俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第六章 それぞれの想い

第294話 混濁する記憶

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「なんか今日のは、ながーい夢だったなぁ」

 苦しんでいた天道の体が復調し、俺の体が直るとか言われた所で目を覚ましてしまったが、視点も二転三転し、まるで何処かの出来事を本当に覗き見ているようなリアリティがあった。それに、シャーリー、天道と来て、スクルドまで本格的に出てくるなんて、これがただの夢なら三人のこと好きすぎだぞ俺。

 まぁ、事実なんで否定はしないが。

 ただ、あれが夢でなく本当に起きている出来事だとしたら、何故俺はあんなものを見せられている? 頻繁に起こる頭痛や、不安定な記憶と何か関係があるのだろうか……

「まっ、考えても仕方ないか」

 どんな憶測を立てようと、所詮あれは夢の世界。別世界の現実であろうと、俺にはどうすることもできない。とにかく今は目の前の現実、学校へ行くという職務を遂行しよう。

 それでも、なんとなくあの夢の内容が気になってしまう。もし、あの世界の俺の体が直ったら、ここにいる俺はどうなってしまうのだろうか。

 まっ、アニメじゃあるまいし、別の世界の器に精神だけが召喚されるとかあるわけないよな。

「トオル……悩み事……?」

 そんな、非現実的な妄想にうつつを抜かしながら彼女の作った朝食をつまんでいると、訝しげな表情のシャーリーに正面から心配されてしまう。

「いや、その。最近、妙にリアルな夢をよく見てさ。シャーリーに天道にスクルドまで出てきて、もしかしたらあっちが本当の現実なんじゃないかなー、なんて妄想をさ」

 自分でも、口にしながら何言ってるんだろうなと苦笑いを浮かべていると、シャーリーの瞳が赤い光を放ったように見える。

「大丈夫……私はここにいる……ここが……現実」

「あ、ああ、そう、だな。何、変なこと言ってんだろうな俺」

 光の屈折かなんなのかはわからなかったが、彼女の瞳を見ていると頭の中がボーッとなって、今まで考えていたことがどうでも良くなってくる。しかも、空いている左手を持ち上げられ彼女の胸元に持っていかれては、他の何かを考える余裕など無くなるというもの。

「今の……私じゃ……トオルは……不満……?」

 そうだよな、夢の世界の事なんかどうでもいいじゃないか。現実にいる恋人を悲しませるぐらいなら、頭の中の世界なんか綺麗サッパリと忘れてやる。

「んなわけ無いだろ。俺はいつでも、目の前にいるシャーリーが大好きだよ」

「トオル……ん……嬉しい」

 不安そうな彼女の頬に右手をそっと当てると、彼女は優しく微笑み俺の左手を更に強く自分の胸に押し当てる。

 小さいながらも張りのある膨らみや、小さな突起の感触が手のひらに広がって本能的にはもう辛抱たまらん感じなのだが、いい男としてここは理性で耐えしのぐ。

 あーやべー、手のひらがあまりに気持ちよすぎて、このままだと死んでしまいそう。

「で、朝っぱらからさ二人の世界つくらないでほしいんだけどなー。私が不満」

 そんでもって、いつもどおり朝食を食べに来た天道に不服そうな瞳で俺は睨みつけられる。俺からしてみれば、朝ぐらいお前が遠慮して目一杯シャーリーとのラブラブを感じさせて欲しいのだが。

「ラブラブ……は……恥ずかしい……」

「あ、ごめん。口に、出てたか?」

「ううん……そんな顔……してた」

「そっか」

 照れて俯くシャーリーと更に甘い雰囲気を作り出した瞬間、こちらも更に険しい表情で俺のことを睨みつけてくる。

「わかったよ。ごめんなシャーリー」

「ううん……気持ち……伝わってきた」

 天道相手とはいえ、涙目で睨まれてはたまらんとシャーリーの体から離れたのはいいが、この程度では彼女の機嫌は治りそうにない。

「ったく、何すりゃ満足するんだよ。胸でも触ればいいのか?」

 どうすればいいのかわからず、不可抗力とは言えシャーリーにしていたことを口にすると、天道は頬を赤く染め上着のボタンに手をかけ始める。

「え!? んもー、しょうがないな先輩は」

「……出てけ」

 恥じらいも無く服を脱ぎ始めた天道の行動に呆れ果て、一括してやると、彼女は俺の下半身に泣きついてくる。このままだと、ズボンをずり下ろされかねないと思い、適当に頭を撫でてやると、天道は笑顔になり今度はシャーリーが俺のことを睨みつけてくる。

 そんなこんなで朝のスキンシップが終わり、本日の学園生活が始まる。

 今日の二限目となる体育の授業は、女子がマラソン、男子が徒競走と運動の秋らしいチョイスになっている。走るのは苦手だが、授業をボイコットするわけにもいかず、こうして順番を待っているってわけだ。

