俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第六章 それぞれの想い

第272話 波乱万丈な学園生活

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 家を出て徒歩三十分、シャーリーの歩調に合わせてゆっくりと歩いてきた俺達は、美影市学園の校門へとたどり着き校舎の中へと入っていく。開校十二年目と言う比較的新しい学び舎は、白い輝きと共に俺達学生を迎えてくれる。

 懐かしい廊下の匂い、懐かしい教室の匂い、懐かしい風景。何の匂い? って聞かれると返答に困るけど、強いて言うなら青春の匂いってやつかな……嘘です、嘘! カッコつけたかっただけだって。第一、青春なんてもんは、俺とは一番縁遠いところにある匂いだよ。

 校門をくぐる時には鬱々としていて、終業チャイムが鳴るまで適当にやり過ごす毎日。それが俺の学園生活、だったはずなんだけどなー……俺は今、その関わり合うはずの無かった青春ってやつに巻き込まれているらしい。何故って? 二つ前の席に俺の大切な人が座っていて、男女問わず引っ張りだこだからだよ。

 シャーロットがこの世界に居る。それだけでも訳わからんのに、学園生活に馴染んでるとか意味不明すぎる。

 ここは生前通っていた美影市学園高等部、三年二組の教室。顔ぶれは、多分変わっていない……悪かったな、覚えてないんだよ。実際、自分のクラスにいた生徒の顔と名前、全員覚えてるやつなんて、そういないだろ? それに加えてボッチの俺は必要最低限しか絡まれないんだから、三十人の名前と顔なんて、覚えて無くて当然なんだ。

 その中でも、一人だけ鮮明に覚えてる奴が居る。俺の唯一の親友、斉藤和真。オープンオタ同士で気の合った、クラスに二人しかいない窓際族の一人だ。もちろん、もう一人は俺。

 アニメやゲームが一般的に認知されたとは言え、深夜アニメにアイドル声優、女の子しか出てこないRPGにソシャゲ、ギャルゲーなんかにどっぷりだと、やっぱどうしても奇異な目で見られるわけよ。

 世知辛いねぇ。こっちはBLにどっぷりな女子でも、受け入れる覚悟は出来てるっていうのにさ。まっ、それはともかくとして、情報のすり合わせをしないと。

「なぁ、斉藤」

「ん? どした徹?」

 この会話からわかるように、斉藤は結構社交的だ。最初に話しかけられた時も、俺の事をすぐ名前で呼び始めて困惑したのをよく覚えている。

 髪の色は黒で短髪、顔立ちも並以上なのだが、何故友達が少ないのか良くわからん。たぶん、星のめぐり合わせってやつなのだろう。うちのクラスにも、もう少しオープンオタがいればなー……肩身が狭い。

 そんな斉藤との出会いや友情については置いておくとして、俺の中にある記憶と目の前で起きている状況、どこまで一緒で何が違っているのか、しっかり見極めておかないと。

「……シャーリーってさ、いつからここに居たっけ」

「徹……お前が変なやつだってことは、重々理解してたつもりだけどよ、遂に記憶までおかしくなったか」

 現状を左右する重要な質問に、神妙な顔つきで俺の顔を覗き込んでくる斉藤。変人を見るような友人の視線が俺の心に深々と突き刺さるが、ここは我慢して話を促す。

「どうにも、そういうことらしい。だから、説明してくれよ」

 疑いの目を向け続ける斉藤のおかげで居心地は悪いが、ここで逃げだすわけにもいかずじっと耐え忍ぶ。現状における部外者の中で、信用できるのはこいつだけなんだ。少しぐらいの息苦しさ、乗り切ってみせるさ。

「お前、本当に大丈夫か? ……わかったよ。シャーロット、シャーロット・リィンバース。西の隅の小国、リィンバースの十四代目王女にして明石徹の幼馴染。訳あって日本で産まれ、訳あって一度は帰国したが、お前に会いたい一心でこっちに戻ってきた一途な王女様。これでいいか? って、言葉に出しただけで、無性に腹立たしくなってきた。なんであんなに可愛い子が、お前にぞっこんなんだよ! 不公平だろ絶対これ!」

 斉藤の説明を聞くに、大まかな状況は俺の知っているものと同じってわけか。場所まではわからないが、リィンバースと呼ばれる国は存在していて、彼女はその国のお姫様。俺の立ち位置だけで考えれば、向こうの世界より幸せで、優遇されてるな……と、そこまでは良かったのだが、話を聞き出した代償に、俺の体は我が友にめちゃくちゃ揺さぶられている。

