俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第五章 もう一人の剣

第265話 天からの宝札

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 心を落ち着かせ、体の芯から魔力を集中させながら、ゆっくりと放出させる。刀身に光を纏わせ、極大の光剣をイメージするが、霧崎につけられた傷の痛みのせいで上手く形を維持することが出来ない。

 今の俺の体では、全ての魔力を束ねることは不可能であり、霧崎に勝つこともまた不可能。正に万事休すだ。

「キュ! キュキュ! キュウゥゥゥ!!」

 そんな時、シャーリーのスカートの内側で眠っていたリースが突然鳴き声を上げると、天からの宝札が俺達の元へと舞い降りる。

「先輩!」

「トオル様!」

「お嬢! トオル!」

 ベルシュローブ防衛に戻っていた三人が、戦闘態勢のまま急ぎこの場へと帰ってきたのだ。

(ちっ、長々と派手にやりすぎたか。まぁ良い、贄の数が増えたと思えば、俺にとっちゃ好都合だ)

 一目散に俺の元へと駆け寄って来た、天道とスクルドに向けられる汚らしい視線。奴隷を物色するような霧崎の目つきに、俺の心が怒りで震える。

 奴が求めているのは彼女たちの体であり、その中に流れている清らかな魔力だ。霧崎は強い。負けてからでは取り返しのつかないことになる。ここにいる三人を、俺は男として、あの悪魔から守らなくてはいけないんだ。

「殺人鬼だかなんだか知らないけどさ、私の先輩にここまでして、ただですむと思ってないよね?」

(そうだな……お嬢さんの方も、どうにかされる覚悟があるなら、俺はかまわないぜ)

「憎様だけど、私の体は先輩だけのものなんだよね。だから、負けるなんてこと絶対にありえない」

 怒りを圧し殺した天道の鋭い声音を、いつものようにあざ笑い返す霧崎。彼女の気持ちはわからなくもないが、奴の挑発に完全に乗せられている。

(俺の経験上、そう言うやつに限って真っ先に食われるもんだけどな。どうせなら、そこの女神様も一緒に来るかい? 俺らで楽しく三人プレイと洒落込もうぜ)

「……その言葉、高く付きますよ」

(つかせてみろよ、出来るもんならな)

 更にはスクルドまで誘い出す霧崎の口上は、紛れもない余裕の表れ。淫魔と女神が、二人がかりでかかって来ても、負けない自信と実力が霧崎にはある。

 やはり、あの男と二人を戦わせるわけにはいかない。忌々しい悪魔から三人の美少女を、俺はなんとしてでも守り抜くんだ! 

 それに、皆が帰ってきたことで、俺にも勝算が生まれた。今まで考えていた博打とは違う。正真正銘、これが俺の最後の切り札。

(二人とも、下がってろ。こいつは、俺が仕留める)

「何いってんのさ。そんな体で戦えるわけないじゃんか」

「アサミさんの言う通りです。トオル様、ここは私達にお任せください」

 けれども、傷ついた俺の体を二人は心配し、優しく微笑みながら戦闘態勢に入る。

 二人の進言どおり、ここは彼女達に任せるべきでは? と、そんな考えが頭をよぎるが、みすみす二人を霧崎の毒牙にかけるわけにはいかない。大切な二人の心と体が、傷つけられる可能性が一ミリでもあるのなら、俺が奴を倒さなければいけないんだ。

(頼む。二人とも、ここは俺に任せてくれ)

「先輩……」

「トオル様……」

 そんな俺の気持ちを理解してくれたのか、二人は後方へと下がり、黙って俺を見守ってくれる。

(そんな顔するなよ。いくらでも待つって言ったのは、お前の方だろ?)

 獲物が引いた事に気を悪くしたのか、不機嫌そうに表情を歪める霧崎であったが、俺が事実を突きつけてやると、いつものようにゲスな笑いを浮かべてくれる。

 そうこなくっちゃな。それでこそ、倒しがいがあるってもんだ。

(バルカイト! エクスカリバーをくれ!)

「!? トオル、お前それは」

 頭の中でずっと温め続けていた戦術プラン。バルカイトの力を借りて、俺自身を真の聖剣へと昇華させる。俺の剣としての完成度が上がれば、彼女の力を百二十パーセント以上引き出せるはずだ。一度も試した事はないが、この土壇場で必ず成功させてみせる! 

(シャーリーを、姫を守るために力を貸してくれ!)

「くっ、仕方ねぇ。仕方ねぇが……」

(バルカイト!!)

「駄目だ! 俺には出来ねぇ! 友を黙って見殺せるほど、俺様は冷徹じゃねぇんだよ!」

(バル、カイト……)

 彼が何に迷っているのか俺にはわからなかったが、心配してくれているバルカイトの気持ちは痛いほど伝わってくる。それでも、やるしかないんだ。

(頼む。もう、これしかないんだ)

 男の仕事の八割は決断だ。その先に何があろうと後悔はしない。むしろ、後悔しないために、今引き下がるわけにはいかないんだ。

 誓ったんだよ俺は、シャーリーを、皆を守るって! 

「けどな、同種の武器の結合は、拒絶反応を引き起こす可能性が高い。そんな事、お前にさせられるわけが――」

(バルカイトの気持ちは嬉しいよ。それでも、やりとげなくちゃいけないんだ。男として、シャーリーの隣にいるために、ここで逃げちゃいけないんだよ)

「トオル、お前……」

(頼む、今だけでも、俺に男の花道を歩かせてくれ)

「……ったく、わかったよ、負けだ負けだ。こうなったら、俺が最高の一本を打ってやる。とは言え、少しでも確実性を上げるためにはどうするべきか……」

 長い説得の末、バルカイトにも気持ちが伝わり、両手を伸ばした彼は、剣の錬成に入る。いつもに比べて少し長い、電気の弾ける音。彼が慎重に、剣を創り出していることが伺える。

(徹よ、あんまり長い、臭くてつまらない芝居はやめてくれや。勢い余って、間違って斬っちまいそうだからよぉ!)

 戦いの無い静かな時間の連続に、遂にしびれを切らしたのか、俺達を威嚇するかのように偉そうに霧崎が吠え始める。

(まぁ待てって、お前の求めてる最高の一撃って奴を、これから味あわせてやるからよ)

「……そうだ、あいつを使えば!」

 傲慢な男を適当にあしらい、バルカイトの動向を見守っていると、彼は何かを思いつくのと同時に、目の前の魔力を急速に加速させる。

 バルカイトの着ている服の両袖が弾け飛び、腕の紋様が真っ赤に輝くと、白い光が辺り一帯を覆い尽くした。

「来い、カリバーン!!」

 光が収束した先、バルカイトの目の前に現れたのは、神々しい光を放つ黄金を纏った聖なる剣であった。
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