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第六章 それぞれの想い
第310話 神の鉄槌
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「姫がこのような単細胞では、この国も支配されて、正解だったのかもしれぬな!」
「好きに言えばいいわ。何と言われようと、私にはこれしか無いんだから!」
シャーリーが俺を構え直し、アスタロトを睨みつける。柄を握りしめた右手から、魔力が刀身に注がれると、体は熱く震えだし、芯の底から輝きを増す。
今まで感じたことのない、強大な魔力のうねり。彼女の感情に呼応して、光の刃が強度を増していく。それはまだ、俺達が強くなれるという証拠。今はまだ届かなくとも、可能性は十二分にある!
「こしゃくな!」
アスタロトの放つビームと雷撃の螺旋を躱し、懐に潜り込んだシャーリーは、俺を全力で斬り上げ魔神の体に傷をつける。その外傷は当然のように回復されるが、彼女は臆することなく俺の体を振り回し続ける。
無意味にも等しい斬撃の連打だが、徐々に刃は鋭さを増し、刀身も強く輝いていく。負けられない……負けたくない! だって、俺は彼女を愛しているから!!
だから強く、もっと速く、奴の体を斬り裂いて、何があっても彼女を守れるよう、もっと、もっと、鋭く、もっと、もっと、激しく、輝いて輝いて輝きまくって――
(輝けってんだ!! 俺の、刀身!!!!)
アスタロトとのドッグファイトを続ける中、振り上げた刀身が一際強く輝きだし、光の幕にヒビが入る。体の内側から、今まで感じたことのない力が溢れ出し、高鳴る鼓動は激しいビートを刻みながら、刻一刻と膨れ上がる。
守りたい、護りたい。そんな思いと同時に割れ目は、深く大きく広がると、光剣全てに響き渡り、辺り一帯に閃光を撒き散らしながら、殻を破るかのように粉々に弾け飛ぶ。
「ぐぬぅ! ば、バカな、わしの体に傷をつけたじゃと!?」
光る一本の傷跡が、振り下ろされた斬撃と共にアスタロトの胴に刻まれる。奴が魔力をいくら吸い上げようと、その裂傷が癒えることはない。そして俺の体も、新たな変容を遂げていた。
本当に殻を破ったかのような、不思議な感覚。新たな姿を纏った俺は、一回り大きくなり、彼女の左手に握られている。
「トオル、これって」
(俺にもわからない。わからないけど……)
「あいつの鼻っ柱を、けちょんけちょんに折り曲げられそう、って事だけはよくわかるわ」
両手で俺を握り直し、舌舐めずりをするシャ―ロット。彼女の見せるサディステックな表情に、身体が少し硬直する。
これが彼女の言う、狂気的な称号を得ていた頃の戦姫の見せる顔なのだとしたら、怯える民の気持ちもわかる気がする。
それでも、彼女の弱さも優しさも、俺が一番良くわかっている。だから怯えもしないし、彼女の全てを信じられる。それが俺に出来る、彼女に対する唯一無二の優しさだから。
「小癪な! 手加減しておれば調子に乗りおって!」
「そう、なら、ここからは全力で来なさい。あなたが本当に、手を抜いていたというならばね!」
口元を緩めたシャーリーは、楽しそうに俺の体を振り回す。圧倒的実力差で魔神を追い詰めてはいるが、アスタロトを滅するにはまだ足りない。傷をつけるだけじゃ駄目だ、魔力そのものを浄化するためには、あと少しだけ、俺が強くならないと……
二人が距離を取り、俺が心から願った瞬間、ブネと戦った時と同じような透明のディスプレイが、俺の目の前に現れる。
(バニッシュメントオーバードライブ、テイクオーバー。って、また、訳のわからないのが来たな)
ディアインハイトツアエーレ・ダブルブレードモードと同じ、SFチックな表記が俺を再び困惑させる。
「アレを倒せるなら何でも良いわ、全身全霊でぶっ飛ばしちゃいましょう!」
そんなデタラメな状況に対し、彼女は全く微動だにせず、俺が強くなれることに喜びを示していた。
シャーリーといい、天道といい、普段は凄く優しいんだけど、キレるとほんと恐いんだよなぁ。でも、彼女からもお許しが出たんだ、あの時と同じく俺達の助けになると信じて、いっちょやってみるか!
(よし、開放するぞシャーロット!)
「えぇ!!」
(バニッシュメントオーバードライブ、テイクオーバー・ザ・ウォーハンマー、アクティベート!)