 まっ、得意な運動があるのかと聞かれたら、ノーって答えるけど。

 そんな中、隣に座る俺の親友は、突拍子のないことを俺に向かって尋ねてくる。

「なぁ、徹」

「なんだよ、斎藤」

「スクルドさんってさ、体育の授業受けないのかな?」

 あまりに意表を突いた質問に盛大にずっこけかけた俺は、腰かけている階段から危うく崩れ落ちそうになる。

「なんで、スクルドが授業受けなきゃならないんだよ。生徒でもあるまいし」

「だってさ、もったいねーじゃんか! あの大きいのがブルンブルン揺れないなんて!」

「ブルンブルンって……」

 斎藤の発言を聞くに、スクルドのあの執事服姿にさほど意味は無いのだなと、今度は違う意味で頭を抱えたくなる。彼女の山脈も、平均で言えば大きい方だからな。あの程度のカモフラージュで男に見せるには、無理があるってことか。

 ただ、俺から一つ言うべきことがあるとすれば、そういうことを大声で言うから女子に嫌われるんだぞ斉藤。

「あー、なんでうちの学年には、巨乳の女子少ないかなー!」

 変態という自覚のある俺でもこれだけはわかる。こういうのが、女性の敵と言われる男なんだって。

 それに、スクルドよりも天道の方が揺れる気がする。というか、今のスクルドが走ってもたぶん揺れないしな。

「同じ男子としてお前の気持ちもわからんではないが、スクルドが走っても揺れないと思うぞ」

「なんでだよ」

「あれでも一応姫を守るためのSPみたいなもんだからさ、シャーリー守るのに揺れてたら大変だろ。今もあの下、さらし巻いてるぞ、たぶん」

「そうか、もったいないな……」

「あぁ。俺たち男子にはわからんだろうけど、揺れれば揺れるほど痛いんだろうさ」

「女子って、大変なんだな」

「そうだな」

「でも、それこそが、男のロマンだよな」

「……そうだな」

 結局、俺達二人は似た者同士なのだなと、適当に相槌を打ちながら俺は思う。こいつと言い俺と言い、胸の話ばっかりして……今の話、シャーリーには聞かれていませんように。

「で、王女様とはどうなんだよ、進展してるのか?」

「進展って、頬にキスぐらいはされたけど」

「はぁぁぁ! お前それ、幼稚園児の恋人ごっこかよ!」

 スクルドの話が終わると当然のようにシャーリーとの関係を聞かれ、ありのままの状況を俺は斉藤に話す。すると、全校生徒に聞こえるほどの大声で俺達の関係に対し、彼は怒りをあわらにする。

「べ、別にいいだろ。それで満足してるんだから」

「いやいや、絶対満足してねーって! 毎日悶々としてるぞあのこ!」

「……そういう、もんなのか?」

「ああ! 俺たちぐらいの年齢の女子は性欲が高いって、ネットに書いてあったからな」

 なんだかんだと俺を悪者扱いする斉藤だけど、結局最後はネット情報かよ。俺だって、エッチなことには興味あるけど、リアルでするなら好きな人としかしたくないし、その辺りは人それぞれだと思うんだけどな。

 けど、天道を見てると、あながち間違ってもいないのかなーとも思ってしまう。あいつはきっと、俺としたくてしたくて仕方がないんだろうな……全国の薙沙ちゃんファンの皆様に、申し訳ない気持ちしかわかない。

「お前の知らないところでは、とおるぅ、とおるぅ、って毎日のように自分の体でだな」

「気持ち悪いからやめろ」

 けれども、毎日本当に彼女が俺の妄想で自分の体を慰めていたとしたら。

「……!?」

 次の瞬間、俺の頭の中に見覚えのない光景が次々とフラッシュバックを始める。

 風呂場から聞こえてくる乱れたシャーリーの声に、全身を切り刻まれ傷つき倒れる彼女の姿。そして、巨人の手の中で淫らに弄くり回されるシャーロット。知らないはずなのに、覚えているこの光景群。これは、これは、これこれこれこれ――――――

「あっ、ああっ!」

「と、徹!? ど、どうしたんだよ!」

「頭がわれ、われっ!」

「先生! 明石君が、徹が!」

 剛腕の男に頭をつかまれ頭蓋骨を握りつぶされているかのような痛みに、俺は頭を抱え地面にうずくまる。鬼気迫る激しい形相に驚いたのか、斎藤が大声で体育の先生を呼んだ。

「大丈夫か明石! 保健委員! こいつを保健室に――」

「……だいじょうぶ、です」

「明石?」

 酷い俺の痛がりように、筋骨隆々の先生も流石に慌てふためいていたが、それを制し俺は一人で立ち上がる。

「ひとりで、いけますから」

「そ、そうか?」

「はい」

 何故一人で行こうとするのか、俺自身、皆目見当もつかないが、一人で来いと、頭の中で何かに呼ばれているような気がする。

「トオル……私が」

「だいじょうぶ。いるだろ、スクルド」

 それに、シャーリーだけは絶対に連れて行ってはいけない。心配をかけるかもしれないけれど、その代わり何があろうと彼女がついてくるという確信が、俺の中にはあった。

 その確信に従い声をかけると、執事服のスクルドが一瞬視界に映り、瞬きをする間に消えてしまう。あれじゃ近衛騎士というより、まるで忍者だな。

 そんなことを考えながら俺はふらつく足を引きずり、校舎の中の保健室へと歩みを進ませるのだった。
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