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第六章 それぞれの想い
第304話 帰るべき場所
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「どうお兄ちゃん? こっちの世界なら、こんな事だってし放題だよ。ぼくなら嫉妬もしないし、いくらでもできちゃうのさ」
何を勘違いしているのか、ハーレムを認めることで優位性を主張しようとするファントム。こんなこと望んでいないはずなのに、二人の熱と吐息に、強引に神経が昂ぶらされていく。クソ、これじゃまるで、本当に天道じゃないか……
「ファントム……もしかしてお前も、サキュバスなのか?」
「違うよ? でもね、女の子はみんな、大好きな人の前だと、淫魔になっちゃうんだから」
上手くはぐらかされてしまったが、本当に彼女が天道と同じなら、俺の思考を読んでいる事になる。となると、この状況も俺がどこかで望んでいることで、天道の言ってた逃げるってのは、これの事なのか?
にしても、やばいなこれ。全身くまなく二人の素肌に蹂躙されて、このままじゃ心より、先に体が墜とされちまう。けど……この状況も悪くない。
「なぁ、天道? スクルド? 俺のこと、好きか?」
そう思ってしまったからか、幻影だとわかっているのに、熱い視線を送る二人に俺は質問をしてしまう。
「もう、今更聞かないでよ」
「そうです。当たり前じゃないですか」
俺の胸部周辺を、綿密に弄くり回しながら、二人は耳元で俺の望む答えを囁いてくれる。
「ずーっと、俺と一緒に居たいか?」
「もちろんだよ~」
「はい、トオル様のお傍に置かせてください」
「……お前らの事、一番に扱ってやれないけど、それでも良いのか?」
「私の志望は愛人さん。先輩と、ニャンニャン出来ればそれでいいの」
「トオル様のお傍にお使えさえできれば、スクルドは満足にございます」
俺の隣で囁いている二人は夢の中の住人で、俺に都合の良い言葉を並べさせられているだけなのかもしれない。それでも、こんな従順な姿を見せつけられたら、男として黙ってなんていられないし、放っておくことも出来ない。けれど、これが夢だと言うのなら、現実の皆もどこかで俺を待っているはずなんだ。
そう考えた瞬間、二人の首に回した腕に、自然と力がこもり始める。この温もりを離したくない、この温もりを守っていきたい。でも、それはここでじゃなくて、不便と不条理に彩られたあの世界で、俺は皆を護りたいんだ。そのためには帰らないと、皆が待ってくれている、あの世界へ。
だから俺は、両腕に全ての力を込め、「消えろ」と、二つの幻影を絞め殺す。消える直前に見せた二人の歪んだ表情に、少しだけ心が痛んだけど、これで良いんだ。
「ふーん、お兄ちゃんって、意外と残忍なんだね」
「俺だって、必要なら何だってやるさ。本当に、必要ならな」
別に、簡単に人を殺せるほど肝も据わってなけりゃ、俺様は人を殺していい人間なんだってうぬぼれもないし、自分勝手でもない。今のはただ、偽物だってわかっているから出来ただけだ。本物の二人の首を絞めるなんて、出来るわけがない。
うっ、ちょっと想像しただけで嗚咽が……
「そっか……うん! やっぱり、お兄ちゃんって面白い」
こんな腰抜けの一体何が面白いのかわからないが、今は呑み込まれないようにしないと。想像で、自分の首を絞めている場合じゃない。
「って事で、出口はどっちだ?」
「えーっとね、あっちだよ!」
切羽詰まった俺がそんな言葉を口にすると、おもむろにファントムは体を傾け、右側面を指差す。その先には、この空間には似つかわしくない、白い光が輝いていた。
「でも、それを普通、ぼくにきくかな? 嘘教えたらどうするつもりなのさ?」
ノリで教えてくれないかと、淡い期待を抱いただけだったのだが、正論を並べられると流石にちょっとへこむ。
「お前は俺に嘘をつかない、そんな気がしたからだよ」
でも、そいつを彼女に悟らせたくなくて、適当に思いついた言葉を俺はカッコつけながら並べ立てる。
「そ、そんな事言われると、ちょっと嬉しい、かな」
すると、ただの照れ隠しを真面目に捕らえたファントムは、今までで一番かわいらしい表情を俺に見せた。けど、シャーリーの顔でその照れ方は、流石に反則すぎる。
