俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第六章 それぞれの想い

第313話 予想外の結末

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「どうした、聖剣よ。我の名に、何か問題でも?」

(あ、いや、問題ってわけじゃないんだけど、可愛い呼び方にならないかなって)

「か、かわ!?」

(その、名前が呼びづらいとか、そういう訳じゃないんだ。ただこう、呼び捨てだと硬いと言うか、もっと親密になりたいんだよ)

 スクルドの場合、漫画やゲームなんかで呼び慣れていたせいで、逆に愛称で呼ぶことに抵抗があったけど、ヨルズの場合、語感がなんとなく可愛くないというか、個人的に硬いんだよなぁ。呼び慣れてしまえば何の問題もないのだろうけど、やっぱり少しむず痒い。

「そ、そうか。それなら、別に構わんぞ。あくまでこの名は、人が認識するための記号のようなものだからな」

(確か、大地っていう意味だっけ?)

「ほう、よく知っておるな」

 頭の中で愛称の候補を探しながら適当に答えると、ヨルズ様は相槌を打ち、感心した素振りを俺に見せる。スクルドもそうだったけど、異世界人が沢山いるのに、そういう会話が出ないってことは、神話の設定まで調べる人って意外と少ないのかねぇ。

「女神という存在について、トオル様は、とてもお詳しいんです。私のことも、スクルドって名前を聞いただけで、運命の女神と言い当ててくださいましたし」

(……まあ、名前とか役職ぐらいだけどな)

 ただ、こんな無意味な雑学でも、誰かが笑顔になってくれるなら、俺としても嬉しいかな。さて、ヨルズ様の愛称を真剣に考えないと。スクルドの時は、しっくり来るのが見つからなかったからな。

(ヨルズちゃん、ヨルズちゃま、ヨルズたん……)

「あー、これは先輩、スイッチ入っちゃってますな―」

「スイッチ?」

「うん。女の子を可愛く呼びたいスイッチというかなんというか、まあ、そんな感じのやつが」

「お、女の子!? 我が、女の子?」

「そりゃそうでしょ! 私でも羨ましいと思う綺麗な声と顔して、何言ってるんだか。それに、先輩の許容範囲内なら、それは何でも女の子なわけで。ねっ、先輩」

(そうだな。年齢が一億歳でも、見た目と声が三十代ぐらいまでなら全然有りだな。可愛ければ、見た目人間でなくてもいけるし。それに、シャーリーみたいな合法ロリも……って、俺が考えながら喋ってるからって、何言わせんだよ)

「先輩が自分で、勝手に頷いてるだけですー」

(そっか、悪い。えーと、よーちゃん、ヨルちゃん、ルー、ズー……しっくり来ないな)

「あーらら、完全に没頭しちゃってるよ。これぐらい私にも、真剣に向き合ってくれると嬉しいんだけどね―。あと、最初の三つは流石にないっしょ」

 何やら天道が拗ねてるけど、そういうのは後にして欲しい。他のことを考える余裕なんて今、全然ないんだから。

「人間の男というのは、皆こういうものなのか?」

「世の中の男性の数で考えたら、少ない方だと私は思うよ。あくまでも先輩がそういう人なだけで」

「そ、そうか……女の子……我が」

 楽しそうな二人の会話が継続的に聞こえてくるけど、頭の中には全然入ってこない。それに、天道の考えが正しいなら、一億歳でも女性は女性、なるべく可愛らしく呼んであげないと。

(えっと、ヨルズ様)

「!? な、なんだ、聖剣よ」

(大地ってさ、ヨルズ以外にも、フロージュンとかフィヨルギュンって呼び方あったよな?)

「あ、ああ。確かにそうも呼ぶが。しかし、本当に詳しいの」

(調べるとついでに入ってくる、予備知識みたいなもんだよ)

「我らの知識を得られる世界とは……また面妖な」

 あんまり意識したこと無かったけど、俺達の世界って逆に、神様との距離が近かったのかもしれない。肉眼で見えないぶん親しみやすいと言うか、いろんなアプローチから興味持てたし、イケメンだったり萌キャラ化のおかげで、すんなりと信仰出来たしな。

 なんて、余計なこと考えてないで、愛称に集中しないと……その時、俺の脳裏に一筋の電流が走る。

(フロー、ロージー、ジュン、フィル……ん! フィル、フィルなんてどうだ?)