 同じオタとして、嫉妬する気持ちはわからんでもないが、このままだとぶっ倒れそう。

「今の質問、一つ貸しだからな! 後で絶対おごってもらう!」

「あぁ、ラノベの新刊でもなんでも買って――」

 朦朧とする意識の中、斉藤の両手から開放された次の瞬間、俺の首筋に強烈な負荷がかけられる。

「朝美ちゃん渾身の、クロスダーイブ!」

「ぐへぇ!」

 聞こえてきた声と内容で、何が起きたのかは大まかに理解できた。天真爛漫な後輩様が、俺の背中からフライングクロスチョップを決めてくれたのである。

「へへっ、きーちゃった!」

「きーちゃった、じゃねーよ! お前が来ると、状況がややこしくなるんだ!」

 息が詰まる程の衝撃。リアルにやられると、やはり命に関わるな等と考えながらもこいつの登場そのものに不安を感じ、遠回しながらも帰れと言うサインを俺は送る。

「了解了解、未来の夫がいつもお世話になってまーす」

 しかし、こいつがその程度で引くような女でないことを、俺はすっかり忘れていた。やばい、こいつに喋らせると冷や汗しかでねぇし、いくら生命があっても足りる気がしねぇ! 

「こ、この声は!? 徹、てめぇ! いつの間に薙沙ちゃん似の声の美少女と仲良くなりやがって!」

 そして、この声優オタ独特の反応速度。流石斉藤、良い耳をしてやがる。だがな、違うぞ斉藤、お前の目の前にいるのは薙沙ちゃん似の美少女ではない。薙沙ちゃん本人だ! 

 とは言え、仕事中の薙沙ちゃんとはだいぶ雰囲気が違うからな、気づかないのも無理はない。仕事中のこいつは明るい清純派ぐらいで抑えてるけど、普段の彼女はバカが付くぐらいの天真爛漫そのもの。似てるっちゃ似てるけど、そのギャップは結構大きい。ラジオでもこいつ、その辺のスタンスは崩さないからな。

 二年目にしてこのプロ根性、そこだけはほんと感心するよ。

「も~、しょうがないな~。じゃあいつもどおり、愛人で我慢したげる!」

 だからと言って、彼女の発言が世間様に許されるはずもなく、クラス中の男子女子、互いに違う意味で向けられる視線が痛い痛い。

 男子の嫉妬はまだいい、優越感に浸れるから。しかし、女子が向ける生ゴミでも見るような視線は正直耐えれん。このままだと、ガチのひきこもりに追い込まれる!

「私みたいのを二番さんにできるとか、先輩は幸せものですな~」

「あの、天道さん? 僕たち、そういう関係じゃ無いですよね?」

「え!? き、昨日、私の初めてを奪ったの、やっぱり、遊びだったの?」

 ……はい? 何を言って……それよりも、やばい。周りの、特に女子組の殺気が上がって……あかん、これ、殺される。

「な~んて、冗談冗談! みなさ~ん、冗談なんで大丈夫ですよ~」

 社会的抹殺を肌で感じ取った瞬間、天道は何事もなかったようにネタバラシをし、場の空気が静まり返る。それと同時にクラスの皆は、俺達から興味を無くし、思い思いの会話へと戻っていった。本気で、死ぬかと思った。

「ふふっ、このぐらいで泣きそうになるとか、先輩かわいい」

 ずっと思ってきたけど、この人絶対悪女だ。サキュバスなんて特性が無くても、絶対に性格悪い。

 しかし、これで危機は去った。あとは一時限目のチャイムまで乗り切れば、流石のこいつも自分の教室に戻るはず。

 だが、俺の苦難はまだ終わらない。

「で、私の胸の感触はどうかな~、せ~んぱい」

 俺が気を緩める瞬間を狙っていたかのように、小悪魔な後輩はそんな言葉を耳元で呟いてくる。

「あの、天道さん? 今度はいったい、何を考えていらっしゃられるのですかね」

「ん? さっき先輩に迷惑かけちゃったから、そのお詫びだよ」

 美少女に密着されて、嫌がる男はそういない。もちろん、今の状態は俺もかなり嬉しい。だが、あくまでそれは人目の少ない所での話。仮に、ここが俺の部屋だったとしたら、心の中でガッツポーズを決めつつ小躍りを繰り広げていたことだろう。

