266 / 526
第五章 もう一人の剣
第265話 天からの宝札
しおりを挟む
心を落ち着かせ、体の芯から魔力を集中させながら、ゆっくりと放出させる。刀身に光を纏わせ、極大の光剣をイメージするが、霧崎につけられた傷の痛みのせいで上手く形を維持することが出来ない。
今の俺の体では、全ての魔力を束ねることは不可能であり、霧崎に勝つこともまた不可能。正に万事休すだ。
「キュ! キュキュ! キュウゥゥゥ!!」
そんな時、シャーリーのスカートの内側で眠っていたリースが突然鳴き声を上げると、天からの宝札が俺達の元へと舞い降りる。
「先輩!」
「トオル様!」
「お嬢! トオル!」
ベルシュローブ防衛に戻っていた三人が、戦闘態勢のまま急ぎこの場へと帰ってきたのだ。
(ちっ、長々と派手にやりすぎたか。まぁ良い、贄の数が増えたと思えば、俺にとっちゃ好都合だ)
一目散に俺の元へと駆け寄って来た、天道とスクルドに向けられる汚らしい視線。奴隷を物色するような霧崎の目つきに、俺の心が怒りで震える。
奴が求めているのは彼女たちの体であり、その中に流れている清らかな魔力だ。霧崎は強い。負けてからでは取り返しのつかないことになる。ここにいる三人を、俺は男として、あの悪魔から守らなくてはいけないんだ。
「殺人鬼だかなんだか知らないけどさ、私の先輩にここまでして、ただですむと思ってないよね?」
(そうだな……お嬢さんの方も、どうにかされる覚悟があるなら、俺はかまわないぜ)
「憎様だけど、私の体は先輩だけのものなんだよね。だから、負けるなんてこと絶対にありえない」
怒りを圧し殺した天道の鋭い声音を、いつものようにあざ笑い返す霧崎。彼女の気持ちはわからなくもないが、奴の挑発に完全に乗せられている。
(俺の経験上、そう言うやつに限って真っ先に食われるもんだけどな。どうせなら、そこの女神様も一緒に来るかい? 俺らで楽しく三人プレイと洒落込もうぜ)
「……その言葉、高く付きますよ」
(つかせてみろよ、出来るもんならな)
更にはスクルドまで誘い出す霧崎の口上は、紛れもない余裕の表れ。淫魔と女神が、二人がかりでかかって来ても、負けない自信と実力が霧崎にはある。
やはり、あの男と二人を戦わせるわけにはいかない。忌々しい悪魔から三人の美少女を、俺はなんとしてでも守り抜くんだ!
それに、皆が帰ってきたことで、俺にも勝算が生まれた。今まで考えていた博打とは違う。正真正銘、これが俺の最後の切り札。
(二人とも、下がってろ。こいつは、俺が仕留める)
「何いってんのさ。そんな体で戦えるわけないじゃんか」
「アサミさんの言う通りです。トオル様、ここは私達にお任せください」
けれども、傷ついた俺の体を二人は心配し、優しく微笑みながら戦闘態勢に入る。
二人の進言どおり、ここは彼女達に任せるべきでは? と、そんな考えが頭をよぎるが、みすみす二人を霧崎の毒牙にかけるわけにはいかない。大切な二人の心と体が、傷つけられる可能性が一ミリでもあるのなら、俺が奴を倒さなければいけないんだ。
(頼む。二人とも、ここは俺に任せてくれ)
「先輩……」
「トオル様……」
そんな俺の気持ちを理解してくれたのか、二人は後方へと下がり、黙って俺を見守ってくれる。
(そんな顔するなよ。いくらでも待つって言ったのは、お前の方だろ?)
獲物が引いた事に気を悪くしたのか、不機嫌そうに表情を歪める霧崎であったが、俺が事実を突きつけてやると、いつものようにゲスな笑いを浮かべてくれる。
そうこなくっちゃな。それでこそ、倒しがいがあるってもんだ。
(バルカイト! エクスカリバーをくれ!)
「!? トオル、お前それは」
頭の中でずっと温め続けていた戦術プラン。バルカイトの力を借りて、俺自身を真の聖剣へと昇華させる。俺の剣としての完成度が上がれば、彼女の力を百二十パーセント以上引き出せるはずだ。一度も試した事はないが、この土壇場で必ず成功させてみせる!
(シャーリーを、姫を守るために力を貸してくれ!)
