俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第六章 それぞれの想い

第277話 抑えきれない激情

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 学園から帰宅を終え二時間後、シャーリーの作ってくれた美味しい夕食を頂いた所で、俺は急速な睡魔に襲われる。先生の忠告通り、疲労がピークに達しているのだろう。せめてノートぐらい写してから眠りたかったのだが、カラスの行水を済ませた俺は、急いで布団に入りこむ。そしてまた、夢の世界に入り込むと、そこには青髪の幼女の姿はなかった。

 一日の内に、三度も夢の続きを見るなんて流石に無いよなと安堵していると、今度は目の前に見覚えのある少女が現れる。長い黒髪によく知る制服、そして豊満なバディは、俺の知る天道朝美そのものだった。

 なんで天道が俺の夢に? 

 ありえない状況に目を疑うが、よくよく考えてみれば、ここは俺の創り出している幻想なんだよな。だとすると、夢の中でまで彼女に合いたいと願っているのは俺なわけで、俺の方が彼女に惹かれていると言うことになってしまう。半分間違ってはいないのだが、シャーリーのことを考えると罪の意識が……

 しかも、部屋の中をよく観察すると、前回見ていた青髪の幼女の泊まっていた部屋と、作りが似ている事に気がつく。と言う事は、学校で見た夢とこの夢の内容も繋がっていると言うことなのか? 

 とにかく、様子を見よう。現実の知り合いとは言え、登場人物の視点が変わったんだ、何か動きがあるかもしれない。

 そして、この部屋にはもう一人、女の子がいることに俺は気がつく。

「あの……アサミさん、大丈夫ですか?」

 ベッドの上に座っている、緑の髪をツインテールに束ねた幼女。彼女の発言で確信したが、慌ただしく部屋内を歩き回っているのは、やはり天道朝美だ。

「ん? 私なら大丈夫だよ。その言葉なら、シャーロットに言ってあげれば良いんじゃないかな」

「そう、ですか。それなら良いのですが」

 状況は良くわからないが、彼女の口からもシャーロットと言う言葉が飛び出した事を考慮すると、青髪の幼女も俺の知るシャーロットと言うことになるのだろうか……ってことは、そこに座ってる緑髪の幼女は、もしかしてスクルド? いやいや、まさかー。

「その……私、アサミさんのことは、好きです。もちろん、シャーロットさんも。ですから、無理だけは、なさらないでください」

「ハハッ、あんがと」

 ただ緑髪の幼女が、天道らしき少女の事を本気で心配しているのは、儚げな両目から伝わってくる。心配されている方は、少し戸惑い気味だけど。

「じゃ、本気でやばそうになった時は、相談に乗ってもらおうかな」

「はい!」

 それでも、二人の間に芽生えつつある友情という名の感情は、とても美しいものだと教えてくれている。そんな気がした。

 って、なんでそんな事わかるんだろ? 

「よーし、そこそこ時間も経ったことですし、シャーロットの食器でも見てきますかな」

 太陽のように光り輝く、真っ直ぐな幼女の笑顔に気恥ずかしさを覚えたのか、天道は一度伸びをしてからドアノブへと手をかける。その瞬間、本日三度目となるあの感覚が、俺に襲いかかってきた。

 今度は、天道か……あいつの頭の中とか、色んな意味で見たくないんだけど。そう思う暇もなく、俺の意識は彼女と同調する。


「ふぅ、危ない危ない」

 シャーロットと自分を重ねながら、物思いに耽ってたけど、まさか顔に出てるとはね。

 ああ見えてあの子、意外と感情に敏感で、本音を隠すにも苦労する。こういう時って、シャーロットぐらい鈍感か、先輩ぐらい的はずれな方が助かるんだけどな。まっ、顔に出しちゃってる自分が一番悪いんだけど。それにあの子、一応女神様だしね。

「お、なんだかんだ言っても、体は正直だ」

 いつも顔にでる先輩のことわかりやすいって言えないなー、なんて思いながらシャーロットの部屋の前にたどり着くと、空になった食器が綺麗に並べて置かれている。少し少なめによそっておいたとは言え、これだけ食べられるなら体の方は大丈夫かな。

「さて、ジェミニさんのところに持ってかないとね―」

 シャーロットの無事を確認し笑顔になった私は、自分の歌を口ずさみながら廊下を歩き、階段をおりていく。そして一階に辿り着くと、栗色の髪をはためかせながら一人のウェイトレスさんが、私の所に走って来た

「アサミちゃん! シャーロットちゃん、どうでした!」

「話まではできませんでしたけど、成果は上々です」

 両目を血走らせながら、早口に喋るジェミニさんに食器を差し出すと、彼女は深く安堵のため息をつく。

「全部食べてくれたみたいで良かった。これも、アサミちゃんのおかげですね」

「いえいえ、私のはただ、昔の経験を生かしただけですので」

 食べ残しをするシャーロットに、どうやったら全部食べてくれるかと、悩んでいたジェミニさんにアドバイスをしたのは私だ。心が辛くなりすぎて引きこもった時、ひと手間加えて貰ったことで、少しだけ心が揺れ動いた過去を思い出したのである。

 こんな不確かなものでも、役に立ったのなら何よりであるが、ジェミニさんに褒められるのは少しだけ恥ずかしい。

 いつも助けられているからというのもあるけど、先輩以外の人に褒められるのはまだ慣れない。まぁ、あの人に本気で褒められると、逆に頭の中が沸騰しちゃうんだけど……

 ダメだってわかってるのに、先輩優しすぎるんだもん。怒らせても怒らせても、すぐ許してくれるしさ。

 男の子に甘えるのは女の子の特権、なんて思ってる部分も確かにあるけど、あの人の場合はそういう次元じゃなくて、それがもう一種のスキンシップと言うか……うん、つまり、楽しいのだ。

 あの人の隣で、小さなワガママを言い続けるのが、私にとって最高の宝物なのである。だから甘えてしまうのだけど……それもこれも、やっぱり先輩が悪い。そうだ、そういう事にしよっと! 