頭の中に流れ込む、言葉の羅列を唱えると同時に、シャーリーが俺の体を天に掲げる。
すると、柄が大きく変形を始め、刀身を包み込むように四方に上がり、切っ先へと膨大な魔力が集まっていく。爆発的に高ぶった雷が、俺の頭上で膨れ上がると、超絶無比、巨大な雷鎚を形成した。
それは、まさしくトールの鉄鎚。俺の中に埋め込まれた神具が、魔力によって姿を変え、新たな形となってここに顕現したのだ。
「な、なんという禍々しい魔力じゃ。壊すことしか考えておらぬ、なんとも頭の悪い力の本流よ」
「……これが、トオルの新しい力」
アパート一軒分に匹敵する強大な魔力に、恐れおののくアスタロト。そんな魔神とは裏腹に、シャーリーの瞳には子供のような輝きが映り込んでいる。
「良いわ! 気に入った! 流石は私の愛した男よ!」
アスタロトの言葉など耳に入っていないのか、彼女は俺を褒めちぎり、満面の笑みを浮かべてくれる。神の如き力を手にし、また一つ彼女の役に立てていることに、俺も興奮を隠せない。
「バカか、たわけが! 分不相応なその力、この国一つ滅ぼしかねんぞ!」
「全てを奪った分際で、何寝ぼけたこと言ってるのよ。私が受けたこの屈辱、百万倍にして返してあげるわ!」
頭に血が上りきった彼女を止める方法を、生憎俺は知らない。こんなになるまで俺の彼女を怒らせたんだ、その報いは自分の体で受けてもらわないと。
それに、元は他人の褌とは言え、聖剣を名乗れるだけの力を手に入れたんだ。今の俺たちの前に、敵はない!
「これがあんたのバカにした、私の旦那の本当の実力よ! この怒りの一撃、その醜い全身で受けとめなさい!!」
背中の翼をはためかせ、空高くへと飛び上がったシャーリーは、俺の体を斜めに傾け、魔神に向かって落下の体勢に入る。
「トオル!」
そして、彼女は俺の名前を叫び、全速力で地面へと降下を始めた。
(こいつが俺の新しい力! こいつが俺の全力全開!! これが俺達の、トオルの鉄槌だあぁぁぁぁぁ!!!!)
「や、やめろ! そんなものを振り回せば、辺り一帯が消し炭に――」
「安心しなさい、消し飛ぶのは、貴方だけよ!!」
完全に戦意を喪失したのか、全く動かないアスタロトの顔面に、彼女は俺の魔力を全力で叩き込む。
「ぐおおぉぉぉぉ、き、消える。わしの体、がぁ……」
緻密に計算された雷鎚の力は、恐るべき魔神の体を瞬時に分解し、世界からその存在を綺麗サッパリ消し去った。
「好きに言えばいいわ。何と言われようと、私にはこれしか無いんだから!」
シャーリーが俺を構え直し、アスタロトを睨みつける。柄を握りしめた右手から、魔力が刀身に注がれると、体は熱く震えだし、芯の底から輝きを増す。
今まで感じたことのない、強大な魔力のうねり。彼女の感情に呼応して、光の刃が強度を増していく。それはまだ、俺達が強くなれるという証拠。今はまだ届かなくとも、可能性は十二分にある!
「こしゃくな!」
アスタロトの放つビームと雷撃の螺旋を躱し、懐に潜り込んだシャーリーは、俺を全力で斬り上げ魔神の体に傷をつける。その外傷は当然のように回復されるが、彼女は臆することなく俺の体を振り回し続ける。
無意味にも等しい斬撃の連打だが、徐々に刃は鋭さを増し、刀身も強く輝いていく。負けられない……負けたくない! だって、俺は彼女を愛しているから!!
だから強く、もっと速く、奴の体を斬り裂いて、何があっても彼女を守れるよう、もっと、もっと、鋭く、もっと、もっと、激しく、輝いて輝いて輝きまくって――
(輝けってんだ!! 俺の、刀身!!!!)