「くっ、仕方ねぇ。仕方ねぇが……」
(バルカイト!!)
「駄目だ! 俺には出来ねぇ! 友を黙って見殺せるほど、俺様は冷徹じゃねぇんだよ!」
(バル、カイト……)
彼が何に迷っているのか俺にはわからなかったが、心配してくれているバルカイトの気持ちは痛いほど伝わってくる。それでも、やるしかないんだ。
(頼む。もう、これしかないんだ)
男の仕事の八割は決断だ。その先に何があろうと後悔はしない。むしろ、後悔しないために、今引き下がるわけにはいかないんだ。
誓ったんだよ俺は、シャーリーを、皆を守るって!
「けどな、同種の武器の結合は、拒絶反応を引き起こす可能性が高い。そんな事、お前にさせられるわけが――」
(バルカイトの気持ちは嬉しいよ。それでも、やりとげなくちゃいけないんだ。男として、シャーリーの隣にいるために、ここで逃げちゃいけないんだよ)
「トオル、お前……」
(頼む、今だけでも、俺に男の花道を歩かせてくれ)
「……ったく、わかったよ、負けだ負けだ。こうなったら、俺が最高の一本を打ってやる。とは言え、少しでも確実性を上げるためにはどうするべきか……」
長い説得の末、バルカイトにも気持ちが伝わり、両手を伸ばした彼は、剣の錬成に入る。いつもに比べて少し長い、電気の弾ける音。彼が慎重に、剣を創り出していることが伺える。
(徹よ、あんまり長い、臭くてつまらない芝居はやめてくれや。勢い余って、間違って斬っちまいそうだからよぉ!)
戦いの無い静かな時間の連続に、遂にしびれを切らしたのか、俺達を威嚇するかのように偉そうに霧崎が吠え始める。
(まぁ待てって、お前の求めてる最高の一撃って奴を、これから味あわせてやるからよ)
「……そうだ、あいつを使えば!」
傲慢な男を適当にあしらい、バルカイトの動向を見守っていると、彼は何かを思いつくのと同時に、目の前の魔力を急速に加速させる。
バルカイトの着ている服の両袖が弾け飛び、腕の紋様が真っ赤に輝くと、白い光が辺り一帯を覆い尽くした。
「来い、カリバーン!!」
光が収束した先、バルカイトの目の前に現れたのは、神々しい光を放つ黄金を纏った聖なる剣であった。
今の俺の体では、全ての魔力を束ねることは不可能であり、霧崎に勝つこともまた不可能。正に万事休すだ。
「キュ! キュキュ! キュウゥゥゥ!!」
そんな時、シャーリーのスカートの内側で眠っていたリースが突然鳴き声を上げると、天からの宝札が俺達の元へと舞い降りる。
「先輩!」
「トオル様!」
「お嬢! トオル!」
ベルシュローブ防衛に戻っていた三人が、戦闘態勢のまま急ぎこの場へと帰ってきたのだ。
(ちっ、長々と派手にやりすぎたか。まぁ良い、贄の数が増えたと思えば、俺にとっちゃ好都合だ)
一目散に俺の元へと駆け寄って来た、天道とスクルドに向けられる汚らしい視線。奴隷を物色するような霧崎の目つきに、俺の心が怒りで震える。
奴が求めているのは彼女たちの体であり、その中に流れている清らかな魔力だ。霧崎は強い。負けてからでは取り返しのつかないことになる。ここにいる三人を、俺は男として、あの悪魔から守らなくてはいけないんだ。
「殺人鬼だかなんだか知らないけどさ、私の先輩にここまでして、ただですむと思ってないよね?」
(そうだな……お嬢さんの方も、どうにかされる覚悟があるなら、俺はかまわないぜ)
「憎様だけど、私の体は先輩だけのものなんだよね。だから、負けるなんてこと絶対にありえない」
怒りを圧し殺した天道の鋭い声音を、いつものようにあざ笑い返す霧崎。彼女の気持ちはわからなくもないが、奴の挑発に完全に乗せられている。
(俺の経験上、そう言うやつに限って真っ先に食われるもんだけどな。どうせなら、そこの女神様も一緒に来るかい? 俺らで楽しく三人プレイと洒落込もうぜ)
「……その言葉、高く付きますよ」
(つかせてみろよ、出来るもんならな)
更にはスクルドまで誘い出す霧崎の口上は、紛れもない余裕の表れ。淫魔と女神が、二人がかりでかかって来ても、負けない自信と実力が霧崎にはある。
やはり、あの男と二人を戦わせるわけにはいかない。忌々しい悪魔から三人の美少女を、俺はなんとしてでも守り抜くんだ!