 しかし、ここは学園なのだ。しかも、三十人の生徒がひしめく俺の教室。こんな場所でエッチな気分になるとか、死刑宣告も良いところ。例えこいつが悪くとも、粗相があれば悪者にされるのは俺の方と、世の中の相場では決まっているのだ。悲しいことだがね。

 それに、ふざけているようで、本気のアプローチを仕掛けているのがやばい。

 男子をからかって遊ぶ程度の女の子の場合、軽く膨らみを当てる程度だが、こいつの場合背中で形が変形しそうなぐらい、強く押し付けてくるのである。故に天道の存在がダイレクトに伝わってきて、体が興奮を抑えきれない。

 天道の柔らかさを感じ、息の上がった次の瞬間、辺りの景色がモノクロに変わっていく。おそらく、彼女の体に集中するために、俺の脳が外的要因を排除し始めたのだ。

 それでも、こちらに視線を向けている者がいる事に俺は気がつく。シャーリーが横目で、俺のことを見ているのである。

「ほ~ら、だんだん赤くなってきた。ここが先輩の部屋だったら、このまま押し倒しちゃうのに」

 天道の言う通り、俺の体は少しずつ熱を帯びている。だが、彼女の感触だけが全ての要因ではない。シャーロットに見られている。その背徳感が、俺を昂みへと昇らせているのだ。

「震えちゃって、そんなに気持ちいいのかな~」

 しかし、そんな事に天道は気づかず周りからわからない程度に、自分の体を上下に揺らし始める。そこで、俺の体に変化が訪れた。

「おい! 天道、やめ、マジでやめ!」

 剣の時とは比べ物にならない弾力と気持ちよさ。背筋を駆け上る極上の感覚に、俺の象徴がむくむくと勃ち上がり、俺自身が立ち上がれなくなっていく。

「アサミに……だけ……」

 焦り始めた俺の姿に何かを感じ取ったのか、遂にシャーリーまで立ち上がり、俺の方へと近づいてくる。そして、彼女は何の躊躇もなく、後ろにいる天道ごと俺の顔を抱きしめた。

「気持ち……良い?」

 控えめながらも柔らかな感触と匂いが俺の鼻先に広がり、神経が楽園へと導かれていく。だが、呑気に喜んでもいられない。彼女が動いたという事は、教室中の視線が俺へと注がれているのと同じということ。まずい、これは非常にまずい。何がまずいって、全てがまずすぎる。

 周囲の視線もさることながら俺の体の状態、特にパンパンになったあれが限界を迎えかけていた。こんな場所で、しかも女の子の膨らみの感触だけでぶっ放すとか、末代までの恥というか、今すぐ屋上からダイブ案件すぎる。それだけは、それだけは絶対に避けなければ……

 と、本能が危険を察知したのはその時だった。俺の後ろから不自然に伸びてくる左手。天道の細くて柔らかそうな指は、何故か先端をワキワキとさせながら、少しずつその高度を下げていく。

 何を考えての行為なのかは全く検討がつかないが、間違いない、こいつの狙いは……俺の下半身だ!! 

 それに気づいた瞬間、全身から血の気が引いていくのがわかる。やばい、やばい、これはまじでやばい。こんな状態ですべすべな彼女の指先が、薙沙ちゃんの指が俺の象徴に触れようものなら一秒だって耐えれる自信がない。

 だめだ、もうだめだ、限界だぁ!

「ふ、二人共……」

「……ん?」

「んんっ? 何かな~せ~んぱい」

 女の子に対して乱暴な真似はしたくなかったが、仕方がない最後の手段だ。俺の人生の尊厳のために、俺は二人を振りほどく! 

「いい加減に、しろおぉぉぉぉぉ!」

 上半身に力を込め、両手を広げながら立ち上がると、流石の二人も驚いたのか俺の体から素直に離れる。そして、二人を引き剥がす事に成功したのと同時に足を内股に固めると、大事な部分を隠すように俺は、そそくさと教室の外へと駆けていく。周りからの冷ややかな目が痛すぎるが、堂々と主張しながら走るよりは幾分か増しだ! 

「徹、ホームルーム始まるぞ―」

「腹痛だって、言っておいてくれ!!」

 心通わぬ友に対し、捨て台詞を残しながら俺は、近場のトイレへと全速力で駆け込むのであった。
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