「あーあ、これでお兄ちゃんともお別れか。最後までしっぽり、お兄ちゃんのぬくもりを感じたかったんだけどな―」
「……なら、お前も来ないか?」
だからかな、反射的にそんな言葉を述べてしまったのは。けれども、目の前の幼女は真顔で俺を睨みつけ、最後にはため息まで吐かれてしまう。
「それ、本気でいってる?」
無垢な幼女の素直な感想が、俺の心に重くのしかかり、なんとか話を繋げようと脳みそをフル回転させる。
「あー、よくわからないけど、お前も俺のこと、好きなんだろ? だったら、一緒に来ないかなって」
ファントムの言動、その全てが恋心からなのだと仮定すれば、ヤキモチ焼いてる天道とたぶん同じなんだ。一緒にいる皆のことが羨ましくて、見ている内に俺を独り占めしたくなった。たぶんそんな感じで、彼女自身に悪気はないんだよ。
「自分がさ、モテる男なんて言う気はないけど、好いてくれる女の子ぐらい、大切にしたいじゃん」
彼女いない歴十八年を生きてきた俺だから言えること、俺みたいな人間を好きだと言ってくれる希少な人達は、皆まとめて大切にしたい。
だって、この世の中には四人だけしか、俺の味方なんていないかも知れないじゃん……なんて言ったら、リースとバルカイトに怒られるか。でも、それぐらい一緒にいてくれる人は大切だって、俺はわかってるから。
「お兄ちゃんって、ほんとバカだよね。これでもぼく、悪い子なんだけどな」
「悪い子ってだけなら、うちにも淫魔が一人いるからな。厄介者が一人増えた所で、構やしねぇよ」
それに、本当の悪人は、こんな無邪気に笑ったりしない。自分の起こした行動で、他人が傷つくことが楽しくて楽しくて仕方がなくて、もっとゲスっぽく笑うもんだ。そういう人間ヅラした魔神を、俺は何柱と見てきたからな。あいつらを止めることは出来ないだろうけど、彼女はまだ何とか出来るような気がするんだ。
「そっかそっか、それじゃ、次に会う時までに考えとくね。それに、早く行った方がいいと思うよ?」
今まで出会った数々の強敵達を思い出し、感慨にふけっていると、一際楽しそうな笑みをファントムは浮かべる。すると、光の裂け目の白い部分に、何かの映像が浮かび上がってきた。
何を勘違いしているのか、ハーレムを認めることで優位性を主張しようとするファントム。こんなこと望んでいないはずなのに、二人の熱と吐息に、強引に神経が昂ぶらされていく。クソ、これじゃまるで、本当に天道じゃないか……
「ファントム……もしかしてお前も、サキュバスなのか?」
「違うよ? でもね、女の子はみんな、大好きな人の前だと、淫魔になっちゃうんだから」
上手くはぐらかされてしまったが、本当に彼女が天道と同じなら、俺の思考を読んでいる事になる。となると、この状況も俺がどこかで望んでいることで、天道の言ってた逃げるってのは、これの事なのか?
にしても、やばいなこれ。全身くまなく二人の素肌に蹂躙されて、このままじゃ心より、先に体が墜とされちまう。けど……この状況も悪くない。
「なぁ、天道? スクルド? 俺のこと、好きか?」
そう思ってしまったからか、幻影だとわかっているのに、熱い視線を送る二人に俺は質問をしてしまう。
「もう、今更聞かないでよ」
「そうです。当たり前じゃないですか」
俺の胸部周辺を、綿密に弄くり回しながら、二人は耳元で俺の望む答えを囁いてくれる。
「ずーっと、俺と一緒に居たいか?」
「もちろんだよ~」
「はい、トオル様のお傍に置かせてください」
「……お前らの事、一番に扱ってやれないけど、それでも良いのか?」
「私の志望は愛人さん。先輩と、ニャンニャン出来ればそれでいいの」
「トオル様のお傍にお使えさえできれば、スクルドは満足にございます」
俺の隣で囁いている二人は夢の中の住人で、俺に都合の良い言葉を並べさせられているだけなのかもしれない。それでも、こんな従順な姿を見せつけられたら、男として黙ってなんていられないし、放っておくことも出来ない。けれど、これが夢だと言うのなら、現実の皆もどこかで俺を待っているはずなんだ。
