シャーリーの後光も凄かったけど、本物の女神様は桁が違うな。正直、こんな人に間違って告白したとか、今すぐにでも頭を下げて首吊って死にたくなるよ。
「あのー、一応、私も女神なのですが……」
そんな中、申し訳程度に主張するスクルドであったが、自称、駄女神、もとい堕女神様に垂れる頭はない。それに、お前はもう俺のものだ……とか言ったら、シャーリーに怒られるからやめとこ。
「何はともあれ、あなたが無事戻ってきてくれて、私は嬉しいわ」
全くもってままならない、俺たち六人と一匹だけど、ここに居られることが俺にとっての幸せなんだ。シャーリーに天道にスクルドにフィル、そして、リースにバルカイト、皆とともに、これからもずっと歩んでいきたい。
「お帰りなさい、トオル」
(ただいま、シャーリー。みんな)
懐かしい彼女の感触に抱きしめられ、周りにいる皆の笑顔とともに、俺は喜びを噛みしめるのだった。
火口からの帰り道、そんな言葉を俺が口にすると、刀身を抱きしめていたシャーリーの足が突然動きを止める。トール様という響きの悪さと、身勝手に皆を振り回すあの人の傍若無人っぷりに嫌気がさしたのがまずかった。
「ねぇ、トオル。その話、私一度も口にした覚えないんだけど?」
(え? そ、そうだったか?)
「そうよ……貴方、いったいどこから見ていたわけ?」
失言一つで感のいい彼女に気づかれてしまった俺は、シャーリー達の動向を夢と言う形でずっと追ってきたことを正直に話す。すると、彼女は盛大に大きなため息を吐いた。
「仕方ないとは言え、全部貴方に見られてたってわけね。自業自得とは言え、数日前の私に向かって、生きろ! って言いたくなるわ」
あの時の心情を思い返しているのか、俺を抱きしめる彼女の両腕に、少しだけ力がこもる。
「ほらー、先輩のこと信じてないから、そういう事になるんだぞ」
「信じてなかったわけじゃ無いわよ。ただ、私の心が弱かっただけ」
「ふふーん! そんなんじゃ、いつか私に先輩取られちゃうんだからね!」
反省とともに沈み込むシャーリーに対し、意気揚々と言葉を紡ぐ天道であったが、見ていたのはシャーリーだけじゃないんだぞと俺はツッコミを入れてしまう。
(あのー、自信満々なところ悪いんですけど、天道さんの方も、色々ばっちり見ちゃってるんですよねー)
「……まさか、アレとか、アレとか?」
(たぶん、そのアレとかアレ)
「……先輩、サイテー」
勝ち誇った笑みから一転、生ゴミを見るような瞳への熱い手のひらクルクル返し、本当に! ありがとうございます! 話せば話すだけ目新しい反応を見せてくれて、お前といると本当に飽きないよ。
(でもさ、お前の頑張ってた所もちゃんと見れたし、それに関しては、これでもかって感謝してる)
「んー。そりゃ、もちろん嬉しいけどさ。女の子の秘密を盗み見する行為は、やっぱり良くないと思います」
複雑な表情で手を挙げる天道の意見も最もだが、俺だって見たくて見ていたわけじゃないし、不可抗力なのだからしょうがない。
「でも、私達はいつでもトオルの内面を覗けるわけだし、これってやっぱり、おあいこなんじゃないかしら?」
「む、それを言われると一理ある」
むしろ、その点を考慮すれば、そちら側だけ一方的に見れて卑怯だと思います。
「あの、トオル様? 私の、ことは……」
(スクルドも、俺のために悲しんでくれてありがとな。これからはもっと、自分のことを大切にするよ)
「トオル様……」
(だからさ、笑ってくれ。スクルドに、涙は似合わないから)
「はい!」
自らの恥部を否定的に捉える二人に比べ、控えめに、それも泣いてまで主張してくるスクルドが可愛すぎて、精一杯の紳士的態度を、俺は彼女に見せる。
主従としての関係が深まってから日増しに思うが、スクルドがあまりに従順すぎて可愛くてやばい。駄女神、堕女神、言ってきたけど、シャーリーがいなかったら落ちてる自身がある。
改めて思うけど、皆が皆、違う魅力に溢れすぎてて、やばいだろこのパーティー……
「……求婚した直後に他の女をくどくなんて、トオルもなかなかいい度胸してるわよね? しかも、二人も」
(いや、別に口説いてるわけじゃ……)
しかし、直前のフィルの件もあってか、もの言いたげな瞳のシャーリーにヤキモチを焼かれてしまう。
「先輩の言うとおりだよ! それに、さっき妾もオッケーって、自分で言ってたじゃん」
「それとこれとは、話が別よ! 私だって、そんな風に言われたいじゃない……」
俺を介護しようと頑張る天道に、本音をつぶやき照れるシャーリー。そして、俺の言葉にトリップし続けるスクルドと、いつにも増してこの三人、息が合っているのか悪いのか。
「人間とは、想像以上に面白い生きものだな」
「トオルは真面目なんだよ。それこそ、女神様を自然に口説き落とすほどにな」
(バルカイト!)
