俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第六章 それぞれの想い

第302話 泥沼の狂気

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「もっと……気持ちよく……してあげるからね……トオル……!?」

 天高く突き出される、俺の一部分がお披露目になりかけた直前、シャーリーの動きが止まると、彼女の右腕がゆっくりと震えだす。

「ごめんね、シャーロット。ちょっとだけ、どいててもらえるかな」

 部屋の電気が消えると同時に、シャーリーの背中から聞こえてくる冷めきった後輩の声。いつの間に入り込んだのか、天道朝美が俺たち二人の一部始終を覗き見ていたようである。

 彼女のおかげで下半身丸出しは避けられたが、一体何が起きているのかと頭の回転が追いつく暇もなく、彼女はシャーロットを捨てるようにベッドの上から投げ飛ばす。無抵抗に地面に落ちた彼女の姿を視線で追うと、何かの柄が背中から飛び出しているのが見えた。

 横を向いているのに落ちない柄を見る限り、あの柄はシャーリーの体に刺さっている? って事は、あれはナイフか何かで、天道がやったのか? 天道が……シャーリーを刺した!? 

「……その出っ張りには興味あるけど、先輩もごめん、時間がない」

 でたらめな状況の連続に石のように固まっていると、今度は天道の顔が近づいてきて、おもむろに唇を奪われる。一体何が起きているのか、本当に訳がわからなかったが、彼女のキスの気持ちよさに、決壊しかけていた下半身が危うく暴れだす所だった。

「これでよし……と言いますか、なんかお尻の辺りで、めっちゃびくんびくんしてるんですけど。もしかして、私のキス、興奮した?」

 防御に全神経を集中させていた俺は、何も考えられずに彼女の問に頷き返してしまう。すると、暗闇でもわかるくらい天道の頬は紅潮し、恥ずかしそうに俺の胸元へと視線を俯かせてしまった。

「!? ご、ごめん。めっちゃ嬉しい! めっちゃ嬉しいけど……ほんとに時間無いから、気持ちいいのは後でね」

 こういう時に本気で照れる天道が、新鮮で可愛くて、思わず腰が浮きそうになる。

「だ~か~ら~、興奮すんなし~。私の決意が揺~ら~ぐ~!」

 しかし、葛藤に苦しむ彼女を見ていると、悪いことをしているように感じてきて、少しずつ心の奥が冷静になっていく。

「あ、萎えてきた。ちょっと残念……ってちがーう!」

 乙女心は複雑だなと、百面相をする彼女を微笑ましく眺めていると、天道の表情が突然真剣なものに変わっていく。

「先輩! これから言うこと、とーっても大切だから、ちゃんと考えて答えてね!」

「あ、あぁ」

 何がしたいのか良くわからないけど、馬乗りされているこの体勢では何も出来ないので、おとなしく話を聞いてみる事にした。

「先輩の望みは何? シャーロットと繋がること? 私達とハーレムを作ること? それとも……あっちの世界から逃げること?」

 天道の言うことはやっぱり理解できないけど、深層心理の一番奥を、何故か激しく揺さぶられる。あっちの世界とは何か? 逃げているとはどういう意味なのだろうか……

「あのね、理想にしがみつくってことは、とても素晴らしいことだと思う。それが誰かを思ってなら、尚の事、凄いんじゃないかな。でもね、それを逃げ道にしちゃダメ、自分の世界に引きこもっちゃいけないんだよ」

 彼女の発言、その全てを繋ぎ合わせると、誰かのために俺が世界から逃げているみたいじゃないか。そうなると、この世界は偽物で、ここに存在する人間の発言としては、明らかにおかしすぎる。

「一人ならね、それも仕方がないことなのかもしれないけど、今は私が居る、皆が居る。怖いんなら、偽物の仮面を被ってても良い。その不確かな底にある、異常な感情も、狂気の沙汰も、被虐嗜好だって、私は全部受け止める、受け止めてあげるから……だからさ、帰ろ? 皆の所に帰ろ? ね?」

 もうダメだ、何を言っているのか本当にわからない。帰るって何処に? 何処に帰るっていうんだよ? だって、皆はここに居て、むしろ、お前がここから奪って、うば……違う、ここは俺の世界じゃない。全てがおかしい異質な世界で、不確かなことが多い場所。それを理解しているって事は、目の前にいる彼女は――

 その瞬間、何かが空を裂く音が聞こえたのと同時に、生ぬるい液体が、生々しい音を立てながらお腹の上に降り掛かかる。暗くてよく見えないけど、なんだこれ……血!?

「……あはは、しくったなぁ。先輩のためとか思って、手加減するんじゃなかっ……ゲホッ」

 右手でそれをすくい上げ、指先で擦り合わせていると、今度は天道の口から大量の液体を吐きかけられ、俺の顔面は彼女の血の色に塗り替えられていく。

「へぇ……ここまでできるなんて……何……? 貴方は……トオルの何なの……?」

「何って……私はただの、先輩大好きなストーカーで、奇跡起こしちゃうぐらいの美少女――」

 何事もなかったかのように平然と立ち上がったシャーリーが俺達の元へと近づき、彼女が横に立った瞬間、再び何かの裂ける音と共に、重たいものが地面へと落ちる。

「もういい……黙ってて……」

 まるで二人が入れ替わるかのように、今度は動かなくなった天道の体がベッドの上から投げ捨てられ、シャーリーの小さな体が腰の上に座り込む。何が起こったのかは理解できていたが、それを確認することを脳が拒んでいる。真横で起きた出来事は、見てはいけない狂気だと、体が理解しているのだ。

「ごめん……邪魔が入って……でも……もう大丈夫……」

 友人一人を殺しながらも、笑顔で再び俺にまたがる大切な人。これが本当に、俺の愛した彼女なのだろうか? 

 誰かを傷つけることさえいとわず、悪魔のように俺の体を求めてくるシャーリーの姿に違和感を拭えない。全身を恋人に蹂躙される事は、決して嫌なわけじゃないけど、それでも今は違うと、こんな彼女に愛されたくないと、俺は思ってしまったのである。

 どうしたら良い? こんな彼女に人形のように扱われる事が俺の望みなのか? それならまだ剣として、彼女の役に立っていたほうが……

「さっきの……続き……もっと……気持ちよくして……あげるからね……トオル……お兄ちゃん……」

 衝撃的な事態の連続に心が壊れかけた瞬間、お兄ちゃんという言葉の違和感が俺の意識を覚醒させ、反射的に目の前のシャーリーの体を……いや、シャーリーにそっくりな誰かの体を、俺は突き飛ばす。

「……トオル……どう……したの……?」

「誰だ……お前は、誰だ!」
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