俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

文字の大きさ
上 下
311 / 526
第六章 それぞれの想い

第310話 神の鉄槌

しおりを挟む
「姫がこのような単細胞では、この国も支配されて、正解だったのかもしれぬな!」

「好きに言えばいいわ。何と言われようと、私にはこれしか無いんだから!」

 シャーリーが俺を構え直し、アスタロトを睨みつける。柄を握りしめた右手から、魔力が刀身に注がれると、体は熱く震えだし、芯の底から輝きを増す。

 今まで感じたことのない、強大な魔力のうねり。彼女の感情に呼応して、光の刃が強度を増していく。それはまだ、俺達が強くなれるという証拠。今はまだ届かなくとも、可能性は十二分にある! 

「こしゃくな!」

 アスタロトの放つビームと雷撃の螺旋をかわし、懐に潜り込んだシャーリーは、俺を全力で斬り上げ魔神の体に傷をつける。その外傷は当然のように回復されるが、彼女は臆することなく俺の体を振り回し続ける。

 無意味にも等しい斬撃の連打だが、徐々に刃は鋭さを増し、刀身も強く輝いていく。負けられない……負けたくない! だって、俺は彼女を愛しているから!! 

 だから強く、もっと速く、奴の体を斬り裂いて、何があっても彼女を守れるよう、もっと、もっと、鋭く、もっと、もっと、激しく、輝いて輝いて輝きまくって――

(輝けってんだ!! 俺の、刀身からだぁぁぁぁ!!!!)

 アスタロトとのドッグファイトを続ける中、振り上げた刀身が一際強く輝きだし、光の幕にヒビが入る。体の内側から、今まで感じたことのない力が溢れ出し、高鳴る鼓動は激しいビートを刻みながら、刻一刻と膨れ上がる。

 守りたい、護りたい。そんな思いと同時に割れ目は、深く大きく広がると、光剣全てに響き渡り、辺り一帯に閃光を撒き散らしながら、殻を破るかのように粉々に弾け飛ぶ。

「ぐぬぅ! ば、バカな、わしの体に傷をつけたじゃと!?」

 光る一本の傷跡が、振り下ろされた斬撃と共にアスタロトの胴に刻まれる。奴が魔力をいくら吸い上げようと、その裂傷が癒えることはない。そして俺の体も、新たな変容を遂げていた。

 本当に殻を破ったかのような、不思議な感覚。新たな姿を纏った俺は、一回り大きくなり、彼女の左手に握られている。

「トオル、これって」

(俺にもわからない。わからないけど……)

「あいつの鼻っ柱を、けちょんけちょんに折り曲げられそう、って事だけはよくわかるわ」

 両手で俺を握り直し、舌舐めずりをするシャ―ロット。彼女の見せるサディステックな表情に、身体が少し硬直する。

 これが彼女の言う、狂気的な称号を得ていた頃の戦姫の見せる顔なのだとしたら、怯える民の気持ちもわかる気がする。

 それでも、彼女の弱さも優しさも、俺が一番良くわかっている。だから怯えもしないし、彼女の全てを信じられる。それが俺に出来る、彼女に対する唯一無二の優しさだから。

「小癪な! 手加減しておれば調子に乗りおって!」

「そう、なら、ここからは全力で来なさい。あなたが本当に、手を抜いていたというならばね!」

 口元を緩めたシャーリーは、楽しそうに俺の体を振り回す。圧倒的実力差で魔神を追い詰めてはいるが、アスタロトを滅するにはまだ足りない。傷をつけるだけじゃ駄目だ、魔力そのものを浄化するためには、あと少しだけ、俺が強くならないと……

 二人が距離を取り、俺が心から願った瞬間、ブネと戦った時と同じような透明のディスプレイが、俺の目の前に現れる。

(バニッシュメントオーバードライブ、テイクオーバー。って、また、訳のわからないのが来たな)

 ディアインハイトツアエーレ・ダブルブレードモードと同じ、SFチックな表記が俺を再び困惑させる。

「アレを倒せるなら何でも良いわ、全身全霊でぶっ飛ばしちゃいましょう!」

 そんなデタラメな状況に対し、彼女は全く微動だにせず、俺が強くなれることに喜びを示していた。

 シャーリーといい、天道といい、普段は凄く優しいんだけど、キレるとほんと恐いんだよなぁ。でも、彼女からもお許しが出たんだ、あの時と同じく俺達の助けになると信じて、いっちょやってみるか! 

(よし、開放するぞシャーロット!)

「えぇ!!」

(バニッシュメントオーバードライブ、テイクオーバー・ザ・ウォーハンマー、アクティベート!)

 頭の中に流れ込む、言葉の羅列を唱えると同時に、シャーリーが俺の体を天に掲げる。

 すると、柄が大きく変形を始め、刀身を包み込むように四方に上がり、切っ先へと膨大な魔力が集まっていく。爆発的に高ぶった雷が、俺の頭上で膨れ上がると、超絶無比、巨大な雷鎚を形成した。

 それは、まさしくトールの鉄鎚。俺の中に埋め込まれた神具が、魔力によって姿を変え、新たな形となってここに顕現したのだ。

「な、なんという禍々しい魔力じゃ。壊すことしか考えておらぬ、なんとも頭の悪い力の本流よ」

「……これが、トオルの新しい力」

 アパート一軒分に匹敵する強大な魔力に、恐れおののくアスタロト。そんな魔神とは裏腹に、シャーリーの瞳には子供のような輝きが映り込んでいる。

「良いわ! 気に入った! 流石は私の愛した男よ!」

 アスタロトの言葉など耳に入っていないのか、彼女は俺を褒めちぎり、満面の笑みを浮かべてくれる。神の如き力を手にし、また一つ彼女の役に立てていることに、俺も興奮を隠せない。

「バカか、たわけが! 分不相応なその力、この国一つ滅ぼしかねんぞ!」

「全てを奪った分際で、何寝ぼけたこと言ってるのよ。私が受けたこの屈辱、百万倍にして返してあげるわ!」

 頭に血が上りきった彼女を止める方法を、生憎俺は知らない。こんなになるまで俺の彼女を怒らせたんだ、その報いは自分の体で受けてもらわないと。

 それに、元は他人のふんどしとは言え、聖剣を名乗れるだけの力を手に入れたんだ。今の俺たちの前に、敵はない! 

「これがあんたのバカにした、私の旦那の本当の実力よ! この怒りの一撃、その醜い全身で受けとめなさい!!」

 背中の翼をはためかせ、空高くへと飛び上がったシャーリーは、俺の体を斜めに傾け、魔神に向かって落下の体勢に入る。

「トオル!」

 そして、彼女は俺の名前を叫び、全速力で地面へと降下を始めた。

(こいつが俺の新しい力! こいつが俺の全力全開!! これが俺達の、トオルの鉄槌だあぁぁぁぁぁ!!!!)

「や、やめろ! そんなものを振り回せば、辺り一帯が消し炭に――」

「安心しなさい、消し飛ぶのは、貴方だけよ!!」

 完全に戦意を喪失したのか、全く動かないアスタロトの顔面に、彼女は俺の魔力を全力で叩き込む。

「ぐおおぉぉぉぉ、き、消える。わしの体、がぁ……」

 緻密ちみつに計算された雷鎚の力は、恐るべき魔神の体を瞬時に分解し、世界からその存在を綺麗サッパリ消し去った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...