「ふふっ、その通りだな」
「キュー!」
そこにバルカイトまで加わって、リースだけでなく、フィルさんにまで笑われてしまう。こういう時、被害に合うのはいつも俺だし、たまにはちょっとだけ、皆に意地悪してみようかな。
(お前らもお前らで、俺を人間として蘇らせる方法の一つでも、探してくれれば良かったのに)
絶対に叶うはずのない、些細な当てつけの言葉を口にすると、鳩が豆鉄砲を食ったような表情で三人は俺を見る。
(えっと、その発想は無かったって顔、皆さんしてらっしゃいます?)
「だ、だって、しょうがないじゃない。トオルが人間ってイメージ、私の中には無いんだもの」
「そうそう、先輩って言ったらもう剣! って感じだよね」
「私にとって、姿かたちなど関係ありません。トオル様はトオル様、生きてさえいてくだされば、それ以上の幸せはないのです」
(……あ、っそ、まっ、いいけどさ。俺も皆といられるだけで、十分幸せだし)
三者三様、反応は様々だったが、真面目に答えを返されては否定のしようがない。俺自身、人間に戻ろうなんてこと、これっぽっちも考えなかったしな。
それに、彼女に振り回されるのも慣れたもので、世界に一つぐらい、こんな形の恋があっても良いよな。
「無機物を人間に戻す方法か。すまぬ、生憎そのような心得は、我も持ち合わせてはおらん。何か力になれれば良かったのだが」
(いやいや、とんでもないっす。その気持ちだけで、充分ですから)
フィルさんも凄く真面目なのか、神妙な顔つきで俺のネタに答えてくれるし、これ以上を求めるのは流石に我儘か。スクルドの時もそうだったけど、なんだかんだ、女神様ってのは真面目なんだね。
「ほほー、いくら先輩でも、女神さまには頭が上がらないってわけだ」
(そりゃ、まぁな)
全力で戦っていた高揚感からか、少し前までは何も感じなかったけど、女神特有の威圧感を、俺は今フィルさんから感じている。シャーリーの後光も凄かったけど、本物の女神様は桁が違うな。正直、こんな人に間違って告白したとか、今すぐにでも頭を下げて首吊って死にたくなるよ。
「あのー、一応、私も女神なのですが……」
そんな中、申し訳程度に主張するスクルドであったが、自称、駄女神、もとい堕女神様に垂れる頭はない。それに、お前はもう俺のものだ……とか言ったら、シャーリーに怒られるからやめとこ。
「何はともあれ、あなたが無事戻ってきてくれて、私は嬉しいわ」
全くもってままならない、俺たち六人と一匹だけど、ここに居られることが俺にとっての幸せなんだ。シャーリーに天道にスクルドにフィル、そして、リースにバルカイト、皆とともに、これからもずっと歩んでいきたい。
「お帰りなさい、トオル」
(ただいま、シャーリー。みんな)
懐かしい彼女の感触に抱きしめられ、周りにいる皆の笑顔とともに、俺は喜びを噛みしめるのだった。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。


転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる