268 / 526
第五章 もう一人の剣
第267話 第五章 エピローグ 残された者の叫び
しおりを挟む
一瞬、目の前で起きた出来事を、私は理解することができなかった。
できなかったんじゃなくて、したくなかったんだと思う。だって、大切なものを亡くしたんだよ? それも目の前で。
さっきまで聞こえていた声が、今はもう聞こえない。それをすぐに受け入れられるほど、私は人間ができていないんだ。
体が光に包まれて、等身が縮んでいく。彼の魔力が無くなって、元の姿に戻ったのだろう。それにすら気づけないぐらい、私の頭の中は混乱していた。
手にもつ剣の残骸が、私の両手を冷たく冷やす。金属なんだもの、冷たいのは当たり前だよね。それでも、私には感じられていたんだ。彼の温もりを……でも、今はそれを感じない。
「シャーロット……それ……嘘……だよね?」
アサミの声で我に返り、実感が湧いてくる。目の前にある、色を無くした宝石が、その総てを物語っていた。
次の瞬間、私の目から涙が溢れてくる。それはきっと、今起こっている現実を、私の頭が受け入れたのだと思う。
でも、どうしたら良いのかわからない。だから今は、ただ目の前にある彼の亡骸を、力一杯抱きしめた。
どれだけ私が力をいれても、聞こえてこない彼の声。もっともっと、強く締め付けたら、痛みで目を覚ますかも。そんなありえない一筋の願いを込めて、私は彼を強く強く抱きしめ続ける……続けたけど、やっぱり声は聞こえてこなかった。
「とおるぅ」
そして、やっとの思いで私の口から声が出た。けど、それがまずかった。出てしまったら最後、それはダムを決壊させた滝のように溢れ、言葉が……止まらなくなった。
「とおる、とおるぅ、とおるぅ! なんで、なんでなの。嫌だよ、目を開けてよ。呼んでよ、シャーリーって。シャーリーって呼んでよ。バカって言っていいから、エッチなことだっていっぱい言っていいから、なんでも、なんでもいいから聞かせてよ。声を聞かせてよ……とおる、とおるうぅ!!」
言いたいことはいっぱいある。いっぱいあるのに、私は私がわからなくて、わからなくなってしまったから……
「ああっ、ああっ、いやだよぉ、いやだぁっ。とおる、とおる、とおるうぅぅぅぅぅぅっ!!」
その場でただ、精一杯の声を上げて、一晩中泣きじゃくった。
できなかったんじゃなくて、したくなかったんだと思う。だって、大切なものを亡くしたんだよ? それも目の前で。
さっきまで聞こえていた声が、今はもう聞こえない。それをすぐに受け入れられるほど、私は人間ができていないんだ。
体が光に包まれて、等身が縮んでいく。彼の魔力が無くなって、元の姿に戻ったのだろう。それにすら気づけないぐらい、私の頭の中は混乱していた。
手にもつ剣の残骸が、私の両手を冷たく冷やす。金属なんだもの、冷たいのは当たり前だよね。それでも、私には感じられていたんだ。彼の温もりを……でも、今はそれを感じない。
「シャーロット……それ……嘘……だよね?」
アサミの声で我に返り、実感が湧いてくる。目の前にある、色を無くした宝石が、その総てを物語っていた。
次の瞬間、私の目から涙が溢れてくる。それはきっと、今起こっている現実を、私の頭が受け入れたのだと思う。
でも、どうしたら良いのかわからない。だから今は、ただ目の前にある彼の亡骸を、力一杯抱きしめた。
どれだけ私が力をいれても、聞こえてこない彼の声。もっともっと、強く締め付けたら、痛みで目を覚ますかも。そんなありえない一筋の願いを込めて、私は彼を強く強く抱きしめ続ける……続けたけど、やっぱり声は聞こえてこなかった。
「とおるぅ」
そして、やっとの思いで私の口から声が出た。けど、それがまずかった。出てしまったら最後、それはダムを決壊させた滝のように溢れ、言葉が……止まらなくなった。
「とおる、とおるぅ、とおるぅ! なんで、なんでなの。嫌だよ、目を開けてよ。呼んでよ、シャーリーって。シャーリーって呼んでよ。バカって言っていいから、エッチなことだっていっぱい言っていいから、なんでも、なんでもいいから聞かせてよ。声を聞かせてよ……とおる、とおるうぅ!!」
言いたいことはいっぱいある。いっぱいあるのに、私は私がわからなくて、わからなくなってしまったから……
「ああっ、ああっ、いやだよぉ、いやだぁっ。とおる、とおる、とおるうぅぅぅぅぅぅっ!!」
その場でただ、精一杯の声を上げて、一晩中泣きじゃくった。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる