俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

文字の大きさ
上 下
305 / 526
第六章 それぞれの想い

第304話 帰るべき場所

しおりを挟む
「どうお兄ちゃん? こっちの世界なら、こんな事だってし放題だよ。ぼくなら嫉妬もしないし、いくらでもできちゃうのさ」

 何を勘違いしているのか、ハーレムを認めることで優位性を主張しようとするファントム。こんなこと望んでいないはずなのに、二人の熱と吐息に、強引に神経が昂ぶらされていく。クソ、これじゃまるで、本当に天道じゃないか……

「ファントム……もしかしてお前も、サキュバスなのか?」

「違うよ? でもね、女の子はみんな、大好きな人の前だと、淫魔サキュバスになっちゃうんだから」

 上手くはぐらかされてしまったが、本当に彼女が天道と同じなら、俺の思考を読んでいる事になる。となると、この状況も俺がどこかで望んでいることで、天道の言ってた逃げるってのは、これの事なのか? 

 にしても、やばいなこれ。全身くまなく二人の素肌に蹂躙されて、このままじゃ心より、先に体が墜とされちまう。けど……この状況も悪くない。

「なぁ、天道? スクルド? 俺のこと、好きか?」

 そう思ってしまったからか、幻影だとわかっているのに、熱い視線を送る二人に俺は質問をしてしまう。

「もう、今更聞かないでよ」

「そうです。当たり前じゃないですか」

 俺の胸部周辺を、綿密に弄くり回しながら、二人は耳元で俺の望む答えを囁いてくれる。

「ずーっと、俺と一緒に居たいか?」

「もちろんだよ~」

「はい、トオル様のお傍に置かせてください」

「……お前らの事、一番に扱ってやれないけど、それでも良いのか?」

「私の志望は愛人さん。先輩と、ニャンニャン出来ればそれでいいの」

「トオル様のお傍にお使えさえできれば、スクルドは満足にございます」

 俺の隣で囁いている二人は夢の中の住人で、俺に都合の良い言葉を並べさせられているだけなのかもしれない。それでも、こんな従順な姿を見せつけられたら、男として黙ってなんていられないし、放っておくことも出来ない。けれど、これが夢だと言うのなら、現実の皆もどこかで俺を待っているはずなんだ。

 そう考えた瞬間、二人の首に回した腕に、自然と力がこもり始める。この温もりを離したくない、この温もりを守っていきたい。でも、それはここでじゃなくて、不便と不条理に彩られたあの世界で、俺は皆を護りたいんだ。そのためには帰らないと、皆が待ってくれている、あの世界へ。

 だから俺は、両腕に全ての力を込め、「消えろ」と、二つの幻影を絞め殺す。消える直前に見せた二人の歪んだ表情に、少しだけ心が痛んだけど、これで良いんだ。

「ふーん、お兄ちゃんって、意外と残忍なんだね」

「俺だって、必要なら何だってやるさ。本当に、必要ならな」

 別に、簡単に人を殺せるほど肝も据わってなけりゃ、俺様は人を殺していい人間なんだってうぬぼれもないし、自分勝手でもない。今のはただ、偽物だってわかっているから出来ただけだ。本物の二人の首を絞めるなんて、出来るわけがない。

 うっ、ちょっと想像しただけで嗚咽が……

「そっか……うん! やっぱり、お兄ちゃんって面白い」

 こんな腰抜けの一体何が面白いのかわからないが、今は呑み込まれないようにしないと。想像で、自分の首を絞めている場合じゃない。

「って事で、出口はどっちだ?」

「えーっとね、あっちだよ!」

 切羽詰まった俺がそんな言葉を口にすると、おもむろにファントムは体を傾け、右側面を指差す。その先には、この空間には似つかわしくない、白い光が輝いていた。

「でも、それを普通、ぼくにきくかな? 嘘教えたらどうするつもりなのさ?」

 ノリで教えてくれないかと、淡い期待を抱いただけだったのだが、正論を並べられると流石にちょっとへこむ。

「お前は俺に嘘をつかない、そんな気がしたからだよ」

 でも、そいつを彼女に悟らせたくなくて、適当に思いついた言葉を俺はカッコつけながら並べ立てる。

「そ、そんな事言われると、ちょっと嬉しい、かな」

 すると、ただの照れ隠しを真面目に捕らえたファントムは、今までで一番かわいらしい表情を俺に見せた。けど、シャーリーの顔でその照れ方は、流石に反則すぎる。

「あーあ、これでお兄ちゃんともお別れか。最後までしっぽり、お兄ちゃんのぬくもりを感じたかったんだけどな―」

「……なら、お前も来ないか?」

 だからかな、反射的にそんな言葉を述べてしまったのは。けれども、目の前の幼女は真顔で俺を睨みつけ、最後にはため息まで吐かれてしまう。

「それ、本気でいってる?」

 無垢な幼女の素直な感想が、俺の心に重くのしかかり、なんとか話を繋げようと脳みそをフル回転させる。

「あー、よくわからないけど、お前も俺のこと、好きなんだろ? だったら、一緒に来ないかなって」

 ファントムの言動、その全てが恋心からなのだと仮定すれば、ヤキモチ焼いてる天道とたぶん同じなんだ。一緒にいる皆のことが羨ましくて、見ている内に俺を独り占めしたくなった。たぶんそんな感じで、彼女自身に悪気はないんだよ。

「自分がさ、モテる男なんて言う気はないけど、好いてくれる女の子ぐらい、大切にしたいじゃん」

 彼女いない歴十八年を生きてきた俺だから言えること、俺みたいな人間を好きだと言ってくれる希少な人達は、皆まとめて大切にしたい。

 だって、この世の中には四人だけしか、俺の味方なんていないかも知れないじゃん……なんて言ったら、リースとバルカイトに怒られるか。でも、それぐらい一緒にいてくれる人は大切だって、俺はわかってるから。

「お兄ちゃんって、ほんとバカだよね。これでもぼく、悪い子なんだけどな」

「悪い子ってだけなら、うちにも淫魔が一人いるからな。厄介者が一人増えた所で、構やしねぇよ」

 それに、本当の悪人は、こんな無邪気に笑ったりしない。自分の起こした行動で、他人が傷つくことが楽しくて楽しくて仕方がなくて、もっとゲスっぽく笑うもんだ。そういう人間ヅラした魔神を、俺は何柱と見てきたからな。あいつらを止めることは出来ないだろうけど、彼女はまだ何とか出来るような気がするんだ。

「そっかそっか、それじゃ、次に会う時までに考えとくね。それに、早く行った方がいいと思うよ?」

 今まで出会った数々の強敵達を思い出し、感慨にふけっていると、一際楽しそうな笑みをファントムは浮かべる。すると、光の裂け目の白い部分に、何かの映像が浮かび上がってきた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Go to the Frontier(new)

鼓太朗
ファンタジー
「Go to the Frontier」改訂版 運命の渦に導かれて、さぁ行こう。 神秘の世界へ♪ 第一章~ アラベスク王国編 第三章~ ラプラドル島編

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...