「アサミちゃんも、無理したらダメですよ」

「んもー、みんな心配性だな―、大丈夫ですって。そのために、部屋も分けてもらってるわけですし」

「そうね。そのおかげで、宿賃の売上が……なーんてね。むしろ、バルカイトさんからいっぱい貰って、助かってるぐらいです!」

「あはは、それなら良かった良かった」

 ジェミニさんにまで心配されて、ちょっぴりショックを受ける私。そんなに私、危なっかしく見えるのかな? 念を押されるほど、ひどい顔をしているのだろうか……よし、今はなんにも考えないことにしよう。私がうだうだ悩んじゃうと、最後は全部スクルドに負担かけちゃうもんね。それは、私のよしとしないところなので。

「そいじゃ、一旦休憩しますかな」

「アサミちゃんは、晩ごはんどうします?」

「お店が落ち着いた頃を狙って、またおりてきますんで。あっ、今日はスクルドもちゃんと連れてきます」

 あの子もあの子で、魔力があれば食事はいりませんとか屁理屈つけて、全然ご飯食べないんだもんな。やっぱり私が、しっかりしないとね。

 ジェミニさんに別れを告げて階段をのぼりきると、スクルドの部屋には戻らずに、私は自分の部屋に入る。どうしようかと思考を走らせること一秒、私は迷うこと無く目の前のベッドにダイブした。

 シャーロットの気持ちはわかる。私だって、先輩がいないことに不平や不満を叫びたくて仕方がない。運命を司る者が目の前に表れたら、神様だって殺してみせるって気持ちだ。あ……運命を司る女神って、スクルドのことだっけ。えっと……今のは無しで! 

 それに、先輩はきっと、そんなことを望んでいないはず。先輩が望んでいるのはたぶん、シャーロットが幸せであること。何でそう思うのかって? 私が先輩に対して、そう望んでいるからだよ。だから私は、彼女を守らなくちゃいけない。清く健康な、五体満足の体でいさせないといけないんだ。

 それに、先輩が死んだなんて私は思ってない。思いたくないってのはシャーロットと一緒だけど、私はまだ諦めてはいないのだ。

 バルカイトさんが修復の方法を探してくれてるってのが第一として、主人公補正ってやつかな、あれだけモテ期の先輩がそう簡単に死ぬなんてこと私には思えない。

「なんて、アニメの見過ぎか」

 声優であった私が一番言ってはいけない一言を漏らしつつ、両手で掴んだ枕の中心に顔を埋める。

「全く、シャーロットがあれじゃ、おちおち泣いてられないじゃんか……バカヤロー」

 シャーロットへのぐちを漏らす自分に嫌気が差し、頭の先まで布団の中へと潜り込む私。

「……会いたいよ……先輩」

 止まらなくなる、女としての私の本音。自暴自棄になっている、無責任なワガママ姫に負けないぐらい、大好きな人の顔を頭に思い描いたその時だった。頭からつま先まで、全身を駆け巡るように電気が走り、脳が正常でいられなくなる。

 まずい、これ、また!

 先輩の顔が見れなくなって少しは治まっていたけど、思い出してしまった途端、この発作は私の体を一息のもとに蝕み始める。

 全身を熱が食い破り、自然と息が荒くなる。じんじんと、あらゆる場所から水が溢れ出し、目の前が白く激しく明滅した。

 自分が自分で無くなりそうな浮遊感に耐えきれず、反射的に左手はシーツを掴み、息が出来なくなるほど顔を枕に沈み込ませる。抑え込まなきゃいけないのに、体が発情しきって、劣情を抑えきれない。

 瞳に焼き付いた先輩の細くてたくましい体。屋根の上から盗み見ていたそれが、頭から離れなくなって、自然と指が下へ下へと降りていく。ダメだとわかっているのに、腕が止められない。

「先輩! 先輩!! らめ、らめらのに、わたひ、わたひぃ!」

 あの人への強すぎる思いと、サキュバスとしての習性が合わさった時、こうして私は乱れるだけの獣と成り果てる。我慢しなくていいと言われてるけど、ここまではしたない女だと、先輩にだけは思われたくない。

 けど、もう、だめ。気持ちよすぎて、私、私!! 

「はぁ、はぁ。また、下着かえなくちゃ」

 意識が吹き飛び体が跳ねまわる。溜まっていたものを全てはき出した私は、袋の中から新しい下着を取り出すと、内股になりながら洗面所へと足を運ぶ。

 スカートの予備も、もう少し作らないとダメかな、なんて思いながら私は服を脱ぎ捨て、簡素な作りのシャワー室で体を清めるのだった。
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