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第六章 それぞれの想い
第307話 君を愛している
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目の前に広がる白い光が晴れると同時に、体に感じたのは冷たい水の感触。塩っ気の混じった切ない味と共に、とても近い距離から女の子の泣き声が聞こえ、ぼんやりとしていた視界がはっきりとしてくると、見覚えのある青髪の幼女が、俺の目の前で泣いていた。
どうやら俺は、あの鉄の塊の中に戻ってこれたらしい。この動けない手足のもどかしさを、懐かしいと思うぐらいには、俺はもう人間辞めてたんだなって改めて気付かされる。
そんな無機物の名を、心の底から呼び続ける最愛の人の泣き顔は、見ていてとても苦しかったけど、今までで最高に愛らしいとも思う。
女の子を泣かせることは、純粋に悪いことなんだってずっと思って生きてきたけど、今ならわかる。それはただ逃げているだけで、俺に覚悟が足りなかったんだって。
そりゃ、怖がらせたり、困らせたり、意図的に相手を傷つける事は同性にだってしちゃいけないってのは変わらない。でも、俺のために流してくれる涙は、こんなにも温かくて美しくて……だから、逃げちゃ駄目なんだ。
嬉しい時だけでなく、苦しい時も悲しい時も、俺に対する怒りだって、その全てを受け止める事こそが、病める時も健やかなる時も、汝は彼女を愛し続けるって事なんだって。
だから、俺は……
(全く、なんて顔してるんだよ)
勇気を出してもう一度、最愛の彼女へと声を掛ける。
「……とお、る?」
(あぁ、そうだよ。ただいま、シャーリー)
あれだけ求められていたのだから、盛大に喜ばれると思っていたのだけど、彼女は不思議そうに両目をパチクリとさせ、驚きに身を固めてしまう。
「……本当に、トオル、なのよね?」
それだけならともかく、存在そのものまで疑われてしまい、困り果ててしまった俺は、彼女の緊張を解そうと、少しだけおどけてみることにする。
(何だよ、シャーリーにはこの声が、他の誰かに聞こえるのか?)
すると、彼女は突然眉間にシワを寄せ、俺の事を睨みつけた。
「バカ! 遅いわよ! 私が、この私が声を掛けてあげてるのよ! 愚民ならもっと早く答えなさいよ……ばか、バカ、バカぁ!!」
子供のように刀身を叩く彼女の姿に、心身ともに痛みを感じながらも言葉が見つからない。結局俺は、彼女を悲しませているのかと思うと、どう答えていいのかわからなくなってしまったのである。
(悪い、これでも頑張ったつもりなんだけど……待ち合わせに遅れるような男は、やっぱ嫌いだよな?)
「ばか……そんな事ぐらいで嫌いになれるわけないじゃない。大好きよ、バカ……」
それなのに、最後は好きと言われたりして、男としてはよくわからない……と言ったら、失礼になるんだろうな。恨み節も愛の言葉も、その全てがシャーリーの本音で、これが本当のシャーロット・リィンバースなんだ。
「全く、なんで貴方みたいなの、好きになっちゃったのかしらね。最低よ」
それでも止まらない不安定な彼女の本音が面白くて、思わず俺も調子に乗ってしまう。
(申し訳ございません王女殿下。何分私めは異世界からの来訪者、この国の常識には疎い故、兵や民のように迅速に動けぬことをお許し下さい)
「屁理屈吐かすんじゃ無いわよ、このバカ剣」
夢の世界で見ていた時にはあまり感じなかったけど、この姿のシャーリーが普通に喋っているなんて、なんだか不思議な感覚だ。
呪いに蝕まれていたとは言え、寡黙だった彼女が、まるで王女様のような口調で生き生きと喋っている……いや、本来彼女はこの国の王女様なのだから、これが当たり前のはず。はずなのだが、あまりにも身近に居すぎたせいで、逆に新鮮に感じてしまう。
それにさっきの台詞、剣と犬が合わさって、どこぞのツンデレにバカ犬と罵倒されているようで、これもまた新鮮に感じる。ちょっと弱気でおとなしい、今までのシャーリーも大好きだけど、こんな彼女も悪くない……うん、やっぱり俺は、シャーロット・リィンバースって女の子が大好きなんだって、改めて実感した。
「ほんとに、ほんとに心配したんだからね、バカ」
そんな彼女に刀身を抱きしめられて、今しかないと、俺は決意を固める。彼女に伝えようと思っていた言葉、その全てを、今ここでぶつけるんだ!
