俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第六章 それぞれの想い

第314話 第六章 エピローグ ただいまと新たなる旅路へ

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(あのトールって神様さ、そんなに俺に似てるかな?)

 火口からの帰り道、そんな言葉を俺が口にすると、刀身を抱きしめていたシャーリーの足が突然動きを止める。トール様という響きの悪さと、身勝手に皆を振り回すあの人の傍若無人っぷりに嫌気がさしたのがまずかった。

「ねぇ、トオル。その話、私一度も口にした覚えないんだけど?」

(え? そ、そうだったか?)

「そうよ……貴方、いったいどこから見ていたわけ?」

 失言一つで感のいい彼女に気づかれてしまった俺は、シャーリー達の動向を夢と言う形でずっと追ってきたことを正直に話す。すると、彼女は盛大に大きなため息を吐いた。

「仕方ないとは言え、全部貴方に見られてたってわけね。自業自得とは言え、数日前の私に向かって、生きろ! って言いたくなるわ」

 あの時の心情を思い返しているのか、俺を抱きしめる彼女の両腕に、少しだけ力がこもる。

「ほらー、先輩のこと信じてないから、そういう事になるんだぞ」

「信じてなかったわけじゃ無いわよ。ただ、私の心が弱かっただけ」

「ふふーん! そんなんじゃ、いつか私に先輩取られちゃうんだからね!」

 反省とともに沈み込むシャーリーに対し、意気揚々と言葉を紡ぐ天道であったが、見ていたのはシャーリーだけじゃないんだぞと俺はツッコミを入れてしまう。

(あのー、自信満々なところ悪いんですけど、天道さんの方も、色々ばっちり見ちゃってるんですよねー)

「……まさか、アレとか、アレとか?」

(たぶん、そのアレとかアレ)

「……先輩、サイテー」

 勝ち誇った笑みから一転、生ゴミを見るような瞳への熱い手のひらクルクル返し、本当に! ありがとうございます! 話せば話すだけ目新しい反応を見せてくれて、お前といると本当に飽きないよ。

(でもさ、お前の頑張ってた所もちゃんと見れたし、それに関しては、これでもかって感謝してる)

「んー。そりゃ、もちろん嬉しいけどさ。女の子の秘密を盗み見する行為は、やっぱり良くないと思います」

 複雑な表情で手を挙げる天道の意見も最もだが、俺だって見たくて見ていたわけじゃないし、不可抗力なのだからしょうがない。

「でも、私達はいつでもトオルの内面を覗けるわけだし、これってやっぱり、おあいこなんじゃないかしら?」

「む、それを言われると一理ある」

 むしろ、その点を考慮すれば、そちら側だけ一方的に見れて卑怯だと思います。

「あの、トオル様? 私の、ことは……」

(スクルドも、俺のために悲しんでくれてありがとな。これからはもっと、自分のことを大切にするよ)

「トオル様……」

(だからさ、笑ってくれ。スクルドに、涙は似合わないから)

「はい!」

 自らの恥部を否定的に捉える二人に比べ、控えめに、それも泣いてまで主張してくるスクルドが可愛すぎて、精一杯の紳士的態度を、俺は彼女に見せる。

 主従としての関係が深まってから日増しに思うが、スクルドがあまりに従順すぎて可愛くてやばい。駄女神、堕女神、言ってきたけど、シャーリーがいなかったら落ちてる自身がある。

 改めて思うけど、皆が皆、違う魅力に溢れすぎてて、やばいだろこのパーティー……

「……求婚した直後に他の女をくどくなんて、トオルもなかなかいい度胸してるわよね? しかも、二人も」

(いや、別に口説いてるわけじゃ……)

 しかし、直前のフィルの件もあってか、もの言いたげな瞳のシャーリーにヤキモチを焼かれてしまう。

「先輩の言うとおりだよ! それに、さっき妾もオッケーって、自分で言ってたじゃん」

「それとこれとは、話が別よ! 私だって、そんな風に言われたいじゃない……」

 俺を介護しようと頑張る天道に、本音をつぶやき照れるシャーリー。そして、俺の言葉にトリップし続けるスクルドと、いつにも増してこの三人、息が合っているのか悪いのか。

「人間とは、想像以上に面白い生きものだな」

「トオルは真面目なんだよ。それこそ、女神様を自然に口説き落とすほどにな」

(バルカイト!)

「ふふっ、その通りだな」

「キュー!」

 そこにバルカイトまで加わって、リースだけでなく、フィルさんにまで笑われてしまう。こういう時、被害に合うのはいつも俺だし、たまにはちょっとだけ、皆に意地悪してみようかな。

(お前らもお前らで、俺を人間として蘇らせる方法の一つでも、探してくれれば良かったのに)

 絶対に叶うはずのない、些細な当てつけの言葉を口にすると、鳩が豆鉄砲を食ったような表情で三人は俺を見る。

(えっと、その発想は無かったって顔、皆さんしてらっしゃいます?)

「だ、だって、しょうがないじゃない。トオルが人間ってイメージ、私の中には無いんだもの」

「そうそう、先輩って言ったらもう剣! って感じだよね」

「私にとって、姿かたちなど関係ありません。トオル様はトオル様、生きてさえいてくだされば、それ以上の幸せはないのです」

(……あ、っそ、まっ、いいけどさ。俺も皆といられるだけで、十分幸せだし)

 三者三様、反応は様々だったが、真面目に答えを返されては否定のしようがない。俺自身、人間に戻ろうなんてこと、これっぽっちも考えなかったしな。

 それに、彼女に振り回されるのも慣れたもので、世界に一つぐらい、こんな形の恋があっても良いよな。

「無機物を人間に戻す方法か。すまぬ、生憎そのような心得は、我も持ち合わせてはおらん。何か力になれれば良かったのだが」

(いやいや、とんでもないっす。その気持ちだけで、充分ですから)

 フィルさんも凄く真面目なのか、神妙な顔つきで俺のネタに答えてくれるし、これ以上を求めるのは流石に我儘か。スクルドの時もそうだったけど、なんだかんだ、女神様ってのは真面目なんだね。

「ほほー、いくら先輩でも、女神さまには頭が上がらないってわけだ」

(そりゃ、まぁな)

 全力で戦っていた高揚感からか、少し前までは何も感じなかったけど、女神特有の威圧感を、俺は今フィルさんから感じている。シャーリーの後光も凄かったけど、本物の女神様は桁が違うな。正直、こんな人に間違って告白したとか、今すぐにでも頭を下げて首吊って死にたくなるよ。

「あのー、一応、私も女神なのですが……」

 そんな中、申し訳程度に主張するスクルドであったが、自称、駄女神、もとい堕女神様に垂れる頭はない。それに、お前はもう俺のものだ……とか言ったら、シャーリーに怒られるからやめとこ。

「何はともあれ、あなたが無事戻ってきてくれて、私は嬉しいわ」

 全くもってままならない、俺たち六人と一匹だけど、ここに居られることが俺にとっての幸せなんだ。シャーリーに天道にスクルドにフィル、そして、リースにバルカイト、皆とともに、これからもずっと歩んでいきたい。

「お帰りなさい、トオル」

(ただいま、シャーリー。みんな)

 懐かしい彼女の感触に抱きしめられ、周りにいる皆の笑顔とともに、俺は喜びを噛みしめるのだった。
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