それに、皆が帰ってきたことで、俺にも勝算が生まれた。今まで考えていた博打とは違う。正真正銘、これが俺の最後の切り札。
(二人とも、下がってろ。こいつは、俺が仕留める)
「何いってんのさ。そんな体で戦えるわけないじゃんか」
「アサミさんの言う通りです。トオル様、ここは私達にお任せください」
けれども、傷ついた俺の体を二人は心配し、優しく微笑みながら戦闘態勢に入る。
二人の進言どおり、ここは彼女達に任せるべきでは? と、そんな考えが頭をよぎるが、みすみす二人を霧崎の毒牙にかけるわけにはいかない。大切な二人の心と体が、傷つけられる可能性が一ミリでもあるのなら、俺が奴を倒さなければいけないんだ。
(頼む。二人とも、ここは俺に任せてくれ)
「先輩……」
「トオル様……」
そんな俺の気持ちを理解してくれたのか、二人は後方へと下がり、黙って俺を見守ってくれる。
(そんな顔するなよ。いくらでも待つって言ったのは、お前の方だろ?)
獲物が引いた事に気を悪くしたのか、不機嫌そうに表情を歪める霧崎であったが、俺が事実を突きつけてやると、いつものようにゲスな笑いを浮かべてくれる。
そうこなくっちゃな。それでこそ、倒しがいがあるってもんだ。
(バルカイト! エクスカリバーをくれ!)
「!? トオル、お前それは」
頭の中でずっと温め続けていた戦術プラン。バルカイトの力を借りて、俺自身を真の聖剣へと昇華させる。俺の剣としての完成度が上がれば、彼女の力を百二十パーセント以上引き出せるはずだ。一度も試した事はないが、この土壇場で必ず成功させてみせる!
(シャーリーを、姫を守るために力を貸してくれ!)
「くっ、仕方ねぇ。仕方ねぇが……」
(バルカイト!!)
「駄目だ! 俺には出来ねぇ! 友を黙って見殺せるほど、俺様は冷徹じゃねぇんだよ!」
(バル、カイト……)
彼が何に迷っているのか俺にはわからなかったが、心配してくれているバルカイトの気持ちは痛いほど伝わってくる。それでも、やるしかないんだ。
(頼む。もう、これしかないんだ)
男の仕事の八割は決断だ。その先に何があろうと後悔はしない。むしろ、後悔しないために、今引き下がるわけにはいかないんだ。
誓ったんだよ俺は、シャーリーを、皆を守るって!
「けどな、同種の武器の結合は、拒絶反応を引き起こす可能性が高い。そんな事、お前にさせられるわけが――」
(バルカイトの気持ちは嬉しいよ。それでも、やりとげなくちゃいけないんだ。男として、シャーリーの隣にいるために、ここで逃げちゃいけないんだよ)
「トオル、お前……」
(頼む、今だけでも、俺に男の花道を歩かせてくれ)
「……ったく、わかったよ、負けだ負けだ。こうなったら、俺が最高の一本を打ってやる。とは言え、少しでも確実性を上げるためにはどうするべきか……」
長い説得の末、バルカイトにも気持ちが伝わり、両手を伸ばした彼は、剣の錬成に入る。いつもに比べて少し長い、電気の弾ける音。彼が慎重に、剣を創り出していることが伺える。
(徹よ、あんまり長い、臭くてつまらない芝居はやめてくれや。勢い余って、間違って斬っちまいそうだからよぉ!)
戦いの無い静かな時間の連続に、遂にしびれを切らしたのか、俺達を威嚇するかのように偉そうに霧崎が吠え始める。
(まぁ待てって、お前の求めてる最高の一撃って奴を、これから味あわせてやるからよ)
「……そうだ、あいつを使えば!」
傲慢な男を適当にあしらい、バルカイトの動向を見守っていると、彼は何かを思いつくのと同時に、目の前の魔力を急速に加速させる。
バルカイトの着ている服の両袖が弾け飛び、腕の紋様が真っ赤に輝くと、白い光が辺り一帯を覆い尽くした。
「来い、カリバーン!!」
光が収束した先、バルカイトの目の前に現れたのは、神々しい光を放つ黄金を纏った聖なる剣であった。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる