俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第六章 それぞれの想い

第287話 無茶はするもんじゃない

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 それから俺達は、様々なアトラクションに挑戦し、たくさん楽しんだ。コーヒーカップにボートのような普通の乗り物系から、おとぎ話の世界が楽しめる体感ものや、ゴーカート等の競技系。

 お化け屋敷で一番怖かったのが、屋敷から出た直後のシャーリーの瞳というのには正直驚いたけど、今思えば仕方がない。何せ、怖がっていたのが天道とスクルドで、最初から最後まで俺の両腕にくっついて離れなかったからなー。俺も怖いのは苦手だけど、二人のおかげで全然怖くなかったもの。

 そのせいか、お昼は大変だった。予想通り天道もお弁当を作ってきていて、二人のあーんの連続に危うく死ぬかと思ったよ。口の中に残ってるのに詰め込もうとしてくるんだもんな、いくら美味しいお弁当でも途中で嫌になるってもんだ。

 それでも、最後まで食べきれたのはスクルドのおかげかな。窒息しかけた俺の危機を察し、二人の音頭を取ってくれたおかげで俺はお弁当を完食することができた。

 因みに、どちらのお弁当が美味しかったかと言うと、シャーリーが作ってくれたほう。もちろん、天道の作ったものがまずかったわけではなく、シャーリーの料理があまりにも美味しすぎるのだ。

 俺の彼女がシャーリーでなく、もし天道だったとしたら、俺は泣きながら彼女のお弁当をほおばった事だろう。そのぐらいには、彼女の料理は美味しかったと、ここに伝えておく。

 そして今、俺達はジェットコースターに乗り、絶叫を楽しんで降りてきた所なのだが……無理はするもんじゃないなと、激しく後悔の念に駆られていた。

「先輩、だいじょうぶ?」

「あぁぁぁぁぁぁっ、しにそう」

 絶叫系は大の苦手なのに、カッコつけて乗った結果がこれである。身長制限ギリギリなシャーリーが平然としているというのに、彼氏の俺がこれじゃなぁ……

 ちなみに、剣の頃の経験は、体内にある三半規管には引き継がれていないことが発覚した。人間としての俺は、結局今でもダメダメなのだ。

「はい……お水」

「うぅ、ありがとう」

 通路の途中に設置してある四人掛けのベンチにもたれ掛かった俺の目の前に、ペットボトルの水が差しだされる。シャーリーが買ってきてくれたおいしい水、その蓋を開け、中に入ってる透明な液体をちびちびと俺は喉の奥に流し込む。少し気分は良くなったが、動けるようになるには、まだまだ程遠い。

「全く、ダメならダメって、最初から素直に言えばいいのに。こういうところ見え張るから、先輩は。もー」

 言いたい放題天道に言われているが、全て本当のことなので何も言い返せない。それに、駄目だと正直に告白したところで、大丈夫大丈夫と一番引っ張って行きそうなのはお前だけどな。

「アイドルに介抱されながら、王女様に水買ってきて貰えるとか、自分が幸せ者なんだってこと、もうちょっと自覚してよね」

 それと、最近気になっていたのだが、シャーリーが来てからというものアイドルと言う付加価値を、彼女はやたら強調するようになった気がする。

 おそらく、シャーリーの王女様という部分に張り合っているのだろうが、俺個人としてはあまり気にしないんだけどな。

 それに、アイドル天童薙沙より、声優天童薙沙でいてくれたほうが、俺は好きなんだけどね。

「声優とアイドル、お前はどっちが資本なんだよ?」

「もちろん、声優だよ。でも、男の子的にはアイドルって言われたほうが嬉しいでしょ?」

 アイドルと声優、一般的観点から見て、どちらと知り合いである事がよりステータスになるかと聞かれたら、残念ながらアイドルに軍配が上がるだろう。

 国民的アニメに出てくる主人公キャラの中の人と、NSB44とかモーニングシャワーのメンバーの名前を言ったら、圧倒的に後者の方が反響あるし、驚かれること間違いなし。

 ただ、俺にとっての天童薙沙は、最高の声優なのだ。

「……俺的には、声優押しなんだけどな」

「の割に、毎回ライブ見に来てくれるじゃん」

「しょうがないだろ、お前の声好きなんだから。歌も結構上手いし」

「うっ、真面目に褒められると、ちょっと照れるかも」

 プロの歌手には敵わないだろうけど、天道の歌声は美しい。きれいで、とても元気が出て、生でも聞きたくなってしまう。だから頑張って、毎回苦労してチケットを取ってきたわけだけど、それが彼女に誤解を与えていたようだ。

 そんな二人の間にできたこそばゆい空気を妬み、シャーリーが恨めしそうな視線を俺に向ける。ここは弁明しておかないと、後がまずそうだ。

「シャーリーは、全部だよ。中身も見た目も、声も全部、俺にとっては最高の女性さ」

「なんか私、声以外はダメな女って言われてるような気がするんだけどなー」

 揺れる脳みそをフル活用し、思いつく限りの誉め言葉を並べると、今度は天道の額に小さな青筋が浮かびあがる。天道の事も可愛いとは思っているけど、恋人の前でそんなこと言えるわけないじゃないか。

「よーし、わかった。ここ、使いなさい!」

 俺が黙っていることに何を思ったのか、彼女は自分の膝に手を当て太ももをパンパンとたたき始める。

「膝枕! ベンチにもたれかかってるより、元気出るでしょ?」

 天道のむっちりとした弾力感のある太もも、そこに頭を埋められたら、男としてどれ程幸せな事だろうか。

 しかし、良いのか? 俺みたいな男が天道の、薙沙ちゃんの膝の上に寝っ転がったりして。全国のファンに申し訳が立たないというか、緊張から体が動かない。

「ほら、早く!」

「……わかったよ」

 頬を薄紅色に染めながらも、膝を叩き続ける天道のアプローチに押され、仕方なく俺は彼女の太ももの上に倒れ込む。自分の膝とは違う、はじき飛ばされるかのような彼女の柔らかさに、今までの悩みがすべて吹き飛ばされていく。

「あぁ、気持ちいい。俺、一生このままでも良いかも」

「いやいや、一生は困るといいますか、もちろん嬉しいけど」

 まるで自分が幼児退行したかのように、彼女の膝から離れたくない。流石に彼女の事をお母さんとは呼びたくないけど、この場から本当に動きたくなかった。

「ってかさ、先輩って弱ると恥ずかしいことスラスラ言うよね」

「みんなそんなもんじゃないか? 頭の中、まわってねーんだよ」

「ということは、これが本音ってわけか……やば、なんか顔熱くなってきたかも」

 自分でも何言ってるかもうわからないし、天道の顔はゆでだこみたいに真っ赤なんだろうけど、そんな事が気にならないぐらい眠くて眠くて仕方がない。

「あのー、お二人さん? そんなに見つめられると、違う意味で照れるのですが」

 幸せそうな俺の寝顔に他の二人がやきもちをやいているようだが、その威圧感すら心地よく、俺の意識は彼女の上で眠りの底に落ちていった。
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