そう考えた瞬間、二人の首に回した腕に、自然と力がこもり始める。この温もりを離したくない、この温もりを守っていきたい。でも、それはここでじゃなくて、不便と不条理に彩られたあの世界で、俺は皆を護りたいんだ。そのためには帰らないと、皆が待ってくれている、あの世界へ。
だから俺は、両腕に全ての力を込め、「消えろ」と、二つの幻影を絞め殺す。消える直前に見せた二人の歪んだ表情に、少しだけ心が痛んだけど、これで良いんだ。
「ふーん、お兄ちゃんって、意外と残忍なんだね」
「俺だって、必要なら何だってやるさ。本当に、必要ならな」
別に、簡単に人を殺せるほど肝も据わってなけりゃ、俺様は人を殺していい人間なんだってうぬぼれもないし、自分勝手でもない。今のはただ、偽物だってわかっているから出来ただけだ。本物の二人の首を絞めるなんて、出来るわけがない。
うっ、ちょっと想像しただけで嗚咽が……
「そっか……うん! やっぱり、お兄ちゃんって面白い」
こんな腰抜けの一体何が面白いのかわからないが、今は呑み込まれないようにしないと。想像で、自分の首を絞めている場合じゃない。
「って事で、出口はどっちだ?」
「えーっとね、あっちだよ!」
切羽詰まった俺がそんな言葉を口にすると、おもむろにファントムは体を傾け、右側面を指差す。その先には、この空間には似つかわしくない、白い光が輝いていた。
「でも、それを普通、ぼくにきくかな? 嘘教えたらどうするつもりなのさ?」
ノリで教えてくれないかと、淡い期待を抱いただけだったのだが、正論を並べられると流石にちょっとへこむ。
「お前は俺に嘘をつかない、そんな気がしたからだよ」
でも、そいつを彼女に悟らせたくなくて、適当に思いついた言葉を俺はカッコつけながら並べ立てる。
「そ、そんな事言われると、ちょっと嬉しい、かな」
すると、ただの照れ隠しを真面目に捕らえたファントムは、今までで一番かわいらしい表情を俺に見せた。けど、シャーリーの顔でその照れ方は、流石に反則すぎる。
「あーあ、これでお兄ちゃんともお別れか。最後までしっぽり、お兄ちゃんのぬくもりを感じたかったんだけどな―」
「……なら、お前も来ないか?」
だからかな、反射的にそんな言葉を述べてしまったのは。けれども、目の前の幼女は真顔で俺を睨みつけ、最後にはため息まで吐かれてしまう。
「それ、本気でいってる?」
無垢な幼女の素直な感想が、俺の心に重くのしかかり、なんとか話を繋げようと脳みそをフル回転させる。
「あー、よくわからないけど、お前も俺のこと、好きなんだろ? だったら、一緒に来ないかなって」
ファントムの言動、その全てが恋心からなのだと仮定すれば、ヤキモチ焼いてる天道とたぶん同じなんだ。一緒にいる皆のことが羨ましくて、見ている内に俺を独り占めしたくなった。たぶんそんな感じで、彼女自身に悪気はないんだよ。
「自分がさ、モテる男なんて言う気はないけど、好いてくれる女の子ぐらい、大切にしたいじゃん」
彼女いない歴十八年を生きてきた俺だから言えること、俺みたいな人間を好きだと言ってくれる希少な人達は、皆まとめて大切にしたい。
だって、この世の中には四人だけしか、俺の味方なんていないかも知れないじゃん……なんて言ったら、リースとバルカイトに怒られるか。でも、それぐらい一緒にいてくれる人は大切だって、俺はわかってるから。
「お兄ちゃんって、ほんとバカだよね。これでもぼく、悪い子なんだけどな」
「悪い子ってだけなら、うちにも淫魔が一人いるからな。厄介者が一人増えた所で、構やしねぇよ」
それに、本当の悪人は、こんな無邪気に笑ったりしない。自分の起こした行動で、他人が傷つくことが楽しくて楽しくて仕方がなくて、もっとゲスっぽく笑うもんだ。そういう人間ヅラした魔神を、俺は何柱と見てきたからな。あいつらを止めることは出来ないだろうけど、彼女はまだ何とか出来るような気がするんだ。
「そっかそっか、それじゃ、次に会う時までに考えとくね。それに、早く行った方がいいと思うよ?」
今まで出会った数々の強敵達を思い出し、感慨にふけっていると、一際楽しそうな笑みをファントムは浮かべる。すると、光の裂け目の白い部分に、何かの映像が浮かび上がってきた。
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