アスタロトとのドッグファイトを続ける中、振り上げた刀身が一際強く輝きだし、光の幕にヒビが入る。体の内側から、今まで感じたことのない力が溢れ出し、高鳴る鼓動は激しいビートを刻みながら、刻一刻と膨れ上がる。
守りたい、護りたい。そんな思いと同時に割れ目は、深く大きく広がると、光剣全てに響き渡り、辺り一帯に閃光を撒き散らしながら、殻を破るかのように粉々に弾け飛ぶ。
「ぐぬぅ! ば、バカな、わしの体に傷をつけたじゃと!?」
光る一本の傷跡が、振り下ろされた斬撃と共にアスタロトの胴に刻まれる。奴が魔力をいくら吸い上げようと、その裂傷が癒えることはない。そして俺の体も、新たな変容を遂げていた。
本当に殻を破ったかのような、不思議な感覚。新たな姿を纏った俺は、一回り大きくなり、彼女の左手に握られている。
「トオル、これって」
(俺にもわからない。わからないけど……)
「あいつの鼻っ柱を、けちょんけちょんに折り曲げられそう、って事だけはよくわかるわ」
両手で俺を握り直し、舌舐めずりをするシャ―ロット。彼女の見せるサディステックな表情に、身体が少し硬直する。
これが彼女の言う、狂気的な称号を得ていた頃の戦姫の見せる顔なのだとしたら、怯える民の気持ちもわかる気がする。
それでも、彼女の弱さも優しさも、俺が一番良くわかっている。だから怯えもしないし、彼女の全てを信じられる。それが俺に出来る、彼女に対する唯一無二の優しさだから。
「小癪な! 手加減しておれば調子に乗りおって!」
「そう、なら、ここからは全力で来なさい。あなたが本当に、手を抜いていたというならばね!」
口元を緩めたシャーリーは、楽しそうに俺の体を振り回す。圧倒的実力差で魔神を追い詰めてはいるが、アスタロトを滅するにはまだ足りない。傷をつけるだけじゃ駄目だ、魔力そのものを浄化するためには、あと少しだけ、俺が強くならないと……
二人が距離を取り、俺が心から願った瞬間、ブネと戦った時と同じような透明のディスプレイが、俺の目の前に現れる。
(バニッシュメントオーバードライブ、テイクオーバー。って、また、訳のわからないのが来たな)
ディアインハイトツアエーレ・ダブルブレードモードと同じ、SFチックな表記が俺を再び困惑させる。
「アレを倒せるなら何でも良いわ、全身全霊でぶっ飛ばしちゃいましょう!」
そんなデタラメな状況に対し、彼女は全く微動だにせず、俺が強くなれることに喜びを示していた。
シャーリーといい、天道といい、普段は凄く優しいんだけど、キレるとほんと恐いんだよなぁ。でも、彼女からもお許しが出たんだ、あの時と同じく俺達の助けになると信じて、いっちょやってみるか!
(よし、開放するぞシャーロット!)
「えぇ!!」
(バニッシュメントオーバードライブ、テイクオーバー・ザ・ウォーハンマー、アクティベート!)
頭の中に流れ込む、言葉の羅列を唱えると同時に、シャーリーが俺の体を天に掲げる。
すると、柄が大きく変形を始め、刀身を包み込むように四方に上がり、切っ先へと膨大な魔力が集まっていく。爆発的に高ぶった雷が、俺の頭上で膨れ上がると、超絶無比、巨大な雷鎚を形成した。
それは、まさしくトールの鉄鎚。俺の中に埋め込まれた神具が、魔力によって姿を変え、新たな形となってここに顕現したのだ。
「な、なんという禍々しい魔力じゃ。壊すことしか考えておらぬ、なんとも頭の悪い力の本流よ」
「……これが、トオルの新しい力」
アパート一軒分に匹敵する強大な魔力に、恐れおののくアスタロト。そんな魔神とは裏腹に、シャーリーの瞳には子供のような輝きが映り込んでいる。
「良いわ! 気に入った! 流石は私の愛した男よ!」
アスタロトの言葉など耳に入っていないのか、彼女は俺を褒めちぎり、満面の笑みを浮かべてくれる。神の如き力を手にし、また一つ彼女の役に立てていることに、俺も興奮を隠せない。
「バカか、たわけが! 分不相応なその力、この国一つ滅ぼしかねんぞ!」
「全てを奪った分際で、何寝ぼけたこと言ってるのよ。私が受けたこの屈辱、百万倍にして返してあげるわ!」
頭に血が上りきった彼女を止める方法を、生憎俺は知らない。こんなになるまで俺の彼女を怒らせたんだ、その報いは自分の体で受けてもらわないと。
それに、元は他人の褌とは言え、聖剣を名乗れるだけの力を手に入れたんだ。今の俺たちの前に、敵はない!
「これがあんたのバカにした、私の旦那の本当の実力よ! この怒りの一撃、その醜い全身で受けとめなさい!!」
背中の翼をはためかせ、空高くへと飛び上がったシャーリーは、俺の体を斜めに傾け、魔神に向かって落下の体勢に入る。
「トオル!」
そして、彼女は俺の名前を叫び、全速力で地面へと降下を始めた。
(こいつが俺の新しい力! こいつが俺の全力全開!! これが俺達の、トオルの鉄槌だあぁぁぁぁぁ!!!!)
「や、やめろ! そんなものを振り回せば、辺り一帯が消し炭に――」
「安心しなさい、消し飛ぶのは、貴方だけよ!!」
完全に戦意を喪失したのか、全く動かないアスタロトの顔面に、彼女は俺の魔力を全力で叩き込む。
「ぐおおぉぉぉぉ、き、消える。わしの体、がぁ……」
緻密に計算された雷鎚の力は、恐るべき魔神の体を瞬時に分解し、世界からその存在を綺麗サッパリ消し去った。
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