(ごめんシャーロット。こんな時だけど、ひとつ、聞いて欲しいことがあるんだ)
「ど、どうしたのよトオル。あ、改まっちゃって」
彼女を見つめる真剣な表情にシャーリーは驚きを隠せず、切れ長な瞳に動揺を浮かべる。ここまで張り詰めた緊張感、霧崎と戦った時ですら感じなかったのに……それだけ二人にとって、人生を変えるぐらい重要な話だとお互いに理解しているんだ。
今ならまだ引き返せるけど、ここで引き返したら何も変わらない。だから俺は前に進む、二人の関係を一歩でも進展させるために!
(これから先も、俺はずっと君に迷惑をかけることになると思う。戦いでも私生活でも、君がいないと何も出来ない駄目な男だ)
「そ、そんなこと――」
(けど、決めたんだ。大切な者は、全て守り通すって。そのために俺は、皆を俺の側に置きたい。この世界じゃ、許されている権利らしいけど、心の中じゃ君は納得しないだろ?)
「あ、あのね、トオル――」
(納得できないならそれでいいし、我慢もしなくていい、いつでも俺に不満をぶつけてくれ。俺の態度が許せないって、天道が俺にベタベタしてると苦しいって、スクルドの無知っぷりが不安だって、いつでも全部言ってくれ。それも全て、俺の大好きなシャーロット、シャーロット・リィンバースなんだって受け止めるから)
「だから、ちょっとまっ――」
(だから、ここで宣言する。シャーリー、この戦いが終わったら、俺と……結婚してください)
矢継早に全てを語った俺は、心の中で彼女に向かって頭を下げる。何度か止められたような気もするけど、彼女の話を聞くような余裕なんて全然なくて……やっぱり、まずかったかな。
話を聞かない男って嫌われるし、シャーリーも黙ったままで、これでフラレたら完全に笑いものなんだけど……
「もう、いつも奥手で意気地なしで、優柔不断なダメな人だと思ってたけど、貴方って結構強引なのね。そんな風に言われたら、こう答えるしか無いじゃない……はい、喜んで!」
そんな不安に苛まれる中話し始めたシャーリーは、仕方なさそうに肩を落とすと薄ら笑いを浮かべる。やっぱりダメだったかと、俺ががっかりした直後、彼女はそんな事を言いながら俺に向かって大輪の花を咲かせた。
どうやら俺は、あの鉄の塊の中に戻ってこれたらしい。この動けない手足のもどかしさを、懐かしいと思うぐらいには、俺はもう人間辞めてたんだなって改めて気付かされる。
そんな無機物の名を、心の底から呼び続ける最愛の人の泣き顔は、見ていてとても苦しかったけど、今までで最高に愛らしいとも思う。
女の子を泣かせることは、純粋に悪いことなんだってずっと思って生きてきたけど、今ならわかる。それはただ逃げているだけで、俺に覚悟が足りなかったんだって。
そりゃ、怖がらせたり、困らせたり、意図的に相手を傷つける事は同性にだってしちゃいけないってのは変わらない。でも、俺のために流してくれる涙は、こんなにも温かくて美しくて……だから、逃げちゃ駄目なんだ。
嬉しい時だけでなく、苦しい時も悲しい時も、俺に対する怒りだって、その全てを受け止める事こそが、病める時も健やかなる時も、汝は彼女を愛し続けるって事なんだって。
だから、俺は……
(全く、なんて顔してるんだよ)
勇気を出してもう一度、最愛の彼女へと声を掛ける。
「……とお、る?」
(あぁ、そうだよ。ただいま、シャーリー)
あれだけ求められていたのだから、盛大に喜ばれると思っていたのだけど、彼女は不思議そうに両目をパチクリとさせ、驚きに身を固めてしまう。
「……本当に、トオル、なのよね?」
それだけならともかく、存在そのものまで疑われてしまい、困り果ててしまった俺は、彼女の緊張を解そうと、少しだけおどけてみることにする。
(何だよ、シャーリーにはこの声が、他の誰かに聞こえるのか?)
すると、彼女は突然眉間にシワを寄せ、俺の事を睨みつけた。
「バカ! 遅いわよ! 私が、この私が声を掛けてあげてるのよ! 愚民ならもっと早く答えなさいよ……ばか、バカ、バカぁ!!」
子供のように刀身を叩く彼女の姿に、心身ともに痛みを感じながらも言葉が見つからない。結局俺は、彼女を悲しませているのかと思うと、どう答えていいのかわからなくなってしまったのである。
(悪い、これでも頑張ったつもりなんだけど……待ち合わせに遅れるような男は、やっぱ嫌いだよな?)
