俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第六章 それぞれの想い

第297話 密談

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「なぁ、斎藤。ハーレムってどう思う?」

 如月愛美と名乗った保険医の先生との会話から数日後、放課後の教室で斎藤と二人、俺は密談を交わしている。頭の中に浮かぶ断片的な記憶の数々、少しずつ思い出し始めた戦いの記録と言っても良いそれは、俺を悩ませ続けていた。

 あの人の言葉が真実ならば、俺の知る世界はここじゃない。シュベルトマギーアと呼ばれた世界、そこにあったリィンバースと言う小国。そこが俺の現実……だったと思う。あの人の言っていた次元の壁一つなんてのは、俺にとってはあまりにも大きすぎて、まだ確証が掴めないのだ。

 ただ、どちらの世界が本物だとしても、俺についてくる問題が一つある。それは、三人の美少女に囲まれているというハーレム問題。シャーリー以外の二人を切り捨てれば、それで解決する問題なのかもしれないけれど、優柔不断な俺には簡単にできそうにない。だから、こうして唯一無二の親友に、俺は助言を求めているのである。

「どうって……そりゃ、最高だろ? 大好きな女の子たちに囲まれて、オタク冥利に尽きるってもんだ」

 だが、一般人からの返答なんて所詮こんなもんだ。嘲笑するつもりはないけど、美少女に囲まれて幸せな奴め! リア充爆発しろ! ぐらいにしか思えないよな、実際。一ヶ月前の俺だったら、同じこと考えてたろうし。

「どうしたんだよ本当に、先週ぐらいからお前変だぞ? ったく、俺、薙沙ちゃんのキャラばっか集めた、ハーレム同人ゲー作るんだ。って言ってた頃のお前は何処行ったんだよ!」

 そんなこともあったなー、なんて黒歴史に思いをはせながらも、斎藤に相談したのは間違いだったかな、と思い始めてる自分がいる。

 それに、今となってはそんなゲーム、絶対に作れないよな。だって、薙沙ちゃんのキャラ見たら天道の顔が真っ先に浮かぶし、そんなもん見られたら本人が自前で音声入れそうで、怖くて作れたもんじゃない。

「そりゃ、二次元の話だろ? リアルでだよ、リアルで。現実でハーレム求められたら、どうするべきかって聞いてんだ」

「それ、俺に対するあてつけか? 最近ちょーっとモテてるからって、調子乗り過ぎだぞ。非モテ同盟の裏切り者め!」

「あぁ、そうだよ。三人も女に好かれてるから聞いてるんだ。これから先、どうしたら良いのかって」

 二人の感じている現実味の違いに、話は平行線を辿るかと思いきや、真剣な俺の表情に斎藤の目の色が変わっていく。

「……ったく、なんつー顔してるんだよ。わかったわかった、真面目に答えてやる」

 普段ずぼらな俺の親友がどういった結論を導き出すのか、息を呑みながら黙って斎藤の言葉を待ちわびる。

「そうだな……悩ましい所ではあるが、俺なら一人の女に決める。勿論、最後まで吟味して、最高の女を選ぶ。いわゆる、共通ルートから個別ルートに入る感じだな。現実的には、それが最善だろ。俺達みたいな庶民じゃ、全員養う金もないし、法律的にもこの国じゃ不可能だからな。徹だって、その辺の常識はわきまえてるだろ?」

 だが、親友の口から飛び出した想像以上に真面目な答えに、俺は内心肩を落とす。そうだよな、それが清く正しい、男子の選択ってやつだよな。

 今の俺はただ、自分に都合の良い選択肢を、誰かに肯定してもらいたいだけなんだ。

「けれどもし、それが別の世界線だったり、一夫多妻の許されてる国に住んでいたとしたら、ハーレム作るのも良いんじゃないか? 勿論、全員泣かせないという条件の上で、だ。どうせお前は、どんな世界に生まれても悩む男だろうからな。真面目ってのも考えもんだね~」

 そんな俺の事情なんて何一つ知らないはずなのに、まるで全てを見透かしているかのように語る斎藤。いつもバカみたいな親友が、初めて頼もしく見えた瞬間だった。

「俺にゃ何もわかんねーし、考えたって仕方ない事なんだろうけど、お前がモテてる事自体、俺からすりゃ非現実だからな、こういう答えも必要かと思ってね。感謝しろよ、俺みたいな心の広い同士を持ってさ。てか、あんま深く考えるなよ。やれるかどうかで悩むんじゃない、男は決めたらやり遂げるんだって、グレイガ様も言ってたじゃないか。お前はまず、引くことを優先するからな。そんなんじゃ、女は幸せにできねぇぞ」

 英雄戦記、第七話、主人公が戦う意味を見失った時、仲間であるグレイガ・ミルヒールが主人公にかけた言葉か……斎藤の言う通り、俺はいつも逃げることを真っ先に考えてる。けれど、うん……俺が本当にやりたいと思っている事なら、やるしか無いんだよな。

「ただ、やるならやるで、絶対に泣かせるんじゃねーぞ。好きな女は泣かせない、全員守って幸せにする。それが俺達、メガモリの誓いだろ」

「……メガモリ?」

「女神を守るオタク達の会。創立したのはお前だぞ? なんで忘れてんだよ」

 聞き覚えのない親友の単語に一瞬戸惑う俺だが、言われてみればそんな会も作った気がする。オタクはロリコン、犯罪者! ってのに異を唱えたくて、なんとなーく適当に考えたんだっけ。

 女の子はいつも笑顔でいなくちゃいけない、その笑顔は俺達が守る。それが二次でも三次でも、それこそがオタクの使命だ! なんて、今思えばただのカッコつけ、中二病だよなぁ。

 でも、そんなバカな事を真っ先に思いつくってことは、それが俺の行動理念だ。だから、俺はそれに準じる。

「サンキューな、斎藤。なんとなく、吹っ切れた気がするよ」

「そうかそうか。なら、薙沙ちゃんの次出すミニアルバム、俺に奢ってくれよ。勿論、本人のサイン入りでな」

「お前なぁ、流石に薙沙ちゃんのサインは……いや、考えとく」

「は? 考えとくって、徹! おま! な、薙沙ちゃんの知り合いなのか!!」

 斎藤の励ましを胸に刻み、全てを振り切った俺は、もう何も怖くないとちょっとだけ調子に乗ってしまう。そのせいで、天道の正体がピンチにさらされた。

 こいつ一人にばらしたところで、何の問題も無いのかもしれないけれど、やはり彼女の正体は俺だけが知っていたい。まぁ、結局こういうところが、俺のダメな所なんだろうけど。

「ま、まぁ、その、チャンスはあるかな~、って」

「チャンスって、は? お前、何隠してる? 教えろ、教えろよぉ!!」

 天道朝美を守りたい、彼女を独り占めしたいという邪な願いから俺は、軟な体を親友にひたすら揺さぶられ続けるのだった。
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