「どうだ、と言われてもだな」

(お前の愛称だよ、愛称! どうだ? 同じ三文字で呼びやすいし、響きもかわいいと思うんだが)

「フィル……フィル、か」

 吹き抜ける一陣の風のような、凛々しくも優しい響き。個人的には凄く気に入ってるんだけど、ヨルズ様自身が認めてくれるかどうか……

「女神様のこと、簡単にお前呼ばわりしちゃってるね。先輩」

「私で慣れすぎちゃってるんですねー、きっと」

「慣れていいもんじゃないと思う」

 彼女の返事を待つ間に、後ろの三人から手厳しい指摘を受ける俺であったが、ヨルズ様とタメ口で会話をしている天道、お前にだけは言われたくない。

 だが、ヨルズ様の長考を見るに、俺のセンスはイマイチだったのかもしれない。

(嫌だったら、別のを考え――)

「!? か、構わん! 好きに……好きに呼ぶが良い!」

(そっか、それじゃあフィルで。俺のこと、助けるの手伝ってくれてありがとな、フィル)

「う、うむ」

「あー、あれは、間違いなく堕ちたね」

「そうですね~。あれは完全に堕ちましたねー」

「……バカ」

 スクルドの時の教訓を活かし、俺なりに頑張ったつもりだったけど、愛称で呼ぶだけでこの扱いとは、世間の目は想像以上に厳しいらしい。やっぱり、今からでもやめようかな、ハーレム……

 しかし、そんな不安は違う意味で、頭の中から吹き飛ばされる事となる。

「まさか、この歳にもなって、これ程までに情熱的なプロポーズを受けることになるとはな。さすがの我も、胸の高鳴りが抑えきれん」

(……はい? プロポーズ?)

「うむ、先程、説明したように、我らが持つ名は記号のようなもの。それ故、個に授けられし名は、真命とまた同義。そなたの行いし所業は、大罪にして傲慢であると同時に、女神を所有物とせん、求愛の申し出でもあるのじゃ」

(えっと……それって、もしかして……?)

「トおル! そなたの申し出を、我は甘んじて受けよう。一人の女として、これからよろしく頼む」

 真っ白になった脳みそが、会話の内容を理解する暇もなく、彼女は満面の笑みで俺の勘違いを了承する。

 俺はまた無意識のうちに、一人の女性の人生を変えてしまったようだ。いや、この場合は神生になるのだろうか……

「貴方ってほんと、なんでそこまで常識に疎いのかしらね」

 そんな俺のうっかり加減に頭を抱えるシャーリーだったが、今回は流石に弁明の余地もない。国の常識には疎い故、というあのネタが、こうして現実になってしまったのだ。なんでこう酷い方向に限って、毎度毎度、トントン拍子に話が進むのかねぇ。

「にしても、なんだかんだで先輩は、天性のたらしというか」

「たらしというか、女神殺しですかね」

「……浮気者」

 後ろでなんか酷いことを言われている気がするけど、今はスルーすることにしよう。それぐらいしないと俺は、目の前の現実に立ち向かえそうにない。

「ふふっ、これは想像以上に、楽しい旅になりそうだ」

 三人の女性から、蔑みの言葉をいただく俺を見て、フィルはとても楽しそうに笑う。かくして、新たな力を手に入れた明石徹は、正式に婚約者となった王女様の右手に握られ、三人の愛人とともに旅を再開するのであった……最低すぎる。

「……楽しんでこいよ、母上」

 天道を筆頭に、好き放題罵倒されながら、俺たちはこの場を後にする。その直前、寝そべるだけのトール様が、初めて穏やかな表情を浮かべた気がした。
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