「ばか……そんな事ぐらいで嫌いになれるわけないじゃない。大好きよ、バカ……」
それなのに、最後は好きと言われたりして、男としてはよくわからない……と言ったら、失礼になるんだろうな。恨み節も愛の言葉も、その全てがシャーリーの本音で、これが本当のシャーロット・リィンバースなんだ。
「全く、なんで貴方みたいなの、好きになっちゃったのかしらね。最低よ」
それでも止まらない不安定な彼女の本音が面白くて、思わず俺も調子に乗ってしまう。
(申し訳ございません王女殿下。何分私めは異世界からの来訪者、この国の常識には疎い故、兵や民のように迅速に動けぬことをお許し下さい)
「屁理屈吐かすんじゃ無いわよ、このバカ剣」
夢の世界で見ていた時にはあまり感じなかったけど、この姿のシャーリーが普通に喋っているなんて、なんだか不思議な感覚だ。
呪いに蝕まれていたとは言え、寡黙だった彼女が、まるで王女様のような口調で生き生きと喋っている……いや、本来彼女はこの国の王女様なのだから、これが当たり前のはず。はずなのだが、あまりにも身近に居すぎたせいで、逆に新鮮に感じてしまう。
それにさっきの台詞、剣と犬が合わさって、どこぞのツンデレにバカ犬と罵倒されているようで、これもまた新鮮に感じる。ちょっと弱気でおとなしい、今までのシャーリーも大好きだけど、こんな彼女も悪くない……うん、やっぱり俺は、シャーロット・リィンバースって女の子が大好きなんだって、改めて実感した。
「ほんとに、ほんとに心配したんだからね、バカ」
そんな彼女に刀身を抱きしめられて、今しかないと、俺は決意を固める。彼女に伝えようと思っていた言葉、その全てを、今ここでぶつけるんだ!
(ごめんシャーロット。こんな時だけど、ひとつ、聞いて欲しいことがあるんだ)
「ど、どうしたのよトオル。あ、改まっちゃって」
彼女を見つめる真剣な表情にシャーリーは驚きを隠せず、切れ長な瞳に動揺を浮かべる。ここまで張り詰めた緊張感、霧崎と戦った時ですら感じなかったのに……それだけ二人にとって、人生を変えるぐらい重要な話だとお互いに理解しているんだ。
今ならまだ引き返せるけど、ここで引き返したら何も変わらない。だから俺は前に進む、二人の関係を一歩でも進展させるために!
(これから先も、俺はずっと君に迷惑をかけることになると思う。戦いでも私生活でも、君がいないと何も出来ない駄目な男だ)
「そ、そんなこと――」
(けど、決めたんだ。大切な者は、全て守り通すって。そのために俺は、皆を俺の側に置きたい。この世界じゃ、許されている権利らしいけど、心の中じゃ君は納得しないだろ?)
「あ、あのね、トオル――」
(納得できないならそれでいいし、我慢もしなくていい、いつでも俺に不満をぶつけてくれ。俺の態度が許せないって、天道が俺にベタベタしてると苦しいって、スクルドの無知っぷりが不安だって、いつでも全部言ってくれ。それも全て、俺の大好きなシャーロット、シャーロット・リィンバースなんだって受け止めるから)
「だから、ちょっとまっ――」
(だから、ここで宣言する。シャーリー、この戦いが終わったら、俺と……結婚してください)
矢継早に全てを語った俺は、心の中で彼女に向かって頭を下げる。何度か止められたような気もするけど、彼女の話を聞くような余裕なんて全然なくて……やっぱり、まずかったかな。
話を聞かない男って嫌われるし、シャーリーも黙ったままで、これでフラレたら完全に笑いものなんだけど……
「もう、いつも奥手で意気地なしで、優柔不断なダメな人だと思ってたけど、貴方って結構強引なのね。そんな風に言われたら、こう答えるしか無いじゃない……はい、喜んで!」
そんな不安に苛まれる中話し始めたシャーリーは、仕方なさそうに肩を落とすと薄ら笑いを浮かべる。やっぱりダメだったかと、俺ががっかりした直後、彼女はそんな事を言いながら俺に向かって大輪の花を咲かせた。
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